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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治元年12月
152/506

大坂へお金を借りに

 急な出費があったのか、それとも長州遠征に備えてか、近藤さんの名前でお金を借りることになった。

 京より大坂の方がお金を貸してくれる人が多いのか、近藤さんの書状をもって、土方さんと大坂に行くことになった。

 大坂でお金を貸してくれる人と言えば……。

「今回は、鴻池こうのいけの他に数店回ることになっている」

 土方さんが、大坂へ向かう途中にそう言った。

 そう、鴻池家。

 新選組のスポンサーの一人と言える。

 この鴻池のご主人、この時代で珍しいものを私に見せてくれるのだけど、それは現代では普通にあるものなので、私は全く驚かない。

 それで最近ではいかに私を驚かせてやろうかと、鴻池さんはあれこれ考えているらしい。

 だから鴻池家に行くときは、私も一緒に行っている。

「今回は、色々な商人から金を借りることになりそうだ」

「どうしてそんなにお金が必要なのですか?」

 いつも色々なところからお金を借りているのだけど、今回は特に大金になりそうだから、どうしてなんだろう?と思い、聞いてみた。

「隊士も増えたしな。それに長州にいつ呼ばれるかわからんから、軍資金だ」

 やっぱり、長州征伐かぁ。

「でも、長州に行くかわからないじゃないですか」

「このまま戦況が長引けば、呼ばれるに決まってんだろ」

「今12月ですよね。そろそろ戦も終わりそうだと思いますよ。長州藩が降伏すると思いますが」

「なんでお前そんなこと言うんだ?」

 しまった、言い過ぎたか?

「ほら、もうすぐお正月ですよ。長州藩だって、お正月は戦なしで過ごしたいじゃないですか」

「お前、戦に正月も何もねぇだろうがっ!」

 怒鳴られたけど、何とかごまかせたからよしとしよう。


「久々やなぁ」

 鴻池家に着いて奥に案内され、ご主人にそう言われた。

「こいつは、江戸に行っていたりしたからなかなか来れなかったんだ」

「蒼良はん、江戸にいっとったんか?」

 鴻池さんが私に聞いてきた。

「はい。隊士を集めに行っていました」

「そりゃ、難儀やったなぁ」

 そう言いながら、鴻池さんは私を見ていた。

「鴻池さん、いつもの、また頼む」

 土方さんが、鴻池さんに軽く頭を下げて言った。

「わかっとる。ちゃんと用意しとるさかい、帰りに持って行くといい」

 きっとお金の話なんだろうなぁ。

「かたじけない」

 土方さんはそう言った。

「鴻池さんは、なんでお金をくれるのですか?」

 ずうっと疑問に思っていたことを聞いてみた。

 鴻池さんがお金を貸してくれるのは、何かあった時に新選組に守ってもらうためだと土方さんから聞いたことがある。

 現に、何かあった時はすぐ駆けつけている。

 鴻池家が狙われているという情報が入った時は、先に侵入したこともある。

「お前、なんてことを聞くんだ」

 土方さんが私の横で怒っていた。

 でも、気になって仕方がない。

「蒼良はんらしい質問やなぁ」

 鴻池さんは笑っていた。

「だって、表向きは借りるってことになっていますよね。現に借用書も出してるし。でもはっきり言って、返すあてなんてないですよ。今までのお金だって返していないし。なのに、どうして気前良くお金を出してくれるんだろうって思ったものですから。すみません、失礼な質問をして」

「お前、お金を借りておいて、返すあてがねぇとか言うなよ」

 土方さんは、自分のおでこを押さえていた。

 確かに、土方さんの言う通りだな。

「すみません」

 私は謝った。

 これでお金借りれなくなったら、私のせいだ。

「蒼良はんは気にせんでもええ。気になるのもしかたないわ」

 鴻池さんは笑っていた。

「うちら商人は武器を持っとらし、守ってくれる人もおらん。今は治安が悪いさかい、大きな商店狙った押し借りも横行しとる。そんなときに守ってくれる人がおらんかったら、うちら商売できんやろ。だから、金を出すかわりに、なんかあったら頼むでって、取引しとるんや」

 なんか、前に土方さんが言っていた通りだな。

「最近は、新選組の名前出せば相手も逃げるようになったさかい、助かっとるんよ」

 そうなんだ。

「で、満足したか?」

 土方さんが、私の頭を突っついて来た。

「何がですか?」

「お前の疑問に答えてもらって、それで満足したか?と聞いているんだ」

「はい、そりゃもう。あ、ありがとうございます」

 私は、鴻池さんに頭を下げた。

「そんなことより、今日もおもろいもん用意しといたで」

 今日は、何が用意されているのだろう。

 私の知らないもので、鴻池さんが満足してくれればいいのだけど。


 出されたものは、茶色の飲物だった。

 これはもしかして……

 一口飲んでみた。

 やっぱり!

