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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治元年9月
132/506

藤堂さんにばれる?

 あれから数日たち、9月になった。

 9月になったら、近藤さんたちが京から旅立つと聞いていたので、今頃旅立っているのだろう。

 9月は、現代に直すと10月になる。

 最近はとっても過ごしやすい日々が続いていた。

 私と藤堂さんの間は、あれからあまり変わらなかった。

 というより、お互い伊東さんの話題を避けているようなそんな居心地の悪さが続いていた。

 藤堂さんは、伊東さんの道場に行っているのか、昼間はほとんどいなかった。

 それにかんしても、お互い干渉はしなかった。


 道場で気晴らしに素振りをしていると、小さい女の子がかけてきた。

 近藤さんの娘さんのたまちゃんだ。

「たまちゃん、どこに行くの?」

 最近の話し相手と言えば、このたまちゃんだ。

 藤堂さんとは、話らしい話をしていない。

「あっち」

 たまちゃんは、小さい手で私の後ろの方を指さした。

 かわいいなぁ。小さい子って、本当に癒されるなぁ。

「たまちゃんは、いくつですか?」

 たまちゃんの目線まで座り込んで私は聞いた。

「これ」

 小さい指が3本たっていた。

 この時代は数え年だから、現代に直すと2歳ぐらいだろう。

「そう言えば、パパがもうすぐ帰ってくるよ」

「ぱぱ?」

 しまった。この時代はパパとは言わないか。

 なんて言うんだろう?

「父上かな?」

 これで通じるのかな?そう思ってたまちゃんを見ていると、たまちゃんは奥に走って言った。

 通じなかったのかな。

 しかし、すぐに紙みたいなものを持って走ってきた。

「ちちうえ」

 そう言って、紙を私の前に広げて指さして教えてくれたけど、その紙に書かれていたのは、どこかの歌舞伎俳優の浮世絵だった。

 近藤さん、歌舞伎俳優だったのか。

 いや、違うだろう。

 たまちゃんが覚え間違いをしているのだ。

 これは訂正した方がいいのか?近藤さんが来た時に、父上じゃないっ!って泣かれたら、近藤さんがっかりするだろう。

 私は、別な紙と筆を探し、その紙に近藤さんの顔を書いた。

「これが父上だよ」

 たまちゃんは、その紙をじいっと見ていた。

 ちゃんと訂正できたかな。

「違う。こっち」

 やっぱり歌舞伎俳優が父上らしい。

 誰がこんなことを教えたのだ?写真というものがないから仕方ないのかもしれないけど。

「たまちゃんは、こっちの父上がいいの?」

 歌舞伎俳優を指さして聞いたら、たまちゃんはこくんとうなずいた。

 そうか。父親が新選組の局長より、歌舞伎俳優の方がかっこいいのかもしれないよね。

 思いっきり脱力感がおそってきたのだった。

 近藤さん、たまちゃんに教えてあげられなくて、ごめんなさい。

「たまちゃんの父上は、かっこいいね」

 気が付くと、藤堂さんがたまちゃんの横に座っていて、歌舞伎俳優の絵を指さしていた。

 たまちゃんはこくんとうなずいて、また奥へ去っていった。

 たまちゃんがいなくなり、急に居心地の悪さがおそってきた。

「そうだ、筆を片さないと」

 私は逃げるように去ろうとした。

 そんな私の手を藤堂さんがつかんでいた。

蒼良そら、少し話をしたいんだけど」

 もう逃げることはできなかった。


 縁側に腰を下ろした。

 秋の庭が視界に広がっていた。

 近藤さんの道場は小さいけど、庭とかの手入れが行き届いている。

「蒼良は、なんでそんなに伊東先生を嫌うんだい?」

 いきなり心を直撃するような質問が来た。

「しかも、この前会ったのが初めてなんだよね。それなのに、嫌っているなんて、蒼良らしくない」

 どうすれば私らしくなるんだ?そう言いたかったけど、それ言ったら話にならない。

「伊東先生は、新選組にとって害になる人なんだね」

 どうしてそれを藤堂さんが知っているんだ?

 驚いて顔をあげると、庭を眺めている藤堂さんがいた。

「そして、蒼良はこれから起こる未来のことを知っているんだね」

 なんでそこまで知っているんだ?

「有馬に行ったとき、天野先生がそんなことを言っていたのを思い出したんだ」

 そういえば、お師匠様が言っていたなぁ。

 でも、その時は藤堂さんは相手にしなかった。

「その時は天野先生の言うことを信じることが出来なかったけど、よくよく考えてみたら、天野先生が本当のことを言っていると思ったら、全部話が合うんだ」

 話が合うって、どんな話なんだ?

