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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治2年1月
158/506

藤堂さんと藤堂家

 藤堂さんから文が来た。

 今回も、ちゃんとわかりやすく書いてくれているのだけど、やっぱり古典の教科書のような感じがした。

 内容は、こんな感じだった。

 最初に年始のあいさつが無かったので、昨年の年末にかかれたものなのだろう。

 そして、お師匠様にあったと書いてあった。

 お師匠様は今は江戸にいるのか。

 お師匠様と色々話をし、自分が疑問に思っていたことは解決したらしい。

 それはよかった。

 お師匠様の、たまには人のためにいいことをするのだなぁ。

 でも、新選組にはまだ戻らないと書いてあった。

 まだ剣の修業が足りないのかな。

 歴史の中でも、まだ帰ってこないし、これは変えることはできないのかもしれない。

 それと、藤堂さんはもしかしたら伊東さんと行動を共にするかもしれないけど、絶対に死なないから。と書いてあった。

 蒼良のためにとも書いてあって、照れてしまった。

 こんな恥ずかしいことをよくかけるなぁと感心してしまう。

 こういう内容が書いてあったと言う事は、藤堂さんはお師匠様からこの先どうなるか聞いたのかもしれない。

 藤堂さんが殺されるかもしれないという歴史は変えられるかもしれない。

 いや、変えなきゃ。

 誰かが死ぬのなんて、見たくない。

 山南さんや、沖田さんや……

 そう言えば、最近沖田さんに元気かどうか聞いていないなぁ。

 労咳はいつ発症してしまうのだろう。

 いつか私が倒れた時にミイラを飲まされそうになり、それを拒否したら、沖田さんに変なものを飲ませないと約束したので、薬は飲まないだろう。

 別に変なものを飲ませたつもりはなかったのだけど。

 どうやったら労咳を回避できるのだろう。

 とにかく、沖田さんだ。


「最近? 元気だよ」

 屯所内で沖田さんを探していたら、近藤さんの部屋の前にいたので聞いてみた。

「本当に元気ですか? 変な咳が出るとか、そんなことないですか?」

「蒼良は僕を病気にしたいみたいだね」

「そんなことはないですよ」

 むしろ、なってほしくないのに。

「また変なものを手に入れたとか?」

「変なものって何ですかっ!」

 私がそう言うと、沖田さんに手で口をふさがれた。

「シイッ!」

 シイッ!ってなんだ?

 ここは近藤さんの部屋の前だから、また盗み聞きをしているのか?

 そんな目で私が見ていたことに気が付いたのか、

「悪いことはしていないよ。ただ、話を聞いているだけ」

 と、沖田さんは言った。

 それって悪いことじゃないのか?

「今、お客さんが来ているんだよね」

 そうなんだ。

「そのお客さんと言うのが、津藩士なんだよね。津藩と言えば、わかるよね」

 なんだ?全然わからんが。

「平助だよ」

 藤堂さんがどうかしたのか?

 口をふさがれているので、話すことはできない。

 わからないと首を振った。

「津藩と言えば、藤堂家じゃん」

 ああ、そうか。

 藤堂さんはご落胤だった。

 津藩、藤堂家の。

 その藩の藩士が来たってことは、何かあったのか?

 藤堂さんの文にはそういうことは書いていなかったけど。

「もしかしたら、平助を迎えに来たのかもしれないよ」

 ええっ、そうなのか?なんでだ?

「藤堂家の嫡男が病気になって、平助を跡取りに迎えたいとか」

 そうなのか?そんな話、全然聞いたことないが……。

「蒼良も知りたいでしょ?」

 そりゃ知りたいよ。

「なら、一緒に話を聞こうよ。おとなしくしててね」

 ようやく、私の口から沖田さんの手が離れた。

「それって、盗み聞きと言いませんか?」

 やっと話すことが出来た。

「いや、違うよ。話を聞いているだけだよ」

 だから、それを盗み聞きと言うのだろう。

「やめた方がいいですよ。いつもばれて怒られるじゃないですか」

 そうなのだ。

 盗み聞きをしていると、襖を倒したり、突然ふすまを開けられたりして必ずばれるのだ。

「だから、蒼良を誘っているんだけど」

 なんでだ?

「蒼良がいると、いつも怒られなくて済むから」

 そうなのだ。

 いつもばれるとみんなうまく逃げていき、最後に残った私がいつも怒られたりするのだ。

「嫌ですよ。なんで自分から怒られるようなことをしなければ……」

 ならないのですか?

 と言おうとしたら、バンッ!と音がした。

 この音は……

 嫌な予感がして近藤さんの部屋を見ると、襖が大きく開け放たれていた。

 ば、ばれたし……

「あ、僕は……」

 沖田さんが逃げようとしたから、袖を捕まえた。

「私は何もしていませんよ。沖田さんが盗み聞きをしているから、止めていただけですから」

 よしっ!今回は先手を打てたぞ。

 怒られることはないだろう。

「あ、蒼良、ずるい」

 ずるいって、いつも私に押し付けて逃げてんだろうがっ!