「ココアですね」

 しかも、かなり美味しいし、この味がすごく恋しかった。

「ちょこれいとうって言うんや。それがまた飲みずらかったさかい、この前蒼良はんがかふひを飲みやすくしてくれたようにしてみたんや」

 もう一口、飲んでみよう。

 一口ココアを口にした。

 やっぱり、この味だ。

 すごく、すごく恋しかった。

「お前、何泣いてんだ?」

 土方さんが驚いていた。

 どうやら私は泣いていたらしい。

「これが、ほしかったのです。飲めて嬉しいです」

 むしょうにチョコが食べたくなるときがある。

 でも、この時代はチョコなんてものはない。

 そのうち、チョコのことを忘れてしまうのだけど、また思い出すと食べたくなっている自分がいる。

 そんなことを繰り返していた。

 そして、ここでココアを飲んで思い出した。

 私、これを口にしたかったんだ。

「蒼良はん、これしっとったん?」

 私は、コクンとうなずいた。

 そして涙をふいた。

「これを口にしたくて、なかなか手に入らないものじゃないですか。でも、これがものすごくほしくなる時があって」

「もしかして、中毒性があるのか?」

 ココアが入った湯呑を土方さんがギョッとした顔で置いた。

「そんな強い中毒性はないと思いますよ。ただ、カフェインが入っているので……」

「かふぇいん?」

 しまった、その言葉はこの時代にはなかったか。

「チョコレートに入っている成分です。これは、とっても健康にいいものが入っていて、いい物なのですよ」

 ポリフェノールのことを言ったのだけど、ここで話してもわからないだろう。

「なんだ、そうなのか」

 土方さんは安心したのか、再びココアのはいった湯呑を手にした。

「なんや、また蒼良はんの知っとるものやったみたいやな。蒼良はん、そんなに飲みたいのなら、ちょっとあるから持って行くとええ。小瓶につめたるさかい」

「えっ、こんな貴重なものをもらっていいのですか?」

「ええよ。ただ、わかっとると思うけど、砂糖と牛乳入れんと苦くて飲めんよ。だだから、誰も飲む人おらんのや」

 チョコレートでも、純度の高いものは苦いと聞いた。

 現代のようにミルクチョコレートとか無いだろうから、きっと鴻池さんが暮れるものが純度の高いチョコなのだろう。

「じゃあ、遠慮なくいただきます」

 鴻池さんは、チョコレートを持ってくるようにと家の人に言った。

「俺は、これ飲んで泣くほどうめぇとは思えねぇがな」

 そんなことを言いながら、土方さんはココアを飲んでいた。

「そのうち、突然飲みたくなりますよ」

 私はニヤリと笑ってやった。

 帰りに鴻池さんは、お金とココアのはいった小瓶を出してきてくれた。

 それをいただいて、鴻池家を後にした。


 この日は、鴻池家のほかに何十件と商家を回った。

 新選組の名前を出したら、ほとんどの商人はお金を出してきてくれた。

 新選組も、それだけ有名になったと言う事なのかな。

 でも……

「土方さん、こんなにたくさんの商家を守ることはできませんよ」

 心配になって、私は土方さんに言った。

 だって、みんな私たちに守ってもらいたくて、お金を出してくれているのでしょ。

「そんな心配する必要ねぇよ。みんながみんな、鴻池さんのように考えちゃいねぇよ」

「じゃあなんでこんなにお金を出してくれるのですか?」

「俺たちの投資しておけば、いいことあると思ってんじゃねぇのか?」

「そうなんですか? いいことなんてないと思うのですが」

「お前っ! それをおまえが言うか? 俺だって商人じゃねぇからなんで金出すかなんて知らねぇよ」

 どうやら、それが本音らしい。

「金を快く貸してくれんだ。ありがたくいただけばいいだろう」

 貸すって言う言葉は、返す気持ちがあるから言う言葉であって、土方さんは返す気持ちがあるのか?

