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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
壬生浪士組誕生
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浪士組詐欺

  京へ着いてから三日ぐらい経った日。

 大津宿で山南さんを怒らせたあの村上さんという人が、えらい人と一緒に謝りに来た。

 まさか本当に謝りに来るとは思わなかったので、びっくりした。

 しかも、刀を差しているのが普通なのに、刀もとってきた。

 その様子を見た山南さんも、快く許していた。

 大津宿の件も一件落着。そう思っていたら、土方さんが、そのえらい人に話しかけた。

「山岡さん、清河って男は何を考えてんだ?」

 その人、山岡さんって言うんだ。

 っていうか、土方さん、まだその清河って人のこと、気にしてたんだ。

「ああ、ここに着いた時のことか?」

 多分山岡さんは、着いてすぐみんなを集めて署名させたことを言っているのだと思う。

「こっちも、まさか着いてすぐにああいうことをするとは思わなかったから、今、幕府に使者を送っているところだ。もう少ししたら、幕府からの返事も来るだろう」

 と、山岡さんが言った。

 現代なら、メールや電話で問い合わせてすぐ返事もらえるけど、江戸時代でそんな便利なものがない。

 幕府の返事とやらは、もう2~3日ぐらいかかるだろう。

 という訳で、山岡さんと村上さんは帰っていった。

 

 土方さんは、また考え込んでしまった。

「土方さん、そんなに気になるのですか?清河さんのこと」

「うさん臭すぎて気になる」

 うさん臭すぎるかぁ……。

 浪士組は、二百人以上いる。

 でも、新選組になる前の壬生浪士組は、確か二十四、五人前後だったはず。

 ということは、浪士組から壬生浪士組になる前に何かが起こり、二十四、五人前後が壬生浪士組になり、残りはどこかに行くのか、何かになるのかするはず。

 その何かって、なんだろう。

 ああ、ここに来ると分かっていたら、もっと真剣に研究すればよかった。

「なんだ、お前まで何か考えてるのか?」

 何か?清河って人の立場になって考えたらわかるのか?

「おい、蒼良。難しい顔しているぞ」

「土方さん、もし自分が清河さんだとして、何しますか?」

「俺は、あんな奴大嫌いだから、自分が清河になるなんて、考えたくもねぇ」

「土方さん、意外と子供っぽいですね」

「うるせぇ」

「じゃぁ、土方さんが、浪士組を率いているとします。二百人ぐらいいますよね。土方さんなら、その二百人ぐらいの人数いたら、何しますか?」

「そうだなぁ……。近藤さんを上に立たせて、武士にする組織をつくる……。ん? まてよ」

 土方さんは、何かひらめいたらしい。

 頭の上にビックリマークを付けたくなるような顔をした。

 私も、何かピンッ!ときた。

「清河の奴、この浪士組を自分の組織にするつもりじゃないのか?」

 土方さんはつぶやいた。

 私もそれを思った。

 そうなると、京へ着いたばかりの時に、幕府から禄をもらっていない。

 つまり、金をもらっていないと幕府の組織なのに幕府を批判というか悪口をみんなの前で言ったということは、幕府の組織から別の組織になりつつあるのかもしれない。

 彼が反幕府の人間なら、なおさらかもしれない。

 でも、なんの組織になるつもりなのだろう?ああ、あの時寝てなければ。

「分かったぞっ!」

 土方さんは分かったんだ。

「天皇の命令を妨げるものは、相手が幕府であっても容赦しないと、あの時そう言ってた時から気になってたんだ」

 そんなことを言っていたのか。

「そもそも、この浪士組は、家茂公が上洛するにあたり、京の治安をよくするために募集されて組織されたものだ。それなのに、いつの間にか家茂公ではなく、天皇になっている」

 そういえば、そうだ。

 天皇の命令ではなく、家茂公の命令を妨げるものというなら話はわかる。

 でも、いつのまに天皇に?

「ということは、いつの間にか、浪士組は家茂公ではなく、清河の手によって、天皇に関係する組織になったということだ。すると、署名したやつを幕府の組織でなく、朝廷の組織である学習院に出しに行ったのも筋が通る」

「いつ、清河さんの組織になったのですか?」

「あんな奴にさん付けしなくていい。いつからかというと、京へ到着したあの日だ」

 なるほど。

 京へ着いて一段落し、疲れも出ていてあまり物事を考えたくないときにみんなを集めて難しい話をした。

 多分、私もだったけど、ほとんどの人が話を聞いてなかったと思う。

 あれは、彼の作戦だったのかもしれない。

 そして、反論が出ないうちに署名をさせ、朝廷の組織に提出した。

 これって……

「浪士組詐欺」

 私がつぶやくと、

「なんだ、そりゃ」

 と、土方さんが言った。

「っていうか、武士になれるよ詐欺でもいいですね。結局、私たちはあの人に騙されたってことですよね」

「ああ、幕府の役人までもが騙されたということだ」

「オレオレ詐欺よりタチの悪い」

「なんだ、オレオレ詐欺って」

「オレだよ~オレ。って言いながら、息子を装ってだまし取るみたいな」

「なんだか、わけわからんな。とにかく、ものすごくタチが悪いことは確かだ。とにかく、近藤さんに話してくる」

 土方さんは、そう言い残していってしまった。

 そして、私はわかった。

 何かがあって二百人から二十四、五人になったわけ。

 分裂だ。

 清河に反対する人間がいて、それが多分壬生浪士組になったんだと思う。

 じゃぁ、残りの人たちは何になるのだろう?


 この日の夜、試衛館にいた人たちは、近藤さんに呼ばれて集まった。

 土方さんと私が話していたことを話し、

「俺は、家茂公が上洛するから、その警護のために京へ来た。そのこころざしは簡単に変えることはできない。それを変えることは、武士の士道に反することだと思っている。だから、清河と共にするつもりはない」

 と、近藤さんは言った。

 みんなもうなずきつつ聞いていた。

「みんなどう思ってる? 俺と共に来てくれるなら嬉しいが、強制はしない」

 近藤さんの人柄が出ていた言葉だった。

 みんなの長なのだから、強制しても文句は言わないだろう。

 でも強制をしないところが近藤さんらしいかもしれない。

 みんなは、近藤さんに付いていくといった。

 みんなの心が一つになったと思った。

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