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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治元年10月
142/506

お師匠様に遭遇

 伊東さんの考えがわかった後も旅は続いた。

 逆に、考えがわかってからの旅の方が長い。

 他の人たちは、伊東さんの考えに賛同していて、とっても和やかな雰囲気で旅は続いていたけど、私は、とてもじゃないけど和やかな気分になんてなれなかった。

 逆に、伊東さんが何かを話すたびに、こいつ、心の中では舌出してんだろうなぁとか、それ、本当の事か?とか、伊東さんの話すべてが信じられなくなった。

 藤堂さんは、なんでこんな人を紹介したんだ?しかも、藤堂さんは江戸にいるし。

 入れた責任を取りやがれっ!と、江戸にいる藤堂さんにまで八つ当たりしている。

蒼良そらから笑顔が消えた」

 永倉さんはそんなことを言っていた。

「疲れているのです」

 そう言ってごまかしたけど、伊東さんがそばにいる限り、笑顔になんてとてもじゃないけどなれない。

 誰かに愚痴りたいけど、そう言うときに限って尾形さんがこちらを見ている。

 じゃあ尾形さんに愚痴ろうとすると、何かを感じるのか、さりげなく逃げられてしまう。

 愚痴を聞くぐらいしてくれてもいいじゃないかっ!へるもんじゃないし。

 というわけで、ここまで悶々(もんもん)としていたのだった。

 そして、下諏訪宿に到着した。

 前回通った時は、藤堂さんと観光したよなぁ。

 今はとてもじゃないけど、観光する気分になれない。

 しかも、ここは中山道で唯一温泉がある。

 しかし、温泉に入る気力もない。

 誰か、私のこの悶々とした気持ちを何とかしてくれっ!


 下諏訪宿には少し早めに着いた。

 近藤さんたちは温泉に入りに行ったけど、私は行く気もなかった。

 どうせ、男装しているから堂々と入れないし。

 この悶々とした気持ちを、神様にでも聞いてもらおうか。

 そんなことを思いながら、諏訪神社に行くことにした。


 前回は、藤堂さんがいた。

 今回は、一人だ。

 そのせいか、周りの人たちが目につく。

 結構たくさん人がいた。

 宿場町だから、観光客も多い。

 スマホで社殿を記念撮影している人もいる。

 スマホか……。

 私は、まだガラケーなのに。

 ガラケーの方が、電池も持つし、通話料金も安いし、なんて、負け惜しみみたいなことをたくさん思う。

 いや、違うだろ。

 なんで電気もないこの時代にスマホなんだ?考えるのは、そこだろう。

 もしかして、この時代にスマホを発明した人がいたとか。

 いや、ありえない。

 じゃあなんで、あの人はスマホなんだ?

「今度はわしを撮ってくれ。ここをタッチすればええ。タッチとは、触ることじゃ」

 付き人なのか?その人に写メの取り方を教えていた。

 やっぱりスマホだよな。

「おっ、蒼良じゃないか」

 社殿をバックにポーズをとっていた人が、私を呼んだ。

 ん?私の知り合いか?

 よく見てみると……

「お、お師匠様っ!」

 お師匠様じゃないか。

 なるほど、スマホを持っていることも納得できる。

 でも、なんで持っているんだ?

 私も携帯を持っているけど、役に立たないからずうっと荷物入れに入れっぱなしだ。

「なんで、スマホを持っているのですか? それに、なんでここにいるのですか? それにしても、この付き人みたいな人は誰ですか?」

「蒼良、質問は一つずつにしてくれ」

 一つにしたいが、疑問だらけで一気に質問攻めにしてしまった。

「まず、なんでここにいるのですか?」

「ここじゃなんだから、どこか店に入ろう」

 なんかもったいぶってないか?

 というわけで、お師匠様と甘味処に入った。

 付き人みたいな人は、先に宿に帰るようにとお師匠様に言われていた。


「で、何が聞きたいのだ?」

 甘味処に入り、お茶をズズッとすすってからお師匠様が言った。

「まず、なんでスマホ持っているのですか?」

「おお、これか。これからはスマホの時代だぞ。蒼良もいつまでもガラケーなんて使ってないで乗り換えるがいい」

 乗り換えたいよ、私だって。

「あ、そうか。金がないのか」

 ふんっ!私の小遣いだと、スマホの通話料金など払えないから、ガラケーなんだよ。

 知っていて聞いたな。

 ちょっと待て、そうじゃないだろう。

「乗り換えとかじゃなくて、なんでスマホをここに持っているのですか? 電波があるわけじゃないし、使えないじゃないですか」

「通信だけじゃのうて、カメラ機能は使えるじゃろ。あっちこっち旅行して写真を撮りまくっとる。現代に帰ったら、いい資料になりそうだぞ」

 そうか、そういう使い方もあったのか。

「でも、充電ができないじゃないですか」

 だから、私も使っていないのだ。

「今はいいものがあるからのう。電池からも充電できる機械があるからな」

 もしかして……

「お師匠様、電池をもってきているのですか?」

「当たり前じゃろ」

 物を持ってくる暇がどこにあったんだ?

