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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治元年11月
148/506

雪合戦

 私の熱もすっかり下がり、元気になった。

 元気になったけど、まだ病み上がりだから、隊務にはついていなかった。

 雪はまだ残っている。

 巡察に出なくてもいいから遊びたい放題だ。

蒼良そら、一緒に雪遊びしない?」

 早速沖田さんが誘ってくれた。

「もちろんですよ」

「蒼良ならそう言うと思っていたよ」

 二人で草鞋を履き外に出た。

 なぜか沖田さんから雪かきの道具だろうか?

 現代で言うと、プラスチックでできている大きな雪かき用のシャベルの木製版を渡された。

「これで何をするのですか?」

 ワクワクしながら聞いてみた。

「これで、玄関から屯所の門までの雪をどかして道をつくるんだよ。さぁ、一緒に遊ぼう」

 ちょっと待て。

 これ、遊びなのか?雪遊びなのか?

「沖田さん、私には沖田さんが雪遊びではなく、雪かきをするように聞こえるのですが」

「蒼良、それは気のせいだ。こうやって雪をすくって投げると楽しいよ。だから雪遊びだよ」

 いや、どう考えても雪かきだろう。

「雪かきしろって言うなら、一緒にやりますよ」

 私が言うと、沖田さんは助かったとつぶやいた。

「朝、八木さんにつかまっちゃってさ。ただで使っているんだから、雪かきぐらいしろって言われちゃって。蒼良がやってくれるなら助かるよ。じゃ、頑張って。終わったら教えてよ」

