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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治元年9月
134/506

浅草観光

 そろそろ近藤さんたちが来るかもしれない。

 でも、いつ来るのだろう?いつ来るかわからないというのも、結構困るものなのだなぁと思ったりする。

 私たちがいない時に来たらどうしよう?

 あ、でも、家族の対面ができるからいいのか?

 でも、近藤さん一人では来ないよね。絶対お付きで付いてくる人はいるだろう。

 やっぱり、留守にしない方がいいのかな。

「近藤さん、そろそろついてもおかしくないよね」

 藤堂さんも同じことを思っていたらしい。

「いつ着くのですか?」

「そんなことは、私にもわからないよ」

 そりゃそうだよね。

 今どこにいるか、場所を確認できるものがないもの。

蒼良そら、せっかく江戸にいるのだから、江戸を観光しようか? 蒼良は江戸をあまり見たことないでしょう?」

 そうなのだ。

 江戸にいる期間より、京にいる期間の方が長いので、江戸をあまり見たことがない。

「でも、近藤さんが来るのに、留守にして大丈夫ですか?」

「家族の人がいるし、もし、帰って来た時にここにいたら、伊東先生と話をしていました。と言えば大丈夫だよ」

 そうなのか?

「いい天気だし、ちょっと行って見よう」

 というわけで、藤堂さんと江戸を観光することになった。


「あ、雷門」

「蒼良の時代にもあるの?」

「ありますよ」

 着いたところは浅草だった。

 現代とそんなに変わりない木造の雷門が出迎えてくれた。

 ちなみに、この雷門。来年大火があるらしくて、その時に消失してしまうらしい。

 私の知っている雷門は、昭和の時代に再建されたものだ。

「何だ、蒼良の時代にもあったのか。残念だったなぁ」

「なにが残念なんですか?」

「観光するなら、蒼良の時代にないものがいいかなぁと思ったんだ」

 そうだったのか。

「でも、私の時代より新しい浅草寺が見れるのは嬉しいですよ」

「それならよかった」

「それにしても、にぎやかですね」

 参道には、商店がにぎやかに並んでいた。

 これも、現代とはあまり変わりないのかも。

「あ、雷おこし」

 これも、現代と変わりがない。

「えっ、これもあるの?」

「ありますよ。美味しいですよね。帰りに買って帰りましょう」

「そうか、雷おこしもあるのか」

 ちょっとがっかりしたような感じで藤堂さんが言った。

 私は、現代と変わらないものがあるとほっとするけど、藤堂さんは違うみたい。

 出店を見ながら、とりあえず先にお参りをしなければと言う事で、本堂へ進んだ。


「これもありますよ、宝蔵門ですよね」

 現代とは少し違うけど、門は現代もある。

「えっ、仁王門だけど」

 そ、そうなのか?

