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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治2年1月
157/506

ぜんざい屋事件

「あの野郎っ! 全部過去形じゃねぇかっ!」

 近藤さんの部屋で土方さんが怒っていた。

 年末に大坂に行ったとき、そのまま残っていた隊士が4人ほどいて、その隊士の一人、谷 万太郎さんが文を送ってきた。

 その内容が、ある事件が大坂であったのだけど、その事件の報告書になっていた。

「しかも、こういう時はここに連絡を入れて、呼ぶべきだろう。俺たちをっ!」

 土方さんが、その文をたたきつけた。

「そう怒るな、歳。あいつらには、あいつらの事情と言うものがあったのだろう」

 近藤さんはそう言いいつつも、

「でも、大坂の連中はだめだな。隊士はやっぱり、江戸から募集するのがいいかもな」

 と言っていた。

 近藤さんも、かなりきついことを言うよなぁ。

 山崎さんも大坂の人なんだけどなぁ。

「とにかく、行ってくる。行くぞっ!」

 土方さんが立ち上がって私に言った。

「どこに行くのですか?」

 突然、行くぞっ!って言われてもねぇ。

「お前、話を聞いていなかったのか? お前の顔の横についている耳は飾り物か? それとも、ただのふしあなか?」

 土方さん、そうとう機嫌が悪そうだ。

「わかりました。行きましょう」

 私も立ち上がって言った。

 で、どこに行くんだ?


「お前ら、四人もいて一人しか殺せなかったって、どういうことだ?」

 土方さんが、谷さんをはじめとする四人を目の前に座らせていった。

 四人ともうつむいていた。

 なにがあったのかと言うと、土佐藩を脱藩した土佐勤王党と呼ばれる尊王攘夷派、簡単に言うと天皇を主体として攘夷を実行しようと考えていた人たちが集まった組織と言うのか?

 その人たちが大坂にある石蔵屋と言うぜんざい屋で大坂城を焼く準備をしていた。

 大坂城を焼かれたら、大変なことになる。

 ちなみにぜんざい屋とは、私の大好きな甘いものを食べさせてくれるところだ。

 そんないいところで、すごい計画をたてていたのだなぁ。

 しかし、仲間割れかなんかあったのか?その中の一人が密告をしてきたため、その大坂城を焼く計画がわかった。

 それを聞いて黙っちゃいられないと思ったのか、新選組へ報告せず、独断で石蔵屋と言うぜんざい屋を攻撃した。

 攻撃したのはいいけど、そこにはほとんどのメンバーがいなくて、たまたまいた人がものすごく強かったのか、四人で攻撃したのにもかかわらず、一人しかとらえることが出来なかった。

 しかも、こっちはほとんど負傷しているという。

 相当強い人だったのか?こっちが弱かったのか?

 見ていないからわからないけど。

「でも、大坂の人たちからは、大坂城の焼き討ちを阻止したと言う事で、感謝されています」

 谷 万太郎さんが言わなければいいのに、そう言った。

 それを聞いた土方さんは、怒りでわなわな震えていた。

「ばかやろうっ! 一人しか殺せなかったくせに何言ってやがるっ! 他の人間は逃したってことだろう。また計画される可能性があるってことだ。お前たちの対応が悪いせいでな、逃がした人間を探さなければならないという余計な仕事が増えちまったんだよっ!」

 わ、私でも、土方さんをここまで怒らせたことはないぞ。

「おい、お前っ!」

 今度は私を怒鳴ってきた。

「はいっ!」

 いきなり怒鳴られてびっくりした。

「万太郎に逃げた人間の顔を聞いて、それを紙に描け」

 要は、似顔絵を描けと言う事だろう。 

「わかりました」

 私が返事をすると、万太郎さんが、

「顔は、逃げた人間一人と、殺した人間一人しか知らないのですが」

 と、またもや土方さんが怒りそうなことを言った。

「そりゃ、どういうことだ?」

「我々が襲撃した時は、土佐勤王党の人間は二人しかいなかったもので」

 万太郎さんが、言い訳するように言った。

「要するにお前らは、二人しかいないところに四人で言って、一人しか殺せなかったと言う事だな」

「四人じゃないです。奉行所に応援も頼んでいたので」

 ああ、また怒りそうなことを。

 土方さんを見たら、血圧が上がって、そのまま倒れちゃうんじゃないのか?と言うような顔をしていた。

「それだけいて一人しか倒せなかったってことだな」

「はい」

 いや、万太郎さん、そこは返事をするとこをじゃないって。

「ばかやろうっ!」

 今までにない大きな声のばかやろうっ!が響き渡った。

 本当に、私でもここまで怒らせたことはないぞ。

「もういいっ! 蒼良、行くぞっ!」

 土方さんはそう言ったけど、どこに行くんだ?

