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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治元年10月
141/506

懐かしの本庄宿

「それでは行ってくる」

 近藤さんの家の前では、近藤さんの家族と、佐藤さんと藤堂さんが見送ってくれた。

「気を付けて」

 近藤さんの奥さんのおつねさんが、近くに出かけるのと同じようにそう言った。

「ちちうえ、きをちゅけて」

 おたまちゃんも笑顔でそう言った。

「もう、父上忘れちゃだめだよ」

 私がそう言って頭をなでると、

「うん」

 と言って、にっこりと笑った。

 かわいいなぁ。

「歳にこれを渡してくれ」

 佐藤さんから、土方さんあての文を渡された。

「わかりました」

蒼良そら、気を付けて」

 藤堂さんにそう言われた。

「藤堂さんも、ちゃんと修行してくださいね」

「そうだぞ、平助。吉原に入り浸ってちゃいかんぞ」

 永倉さんが、藤堂さんの頭をグリグリと押さえつけながら言った。

「それは、新八さんじゃないか。私は、吉原に行かないから、大丈夫」

「俺だって、そんなにいかないぞ」

 嘘つけ、何気に常連だっただろう。

「それより、蒼良を頼む」

 藤堂さんは、チラッと武田さんを見た。

「わかった。お前も、左之と同じようなことして頼むんだな。左之も、あいつをチラッと見てそう言ったぞ」

 永倉さんは、肩ごしに武田さんを親指で指さして言った。

「だって、襲われたって聞いたから」

 藤堂さんが小さい声でそう言った。

「蒼良も男だし、武田も男だし、襲われても大したことにはならんだろう」

 永倉さんは簡単にそう言うけど、大したことになるから。

 洒落にならないから、それ。

「新八さんしか頼める人がいないから、頼むよ、本当に」

「私からも、お願いします」

 思わず私も頼んでしまった。

「左之からも頼まれてるしな。蒼良に何かあったら左之にも恨まれそうだ。わかったよ」

「ありがとう、新八さん」

 本当に、ありがとうございます。

「行くぞ」

 近藤さんのその合図で出発した。

 今日、江戸をたって京に向かう。

 頼れる人は永倉さんだけという、しかも、永倉さんは私が女だとは思っていない。

 大丈夫なのか?自分。

 不安はたくさんあるけど、京に帰らないわけにもいかないので、なるようになれっ!という思いで、出発したのだった。


 途中で伊東さん御一行と一緒になり、江戸を出た。

 帰りも来た時と同じ中山道。

 やっぱり、東海道だと川を渡らなければならない場所があり、意外と不便らしい。

 馬だったら、宿場町ごとに馬が用意してあるらしいけど、それなりにお金もかかるので、一般市民は歩いて中山道という所だろう。

 中山道と言えば、浪士組で京に行くときも中山道だった。

 今回は全く同じ道なので、色々思い出をたどるたびになりそうだ。


 前回の浪士組の時はここまで来るのに3日かかった。

 今回は、浪士組ほどの大人数じゃなかったせいか、2日でついてしまった。

「ここに来ると、色々思い出すな」

 永倉さんが本庄宿を見渡しながらそう言った。

「本当ですね」

 火の用心という張り紙を見つけ、さらに色々と思い出したのだった。

「近藤さん、今度はちゃんと宿とってあるよな」

 永倉さんが冗談で言った。

「おい、近藤さんに失礼だろう」

 武田さんが血相を変えて怒った。

「大丈夫だぞ、ちゃんととってある。取り忘れても、大焚火おおたきびするような人間はここにはいないだろう」

 近藤さんのその一言に、永倉さんと私は笑ってしまった。

 私たち以外の人たちにはわからないことだ。

「近藤さんに笑うなんて、失礼だ」

 武田さんは必死になって怒っていたけど、その近藤さんも私たちと一緒に笑っていたのだった。


 ここで焚火してたよな、芹沢さん。

 荷物を整理した後、町を歩いてみた。

 近藤さんがよりによって芹沢さんの宿を取り忘れてしまい、芹沢さんは怒っていないと言いつつ、私たちに木を集めさせて全部燃やすという荒技に出た。

 宿に燃え移って火事になるかもしれないって大騒ぎになった。

 この時代、火事になれば紙と木で出来ている家だから、すぐに燃え尽きてしまう。

 その後、近藤さんが代わりの宿を用意したけど、私たちは野宿したのだった。

 でも、楽しかったなぁ。

「蒼良」

 突然呼ばれて振り向くと、永倉さんがいた。

「蒼良もここに来たのか」

「そう言う永倉さんも来ていますね」

「色々と思い出してな。芹沢さん、もういないんだよな。色々あったけど、悪い人じゃなかったよな」

「そうですね」

