表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治元年10月
138/506

新徴組の沖田さん

 10月になった。

 江戸で1ケ月過ごしたことになる。

「やっぱり江戸のめしはうまいなぁ」

 永倉さんと江戸の町に繰り出し、食堂で昼食を食べていた。

「京のそばなんか、つゆが薄くて食えたもんじゃない」

 確かに、関西はうす味って言うけど……。

「でも、これはつゆが濃くないですか?」

 このそばのつゆはずいぶんと黒っぽいし、塩辛い。

「これぐらいがちょうどいいだろう」

「永倉さん、こんなに塩辛いものを食べていたら、血圧が上がって脳出血かなんかになって死にますよ」

「はあ? けつあつ?」

 この時代にはなかったのか。

 それにしても、よくこんな濃いものを食べれるよな。

蒼良そらは食わないのか?」

「味が濃くてだめです」

「なら、俺がいただく」

「いや、永倉さんこれ以上食べたら病気になりますよ」

「何言ってんた。もの食って病気になる人間なんていないだろう」

 そうなのか?

 永倉さんは、あっという間に私のそばまで平らげてしまった。

 大丈夫なのか?後でのどが渇いても知らないぞ。

 お金を払って外に出たら、

「すりだっ!」

 という声が聞こえた。

 声のした方を見ると、ひとりの男が全力で走ってくるのが見えた。

 そしてあっという間に私たちの追い付き、走り去っていった。

 職業病と言うのか、ここは京じゃないのだからほっとけばいいのに、

「蒼良、追うぞ」

「はいっ!」

 というわけで、ほっとくという言葉は頭から消えていた。

 代わりに、追いかけて捕まえるという言葉が頭を支配したのだった。

 逃げる方も必死みたいで、なかなか追いつかない。

 しかし、相手が急に止まった。

 なんだろう?そう思っていたら、仲間と思しき人間が6人ほど出てきた。

 その6人の男の一人が、

「見逃すか? それとも、勝負するか?」

 とにやりと笑いながら言った。

「勝負するに決まってんだろう。すりを働いて何言ってんだ」

 永倉さんが刀を抜いたので、私も抜いた。

 それから斬り合いが始まったのだった。

「永倉さん、捕縛ですか? それとも斬りますか?」

 私は一人の男と刀を交えながら言った。

「一応捕縛かな。奉行所に縄で縛って投げ込めばいい」

 そう言った永倉さんは、すでに一人を倒していた。

 永倉さん、早っ。

 私も負けずに2人倒した。

 永倉さんは4人をあっという間に倒した。

「いっちょ上がり」

 気が付くと、やじ馬で人がたくさんいた。

 見ているなら手伝ってくれればいいのに。

 6人を縄でぐるぐる巻きにした時、やじ馬の向こうから数人が駆け足でやってきた。

「新徴組が来たぞ」

「新徴組が来たから、もう安心だ」

 やじ馬からそんな声が聞こえてきた。

「新徴組?」

 永倉さんが不思議な顔をしてつぶやいた。

 その新徴組と呼ばれている人たちが、私たちのところに到着した。

 その中の一人を見て永倉さんが言った。

「あ、総司の兄貴」

 えっ、沖田さんのお兄さん?

 沖田さんのお兄さんも驚いた顔で見ていた。

「浪士組の時の。なんで、ここにいるんだ?」

「話は後だ。こいつらを奉行所にぶち込んでくる」

「これみんな、あんたたちが?」

 沖田さんのお兄さんは驚いていた。

「おうっ! 京でこんなことばかりやっているからな。江戸に出てきても同じことしてしまったよ」

 ハハハと永倉さんは笑いながら言った。

「もしかしてあんたたちは、新選組か?」

 今知ったのかいっ!浪士組の時のって言ったから、そこでわかっていると思ったよ。

 でも私も、永倉さんが言うまで沖田さんのお兄さんと言う事を知らなかったのだけど。

「と言う事は、あなたたちは新徴組の方ですか?」

 沖田さんのお兄さんは、新徴組に入ったと聞いていた。

 新徴組とは、江戸から京に浪士組として一緒に行ったけど、私たちが京に残ったのと反対に、彼らは江戸に帰ってきた。

 その後色々あって庄内藩預かりとなり、名前も新徴組と言って私たちの江戸版のような仕事をしている。

「新徴組かぁ。だから、総司の兄貴がいるのか」

「すりを追って来たら、あんたたちがいたんだ。あんたたちのおかげですりも捕まえることが出来たし、めでたしめでたしだ。奉行所への届け出は他の人間にやらせるから、あんたたちはうちに来るといい」