 よく見れば、現代は鉄筋コンクリートだけど、この時代はそんなものはないから木造だ。

「門の左右に金剛力士像があるから、仁王門って言うのだけど、蒼良の時代は違うの?」

「宝蔵門って言っていますが……でも、仁王門と宝蔵門って違うものかもしれないです」

 しかし、後で調べたら、同じものだった。

 ただ、昭和に再建した後は宝蔵門という呼び名になったらしい。

 ちなみに、名前の通り、ちゃんと門の上層に文化財が置かれているらしい。

「やっと蒼良の時代と違うものがあった」

 藤堂さんは喜んでいた。

「それを言うなら、雷門だって私の時代にもありますが、やっぱり少し違いますよ。だから、藤堂さんはそんなこと気にしなくて大丈夫ですよ」

「やっぱり、150年以上も経過すると変わるものなのかな」

「よくわからないですけど、私のいた時代は、この時代とは全然違いますよ」

 かなり便利になっていると思う。

 この時代に来て、現代の便利な生活の心地よさを実感することがたくさんある。

「そうか。いつか、蒼良の住んでいた時代にも行って見たい」

 お師匠様がこのセリフを聞いたら、万歳三唱しそうな勢いで喜ぶだろう。

「私の時代にきたら、案内してあげますよ」

「楽しみにしているよ」

 藤堂さんは笑顔で言った。


 本堂に着いた。

 この時代らしく、木造で瓦屋根だった。

 素材が違うだけで、現代とあまり変わりがなかった。

 私が知っている本堂も、昭和の時代に復興されたものだった。

 この時代にある木造の本堂は戦争の空襲で焼けてしまう。

「これも、蒼良の時代と同じものなの?」

 それが気になるらしく、また聞いて来た。

「作っている素材は違いますが、同じものですよ」

「素材って、何つかってるの?」

「鉄筋コンクリートだと思います」

「えっ、こんくりいと?」

 やっぱり、知らない単語だよね。

 私もどう説明していいのかわからない。

「木造より強い素材です」

 それしか言えなかった。

「そんな素材があるのか……」

 藤堂さんは驚いて絶句していた。


 そのあと五重塔も見た。

 やっぱり私が見たのと少し違うものだった。

 これも昭和の大空襲で燃えてしまったらしい。

 だから、私が知っている建物は、昭和の建物で、今見ている建物は、いつの時代の建物かよくわからないけど、燃える前の建物と言う事になる。

 現代の人が見ることが出来ないものを見ていることになるので、貴重な経験をしているのかもしれない。

「蒼良が知っているところみたいだから、ちょっと残念だったなぁ」

「浅草寺を知っているというだけで、私が見た建物とは違うので、これはこれで楽しいですよ」

「そうなんだ。浅草寺はあるけど、建物は違うものなの?」

「これと似せて作ってあるので、見た感じは同じですけど、こっちの方が古く感じます」

「蒼良の時代の物の方が古くなければいけないのに、こっちが古いって、なんか変な感じだね」

 藤堂さんは、笑いながら言った。

 確かに変な感じだけど、昭和に消失して建て直したのだから、私の知っている浅草寺の方が新しいのだ。

「今日は楽しかったですね。雷おこしを買って帰りましょう」

 もう帰るのだろうと思って、そう言ったら、

「まだ帰るのは早いよ。浅草観光はこれからだから」

 と、藤堂さんに言われてしまった。

 これからって、なにがあるんだ?


 着いたところは、歌舞伎の芝居小屋だった。

 歌舞伎って、歌舞伎座じゃなかったのか?ここは浅草だけど……

「蒼良は、歌舞伎は見たことないみたいだね」

「見たことはないですが、私の時代にも歌舞伎はあります」

「そうなんだ。無くなりそうな時代もあったのに。やっぱり、いいものは長く続くものなんだね」

「なんで、浅草で歌舞伎なんですか?」

「蒼良の時代は違うの?」

「浅草じゃなくて、別なところでやっていますが」

「移転するんだ」

 移転するのか?よくわからないのだけど。

 後で調べてみると、この時代より前の時代で、歌舞伎は幕府からあまりいいものとして扱われていなかったみたいで、悪いものはまとめて外へみたいな考えがあったのか、堀の外である浅草にみんなまとめて移動されたらしい。

 逆にそれがよかったみたいで、芝居小屋間の距離が近くなったので、役者の貸し借りができ、繁盛したらしい。

 そうか、歌舞伎座が最初じゃなかったんだ。

 そんなことを思いながら、藤堂さんと芝居小屋の中に入った。


 歌舞伎はよくわからなかったけど、とても迫力があり、しかも観客の声援もすごかった。

 しかし、気がついたら全部が終わっていた。

 いったい何が起こったんだ?

「蒼良、こんなにぎやかなところでよく眠れるね」

 ん?寝ていたのか?そう言えば、寝ていたような気もするし……

「すみません。せっかく連れてきてもらったのに」

「気にしなくていいよ。私は楽しめたから」

 せっかくの歌舞伎だったのに、睡魔には勝てなかったようだ。

 ちょっと損した気分で芝居小屋を後にした。


 浅草寺の参道に戻ってきた。

 参道の両側はお店でにぎやかだ。

「蒼良、根付を買いたいんだけど、ちょっと見てもらえる?」

 根付とは、巾着とか煙草入れとか矢立とかを持ち歩くのに、帯の所にひっかけて持ち歩きやすくしたもの。

 その、帯のところにひっかける部分が根付と呼ばれている。

 これも江戸時代のオシャレの一種で、色々なものがある。

「私でよければ、いくらでも見ますよ」

 藤堂さんと一緒に、根付が売っているお店に入った。

 色々な値付けがあった。

 色々な素材で作られたものがあったけど、値段的に木でできたものが一番いいのかもしえない。

「今年はねずみ年だから、ねずみの根付はどうですか?」

 ねずみの根付を見ると、かわいい物がいっぱいあった。

 でも、藤堂さんがつけるんだから、かわいい物じゃ変かな?

「蒼良だったら、どれ選ぶ?」

 藤堂さんは、いくつかねずみの根付を出してきた。

「私は、かわいい物を選んじゃいますよ」

「構わないよ。選んでみて」

「じゃあ、これ」

 やっぱり、一番かわいい物を選んだ。

 藤堂さんは、別なものを選ぶだろうなぁと思ったけど、私が選んだ物を、しかも二つお店の人に持って行った。

 なんで二つなんだ?予備か?

 お金を払ってきた藤堂さんが、ねずみの根付の一つを私に渡してきた。

「蒼良と、同じものをつけたくて」

 いや、そんなことをしたら誤解されるだろう。

 ペアの根付って、それじゃあカップルじゃないか。

「私は、いいですよ。同じものをつけたら、藤堂さんが誤解されますよ。女性が寄ってこなくなりますよ」

「何言っているんだい? 友達同士でも、同じ根付を付ける人は多いんだよ」

 そうなのか?

「それなら、遠慮なくいただきます。もらっちゃっていいのですか?」

「蒼良のために買ったんだ。蒼良が京に帰って私が一人になった時、寂しくなったらこの根付を見るよ」

 藤堂さんは、私たちが京に帰った後も江戸に残ることになっている。

 剣術の修業をするためらしい。

「寂しくなったら、京に帰ってくればいいじゃないですか」

「そんな簡単に帰れないよ。剣術の修業もしなければならないし、それに、京と江戸だと距離もある」

 この時代の移動手段は、ほとんど徒歩なので、そう簡単に行ったり来たりはできないだろう。

「近藤さんが来ているかもしれないから、帰ろうか」

「その前に、雷おこしを買って帰りましょう」

「蒼良は、甘いものに目がないね。いいよ、買って帰ろう」

 それから雷おこしを買って近藤さんの道場に帰った。

 この日は、近藤さんたちは来なかった。

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