 金を貸してくれないからって、そこの家の蔵を燃やしたり、芸妓が気に入らないからって、揚屋を半壊したり色々したけど、飲まなければいい人だった。

「蒼良、聞きたいことがあるんだが」

 永倉さんが、神妙な顔で聞いて来た。

「何ですか?」

「芹沢さんは、本当に長州の間者に殺されたのか?」

 表向きはそうなっている。

 実際は、土方さんたちが殺した。

 それに私も手を貸した。

 その後、たまたま長州の間者が隊にいて、それが見つかったので、その人たちのせいにした。

 永倉さんには、本当のことを言った方がいいのか?

 でも、今日まで知らなかったと言う事は、知らせない方がいいという理由があったから知らなかったのだろう。

 なら、黙っていた方がいいのかもしれない。

「長州の間者に殺されました。永倉さんも、その間者を見たじゃないですか」

 しかも、一緒にお酒飲んでたし。

「そうか、蒼良までそう言うなら、長州の間者に殺されたのだな。そう言うことにしておこう」

 永倉さんは、知っているのではないか?

 なんとなく知っているけど、それを誰かの口から聞きたいというときがある。

 その答えも知っているけど、その答えを他の人の口からききたいときがある。

 永倉さんもきっとそうなんだろう。

 長州の間者と言っておいて正解だった。

 これが、土方さんたちがやりましたって言った日には、京に帰ってから大変なことになりそうだ。

 しかも、必死でみんなで隠したのに、台無しになってしまうところだった。

「たまに思うんだよ。芹沢さんが生きていたらどうしたかなって」

 永倉さんが、芹沢さんが焚火をしていたところを見ながら言った。

「でも、殺されなかったとして、今日まで生きているって保証はないですよ」

「どうしてだ?」

「芹沢さん、病気だったんです。梅毒だってお梅さんが言っていました」

「ああ、芹沢さんの妾のお梅か。そうか、梅毒か」

 だから殺さなくても、そのうち死ぬのに。

 お梅さんはそう言っていた。

「結局、死ぬ運命にあったのだな」

「そう言う事です」

 そうか。と、永倉さんはつぶやいて、しばらくその場から動かなかった。

 きっと、芹沢さんの色々なことを考えているのだろう。

 

「今日は飲むぞっ!」

 さっきの永倉さんはどこへ行ったんだ?と思うほどの変わりようだった。

 本庄宿は、中山道の中でも大きな宿場町なので、この日は宴会になった。

 伊東さんたちと仲良くやっていこうと言う事なのだろう。

「蒼良、一杯どうだい?」

 伊東さんがお酌をしに来たけど、

「すみません、私飲めないので」

 と言って断った。

「伊東さん、蒼良は20歳まで飲まないって願をかけているんだ」

 永倉さんはそう言ったけど、願なんてかけてないぞ。

 ただ、20歳前に飲酒した日には、お師匠様から破門を言い渡されるだろう。

 だから飲まないのだ。

「20歳と言う事は、今は?」

 伊東さんに聞かれた。

「19歳です」

「なんだ、来年の正月には飲めるじゃないか」

 伊東さんに言われて気がついた。

 そ、そうだ。

 この時代、正月に一斉にみんな年を取るから、お正月になれば私は20歳だ。

「そうか、蒼良もそう言う年になるのだな」

 近藤さんが言った。

 「その時は、たくさん飲ませてやるからな」

 永倉さんがそう言った。しゃれになってないのだけど。

「そう言えば蒼良は、私と近藤さんとは意見が合わないから無理だと言ったね」

 伊東さんがみんなに聞こえる声でそう言った。

「そんなことを言ったのか?」

 近藤さんが驚いていた。

 何も、近藤さんの前で言わなくてもいいじゃないか。

「確かに、意見は合わない。私は帝を中心とした攘夷を考えている。近藤さんは、幕府を中心とした攘夷を考えている」

 そう、そこからしてもう私たちと意見が違うのだ。

「でも、今は公武合体が盛んに叫ばれている」

 公武合体と言うのは、朝廷と幕府を結び付けて幕府の体制をより強いものにしようとしたもの。

 この代表的なものが、朝廷側の和宮と将軍家茂との結婚だ。

「今は、朝廷がとか、幕府がとかと騒いでいる場合じゃない」

 伊東さんの演説は続いていた。

「朝廷と幕府が手を取り、より強い日本を作り攘夷を実行することが大事だ」

 よく聞いてみると、伊東さん、いいことを言うなぁ。

「だから、私はここで幕府派の近藤さんを手を組み、考えは違うけど、攘夷を目指す考えは同じだから、新選組を強くして攘夷を実行したいと考えている」

 伊東さんの演説が終わると、みんな拍手喝采だ。

 私も、伊東さんの見方が変わった。

 この人は信じても大丈夫かも。

 ちゃんとした考えを持っている。

「伊東さん、さ、飲んだ飲んだ」

 永倉さんも、すっかり伊東さんを気に入ったみたいで、伊東さんにお酌をしていた。

 