 沖田さんのお兄さんの家か。

「うちのも総司の話を聞きたいと思うからな」

 そうだ。沖田さんのお兄さんの奥さんは、沖田さんのお姉さんだった。

 だから、沖田さんのお兄さんなんだけど。

「暇だし、ちょいとお邪魔するかな」

 永倉さんの一言で、沖田さんのお兄さんのお宅にお邪魔することになった。


 沖田さんのお兄さんの名前は林太郎さんと言った。

 お兄さんと言うから数歳しか離れていないと思うだろうけど、沖田さんと十数年ぐらい年齢が違う。

 だから、林太郎さんは源さんよりも年上になる。

 お子さんももう十二、三歳になっていた。

「よく来てくださいました。どうぞ、上がってください」

 沖田さんのお姉さん、おみつさんに出迎えられた。

「新選組と言う事は、近藤さんも江戸に来ているのか?」

 林太郎さんに聞かれた。

「知らなかったのか?」

 永倉さんが驚いて聞き返していた。

「知らなかった。近藤さんも教えてくれればこちらから顔出したのに」

「近藤さんは、江戸に来てからあっちこっちにあいさつに回っていて忙しいので、知らせる暇がなかったと思います」

「新選組も有名になったからな。池田屋の事件の事とか、禁門の変のことは、江戸まで話が来たよ」

 そうなんだ。

「有名になっているらしいが、京では相変わらず嫌われ者だよ。新徴組は江戸での評判がよさそうだな。うらやましい」

 そう、一時ほどではないけど、相変わらず壬生狼と呼ばれて嫌っている人も多い。

 逆に、新徴組はさっきのやじ馬の反応からして、評判がいいらしい。

「総司は元気にやっていますか?」

 おみつさんが心配そうな顔で聞いて来た。

「あいつは、池田屋の時にぶっ倒れたんだよな」

 永倉さんが私に同意を求めてきた。

「えっ、倒れたって、もしかして斬られたとか……」

 永倉さんが変なところで同意を求めたから、おみつさんがものすごく心配そうな顔になっているじゃないか。

「沖田さんが斬られるわけないですよ。池田屋の事件があった時は夏で、しかも全部雨戸は閉めっぱなしの中で斬り合っていたので、暑さで倒れてしまったのです」

 私の話を聞いたおみつさんは、少し安心したような顔をしたけど、やっぱり離れている弟が心配らしい。

「弟に渡したいものがあるのですが、渡してもらえますか?」

 沖田さんに渡したいものって何だろう?

「いいですよ」

 私が返事すると、渡したいものを持ってくるのだろうか、おみつさんは奥へと行った。

「おみつは、総司が病気してないかとか怪我していないかとか、毎日心配しているよ」

 そりゃ、実の弟だもの、色々心配なんだろう。

「総司は元気にやってるよ」

「でも、お姉さんだから、色々心配なんでしょう」

「心配なんだろうけど、この前万病に効くという高価な薬を買ってきて、京だと薬も手に入るか心配だから、よく効く薬を送ってやるって。ちょうど用意していた時にあんたたちが来たから、それを持たせるのだろう」

 万病に効く薬?