 いや、ないだろうなぁ。

「どうした、人の顔じいっと見やがって」

「いや、何でもないです」

 そんなこと言った日には、げんこつが落ちてくるから黙っていよう。


「ずいぶんたくさん借りれたなぁ。そろそろ帰るか」

 土方さんに言われ、京へ帰ろうと足を向けた時、出店がたくさん出ていてにぎやかな場所が目についた。

「あれは何ですか?」

 私は、指をさして土方さんに聞いた。

「あれは、歳の市だ」

 歳の市?歳の市って確か……

「年末にお正月に必要なものが売っているって言うあの市ですか?」

「おお、知っていたか。お前のことだから、知らないと思っていたぞ」

 それぐらい知っていました。

 よくスーパーとかのチラシで、大きく「歳の市!」って書いてあったから知っていたのだけど。

「行ってみるか?」

「いいのですか?」

「少しぐらい寄り道したって、罰は当たらんだろう」

 と言う事で、歳の市に行くことになった。


 歳の市は、たくさんの人がいて、押しつぶされそうだった。

「離れるなよ」

 土方さんが、私の手をにぎってくれたので、人に押し流されてはぐれると言う事はなかった。

「お正月の飾りが売っていますよ」

 門に飾るやつだろう。

 現代でもよく見かけるものだ。

「屯所に買っていくか」

 土方さんがそう言い、お店の前に進んだ。

「色々あるのですね」

 大きなものから小さなものまで様々だ。

 この時代だから、全部手作りなんだろうなぁ。

「これをもらおう」

 土方さんが指さしたものは、かなり大きなものだった。

「ずいぶん大きいですが、大丈夫ですか?」

「なにがだ? こういうものは大きい方がいいだろう」

「いや、帰るときに荷物にならないかなぁと思って」

「今だってたいした荷物はねぇだろう。これぐらい増えても大丈夫だ」

 というわけで、大きな正月飾りを持って帰ることになったのだった。


 もともと持って帰る荷物は、お金と小瓶に入ったチョコレートだけなので、お飾りが大きな荷物になることはなかった。

 ちなみに、全部土方さんが持っている。

 一応、お金とチョコレートを持ちますと言ったのだけど、

「お前に金は預けられない」

 と言われてしまった。

 私って、そんなに信用ないのか?

 

 京に向かって歩いていた時、土方さんが話しかけてきた。

「お前、今の屯所をどう思う?」

 どうしてそんな質問をしてくるんだろう。

「屯所ですか? 最近八木さんがよく怒って歩いているなぁって思いますが。これもいつものことですね」

 でも、八木さんは、色々なことをよくやってくれていると思う。

 私たちに色々手伝わせるけど、男所帯なのに屯所の中が綺麗なのは、八木さんがみんなの巡察中にお掃除をしてくれているからだ。

「狭くなったなぁって思わねぇか?」

 そう言われてみると。

「確かに思いますね。朝のト……厠は渋滞しているし、人が増えたから、そう思うのではないですか?」

「増えたよなぁ。江戸で募集した時に来た奴らがたくさんいるからな。そろそろ、屯所のことを考えねぇといけねぇな」

 もしかして……。

「移転するのですか?」

 私は土方さんに聞いた。

 これが問題になり、山南さんは切腹することになってしまう。

「移転も視野に入れて考えねぇとな」

「でも、今のところが一番居心地いいですよ。八木さんもなんやかんやと怒りながらも、色々やってくれますし」

 なんとか、移転しないですむなら、それにこしたことはない。

「いや、今の広さがもう限界だろう。もっと広いところが必要だ」

「そんな広いところなんてあるのですか?」

「それをこれから探すんだ」

 西本願寺になるのかな。

 今から、西本願寺に火をつければ、山南さんは死ななくて済むかもしれないけど、それは無理だ。

 この時代、火事になればみんな燃えてしまう。

 一般の人たちまで被害を受けてしまう。

 ああ、どうすればいいのだろう。

 京に帰る道、どうすればいいかずうっと考えていた。

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