 次の日、二日酔いで頭が痛む人も何人かいたみたいだけど、ここに来るまで伊東派と近藤派という感じで別れていたけど、昨日の伊東さんの演説がよかったのか、みんなで和気あいあいと言う感じで、この日宿泊する宿まで歩いた。


 宿泊する松井田宿というところに着いた。

 山の中で、10月だけど寒かった。

 江戸を出るときはそんなに寒さを感じなかったので、きっと高度があるから寒いのかもしれない。


 近藤さんが伊東さんと少し話をしたいというので、伊東さんを呼びに部屋へ行った。

 伊東さんの部屋の前で声をかけようとした時、中から話し声が聞こえてきた。

「この調子だと、新選組を乗っ取るのも簡単だな」

 この声は、伊東さんの弟の鈴木さんだと思う。

 新選組を乗っ取る?

「近藤も、すっかり私たちのことを信用している。それどころか気に入っているみたいだ。私に参謀の役職を用意しておこうとまで言ったぞ」

 伊東さんのさわやかな声が聞こえてきた。

 話の内容は全然さわやかではないが。

「局長の近藤がこっちにつけば、もう新選組は私の手の中だ。幕府派から尊王派に鞍替えして、私が引っ張っていけば、攘夷はすぐできる」

「兄貴ならできるだろう。近藤はほとんどこっちについている。ついているどころか気に入っているからな」

 わははという笑い声が聞こえた。

 こいつら、やっぱりだましていたな。

 昨日の話聞いて、やっと信用しようと思ったのに。

 一言文句言ってやるっ!いや、一言じゃなく、たくさん文句言ってやるっ!言ってやることは山ほどある。

 襖に手をかけて開けようとしたけど、出来なかった。

 私の手が他の人の手によって押さえられていた。

 後ろを向くと、尾形さんがいた。

 尾形さんは、押さえていた私の手を引っ張って宿の外に出た。

「なんで、止めるのですかっ!」

 宿の外に出てから尾形さんに言った。

「ここで怒鳴っても、何も解決しないからだ」

「でも、騙されていたのですよ。許せないじゃないですか」

「だまされる方が悪いのだ」

 確かにそうだけど……

「尾形さんは、騙されなかったのですか? 伊東さん、あんないいこと言っていたのに」

「そもそも、尊王派の人間が、幕府派の新選組に入ること自体何かあるだろう」

 その通りなんだけど。

「京に帰るまで我慢しろ。京に帰ったら副長から指示があるだろう」

 尾形さんのその一言で、私はあることを察した。

「もしかして、尾形さんって、土方さんに頼まれてきたのですか?」

「ここだけの話だが、天野君なら言っても大丈夫だろう。副長からは伊東さんがどういう人間か、京に着くまでしっかり見て報告しろと言われている」

「なら、今のことも報告するのですね」

「もちろん。だから、せめて京に着くまで大人しくしていてくれ」

「わかりました」

 そう返事したけど、心の中は穏やかじゃない。

 やっぱり、伊東さんを新選組に入れるべきじゃなかったのだ。

「おい、蒼良。伊東さんは?」

 宿の中に入ったら、近藤さんに会った。

 そうだ、近藤さんから伊東さんを呼んで来いと言われていたのだった。

「伊東さんは忙しそうだったので、声をかけない方がいいと思います。今、天野君にもそう説明していたところです」

 尾形さんは、私の代わりに近藤さんに言ってくれた。

「そうか。それならわしのことろに来てもらうのは悪いな」

「今日はやめておいた方がいいでしょう」

「そうする」

 近藤さんはそう言って部屋に入った。

 近藤さん、騙されてるよ。

 今すぐそう言いたいけど、尾形さんに京に着くまでと言われた。

 裏に土方さんがいるらしいし、土方さんなら何とかしてくれるかも。

 でも、京に着くまで我慢できるのか?自分。

 はっきり言って自信ない。

 途中でブチ切れる可能性が大きい。

 京まで我慢の旅になりそうだ。

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