「お前、偉そうに言っているが、ここでコソコソしているとだな、中にみんな筒抜けなんだよっ! 少しは大人しくしやがれっ!」

 土方さんからげんこつが落された。

 結局落とされるのね。

 でも、今回は沖田さんも一緒だったから、いいか。


 近藤さんの部屋にいたのは、沖田さんの言う通り、津藩士だった。

 近藤さんの部屋の前で土方さんにげんこつ落とされたりしたのだけど、

「総司と蒼良なら別にいいだろう」

 という近藤さんの一言で、一緒にその津藩士と会うことになった。

 その津藩士は、中村 左馬と言う人だった。

「この方は、大坂の情勢を聞きに来たんだ。蒼良は最近歳と大坂に行ってきたから、わかるだろう。話してやるといい」

 近藤さんがそう言った。

 あれ?

「藤堂さんのことで来たのではないのですか?」

 てっきりそうだと思ったのだけど。

「藤堂? わが藩主の事か?」

 中村さんが怪訝そうな顔をして聞いてきた。

 藩主を捕まえて藤堂さんなんてきやすく呼びやがってとも思ったのかもしれない。

「平助の事だろ?」

 土方さんに言われて、コクンとうなずいた。

「平助?」

 津藩士なのに、藤堂さんのことを知らないのか?

「蒼良、もうこれ以上は平助のことを言わない方がいい」

 横にいた沖田さんが、周りに聞こえない声で言ってきた。

「なんでですか?」

「あの人は、平助のことを知らないよ」

「そうなんですか? だって、津藩の藩主の子供ですよ」

「正室が生んだ正当な子供ならいいけど、平助は妾の子供だし、どちらかと言えば、遠ざけたい存在なんだろうと思うよ」

 そ、そうなのか?

「なにコソコソやってんだ?」

 沖田さんと話をしていたら、土方さんに言われてしまった。

「いえ、何でもないです。ね、蒼良」

 沖田さんに言われ、私はコクコクとうなずいた。

 土方さんには変な目で見られたけど、近藤さんはそんなことを気にしなかったみたいで、

「で、大坂はどうだ?」

 と、聞いてきた。

「京よりは治安はいいと思いますが」

 私はそう言った。

「ぜんざい屋で事件があったらしいが、それはどうなったんだ?」

 中村さんがそう聞いてきた。

 そ、それは土方さんの前では禁句ですからっ!

 土方さんの顔がヒクヒクと引きつっている。

「あんなものは、事件の一つにも入らん。残党が捕まっていないが、うちも念入りに残党狩りをしたから、多分大坂にはいねぇだろう」

 土方さんは、顔をひきつらせながらも冷静に言った。

「そうか、京より治安はいいのだな。話を聞けて良かった」

 中村さんはそう言った。


「藤堂さんって、津藩の藤堂氏の子供ですよね」

 中村さんが帰り、部屋に戻ってから土方さんに聞いてみた。

「一応、そう言うことになっているが、どうした?」

「藩主の子供なのに、その藩士が知らないって、なんか変だなぁって」

「お前、わからんのか?」

 何がだ?

「平助は妾の子供だ。父親がいくら身分が高くても、母親の身分が低ければ、まず藩主になることはない」

 そうなんだぁ。

「それに、よそでできた子供だからな。藩主としては隠したいんだろ。正室もいるし、跡取りもちゃんといるしな」

「なんか、それって、藤堂さんは生まれちゃいけないみたいな感じですね」

 悲しいなぁ、そう言うの。

 身分なんて、そのうち無くなっちゃうのに。

「世の中にな、生まれてきたらいけねぇ人間なんて、いねぇよ」

 土方さんは、私の目を見て言った。

「どんなに悪人であろうと、それを必要としている人間が必ずいる」

「でも、自分の存在を身内に隠されるって、藤堂さんかわいそうだな」

 私がそう言ったら、土方さんの手が私の頭の上に乗った。

「平助は、津藩邸で過ごしていたら、絶対に手に入らないものをたくさん持っていると思うぞ」

 それもそうかも。

 もし、津藩で正式な子供として扱われていたら、新選組になんて入っていないだろうし、自由に色々出来なかったかもしれない。

「お前が思っているより、平助はそんなこと気にしていねぇと思うぞ」

 以前、屯所近くにある藤堂家の屋敷をのぞいていたこともあったけど、あれ以来そう言う姿は見ていない。

「そうですね。こっちの暮らしの方がいいと思っていますよね」

 そう思う事にしよう。

「平助で思い出したが、お前に平助からの文が来ていただろう。なんて書いてあったんだ?」

 土方さんに聞かれて、文に書いてあった蒼良のためにの部分を思い出し、恥ずかしくなってしまった。

「人の文の中身を知りたいって、嫌だなぁ、土方さん。文は人に見せるものじゃないのですよ」

 そう言ったけど、顔が熱かったから、赤くなっていると思う。

「何照れてんだ?」

「照れてなんていませんよ」

 そう言いながら、土方さんの腕をバシンとたたいてしまった。

「いてぇなっ! なんなんだ、お前は」

 土方さんは、たたかれた腕をなでながらそう言ったのだった。

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