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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治元年7月
121/506

禁門の変

 一橋 慶喜公が長州軍は直ちに京から去るようにと、勧告をした。

 ちなみにこれで5回目。

「いつまで大人しくしていればいいんだっ!」

 土方さんは怒りくるっていた。

「だからって、私に怒らなくてもいいじゃないですかっ!」

「お前だって、俺に怒るだろうがっ!」

「たまたま土方さんがいたからですよっ!」

「今は、言い合いをしている時ではないと……」

 斎藤さんが止めてくれた。

 そうだ、言い合いをしている場合じゃない。

「慶喜公は、長州寄りだという噂もあるしな」

 土方さんが言った。

 慶喜公の兄弟か何かが長州寄りの人みたいで、だから、討伐の命令を出さないでいるという噂もある。

「容保公も早く長州を討伐したいらしいですよ」

 斎藤さんが言った。

 容保公も黙っているわけにはいかない。

 やっぱり権力者に慶喜公の批判の書状を送ったりしているらしい。

「でも慶喜公は、これは会津と長州の喧嘩であって、幕府は関係ないと言っているようですが」

 私は、ちまたで流れている噂の一部を言った。

 長州も、打倒容保をかかげているし、何しろ京は長州の人たちに同情的だ。

「そんなわけにはいかんだろう。ここまで大きくなっているんだ。しかも、帝も長州入京拒否の勅を出している」

 土方さんが言った。

「長州軍も、続々と京の近くに合流しつつある」

 斎藤さんも言った。

「とにかく、一か月近くもこんな状態だから、この状態から何とか解放されたいですね」

 私が言ったら、

「その通りだっ!」

 と、二人が声をそろえて言った。

「いつまで手を出さねぇで大人しくしてねぇといけねぇんだっ! 俺はそこまで気が長くねぇぞっ!」

 土方さんがまた怒鳴りだした。

「土方さん、落ち着いてください。俺も同じ思いですから」

 斎藤さんが必死で土方さんを止めていた。

「おい、大変だ」

 その時に、近藤さんが入ってきた。

 大変だと言いつつも顔はなぜか笑顔だった。

「うちの隊士がな、慶喜公の優柔不断さに怒りを表してだな、慶喜公がいる宿舎に殴り込みに入ろうとしたらしいぞ」

 近藤さんは嬉しそうに報告した。

「ただな、会津藩に止められた」

 それから残念そうに言った。

 それって、悪いことなのか?慶喜公の宿舎に殴り込みに行く方が悪いと思うのは、気のせいか?

「なんでまた……」

 斎藤さんが驚いてつぶやいた。

「俺がちょっとけしかけたりなんかしたりだな」

 近藤さんが得意げに言った。

 この殴り込み騒動の裏には近藤さんがいるらしい。

「そうか、でかしたぞ」

 土方さんが喜んで言った。

 ええっ、でかしたなのか?

「隊士たちも、こう何日も待機させられて気も高ぶっているのだろう」

 土方さんは他人事のように言っていた。

 いや、近藤さんがけしかけたってさっき言ってたじゃないかっ!

