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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治元年8月
129/506

駆け落ち

 ここまでは何事もなく順調にきた。

 天気も晴天の日が多く、江戸にもかなり近づいたと思う。

 そんな中、ちょっとした騒動に遭遇したのだった。

 

 それは、奈良井宿というところに着いた時のこと。

 いつも通り荷物の整理をしていた。

 すると、廊下が騒がしくなった。

「何ですかね?」

 隣で荷物整理していた藤堂さんに聞いた。

「旅は色々な人がいるものだから」

 それもそうだな。

 そう思って荷物整理を再開していると、突然ふすまがバンッ!とあいた。

 何事?そう思ってみてみると、若い男女がいた。

「お願いします。助けてください」

 突然、若い男女が言い出した。

「どうしたのですか?」

 私は、二人に近づいて聞いた。

「追われているのです」

 えっ、追われてる?何か悪い事でもしたのか?でも、とてもじゃないけど、そういうふうには見えない。

 善良な若夫婦に見える。

「どこに逃げたっ!」

 廊下の方から男の人の怒鳴り声が聞こえた。

「ああっ、助けて」

 女の人が泣きそうだった。

蒼良そら、その二人をこちらに」

 藤堂さんが、押入れのふすまを開けていた。

 私は、二人を押入れに押し込んだ。

 それと同時に男の人が入り込んできた。

「おいっ! ここに二人連れが来ただろう?」

 男の人は遠慮なく入ってくる。

「二人連れ? 何かあったのですか?」

 藤堂さんは、そ知らぬふりをして答える。

「ここに入って行ったのを見たんだ。隠すと容赦しないぞ」

 男の人は、押入れのふすまを開けようとした。

 大変だ。捕まってしまう。

「勝手に部屋に入ってきて、人の部屋の押し入れを開けるなんて、無礼ですよっ!」

 藤堂さんは、刀を手にして立っていた。

「やる気か?」

 男の人も刀を出してきた。

「新選組、藤堂 平助が相手をするっ!」

 藤堂さんは刀をかまえた。

「なにっ、新選組だと?」

「江戸に用があり、向かう途中なのです」

 藤堂さんがそう言うと、男の人は刀をしまった。

「申し訳ない。まさか、新選組の人だとは思わず、失礼した」

 男の人は刀をしまうと、頭を下げて去って行った。

「もう大丈夫でしょう。新選組の名前は出したくなかったんだけど、仕方ないね」

「新選組の名前って、男の人がああやって去っていくぐらい、大きなものなのですか?」

「池田屋事件や、禁門の変で名前をあげたからね。名前を出せば去っていく人も多くなったよ。でも、京以外でも効き目があるとは思わなかったな」

 そうか、そんなに有名になっていたのか。

 昨年、この道を通って京に言った時とはえらい違いだ。

「あの二人をそろそろ出してあげないと」

 そうだ、忘れてた。

 押入れのふすまを開けると、怖かったのか、固まっている二人がいた。

「もう大丈夫ですよ」

 私が言うと、男の人が勢いよく頭を下げてきた。

「新選組の人とは知らずにご無礼をっ!」

 こちらにも効き目があったらしい。


 頭を下げる二人をなだめ、何とか落ち着かせた。

「大丈夫ですよ、新選組もただの人ですから」

 私がそう言うと、それを聞いた藤堂さんが笑っていた。

「人じゃなければ、何なの? 蒼良は面白いことを言う」

 笑っている場合じゃないだろうがっ!

「とにかく、どうしてああいう人に追いかけられることになったのか、話を聞かせてください」

 藤堂さんは、顔から笑みを消していった。

「はい。私たち、駆け落ちをしたのです」

 男の人が言った。

 か、駆け落ち?

「駆け落ちって、親の決めた結婚を蹴飛ばして、違う人と逃げるっていうあれですか?」

「蒼良、それしかないと思うけど」

 そうなのか。そうなのだろう。

「桜は、大店の一人娘でして、婿を取る話が決まっていました」

 男の人が説明してくれた。

 女の人は桜さんというらしい。

「でも私は、その人と結婚したくなかったのです。私の心の中には弥之助さんがいたので」

 男の人は弥之助さんというのか。

「見ず知らずの人と結婚するなら、弥之助さんとと思って、思いを打ち明けました」

 えっ、見ず知らずの人?

「もしかして、結婚する人と会ったことがないのですか?」

「普通は、親が結婚を決めて来て、その人が家に来るまで本人同士は知らないものだよ」

 藤堂さんが説明してくれた。

「ええっ! 一生を決める大事なことなのに、本人が決めないのですか?」

「家と家を結ぶものだから、親が決めるのだよ」

 そう言うものなのか?それでいいのか?

「桜さんは、それが嫌だったと言う事ですよね」

「はい」

「私も同じ意見です。そんな知らない人と結婚するなら、知っている人と結婚した方が絶対にいいです」

「知っている人なら誰でもいいって言うわけでもないのですが……」

 桜さんが困ったように言った。

 ま、それもそうだよね。

「桜から思いを聞いた時、自分も同じ思いをしていたので、嬉しかったです」

「両思いで一件落着じゃないですか」

 なんで駆け落ちしなければならないんだ?

「しかし、身分が違いすぎます」

 弥太郎さんが言った。

「自分は下働きの身。桜は大店の一人娘です」

「それがどうだっていうのです?」

「蒼良、身分違いの恋愛はだめなんだよ」

 そうなのか?