「もしかして、その薬は労咳にも効くのですか?」

「総司は労咳なのか?」

 私が聞いたら、林太郎さんは驚いていた。

「いや、なっていないです。大丈夫です」

 私は慌てて否定した。

「万病に聞くんだから、労咳にも効くんじゃないのか? 蒼良の知り合いに労咳の人間がいるのか?」

 永倉さんに聞かれた。

 いや、これから知り合いがなる可能性が……なんて言えないし。

「いませんが。労咳で亡くなる人が多いのに、薬が無いなんておかしいなぁって」

 そう言ってごまかした。

「労咳に効くかわからんが、飲んだら労咳にならないかもしれないな。それぐらい高くて効能がある薬らしいからな」

 そうなのか?京に帰ったらさっそく飲ませよう。

「これです」

 奥からおみつさんが陶器で作られた小瓶をもって来た。

「この中によく聞く薬が入っているので、総司に、病気になったらすぐ飲むように言ってください」

 その小瓶を渡された。

「わかりました。責任もって飲ませます」

「蒼良、そこまでして飲ませなくても、病気になった時でいいだろう。ところで、その薬はなんていう名前だ?」

木乃伊みいらという薬です。異国から来た薬みたいです」

 みいらという異国の薬か。

 聞いたことないなぁ。でも、異国から来たのだから、効き目ありそうだな。

「わかりました。沖田さんが何と言おうと、無理やり口を開けて飲ませますので、心配しないでくださいね」

「いや蒼良、そこまでしなくてもいいと思うぞ」

 そうなのか?いや、これ飲んで労咳にならなければ、いくらだって飲ませるぞ。


 次の日、林太郎さんが近藤さんの家に来た。

「おお林太郎さんじゃないか。久しぶりだな」

 近藤さんもこの日はたまたま家にいて、林太郎さんを喜んで迎えた。

「近藤さんが江戸に来たことを昨日知ったよ。もっと早く知っていたら早く会いに来たのに。でも、近藤さんはなんか顔色が悪いようだけど、体は大丈夫なのか? 疲れているんじゃないのか?」

 林太郎さんの言う通りで、最近の近藤さんは体調が悪かった。

 多摩に行った時も、帰りに八王子にお医者さんがいるからと言う事で、そこに寄ったのだった。

 それでもあまりよくならないので、幕府からお医者さんを紹介してもらい、後日そのお医者さんのところに行く予定になっている。

「近藤さんこそ、あの薬が必要なんじゃないのか?」

 あの薬って……

「みいらですか?」

 私が聞いたら、林太郎さんがうなずいた。

「でもあの薬は、おみつさんが沖田さんにって」

「少しぐらいつかったってわかりゃしない。近藤さんの方が重病人に見える」

 確かに、体調が悪そうだもんね。

 少しぐらい近藤さんに分けてあげてもいいのかもしれない。

「なんだ、薬って」

「木乃伊という薬で、おみつが総司に買ってきたんだ。どんな病もすぐ治るらしい」

 林太郎さんが言うと、

「そんな薬があるのか?」

 と、近藤さんが驚いていた。

「今、持ってきます」

「でも、総司のだろう。勝手にもらったら悪いだろう。それに高いんだろ?」

「全部もらうわけじゃないんだ。総司も了解するだろう」

 私は、おみつさんからもらった薬と水をもって近藤さんのところに行った。

「これです」

「やっぱり高そうだな。総司に渡してやってくれ」

「近藤さん、遠慮しなくていい。少し飲んでみたら治るかもしれないだろう」

 林太郎さんが、小瓶から少しだけ薬を出した。

 その薬は茶色い粉薬だった。

「それなら、少しだけいただくか」

 近藤さんはその薬を口に入れ、水で流し込んだ。

 それからしばらく林太郎さんと話をしていた。

 林太郎さんは近藤さんと付き合いが長いので、色々積もる話があるだろうと思い、私は席をはずした。

 あっという間に時間が過ぎ、林太郎さんが帰る気配がしたので、玄関まで見送りに出た。

「あ、近藤さん、顔色がよくなっていますよ」

 林太郎さんが来た時より顔色がよくなっていた。

「そう言えば、体調も良くなったような気がしていたんだ。あの薬はほんとに効き目があるのだな。ありがとう、林太郎」

「近藤さんも、体調に気を付けた方がいい。色々忙しい時こそなおさらだ。また悪くなったらあの薬を飲むといい。総司には少し残しておけば大丈夫だろう」

 林太郎さんはそう言ってから最後のあいさつをし、近藤さんの家を後にした。


 ところで、あの薬って何だろう?

 土方さんに聞けばわかるかな。

 薬を売って歩いていたんだから、それぐらいわかるだろう。

 京に帰ったらさっそく聞いてみることにしよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