 そう言って沖田さんは雪かきの道具を全部私に押し付けて逃げようとしたので、私は慌てて沖田さんの襟首をつかんだ。

「一緒にって言ったじゃないですか」

「蒼良も、こういう面は利口になってきたね。前の蒼良だったら僕は逃げれたな」

「ほめてもらえて嬉しいです。はい、一緒にやりましょう」

 雪かきの道具を沖田さんに渡したら、沖田さんもあきらめて雪かきを始めた。


 雪かきはけっこうな重労働で、すぐに汗をかいてしまった。

 晴れているけど、下に雪があるので暖かくはない。

 そんな状態でも汗をかいてしまうと言う事は、それだけ体を使っていると言う事だ。

 屯所の門から玄関まで、細いけど道が出来た。

「さ、遊びはこれからだよ。蒼良、この前蒼良の額の上に乗せた奴の大きいの作ろう」

 雪だるまのことだな。

「作りましょう。この前のより大きなものを作りましょう」

 雪かきの道具をしまい、沖田さんと一緒に大きな雪玉を作り始めた。

 一緒に雪だるまを作っていると、近所の子供達も集まってきた。

「なに作っとるん?」

「あ、ちょうどいいところに来た。一緒に雪玉を大きくするの手伝ってよ」

 沖田さんが誘うと、子供達も一緒に作り始めた。

「うちな、朝起きたら雪でつくったお地蔵さんがあったんよ」

 一緒に作っていた女の子が話しかけてきた。

「雪で作ったお地蔵さん?」

「そう。うちを驚かせてやろうと思って、お父さんが家の前に作ったんよ」

「そうなんだ。で、驚いた?」

「うん。とっても大きかったさかい、びっくりしたわ。お兄ちゃんもお地蔵さん作っとるの?」

「お地蔵さんは難しいなぁ。もっと簡単なやつだよ」

「そうなんだ」

 この時代には私たちが知っている雪だるまはない。

 この女の子が言ったように、雪が降った日に子供を驚かそうと思って大人が雪で色々な物を作ったのが、雪だるまの始まりらしい。

 みんなで作った雪玉は、私の胸のところまである大きなものが4つできた。

「これ、持ち上げられるかな」

 かなり重そうだ。

「みんなでやればできるよ。さ、一二の三で持ち上げるよ。一二の三!」

 沖田さんがそう言うと、みんなでよいしょと言いながら持ち上げた。

 何とか雪玉の上に重ねることが出来た。

 雪だるまは、私の身長より大きなものが二つ、屯所の門の前にできた。

「これだけ大きければ、しばらく溶けないで残っていますね」

「そうだね」

 沖田さんはそう言いながら、桶を雪だるまの頭の上に置いた。

「目の代わりになるものはないかな? 丸いものがいいなぁ」

 私がそう言うと、子供たちの一人が、

「うちになっていたキンカンの実だけど使えるかな?」

 と、オレンジ色のキンカンの実を持ってきてくれた。

「充分だよ」

 背の大きい沖田さんが、雪だるまの目の部分に軽々とキンカンを入れた。

 鼻と口を作り、雪かきの道具を腕代わりに胴体の部分にさしたら、立派な雪だるまが出来た。

「なんか、おもろいなぁ、これ」

 そう言いながら、子供たちが雪だるまを囲んで見ていた。


「ずいぶん大きなものが出来たよね。みんなの反応が楽しみだ」

 沖田さんは楽しそうにお茶を飲んだ。

 雪だるまを作った後、子供たちは家に帰って行った。

 雪かきの疲れも出たので、ちょっと休もうということになり、縁側で雪を見ながらお茶を飲んでいたのだった。

「平助もいたら、きっと一緒になって作ったよね。平助はまだ帰ってこないのかな」

 沖田さんは空を見ながら言った。

 今日は雲一つない冬晴れの空が広がっていた。

「春まで帰ってこないと思いますよ」

 早く帰ってきてほしいとは言ったけど、歴史では春ぐらいに江戸に隊士募集に言った土方さんと一緒に帰ってくることになっている。

 藤堂さんと言えば、山南さんのことだ。

 山南さんが切腹することを教えたら、阻止してほしいと言われた。

 すでに、山南さんと土方さんの間には、深い溝が出来上がろうとしている。

 総長である自分の意見を聞いてくれなかった土方さんに対して、あまりいい思いを抱いていない山南さん。

 一方、伊東さんの勉強会に取りつかれたように通っている山南さんを見て、こちらもあまりいい思いを抱いていない土方さん。

「ああ、いったいどうすりゃいいんだ?」

 思わず、口に出してしまった。

 この二人の溝を埋めなければ、切腹を阻止することはできないだろう。

「蒼良、どうしたんだい?」

 突然独り言を口に出したら、どうしたんだろうと思うのは当たり前だろう。

「土方さんと山南さんについて考えていたのですよ」

「なんでまた、蒼良がそんなことを考えていたんだい?」

「総長と副長の間に溝ができていたら、新選組は分裂してしまいますよ。何とかしなければ」

 山南さん切腹云々という話はしないで、ごまかして話した。

「別に、ほっとけばいいんじゃないの?」

「ほっといたら、大変なことになるじゃないですかっ!」

「蒼良が、そんなに新選組思いの人間だとは思わなかったよ」

 そ、そうなのか?

「でも、土方さんと山南さんは考え方も違うし、うまくいくとは思わないけど」

「沖田さん、何もしないであきらめていいのですか?」

「えっ、ほっといたらいけないの?」

 ほっとけないから、悩んでいるんじゃないか。

「こういうことは、悩んでいても解決しないもんだよ。そろそろ帰ってくる頃じゃないかな?」

 沖田さんはそう言うと、立ち上がって門の方へ歩き始めた。

 どこへ行くのだろう?しかも、誰が帰ってくる頃なんだ?

 

 門の外に立った。

 門の両側に大きな雪だるまがある。

 沖田さんは、右、左と首を動かしてみていた。

「そろそろだと思うんだけどね」

 何がそろそろなんだ?

 そう思っていると、右側からサクサクと雪を踏んで歩く音が聞こえてきた。

 見てみると、山南さんだった。

「な、何だこりゃ」

 大きな雪だるまを見て驚いていた。

「蒼良と作ったんだ」

「またずいぶんと大きなものを作ったな」

 山南さんと話をしていると、今度は左側からサクサクと音がした。

 見てみると、土方さんが姿を現した。

 土方さんの姿を見た山南さんは、

「俺は中に入るぞ」

 と言って、土方さんを避けるように中に入って行った。

 すると、沖田さんは小さい雪玉を作り始めた。

 何するんだろう?