 この時代に来た時のことを私は思い出してみた。

 私は、お師匠様から背中を押されたから、準備する暇もなく、稽古着でそのまま来ちゃったけど、お師匠様は、その間準備する時間があったのだ。

 なるほど、あの時はお師匠様は準備万端でこの時代に来たのだな。

「スマホもな、持っていると便利じゃぞ。電気がないところでは電気代わりになるからな」

「でも、私は充電器が無いので」

「わしのを貸すぞ」

 本当か?京に帰ったらさっそく借りに行くぞ。

「あ、スマホとガラケーは、端末が違うから、充電器も違うんだったな」

 そ、そうなのか?使えないじゃないかっ!

 もういいや、そのことは置いといて……。

「なんでお師匠様はここにいるのですか?」

「下諏訪宿には温泉があるだろう。温泉があるところにはわしがいるんじゃ」

 そ、そうなのか。

 私を助けに来たんじゃなかったんだね。

 期待した私がばかだった。

「もちろん、お前のことも心配じゃ」

 そんな取ってつけたように言わなくてもいいですよ。

 温泉のことも置いといて……。

「あの付き人みたいな人がいたような感じがしたんですが、誰ですか?」

「付き人じゃ」

 それはわかるよ。その付き人はなんだって聞いているんだよっ!

「蒼良、怒っとるじゃろ」

 ただでさえ気分が悪いのに、余計気分が悪くなっただけじゃっ!

「わし一人じゃ寂しいし、年寄の一人旅は色々と危険じゃろ」

 お師匠様は大丈夫なように見えますが。

「だから、付き人を雇ったんじゃ。この時代の人間で、何も関係ないから心配するな」

 いや、心配はしていませんから。

「今度はわしが質問するが、お前はなんでここにいるんじゃ?」

 なんでって、あんたが新選組を助けろっ!って言って無理やり新選組に押し込めた結果だろうがっ!

 しかし、そんなことをお師匠様に言った日には、後が恐ろしいのと、現代に帰れなくなっても困るので、

「新選組の仕事で江戸に行っていたのです。それで今は京に帰るところです」

「伊東たちを連れてか?」

「お師匠様、知っていたのですか?」

「そのことも気になってたから、ここにいるんじゃ。今までなにがあったか話してみろ。何かあったんじゃろ。お前の顔を見ればすぐわかるぞ」

「お、お師匠様」

 なんだ、少しは私のことを気にしてくれたんだ。

 お師匠様に言われ、今まであったことを一気に話した。

 話したおかげで心が軽くなった。

「そうか、伊東が入ったか」

「阻止することはできませんでした」

「それはええ。歴史を変えることは難しいって言っとるじゃろう」

 その通りだ。

 何回も経験している。

「でも、阻止したかったです。あんなこと考えてたなんて知ってからなおさらです」

「気持ちはわかるが、今はほっといた方がいい。それより先にやることがあるじゃろ」

 なんだろう?

「山南の切腹を阻止することだろう」

 あ、忘れてた。

 伊東さんのことで頭がいっぱいになっていた。

「阻止できるかわからんが、やるだけのことはやらんとな」

 そうだ、藤堂さんとも約束していたのだった。

「とにかく、伊東と山南の接触から注意した方がええじゃろう」

 山南さんは、伊東さんを歓迎して、考え方も支持するようになる。

「わかりました。京に帰ったら注意しておきます」

「頼んだぞ」

 頼んだぞって……。

「お師匠様は、京に行かないのですか?」

「なんでわしが京に行かなければならんのじゃ?」

 なんでって、また私一人でやるのか?

