斎藤さん登場
京へ着いたら会えるかも。
という人が訪ねてきた。
とにかく暇だったので、やっぱりすぶりをしようと思い、外に出ると、家の入口のところに立っていた。
刀を右に差していたから、左利きの斉藤さんであることはすぐに分かった。
「斉藤さんですか?」
私が声をかけたら、誰だ?と言いたそうな顔をしていた。
「天野 蒼良といいます。京へ来る前に、試衛館に入りました」
「なんで俺を知っている」
「前に山南さんと話したことがあるのです。左利きの剣士がいるって。刀を右に差しているので、もしかしてと思って、声かけました。みんなに知らせてくるので、待っていてください」
そう言って、私はみんなを呼びに中に入った。
ちょうど土方さんがいたので、斉藤さんが来たことを言うと、喜んで玄関まで出ていった。
「おお、待ってたぞ。上がれ」
斉藤さんと土方さんは、部屋にこもってしまった。
「来たんだ、斉藤君」
突然、耳元で沖田さんの声がしたのでびっくりした。
沖田さん、驚かそうと思って、気配を消して近づいてくるみたいだから、本当にびっくりする。
「わっ、また突然来ましたね。本当に、びっくりした」
「遊べるの、蒼良ぐらいだから」
「私以外にもたくさんいるじゃないですか」
「でも、蒼良が一番面白い。それで、来たんだ、斉藤君」
「はい、土方さんとこもってしまいました」
「蒼良は、心配じゃないの?」
「なにがですか?」
「土方さんが、他の男と二人っきりでいるの」
「別に。なんで気にしないといけないんですか」
「ほら、土方さんと蒼良は出来てるから」
そこで、江戸に来る前のことを思い出した。
そうだ、みんなは土方さんが男色で、私と出来てるのどうのって話していたのだ。
なんか、すっかり忘れてた。
「で、出来てないですよ。まったく」
「でも、蒼良に、強力な恋い敵登場だね」
「えっ、誰ですか?」
「斉藤君」
……そこは、他の女性の名前が良かったかも。
でも、斉藤さんの名前を出してくるということは……。
「斉藤さんって、ホ……男色なのですか?」
「蒼良は気になるんだ」
「べ、別に気になりませんよ」
「今、二人で部屋にいるんだよね。何してるか、気にならない?」
「普通に話ししているんじゃないですか?」
「でも、静かだから、もしかして……」
もしかして……って、その先がすごく気になるのですが……。
「蒼良、こっそりのぞいてみよう」
「ええっ、いいんですか?」
「静かだし、何してるか気になるじゃん。もしかしてってこともあるし」
「その、もしかしてっていう状況だったら、どうするんですか?」
その、邪魔しちゃ悪いだろうし、でも、気になるし。
でも、覗きがばれたらすごく怒られそうだし。
「蒼良、今、とっても悩んでいるでしょう。顔に出ているよ」
沖田さんに言われ、慌てて顔をおさえた。
「バレなきゃ、怒らりゃしないよ。覗いてみよう」
そうだよね、バレなきゃ大丈夫だよね。
ということで、沖田さんと一緒に、土方さんと斉藤さんがいる部屋をのぞいたのだった。
「沖田さん、普通に話をしていますよ」
「何、蒼良は、何かあったほうがよかったのかい?」
「いや、でも、あったほうが面白かったかもしれないですね。何か普通すぎて」
「蒼良は、やっぱり面白い」
クックックっと沖田さんが笑っていると、目の前の視野が急に広がった。
なんと斉藤さんが、ふすまを開けたのだった。
「あれ?」
「何があれ? だっ!」
土方さんが私の方を見て言った。
「総司! 蒼良! お前ら、そこで何してた?」
「のぞきですよ、土方さん」
沖田さんが、何事もなかったかのように言った。
「蒼良が、普通に話していたから、つまらないと言ってましたよ」
「ええっ、そんなこと、本人の目の前で言わないでくださいよ、沖田さん」
「おい! 何をしてたらつまらなくなかったんだ? 言ってみろっ!」
私の頭の上で、土方さんが怒鳴っていた。
「す、すみません。ちょっと気になったもので……」
「どうせ、総司がそそのかしたんだろ」
おっしゃるとおりです。
「土方さん、それは心外だなぁ」
沖田さん、よくそんな堂々としていられるなぁ。
「ま、いい。蒼良は知らんだろ。斉藤 一だ。斉藤、こいつが蒼良だ。天野先生のお孫さんだ」
「ああ、天野先生の」
「お師匠様を知っているのですか?」
「世話になったから」
お師匠様、一体あなたは何をしていたのですか?なんか、お師匠様の名前一つでなんでも通るので、不思議な気分だわ。
でも、何を世話したのだろう。
あのジ…いや、お師匠様のことだから、ろくでもないことしたんだろう。
ということで、聞いてみると、
「ちょっと色々あって、江戸に居られなくなったとき、かくまって貰った。感謝している」
と斉藤さんは言った。
なんだ、ちゃんとまともなことしているじゃないか。
「じゃぁ、土方さん、斉藤君、ごゆっくり~」
沖田さんが、そう言ってふすまを閉めた。
「蒼良、何か普通だったね」
「普通でしたね」
「つまらないな」
「何がですかっ! よかったじゃないですか、普通で。何かあった日には……」
「ん? あった日には?」
あった日には……って、何かって何?
「ま、いいじゃないですか」
なんか、わからなくなったから、ごまかした。
沖田さんは何が楽しいのか、笑っていた。
「やっぱり、蒼良は面白いや」
私は、沖田さんのおもちゃじゃないから……。