「蒼良、こういうことは、直接ぶつかっちゃった方が早く解決したりするもんだよ」

 直接ぶつかる?どういうことだ?

 疑問に思っているうちに、沖田さんは屯所の中へと歩いている山南さんの後ろ姿に向かって雪玉を投げた。

 な、何するんだ?

 雪玉は見事に命中。

「なにすんだっ!」

 山南さんがそう言って後ろを振り返った時、土方さんがちょうど私たちのところに着いた。

「土方さん、いくら山南さんが気に食わないからって、後ろから雪玉投げるのってよくないと思いますが」

 沖田さんが、しれっと言った。

 いや、沖田さんが投げたんじゃないかっ!

「俺は投げてねぇぞ」

 土方さんがそう言った。

「何言っているんですか。山南さんの背中に投げてたじゃないですか」

「総司こそ、何言ってんだ? 俺は今着いたばかりだ」

 言い合いしている沖田さんと土方さんに、山南さんが近づいてきた。

「どちらが投げたか知らんが、人の背中を狙うなんて、武士としてあるまじき行為だ」

 山南さん、怒っているよ。

「土方さんだから」

「俺じゃねぇって」

「とにかく、二度としないでくれ」

 そう言うと、山南さんは再び屯所へ向かって歩き始めた。

 沖田さんも、山南さんの後を追うようにしていってしまった。

 沖田さんは、何を考えてんだか。

「それにしても、ずいぶんでかいの作ったな」

 土方さんが、雪だるまを見て言った。

「沖田さんと近所の子供たちと一緒に作ったのです。これだけ大きければ、しばらく溶けないですよ」

 私が土方さんに雪だるまを見せていると、土方さんに雪玉があたった。

「だ、誰だっ!」

 雪玉が飛んできた方向を見ると、沖田さんと山南さんがいた。

「山南さん、さっきのことを怒っているからって、雪玉を投げなくても……」

 山南さんの横にいた沖田さんが言った。

 いや、絶対に沖田さんだろう。

「俺はやっとらん!」

 山南さんは思いっきり否定をしている。

「誰がやったかは知らんが……」

 そう言いながら、土方さんは雪玉を作り始めた。

 すごく嫌な予感がするのですが。

「お前らのどちらかが投げたのは明らかだろうがっ!」

 土方さんは、雪玉を投げた。

 見事山南さんに命中。

「土方君、いくら俺が邪魔だからって、雪玉をぶつけることはないだろうがっ!」

 今度は山南さんが投げてきた。

 それも見事に土方さんに命中。

「やりやがったな。容赦しねぇぞ」

 土方さん、再び雪玉を作る。

「のぞむところだ」

 山南さんも作る。

 そして二人で投げる。

 お互いにあたり、雪合戦が始まった。

 沖田さんのせいで……。

 仲直りさせるんじゃなかったのか?どう見てもこれ、喧嘩しているんだが……。

「お前っ! ぼさっと突っ立ってねぇで、雪玉作りやがれっ!」

 土方さんにそう言われ、気がつけば雪玉を作っている私。

「総司も手伝えっ!」

 沖田さんも、山南さんに言われて雪玉作っている。

 そして、たまに投げてる。

 それを見た土方さんが、

「お前も作ってばかりいねぇで投げろっ!」

 と私に言った。

 注文が多いなぁ。

 投げようとしたら、雪玉があたる。

「くそっ! 黙っていたら、伊東さんの勉強会に毎日のように顔出しやがってっ!」

 そんなことを言いながら土方さんは山南さんに投げる。

「俺が総長で、副長より上のはずなのに、副長がなんでも勝手に決めやがってっ!」

 山南さんも、そんなことを言いながら投げる。

 なんか、口喧嘩しながら雪合戦か?

 二人がむきになって投げているので、雪合戦というか、レベルの低い喧嘩になっていた。

「総長とか、副長とか関係ねぇっ! そもそも、総長は近藤さんの相談役で置いたんだ。隊の中のことは、俺が決めるっ!」

「伊東さんの勉強会に行って何が悪いっ! 教養を付けるために行ってんだっ! 無教養で隊を収められんだろうがっ!」

「どうせ俺は無教養だよっ! 文句あるかっ!」

「わかってんなら、教養つけろっ!」

「うるせぇっ! 余計なお世話だっ!」

 子供の喧嘩以下かもしれない……。

 沖田さんのせいだぞ、どうすんだっ!