「わしは、温泉巡りしながら江戸に行って藤堂に会ってくる。そっちも心配じゃからな」

「そう言えば、藤堂さんに私たちの時代のことを話していたら、行きたそうでしたよ」

「そうか、そうか」

 やっぱりお師匠様は喜んでいた。

「まだ連れて行かぬからな」

 そうなのか?そうだよな。まだ連れていけないよな。

 今連れて行ったら、自然に消えるようにならないから、タイムマシンがこわれてしまう。

「さて、わしも近藤に挨拶した方がええじゃろ。孫が世話になっとるしな」

 お師匠様が立ち上がったので、私も立ち上がった。

 そして、一緒に宿に行った。


「天野先生もいらっしゃったのか」

 近藤さんにお師匠様を紹介したら、喜んでいた。

「孫がお世話になっとる」

「蒼良は、新選組のために色々働いてもらって助かってる。今回も、伊東さんたちを新選組に入れることに力を尽くしてくれた」

「あれは、藤堂さんがいたからですよ」

 私は何もやっていない。

 伊東さんの陰謀と、藤堂さんの思いが重なった結果がここにあるだけだ。

「天野先生は、どこに行くところなんだ?」

 ここは宿場町なので、ここで会った人たちは、だいたい行くところがある。

「温泉巡りしながら、江戸に行こうと思っとる」

「温泉巡りか。うらやましい」

 近藤さんの言う通りだ、のんきに温泉巡りなんて。

「蒼良、せっかく天野先生が一緒なんだから、一緒に時間を過ごすといい。明日にはまた出発だから、ゆっくりはできんないがな」

 伊東さんのことを色々聞いてくれて、悶々とした気持ちを取り除いてくれたから、一緒に時間を過ごしてあげようかな。


 しかし、実際は一緒に過ごす時間なんてなかった。

 別になくてもいいのだけど。

 あの後、お師匠様も一緒に入って宴会になった。

 そして、夜遅くにお開きになったところだ。

「みなさん、温泉に入りましたか?」

 私が聞くと、みんな入ったとのこと。

 みんなお酒も入っているし、もう入らないよね。

 夜も遅い時間になっているし、他に泊まっている人も入らないよね。

 でも一応、みんなが寝静まるまで待っていた。

 そして、みんなが寝た後、一人温泉に行った。

 ここに着た時は温泉に入りたいなんて思わなかったけど、お師匠様と話をして元気になってから、温泉に入りたくなってしまった。

 せっかく温泉に来たのだから、入らないと損だぞ。

 温泉の中に入ると、誰もいなかった。

 なんてラッキーなんだっ!

 心ゆくまで堪能し、湯船につかっていた。

「あれ?こんな時間に誰か入っているのか?」

 だ、誰だ?しかも男だったぞ。

 私、女湯に入ったよな。

 湯気の向こうに見えたのは、なんと、武田さんだった。

 武田さん、女湯に入るなんて、とうとう犯罪を犯したな。

 って、そんなことのんきに考えている場合じゃないって。

「お、蒼良」

 き、来たっ!

 ど、どうする?ここで出たらばれるぞ。

 幸い、温泉が白く濁っているから、それ以上は見えない。

 湯船に入っていれば、とりあえずは安全だろう。

「な、なんで武田さんが?」

「俺も温泉に入りたくなったのさ」

 嘘だろっ!絶対に嘘だろっ!

「ちょうど、女湯と男湯の場所が入れ替わるしな。反対側も入ってみたいと思ってな」

 私が入っている間に入れ替わったのか?

 そ、そんな。

 と言う事は、私が入っているところは男湯ってことになる。

 入った時は女湯だったのに。

「蒼良と裸の付き合いができるとは思わなかったな」

 いや、そんな付き合いしたくないですから。

「蒼良、いるか?」

 永倉さんの声が聞こえた。

「あ、いたいた。武田も入って行ったから、蒼良に何かあったら大変だと思って俺も来たぞ」

 なんと、永倉さんも入ってきた。

 人が増えちゃったよ……。

「俺は何もしないぞ」

「あ、武田もいたか。悪いな、邪魔して。蒼良は大丈夫か?」

 大丈夫じゃないから。

 しばらく3人で湯船に入っていた。

 この人たち、いつになったら出るんだ?

 だんだんのぼせてきたのだけど……

「おいお前ら。荷物は無事か?」

 突然お師匠様の声が脱衣所からした。

「天野先生、どうしたんだい?」

 永倉さんが湯船の中から聞いた。

「今、泥棒が出たらしくて、何人か宿泊客が被害にあっているらしいぞ。お前たちも、荷物確認した方がええぞ」

「そりゃ大変だ」

 武田さんのその声で、永倉さんと武田さんが湯船から出た。

「蒼良は、入ってるのか?」

 永倉さんが聞いて来た。

「盗られるものがないので」

「のんきな奴だな」

 物盗られるより、女だってばれる方がいやだわ。

 二人が完全に姿が消えてから、

「蒼良、大丈夫か?」

 という、お師匠様の声がした。

「今のうちに出ろ。わしは外で待っとる」

 もしかして、今の泥棒もお師匠様が私を助けるためについた嘘なのか?

 とにかく、早く出て着替えよう。

 急いで出て着替えて外に出た。

 外の暖簾は男湯になっていた。

 やっぱり入れ替わっていたんだ。

「お前は何やっとるんじゃ」

 お師匠様が呆れた顔して立っていた。

「だって、温泉ですよ。入りたいじゃないですか」

「気持ちはわかる。わしも温泉巡りしとるからの」

 私だって許されるなら、温泉巡りしたいわっ!

「もうちょっと気を付けろ。わしがいなかったら、お前はどうなっとる?」

 ばれてました。

 完全に。

「すみません」

 私は素直に謝った。

「堪能したか?」

 お師匠様に突然聞かれ、何が?と思ってしまった。

「温泉じゃ」

「おかげさまで、堪能しました」

「そりゃよかった」

 お師匠様はそう言い残して行ってしまった。


 次の日、宿の前でお師匠様と別れた。

 別れる前に、

「今度は山南が脱走するあたりに顔を出す」

 と言ってくれた。

 お師匠様にはたくさん思うこともあるけど、今回は助けてもらったので、不平不満はあるけど、胸にしまっておこう。

 お師匠様の江戸へ向かう後姿を見てそう思ったのだった。

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