「蒼良が、会ってもいない伊東先生のことを知っていること。そして、本人が名前を変える前にその名前を知っていたこと。伊東先生、京に行くことになったら名前を変えると言っていた。伊東 甲子太郎という名前に。本人が言う前に蒼良は知っていた。どうして知っていたんだい?」

「勘ですよ、勘。私、勘がいいのです」

「蒼良、もうごまかさないでほしい」

 ごまかすことが出来なかった。

「蒼良が未来から来たって話がもし本当だったら、すべて話が合う。この先起こることを蒼良は知っているから、伊東先生を嫌っているし、伊東先生の改名後の名前も知っていた」

 もうごまかせない。

 お師匠様、ごめんなさい。って言うか、お師匠様が有馬であんな話をしたのが悪いんだろう。

「私は、未来から来ました。今から150年以上先の未来から。信じてくれますか?」

 藤堂さんは目を見開いて驚いていた。

「そんな先から来たの? 信じるよ。そうなのか、150年もたつと、蒼良みたいに時間を操作することが出来るんだね」

「いや、それはできないです」

 そんなこと、簡単にできるわけない。

「私は、たまたまお師匠様のお弟子さんが、時間を操作する機械を発明したから来ることが出来たのです。多分私とお師匠様が最初です」

 しかも、あまり使うと壊れるというポンコツだし。

「どうして、この時代に来たんだい?」

 それは、お師匠様にだまされて、後ろから押されて……じゃなかった。

「新選組を助けたいんです。有馬でお師匠様が言っていた通り、出来れば私たちが暮らしている未来に連れて帰りたいからです」

「新選組って、150年以上たっても名前が残っているの? まさか、150年先も新選組ってあるの?」

「それはないです」

 あったら助けたいと思わないだろう。

「でも、名前は残っていますよ。ファンも多いと思います」

「えっ、ふぁん?」

「新選組のことを好きな人たちのことです」

「そんな人たちがいるの? なんか、信じられないな。私たちは人を斬ることしかしていないのに」

 藤堂さんは、相変わらず庭を見ながら言った。

「とにかく、蒼良が未来から来たと言う事はわかったし、伊東先生のこともわかった」

「未来から来たって言うことは、内緒でお願いします」

 言っても誰も信じないと思うけど。

「蒼良は、秘密が多いね」

 藤堂さんが笑いながら言った。

 いつもの笑顔だった。


 それから伊東さんの話になった。

「近藤さんたちが来る前に、伊東先生との話をまとめたいんだ」

 藤堂さんは真剣な顔で言ってきた。

「でも、伊東さんは新選組の害になる人です。なんで伊東さんを紹介したのですか?」

「私は、伊東先生が害になるなんて知らなかった」

 それは誰も知らないだろう。

「私は、近藤さんの考えが正しいと思っていない。人を斬ることが正しいことだとは思えない。池田屋の時も、京を守るためという名目で切ったけど、結局は禁門の変で火の海になってしまったじゃないか」

 藤堂さんの言う通りだ。

 京を火の海から守るための池田屋事件だったのに、結局火の海になってしまった。

「近藤さんには、伊東先生に色々教わってほしかったんだ。そして、考え方を変えてほしかった。その思いを込めて伊東先生を紹介したんだ。でも、これが後日にあだになるのだね」

 私は再びうなずいた。

「でも、ここで私たちが伊東先生の入隊を反対しても、伊東先生は乗り気だし、近藤さんが話を持って行けば伊東先生は隊に入隊すると思うけど」

 伊東さん入隊は避けられないことなのか?

「やっぱり、ここまで来たのだから、伊東先生には隊に入隊してもらおう」

「入隊させるのですか?」

 藤堂さんがうなずいた。

「でも、害になるようなことはさせない。私と蒼良で阻止しよう。蒼良が一人でやってきたことを、私も手伝うよ」

 今まで、私一人で、あ、お師匠様もいたけど、ほとんど私一人でやってきた。

 藤堂さんが味方に付いてくれるのなら、私の負担も軽くなるのかもしれない。

「わかりました。その代わり、もう一つ約束してもらえませんか?」

「なんだい?」

「なにがあっても、藤堂さんは新選組を脱退しないでください」

 藤堂さんが新選組を去らなければ、この後殺されることもないだろう。

「脱退したら切腹だからね。脱退しないよ。約束する」

 そう言う脱退の仕方じゃないのだけど、でも、約束してくれたからいいか。

「ところで蒼良、私はどういうふうに生きて、どういうふうに死ぬんだい?」

 藤堂さんが突然聞いて来た。

 話していいのかな?迷っていると、

「やっぱりいいや」

 と、藤堂さんは取り消してきた。


 そして次の日には、伊東さんの道場へ行っていた。

「この前は、すみませんでした」

 一応、私は途中で飛び出してきてしまうという無礼を働いたので、謝った。

「いや、そんなことは気にしなくていい。むしろ、新選組に蒼良君みたいに議論できる人がいることが嬉しかったよ」

 あれは、議論だったのか?

「平助も久しぶりだな。あれから姿を見せないから、心配していたんだよ」

 ん?藤堂さんは毎日伊東さんの道場に行っていたと思ったのだけど。

「毎日どこに行っていたのですか?」

 周りに聞こえない声で聞いてみた。

「私は、江戸に剣術の修業も兼ねて来ているから、玄武館の方に行っていたんだけど」

 玄武館とは、北辰一刀流の道場だ。

「てっきり、伊東さんのところに行っているのかと思っていました」

「蒼良と気まずくなっている原因の所に行けないよ」

 そうなのか?

「改めてお願いなのですが、伊東先生、新選組に入ってもらえますか?」

 藤堂さんが改めて伊東さんにお願いした。

「喜んで」

 一言、伊東さんはそう言った。

「近藤さんが江戸に来たら改めて話があると思いますので、よろしくお願いします」

 藤堂さんがそう言ったら、

「わかった」

 と、伊東さんは言った。

 伊東さんの新選組入りはあっさりと決まったのだった。

 

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