 そう思って沖田さんを見ると、沖田さんもひたすら雪玉を作っている。

「雪玉っ! 作るのが遅いっ!」

 文句を言われてしまった。


 どれぐらい雪合戦をやっていたのだろう。

 土方さんと山南さんは力尽きたのか、雪の上にもかかわらず、二人ともあおむけになって並んで倒れていた。

「沖田さん、喧嘩になっちゃったじゃないですか」

「こういうことは、ガツンと一回正面からぶつかった方が、簡単に解決するもんなんだよ」

 そ、そうなのか?

 土方さんと山南さんの方を見たら、相変わらず息を切らせて倒れていた。

「山南さん、あの時のことまだ引っ張ってたのか?」

「あの時の事って、葛山君の切腹か?」

 永倉さんたちが、近藤さんの態度が悪いって数人でまとまって会津藩に書状で出し、その責任を取って葛山さんという隊士が切腹した。

 山南さんは切腹に反対したのだけど、土方さんが決めたらしい。

「それ以外あるのか? あれは、会津藩が仲介して解決したが、近藤さんと新八たちの間に溝ができたから、溝を埋めるために仕方なかったんだ。まさか、新八たちを切腹させるわけにいかねぇだろう。あいつらがいなくなったら、隊も終わりだ」

「それなら、全員謹慎でいいだろう。なんで葛山君だけ……」

「話し合って決めた。新八たちとな。新八と左之と斎藤には、お前らを切腹させるわけにはいかねぇが、このまま切腹者なしですむ問題じゃねぇ。切腹者なしだったら、今後こういうことが何回もあるかもしれねぇからな。そう言ったら、葛山が俺がやると言ったんだ。俺なら、隊からいなくなっても大丈夫だからなって、笑ってたよ」

「そうだったのか。彼がのぞんだのか」

「こういうことはきっちりしねぇと、隊が乱れる」

「そうだな、わかった。俺が誤解していたよ」

 山南さんの誤解はとけたらしい。

 よかった。

「俺も山南さんに聞きたいことがある。なんで毎晩伊東さんの勉強会なんかに顔出してんだ?」

「なかなかいいこと言ってるぞ」

「いいこと言っているが、あいつの腹の中はわからんぞ」

「わかっている」

 山南さんは、伊東さんが本当に考えていることを気が付いていたのか?

「同じ流派だ。伊東さんのことは知っているよ。水戸学を学んだ尊王攘夷派だ。それが幕府派の俺たちのところに来るんだ。何か考えがあると考えるのが普通だろう」

 さすが山南さん、そこまで分析をしていたとは。

「わかっていたのか?」

「わかっていた。毎日勉強会に顔出しているが、心の中で舌出してんだろうと思って聞いていたさ」

「俺はてっきり山南さんが伊東さんに感化されたかと思ったぞ」

「まさか、俺がそんなことになるはずないだろう」

 山南さんと土方さんはハハハと笑いあっていた。

「ほら、僕の言うとおりじゃん」

 沖田さんは胸をはって言ってきた。

「本当ですね。よかったです」

 しばらく山南さんと土方さんは無言で空を眺めていた。

「そろそろ風邪ひきますよ」

 私が言ったら、

「お前じゃねぇよ」

 と、土方さんに言われてしまった。

 ふんっ!

「久々に暴れて、すっきりしたなぁ」

 土方さんはそう言って立ち上がった。

「俺も、すっきりした」

 山南さんも立ち上がった。

 山南さんと土方さんの溝は埋まったようだ。

 とりあえず安心していいんだよね?

 しかしこの後、西本願寺移転問題がある。

 これは、西本願寺に移転するっ!と言い出した土方さんに、山南さんが反対するのだ。

 まだ油断はできない。

 でも、今回は安心していいよね。

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