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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治元年11月
144/506

原田さんのお見合い

 11月になった。

 現代で言うと12月にあたる。

 江戸から京に来たせいもあるのか、京の寒さが身に染みる毎日だ。

 今日も、火鉢をはさんで土方さんと原田さんが言い合いをしている。

「左之、一度会うだけでいいから、頼む」

 土方さんが原田さんに頼んでいた。

「嫌だよ。第一、なんで俺なんだよ。他にも隊士はいるだろう」

「八木さんがお前を指名しているんだよ。聞く話によると、相手の女がお前のことを気に入ったらしいぞ」

「たまたま俺を見ただけだろう。他の奴にあたってくれよ」

 この二人は何を言い合いしているかというと、八木さんのところにたまたま来た八木さんの知り合いの娘さんが、たまたまその場にいた原田さんに一目ぼれをしてしまったらしい。

 原田さんはかっこいいから。

 それで、八木さんから近藤さんに話が行き、近藤さんが土方さんに話が行き、今、土方さんから原田さんに、一回でいいから会ってみろっという話をしている。

 要するに、原田さんにお見合いの話が舞い込んできたのだった。

 しかし、原田さんはさっきから断っている。

「それなら、原田さんに似ている隊士を原田さんだって言って会わせちゃえばいいんじゃないですか?」

 私が提案すると、

「ばかやろう、八木さんをだませるわけねぇだろうが」

 と、土方さんに言われてしまった。

 確かに、八木さんは毎日私たちを見ているから、そう簡単にはだませないだろうなぁ。

「とにかく、俺は会うのはお断りだ」

 原田さんは、このお見合いはいやみたいだ。

「左之、相手は八木さんだぞ。断れねぇだろう。断った日には、俺たちここから追い出されるかもしれねぇぞ」

 八木さんは屯所の大家さんにあたる人だ。

 大家さんというか、私たちが勝手におしかけて住んてしまった家が、八木さんの家だったと言う事なんだけど。

 八木さんにここから追い出されたら、私たちは行く場所がない。

「好きな女がいるのか?」

 土方さんが原田さんに聞いた。

「いる。だから、俺は会うのは嫌だ。土方さんが俺の代わりに会えばいいだろう」

「俺も、好きな女がいる」

 土方さんのその言葉に、なぜか胸がチリチリと焼けるような痛みが走った。

 なんでこんな思いをするんだろう?

 そんなことを思っていると、二人の視線を感じた。

 なぜか二人とも私の方を見ていた。

 なんで私を見てるんだ?私は関係ないだろう。

「好きな人がいるなら、お見合いさせるのはかわいそうじゃないですか」

 私は火鉢に手をかざしながら言った。

 すると、また原田さんと土方さんが真顔で私の顔を見てきた。

 な、なんだ?

 でも、二人ともすぐに私から顔をそらした。

 なんなんだ?

「左之、副長命令だ。その女に会え」

 私の質問はどこにいったのだろう。

「土方さん、汚いなぁ。ここで副長命令なんてさ」

「副長命令に逆らうとどうなるのですか?」

 気になったので聞いてみた。

「切腹だ」

 土方さんは、表情を変えずに言った。

 ええっ、切腹なのか?それは厳しすぎないか?

「ところで、お前はなんでここにいるんだ?」

 突然、土方さんが聞いて来た。

「寒いので火鉢にあたりたいなぁなんて思って」

「冬は寒いのがあたりめぇだろうがっ! とっとと巡察に行って来いっ!」

「寒いのでもうちょっとあたりたいのですが……」

「副長命令だっ! 巡察に行けっ!」

 副長命令って、こんなに乱発してもいいものなのか?

 逆らうと切腹だしなぁ。

「行くのか、行かねぇのか?」

 土方さんは怖い顔で聞いて来た。

「い、行きますっ!」

 私は急いで部屋を出たのだった。

 切腹なんてごめんだ。


 原田さんが嫌だと言っているのに、お見合いの日は簡単に決まってしまった。

「原田さん、近藤さんが読んでますよ~。原田さん」

 近藤さんから、原田さんを呼んでくるように言われたので、屯所の中を探して歩いている。

 しかし、原田さんのいる気配が全然なかった。

 逃げたのか?

「おらんのか?」

 探して歩いていると、八木さんが出てきた。

「いないみたいです」

「原田はんっ! 出てこんと、新選組をここから追い出すえ」

 やっぱりそうなるのか?

