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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治元年7月
122/506

懐中時計

 長州軍を追い詰めるため、大坂に入った。

 大坂にある長州屋敷を捜索したけど、すでに逃げた後で誰もいなかった。

「逃げ足の速い奴らだな」

 土方さんがつぶやきながら捜索していた。

 命がかかっているのだから、逃げ足も速くなるだろう。

「念のため、火を放っておこう」

 その一声で、長州藩の屋敷は燃やされることになった。

 それから大坂の町を捜索することになった。


 あまりのひどい負け方だったので、少しぐらい逃してあげてもいいのでは?と思ったけど、歴史の中で少し逃したがために大逆転することになってしまったと言う事もあるから、やっぱり逃したらいけないのだろうな。

 そんなことを考えながら、大坂の町をキョロキョロしながら歩いていると、

「おいっ!」

 と、どこからか声がした。

 どこから声がしているのだ?キョロキョロしていると、再び、

「こっちだっ!」

 という声がした。

 だからどこなのさっ!そう思って見てみると、家と家の間、人一人が何とか入れる隙間から聞こえてきた。

 のぞいてみると……

「あ、桂 小五郎」

「その名前をでかい声で呼ぶな」

 体を真横にして、家と家との間に桂 小五郎が入り込んでいた。

「お前、もう長州に来る気は……ないな」

「当たり前じゃないですか。こうなる前から無いですよ」

「そこででかい声で話していると目立つ。こっちに入って来い。あっ、もしかして、太っていて入れないか?」

「なっ!」

 なんて失礼なことをっ!

「ご心配ありがとうございます。ちゃんと入れますからっ!」

 私はむきになってその隙間に入った。

 何とか入ることが出来たけど、目の前は家の壁なのでものすごく息苦しく感じる。

「なにも、こんなところじゃなく、外に出て話しませんか?」

 私が提案したら、

「追われているから、ここにいるんだ」

 と言われてしまった。

 そう言えば、彼は追われているのだった。

「武力行使に出るのは反対だったのだ」

 言い訳のように、桂 小五郎が言った。

「でも、武力行使したじゃないですか」

「負けただろう」

「大敗でしたね」

「大はつけるな」

 いや、つけてもつけなくても、負けということには変わりないから。

 変なところにこだわるな。

「だがな、こんなところで長州はくたばらないぞ。目に物を見せてやるからな。だから、お前、長州に来い」

「行きませんってさっきから言っているじゃないですか」

「遠慮するな」

 いや、遠慮はしていませんから。

「わかった。また迎えに来るから待っていろ、女隊士」

 桂 小五郎は、そう言い残すと、体を横にして狭いところを去って行った。

 あの人はいったい何なの?そして後で気が付いた。

 私、あの人を捕まえなければならなかったのでは?あっさりと取り逃がしてしまった。

 何しているんだ、自分。


 たいした成果もないまま、大坂でいつもお世話になっている京屋さんに着いた。

「お前、暇か?」

 京屋に着いていきつく暇もないうちに土方さんが聞いて来た。

「疲れていると思うがな、大坂に着いたら鴻池家に行かねぇとな」

 そうだった。

 鴻池家は新選組スポンサーの一人。

 スポンサーにあいさつは当然のことだろう。

  鴻池さんは、珍しいものを出してくるのだけど、それはほとんど私が知っているもので、それが悔しいのか、次もまた来るようにみたいなことを言われる。

 私も、今度は何が出てくるか楽しみにしているのだけど。

「わかりました。ご一緒します」

 土方さんと、鴻池家に行くことになった。


「あんさんらの活躍、大坂にも聞こえてきたで。疲れとるのに、顔出してくれておおきに」

 鴻池さんは上機嫌で迎えてくれた。

「あんさんら、運がええな。今日は特別なものが手に入ったんや」

 特別なものって何だろう?

 出てきたのは、なんとかき氷だった。

 現代と比べると、氷の削りもかなり荒いし、ほとんど溶けていて凍っている部分が少ししかないけど、冷凍庫のないこの時代でかき氷は高級品だ。

「ずいぶんと珍しいものだな。俺は初めて食べるぞ」

 土方さんは、早速食べ始めた。

 早く食べないととけるので、私も食べ始めた。

「久しぶりに食べると、美味しいですね。やっぱり夏はこれですよ」

 夏祭りのときに食べるかき氷はとっても美味しいんだよね。

「久しぶりって、お前、食べたことあるのか?」

 土方さんが不思議そうな顔をして聞いて来た。

 何そんな不思議な顔をしているのだ?