 今それを聞いたら、雷が落ちてきそうだよなぁ。

「はいっ!」

 とりあえずそう返事して土方さんについて行った。


 この大坂の事件は、後にぜんざい屋事件と呼ばれるようになる。

 そして、大坂版池田屋事件とも言われるようになる。

「池田屋の時だって、近藤さんたち四人で二十数人を相手にして一人も逃さなかったぞ」

 土方さんがお茶をすすりながら言った。

 土方さんが怒鳴り散らしてから、ぜんざい屋事件にちなんでと言うわけじゃないのだろうけど、ぜんざい屋にいる。

 もちろん、事件とは全然別のぜんざい屋だ。

「あの時はみんな精鋭と呼ばれる人たちだったじゃないですか」

 お汁粉をすすりながら私は言った。

「それでも、四人で二人しかいないところに踏み込んで一人だけ倒したって、話にならねぇよ」

「でも、大坂城が焼かれなくてよかったじゃないですか」

 私が言ったら、土方さんがじろっとにらんできた。

 なんか悪いことを言ったか?

「お前はそうのんきなことを言っているがな、土佐勤王党のほとんどを逃したんだぞ。また計画をたてるかもしれねぇだろうがっ! ったく、中途半端に火種を残しやがって」

 土方さんは、怒りに任せてグイッとお汁粉を一気飲みした。

「すごい勢いで飲みましたね。大丈夫ですか?」

「腹の虫がおさまらんっ! おまけにやらなければならないことも増えたしな」

 やらなけらならないことと言えば……

「残党狩りですか?」

「お前がわかるなんて、珍しいな。やらなければならないことって何ですか? って聞いてくると思ったがな」

 腹の虫がおさまらんところにそんなこと言ったら、後が怖いだろう。

 最大限に脳みそを使ったのだ。

 威張ることじゃないんだけど。

「残党狩りもしねぇといけねぇし、檄文も書いてはらねぇとなぁ」

「あの……」

「何だ?」

「げきぶんって何ですか?」

 私の脳味噌を最大限に使ってもわからなかった。

 土方さんにげんこつをとされるかと思ったけど、ちゃんと説明してくれた。

 その説明によると、檄を飛ばすという言葉があるけど、その檄を文章にしたもの。

 自分の主張に同調するように求めて、一緒に行動するようにうながすようなものかな?

「天神橋あたりにはれば、大勢の人間が見るだろう」

 と言うわけで、その檄文と言う物を天神橋に張り出したのだった。


 急な用事で大坂に来たのだけど、それでも寄らなければならないところがある。

 それは、新選組のスポンサーの一人、鴻池家だ。

 そこのご主人が、色々な変わったものを出してくる。

 今日は何を出してくるのだろう。

 土方さんと鴻池家に行くと、奥に案内された。

「なんや、大坂城に火をつけようとした奴がおって、それを新選組が捕まえたらしいやんか。えらいええことしたなぁ」

 こ、鴻池さん、その話は土方さんには禁句ですっ!

 チラッと土方さんを見ると、笑顔が引きつっていた。

「あんなもん、捕まえたとは言わんっ!」

 お、怒っているよ。

「こ、鴻池さんっ! 明けましておめでとうございます」

 私は話をそらすために、年始の挨拶をした。

「何や、急に」

「挨拶は大事ですよ」

「そやな。おめでとう」

 と、鴻池さんも挨拶したけど、

「その大坂城に火をつけようとしたやつら、ぜんざい屋の石蔵屋におったらしいなぁ。ほんまなんか?」

 と、話を戻してしまった。

 だ、だから、その話は禁句だって。

「ああ、ぜんざい屋にいて、四人で襲撃したらしいが、一人しか倒せなかったからな。こんな話、恥ずかしくてよそでは出来ねぇよ」

「恥ずかしがることはないやろ。大坂での新選組の評判、これであがったで」

「土方さんも、いつまでも怒っていないでくださいよ。終わりよければすべてよしじゃないですか」

「終わりも悪いだろうがっ!」

 よけい怒らせたか?

「まあまあ。ここで怒っても仕方ないやろ」

 そう、鴻池さんの言う通りだ。

「今日はええもん用意したで」

 待ってましたっ!

 今日のええもんは何だろう?