「左之、もうだめだ。あきらめろ」

 永倉さんが、原田さんを連れて出てきた。

「どこにいたのですか?」

「蔵に隠してたけど、追い出されたらたまらないから連れてきた」

 永倉さんが原田さんを八木さんの方へ押し出した。

「俺は嫌だって言っているだろう」

「会うだけや。すぐにどうこうせえとは言うとらんやろ。顔も見ないで断るなんて、相手に失礼やし、うちの顔もつぶれるやろうが。ほら、行くで」

 八木さんは、原田さんの右耳を引っ張って連れて行ってしまった。

「わかったから、耳から手を放してくれよ。痛いだろう」

「あんたが逃げそうやからや」

 そんな言い合いをしながら二人は奥へ消えていった。

蒼良そら、相手の女見たくないか?」

 永倉さんが私に聞いてきた。

「永倉さん、まさかのぞくつもりなんですか?」

「そうでもしないと見れないだろう」

「のぞくなんて失礼ですよ」

「ばれなきゃ大丈夫だ」

 それもそうだな。

 ばれなきゃ大丈夫だ。

 私も、原田さんの相手の女の人がどう言う人か気になるし。

 というわけで、永倉さんとこっそりのぞくことになった。


 お見合いは、奥にある近藤さんの部屋で行われていた。

 襖の隙間から見ていたのだけど、襖に背中を向けて八木さんと相手の女の人が並んで座っていたので、私たちからは、八木さんと女の人の背中と、その向こう側に座っている土方さんと原田さんしか見えなかった。

「逆に座ってくれればいいのによ。肝心な相手の顔が見えない」

 永倉さんはブツブツと文句を言っていた。

「そう固くならんでもいいだろ。左之、顔が怖いぞ」

 近藤さんの声が聞こえてきた。

 近藤さんは私たちから見えないところに座っていた。

「左之、怒ってるぞ」

「本当ですね。顔が怖い。あれなら相手の女の人も怖がって逃げますよ」

「左之のためならその方がいいんだろうなぁ。ああ、相手の女の顔が少しでも見えたらなぁ」

 ここからどうあがいても背中しか見えない。

「ちょっと、どけてもらえないかな」

 後ろから沖田さんの声がした。

「沖田さんも見に来たのですか?」

 私はそう言いながら沖田さんを見た。

 沖田さんは5人分のお茶を入れたお盆をもって立っていた。

「僕はお茶を出しに来たのですよ」

「あ、そう言う手があったか。ずるいぞ、総司」

 なるほど、お茶を出しつつ相手の顔を見るという作戦か。

「僕は新八さんじゃないから、相手の顔を見たいなんて言う野次馬根性なんて全くないですよ。襖を開けるけど」

 いや、今開けられたらのぞきがばれるじゃないか。

 私と永倉さんは、慌てて襖から離れた。

「お茶を持ってきました」

 沖田さんは何事もなかったかのように、近藤さんの部屋の中へ入って行った。

 しばらくすると、沖田さんが空のお盆を持って出てきた。

「総司、相手はどんな奴だった?」

 沖田さんが部屋から出てくると、すぐに永倉さんが沖田さんに近づいて聞いた。

「あまりよく見なかったなぁ」

 本当か?沖田さんの顔が楽しそうに笑っているように見えるのは気のせいか?