「身分違いって……そもそも、身分なんてものはそんなに重要なことじゃないでしょう」

「いや蒼良、そこは重要だから。武士と商人って言えば、かなり身分も違うし。そんな身分をこえて結婚なんて考えられないから」

「身分なんて、そんな物関係ないですよ。そのうち無くなりますから」

「えっ、そうなの?」

 その場にいた3人が声をそろえて聞き返してきた。

 これは、言ってはいけないことだったのか?

「とにかく、恋愛に身分なんて関係ないですっ! 好きになればそんな物関係ないでしょ?」

 桜さんと弥之助さんがうなずいてくれた。

「それで駆け落ちをしたと言う事ですね」

 藤堂さんが言った。

 そうだ、駆け落ちの話をしていたのだった。

「はい。ここまでは順調にきたのですが……」

 弥之助さんは語尾をにごした。

「私の父が人を雇って私たちを追っているみたいで……」

 桜さんも困ったように言った。

「ああ、さっきの人が、その雇った人ですね。ずいぶんと態度の悪い人を雇いましたね」

 私が言ったら、二人はまた小さくなってしまった。

「私たちのせいで、すみません」

 二人は再び頭を下げた。

「そんなことより、これからどうするのですか?」

 藤堂さんが気になることを聞いた。

「あの人につかまると、江戸に帰って会ったこともない人と結婚が待っているのですよね」

 私が聞くと、二人はうなずいた。

「要するに、あの人につかまらないようにどこかに逃げ延びて、二人で結婚して暮らしたいと言う事ですね」

 二人がまたうなずいた。

「わかりました。何とか協力しましょう! そんな顔も知らない人と結婚することはないですよ。それに、人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえって言うじゃないですか」

「ありがとうございます」

 二人にお礼を言われてしまった。

「で、蒼良は何か考えがあるの?」

 えっ?考え?

「そんなものはないですが……」

「そうなの? 馬に蹴られてまで言ったから、てっきり何か案があるものだと思っていたけど」

「すみません、何も考えていないです」

「蒼良らしくていいね」

 藤堂さんは、笑いながら言った。

 いや、笑いごとじゃないから。


 しばらく4人で考えた。

「要するに、あの追ってきた人をごまかせればいいのですよね」

 私はそう言ったけど、それが難しかったりするのよね。

「あ、いいこと思いついた」

 藤堂さんが手をぱんっと打って言った。

「ごまかせばいいのです。男女の駆け落ちではなく、男二人の旅にすればいいのでは?」

 それは要するに、

「変装と言う事ですね」

 と、私が言うと、藤堂さんはうなずいた。

「桜さんを男装させれば、男二人旅になるから、追っ手をごまかすことが出来るでしょう」

「でも、男物の着物がないです」

 桜さんは落ち込んでそう言った。

「いや、ありますよ」

 藤堂さんは自信たっぷりに言った。

 男物の着物って、どこにあるんだ?

 そう思って藤堂さんを見ると、藤堂さんは私を見ていた。

 ん?私?


 次の日、桜さんと弥之助さんは大坂へ向けて旅立った。

 桜さんは男装をしていたので、二人はどう見ても男二人旅だ。

 桜さんと弥之助さんには、大坂の鴻池家に行くように言った。

 私の名前で書いた鴻池さんへの紹介状を持たせた。

 ちなみに私の名前を書いてあるけど、代筆は藤堂さんだ。

 筆で文字を書くなんてちょっとまだ慣れないもので。

 そして、同じ宿から江戸へ向けて旅立つ男女がいた。

 それが私と藤堂さんだった。

 私は、桜さんと着物を取り換えて、女装をすることになった。

 女装と言っても、もともと女だから、本来の姿に戻ったというべきか?

 桜さんの着物を着ることにより、追っ手をこっちに誘導して、目くらましにもなるだろうと言う事だった。

「蒼良、大丈夫かい?」

 藤堂さんが声をかけてきた。

「歩きにくいですね。いつも袴だったから」

「そうだね。いつもと違うものを着ているからね。私の手につかまって」

 藤堂さんはそう言うと、私の手を取って歩き始めた。

 藤堂さんが手を引いてくれるので、かなり歩くのが楽になった。

「藤堂さんは、疲れませんか?」

 こんなに引っ張ってくれたら、藤堂さんが疲れるだろう。

「蒼良は女なんだから、そんなこと気にしないで私に甘えればいい」

 藤堂さんは手を引きながらそう言ってくれた。

 優しいな、藤堂さん。


「いたぞっ!」

 しばらく歩いていると、急にそんな声がした。

 振り向くと、昨日、弥之助さんと桜さんを追っている男の人だった。

「あれ? 間違えたか? でも、着物が同じだが……」

 男の人はジロジロと見ている。

「私の連れに用ですか?」

 藤堂さんが男の人と私の間に入ってくれた。

「あ、昨日の……。いや、私が追っている人間と着物が一緒だから……」

「同じ着物ならたくさんあるでしょう。で、私の連れを追っているのですか?」

 藤堂さんが少しにらんで言うと、

「とんでもないっ! 旦那の連れじゃなくて別な人間を追っているのですが、間違えたみたいで……すみませんっ!」

 男の人は、勢いよく頭を下げて去っていった。

「作戦成功ですね」

 私が言うと、藤堂さんもにっこりと笑った。

「でも、蒼良もしばらくその格好でいなければならないよ。弥之助さんと桜さんが無事に大阪に着くためにも」

「動きずらいですけど、仕方ないですね」

「私は嬉しいけどな。女性姿の蒼良と一緒に旅するなんて初めてだからね。なんなら、江戸に着くまでその格好でいてほしいぐらいだけど」

 いや、それは動きずらいので勘弁してください。

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