「これは、江戸切子だな」

 先に青色でガラスを削ったと言うか、そう言う感じの模様が入ったワイングラスが出された。

 現代でも、よく見るものだ。

 江戸切子って名前なんだ。

 ワイングラスが出されたと言う事は、飲み物だよね。

「お待たせ」

 鴻池さんは、ワインの瓶をもって入ってきた。

「ワインじゃないですか」

 私が言ったら、

「またしっとったんかい」

 と、鴻池さんはがっかりした。

「あ、いや、でも、このグラスの名前はわからなかったので」

「江戸切子か?」

 土方さんは、こんな物も知らなかったのか。と言う顔をして言った。

「なんや蒼良はんは、みんなが知らんことより、知っとることを知らんかったりするんやな」

 その通りです。

「で、わいんってなんだ?」

 土方さんがそう聞いてきた。

「ブドウで作るお酒です」

「ってことは、これは酒かっ!」

 土方さんはそう言った。

 鴻池さんは、トクトクと音をさせてワインをグラスに注いでいた。

「蒼良はんが正月で20歳になったやろ。20歳までお酒飲まんって言うとったさかい、今日は20歳になった記念に取り寄せたんや」

「わざわざ、ありがとうございます」

 私がお礼を言うと、

「お前は飲むなっ!」

 と、土方さんに言われてしまった。

「何かあるんか?」

 鴻池さんが、疑問に思ったらしい。

「こいつ大酒飲みだから、こんな珍しい酒なんてすぐに無くなっちまうぞ」

 私、そんなに大酒飲みか?

「大丈夫や。この瓶の中に入っとるやつしかないから、味わって飲んでや」

「じゃあ遠慮なく、いただきます」

 ワインなんて、生まれて初めて飲んだ。

 ワイングラスの中でクルクルとワインをまわして飲んでみた。

 こ、これは……

「ずいぶんとにげぇ酒だな」

 土方さんの言う通り、苦いのだ。

 日本酒と比べると、顔をしかめたくなるぐらい苦い。

「その苦さがええらしいけどな」

 そうなのか?

 もう一口飲んでみる。

 確かに、苦さがいいのかも。

「蒼良はん、飲みっぷりがええな」

 トクトクとワインを注がれた。

「あ、鴻池さんこいつにそんなに注いだら……」

 土方さんは止めたけど、

「なんかあるん? 暴れるんか?」

 と言いながら、鴻池さんはワイングラスに注ぐ。

「いや、暴れはしないが……」

「ならええやろ」

 鴻池さんもそう言っているので、遠慮なく。

 2杯目もあっという間に空にした。

「蒼良はん、ほんまに強いなぁ」

 3杯目が注がれた。

 ワインの苦味も、そんなに感じなくなってきた。

 3杯目も空けた時、グラッと風景が揺れた。

「土方さん、風景が揺れているのですが……」

「酔っ払ったのか?」

 酔っ払ったのか?って言われても、わからない。

 これが酔ったと言う事なのか?

 そんなわからないことを聞く土方さんが、なぜかおかしくておかしくてたまらなくなった。

「土方さん、おかしいですよ」

 私は、なぜか笑いが止まらなくなった。

「完全に酔っ払ったな」

「でも、3杯も一気に飲むなんて、やっぱ強いなぁ、蒼良はんは」

「鴻池さん、悪いがもう帰らせてもらう。こいつが何をするかわからんからな」

「それがええかもな。また来てや」

 鴻池さんがそう言った時まで記憶があったけど、後の記憶はなかった。


 目が覚めたら、大坂に来るといつもお世話になっている京屋さんにいた。

 起き上がると頭が痛かった。

 思わず頭を手で押さえてしまった。

「二日酔いだな」

 その様子を見た土方さんが言った。

 これが二日酔いなのか?

「お前っ! 日本酒では全然酔っぱらわなかったのに、わいんという飲み物で酔っ払いやがってっ!」

 そんなこと言われても、わからないよ。

「昨日どんだけ大変だったか」

「何か私、したのですか?」

「したなんてどころの騒ぎじゃねぇよっ! 記憶がねぇのか?」

 コクンとうなずいた。

 何をしたんだ、私。

 土方さんの話によると……

 鴻池家でワイン3杯飲んで酔った私は鴻池さんに、

「新選組に投資するのはやめた方がいいですよ。新選組なんて負けますからね」

 と、どこかの証券会社の社員のようなことを言ったらしい。

 土方さんは必死で止めたけど、鴻池さんは私のその様子を見て面白がっていたらしい。

 そのうち、暑いっ!と言い始め、着物を脱ぎ始めたので、土方さんは慌ててそれを止め、私をかついで帰ったらしい。

 強制退去と言うのか?

 かついで帰ったのはいいけど、帰り道、

「土方ぁっ! 最近怒ってばかりいるけど、血圧あがって倒れるぞっ!」

 と言ったり、

「きゃあ、痴漢っ!」

 と叫んだりしていたらしい。

 土方さんを土方呼ばわりしてしまったのね……

「すみません」

 記憶がないけど、謝った。

「お前、記憶がねぇんだろ。別にいいよ。だがな、酒は勢いよく飲んでいたくせに、なんでわいんと言う飲み物だと酔っ払ったんだ?」

 なんでだろう?アルコールの量が違うとか?

「ま、いい。とにかく、お前はしばらく酒は禁止だっ!」

 はい。反省しております。

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