「嘘つけ。本当は見たんだろ?どうだった?」

「よく見なかったって言っているじゃないですか。新八さんもしつこいなぁ」

 沖田さんと永倉さんがそう言うやり取りをしていると、なぜか斎藤さんがお菓子を持って立っていた。

「総司、お茶だけ出して菓子を出さないなんて気がきかないぞ」

「おお、その手があったか。おい、斎藤。その菓子は俺が出す」

 永倉さんが斎藤さんからお菓子を取ろうとしたけど、斎藤さんはうまくよけて中に入って行った。

「斎藤の奴、何も気にしないって顔していたくせに、こういう手を使いやがって」

 永倉さんが悔しそうだった。

 そして、斎藤さんが何事もなかったかのような顔をして出てきた。

「斎藤、相手の女、どんなんだった?」

 永倉さんは真っ先に斎藤さんのところに行って聞いていた。

「そんなにジロジロ見たら失礼だろう。あまり見なかった」

 でも、見たんだろうなぁ。

 斎藤さん、ちょっと得意げな感じになってるもん。

「嘘つけっ! 見たんだろ。まったく、どいつもこいつも。おい、何か中に持って行くものはないのか?」

「お茶もお菓子も出したからね。もうないね」

 沖田さんが永倉さんに言った。

「くそっ、お前らずるいぞ」

「俺は、ただ菓子を持って行っただけだ」

「俺に譲ってくれてもいいだろう」

 近藤さんの部屋の前でそんな言い合いをしていた。

 それが中にも聞こえていたみたいで、4人でワイワイやっていると、バンッ!と音がした。

 見てみると、なんと、近藤さんの部屋のふすまが開いていた。

 土方さんが開けたらしい。

 私たちの姿は、みんなに丸見えになっていた。

「お前ら、いったいここで何してんだ?」

 土方さんの声が怒っているよ。

「お茶のお代りを持って行こうかと思ってさ。みんなで打ち合わせをしてたんだ。な?」

 永倉さんがみんなに同意を求めてきた。

 私はコクコクとうなずいたけど、斎藤さんと沖田さんは知らんぷりしている。

 こういう時は、助け合うものだろう。

 斎藤さんと沖田さんに目で救いを求めたけど、思いっきり無視しているし。

「蒼良」

 近藤さんの部屋から、私の名前を呼ぶ原田さんの声がした。

 原田さんは、私の名前を呼ぶと、私に近づいてきた。

 そして私の手を取った。

「俺は、こいつが好きだから、俺のことはあきらめてほしい」

 原田さんはそう言うと、私の手を引っ張って外に出た。

 私は、どこに連れていかれるんだ?


 しばらく原田さんに手を引かれて歩いていた。

 誰もいない、畑があるところに来ると、やっと手を放してくれた。

「蒼良、ごめん」

 原田さんが謝ってきた。

「いや、別に私は構わないですよ。でも、そんなに女の人に会うのが嫌だったのですね」

 私のことを好きって嘘をついちゃうぐらい、会いたくなかったんだなぁ。

「当たり前だろう。心の中に蒼良がいるのに、他の女なんて目に入るわけないだろう」

 えっ?心の中に私がいる?

「蒼良」

 原田さんが私の名前を呼び、私の両肩に手をのせ、自分の方へ向けた。

「俺は、蒼良が好きだ。蒼良が男だと思っていた時から好きだ。その時は、蒼良の幸せを考えてあきらめることにしたが、俺はあきらめきれなかった。だから、蒼良が女だとわかった時は、あきらめなくていい、そう思った。嬉しかった」

 私、原田さんに告白されているのか?

 それなら、早く返事をした方がいい。

 まだ好きな人とか、そんなこと考えている余裕がないから、あきらめてくれと。

「あの……」

 そう言った時、原田さんの人差し指が、私の口に触れた。

「いつか、お前の口から、俺なしじゃ生きていけないと言わせてやる。覚悟しておけ」

 そ、そうなのか?そう言う日が来るのか?

「行くぞ」

 原田さんは、再び私の手を引いて歩き始めた。

 今度は屯所へ帰っているようだ。


「左之の恋は全力で応援するつもりだ」

 屯所に帰り、近藤さんの部屋に呼ばれた。

「相手が男であってでも、そうすべきだと思っているぞ」

 近藤さんって心広いなぁ。

 近藤さんの横で、なぜか顔をひきつらせて土方さんがすわっていた。

 もしかして……

「八木さん、怒ってましたか?」

 土方さんがあんな顔しているんだもん、それしか考えられない。

「八木さんは、左之にその気がないなら仕方ないって許してくれた。逆に知らないで紹介してすまないって謝っていたぞ」

 土方さんがそう言った。

 なら問題なかったわけだな。

 じゃあ、なんでそんな顔してるんだ?

「八木さんには、俺からも謝っておく」

「そうしてくれ」

 原田さんが言うと、土方さんがそう言った。

「それにしても、蒼良ももてるなぁ。で、蒼良は男と女、どっちが好きなんだ?」

 近藤さんに聞かれた。

 ここはどう答えるべきなんだ?

 健全な答えなら男なんだろうけど、男装しているから、女と答えるべきか?

「こいつはそんなこと考えてる余裕はないだろう」

 土方さんがごまかしてくれた。

「それもそうだな。同性にしかも二人から告白されたしな」

 近藤さんが言った。

 えっ、二人?藤堂さんの事か? 

「もういいから下がれ」

 土方さんに言われたので、二人って誰だ?という疑問を近藤さんにぶつけることなく部屋を出たのだった。


「近藤さん、お前がなんで男にこんなにもてるんだ? って首かしげてたぞ。女みたいに見えるからもてんじゃないか? ってごまかしといたがな」

 土方さんが部屋に帰ってきたら、真っ先に言われた。

「す、すみません」

「ま、お前は悪くねぇ。男の中に女が一人いたら、こうなることはわかっていたことだしな」

 そ、そうなのか?それにしても……

「近藤さんは、二人って言っていましたが、もう一人は誰ですか?」

「お前は、そんなこと気にする必要はねぇっ!」

 な、なんでだ?気になるじゃないか。

「そんなこと気にしているとだな、隊務に支障が出るぞ」

 それもそうかもしれないな。

「そうなったら大変だろう」

 確かに、大変だ。

「わかりました。気にしない方がいいですね」

「そうだ、それがいい」

 土方さんがやけにそう言うのが気になるけど、気にしない方がいい。

 隊務に支障が出たら、それどころじゃなくなるし。

 このことは、ここでおしまいにしよう。

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