「夏祭りと言えば、これじゃないですか」

「お前、どこの祭りの話を言っているんだ?」

 そうだった。江戸時代の夏祭りにかき氷なんてないよね。

「えっ、あっ、おっ、お師匠様のお祭りですよ」

 困った時のお師匠様だけど、すごい無理があったか?

「天野先生の祭りがあるのか?」

 怪訝そうな顔で聞かれてしまった。やっぱり無理があったか。

「お祭りというか、誕生日のお祝いというか……」

「ま、色々あるんやろ。珍しいものを知っとる蒼良そらはんやさかい、お祭りも珍しい祭りなんやろな」

 鴻池さんに助けられたような……。

「はい、そりゃもう」

 ありがとうございます、鴻池さん。そう思いながら、残りのかき氷を口に入れた。

 ほとんど溶けていたけど、冷たくておいしかった。

「そうや、あんさんらにあげたいものがあるんや。一つしかないさかい、どちらか片方だけになるけど」

 かき氷で終わりかと思っていたら、まだあったのか?

「お前がもらったらどうだ?」

 土方さんに言われたけど、こういうものは、目上の人に譲るものだ。

「土方さん、どうぞ。私は別にいいですよ」

「そうか。なら、遠慮なくいただく」

「土方はんがもらうんやな。これなんやけど」

 そう言って鴻池さんが出してきたものは……

「何だこりゃ」

 土方さんがそれを手に取って行った。

「懐中時計ですよ」

 私が言うと、

「かいちゅうとけい?」

 と、土方さんに聞かれてしまった。

「蒼良はん、また知っとったんかい? また負けてしもうたわ」

 これ、いつから勝負になっていたんだ?


「これが短針で、この長いのが長針です。長いのが一周すると、短いのが一数字分動きます」

 鴻池家から京屋に戻ってきた。

 それからずうっと時計の説明を土方さんにしていた。

「数字がありますよね。長い針が差した数字は、その数字に5をかけてください。それが分というものです」

「分ってなんだ?」

「チクタクと音を立てて動いている針がありますよね。それが一周すると1分です。5周すると5分です」

「だから、分ってなんだ?」

「さっきから言っているじゃないですか。これが一周すると1分です。時計の単位ですよ」

「何だ、単位か。そう覚えればいいな」

 時計を教えるのって、こんなに疲れるものなのか?

「で、この長い針が一周すると、短い針が一数字分動きます。これが時です」

「それも単位だな」

「そうですね」

 そんな感じで、一通り教えたら、夕方になっていた。

「と言う事は、今は1時15分っと言う事だな」

 ん?1時15分?夜中のか?それとも昼の?いや、今夕方だろう。

 時間にするなら5時ぐらいか?でも、時計は1時15分になっている。

 なんでだ?

 よくよく見ると、秒針が止まっていた。

 もしかして、電池切れ?いや、電池ないし。

 後ろをひっくり返してみると、ぜんまいのねじがついていた。

 ぜんまい式ってやつか?

 そのぜんまいをまわすと、止まっていたのが嘘のように忙しそうに秒針が動き出した。

「今、何時ですか?」

「1時15分じゃねぇのか?」

「時計が止まってました。時間を合わせるので何時か教えてください」

「夕の7つ刻だな」

「いや、そうじゃなくて……」

 よくよく考えたら、この時計と同じ時計がないから、時間を合わせられないのではないか?

「使えねぇものだな」

 いや、ちゃんと使えばこれだってとっても便利なものなのですよ。

 ただ、時間を合わせられないというだけでって、そこが一番重要じゃないかっ!

「お前にやるよ」

 土方さんは、懐中時計を私に渡してきた。

「えっ?」

「なにがなんだかさっぱりわからねぇし、俺には必要ねぇ」

「今は必要じゃないかもしれないですが、後々に必要になると思いますよ」

「それなら、その時に何とかすりゃいいだろう。お前にやる」

 いや、時間が合せられないものをいただいても……。

「後でやっぱりくれって言われても、あげませんからね」

「別にかまわねぇぞ。俺がお前にそう言うとは思わねぇがな」

 確かに。

 ああ、誰か私に正確な時間を教えてっ!

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