「そうだな。うちの隊士は血の気が多いからな」

 わははっ! と、豪快に笑いながら近藤さんが言った。

 いや、笑っている場合じゃないから。

「それって、大変なことじゃないのですか?」

 思わず私が聞くと、土方さんも近藤さんも、何が大変なんだ?という顔をしてみてきた。

「俺のあずかり知らんことで起きたことは知らん」

 土方さんは、知らないふりをするらしい。

「わしも知らん」

 近藤さんも知らないふりをするらしい。

 というわけで、この事件は特におとがめもなく終わった。


 数日後の18日、慶喜公から長州へ、最後の退京勧告が出された。

 要するに、これ以上言っても京から出ないなら、武力行使に出るぞというものだろう。

 それに対し長州側は、19日には京を出るからという返事だったらしい。

 しかし、実際は新選組を批判した看板が建ったり、各藩邸に自分たちは容保公を御所から追放し、天誅を受けさせなければならない。というようなものが配られた。

 簡単に言うと、容保公を倒さなければならないという理由長州側が出し、それを各藩に配ったと言う事だろう。

 事実上の宣戦布告になる。

 そして、長州軍は伏見に向かっていた。

 19日未明、それを知った孝明天皇が、長州軍を討伐しろという勅を出したため、御所は厳重な警備態勢がしかれた。


「急げっ! 伏見だっ!」

 そんな掛け声とともに、新選組は九条河原から伏見に向かっていた。

「いよいよ戦いだ」

 そんな声も聞かれ、士気も十分ある。

蒼良そら、戦に驚いて逃げるなよ」

 永倉さんがからかってきた。

「たぶん……」

 間に合わないと思うのだけど……。

 確か、歴史では伏見に行ったと書いてあった。

 それと同時に間に合わなかったとも書いてある。

「たぶんって、自信なさそうだな。心配するな。何かあったら、俺が蒼良を背負ってやるからな」

 永倉さんは、たぶんという言葉の意味の受け取り方を間違えたらしい。

「新八に背負わせたらどうなるかわからないだろ。俺が背負うから、何かあったらすぐに言えよ」

 私の横にいた原田さんが、私の頭をポンポンとなでながら言った。

「は、はい」

 士気は十分すぎるぐらいなんだけど……。その分この後に起きることに対する落胆の大きさが怖い。

「それにしても、焼き討ちのことが長州に入ったのかな? ずいぶんと間が良すぎるじゃないか」

 永倉さんが走りながら言った。

 実は新選組は、長州の襲撃に備え、会津藩と連携して長州藩邸を焼いてやろうと計画していた。

 その実行を前にこういう状態に入ってしまったのだ。

「たまたまだろう。いつ攻めてきてもおかしくなかったんだ」

 同じく走りながら原田さんが言った。

 それにしても、よく二人とも走りながらしゃべれるものだ。

 私なんか、走るだけで精いっぱいだ。

「蒼良、疲れているようだが、大丈夫か? 背負ってやろうか?」

 原田さんが言ってきてくれたけど、大変なのはみんな一緒だ。私だけ甘えるわけにはいかないだろう。

「大丈夫です」

 そう言って、私も走り続けた。

 そして、伏見に着いた。


「あれ? 終わってる?」

 原田さんが周りを見回しながら言った。

 そう、伏見に着いた時には、長州軍は撤退した後だった。

「何だよ、ここまで我慢していたのによっ! ここで帰るのは納得いかないぞ。俺は長州の後を追うっ!」

 永倉さんは、長州軍が敗走した後を追って行った。

「おい、新八待てよっ! 俺も行くっ!」

 原田さんも追って行った。

 やっぱり、予想通り終わっていたのだ。

「後は頼んだぞ」

 長州軍と戦っていた大垣藩の人たちは、疲れた顔で去って行った。

「後は追わないのですか?」

 私が聞いたら、

「深追いするとろくなことないぞ」

 と言われてしまった。

 そ、そうなのか?それなら、原田さんと永倉さんを止めなければ。

 結局、私も二人の後を追うことになったのだった。


「あともう少しだったのにな」

 永倉さんが悔しそうに言った。

 あれからかなり長州軍の後を追った。

 しかし、伏見の長州軍の偉い人は、船に乗って逃げてしまった。

 さすがに船に乗られると追うのが難しい。

「それにしても、ついて来たのはうちの隊だけじゃないか」

 原田さんが周りを見ながら言った。

「あ、そう言えば、深追いするとろくなことがないって言ってました」

 それを伝えにここまで来たのに、走るのに必死で忘れていた。

「なんだそりゃ」

 永倉さんはあきれていた。

「そう言えば、一緒に九条河原にいた他の藩の連中も来ないな」

 原田さんに言われて気が付いた。

 そう言われてみると、うちの隊だけしか来ていない。

 九条河原にはもっと人がいたはずだ。

「九条河原が空になったら、そのすきをついて長州軍が来るかもしれないから、動けなかったのでは?」

 私が言ったら、それもそうかと、二人は納得していた。

 九条河原に帰ると、また大騒ぎになっていた。

「大変だ。御所から火が上がっている」

 物見やぐらから見た人が報告していた。

「そりゃ大変だ。行くぞっ!」

 土方さんに言われ、御所へ向かうことになった。


 御所の堀町御門というところに行くと、思わず呆然としてしまった。

 洋装をして鉄砲を持った人たちが、長州軍を次から次へ打ち倒していたのだ。

「な、なんだ、こりゃ」

 土方さんがやっと一言はっした。

「旗印が薩摩だが、薩摩藩か?」

 土方さんの言う通りだろう。

 旗印を見なくても、薩摩藩の人たちだと言う事はわかった。

 それにしても、鉄砲ってそんなにすごいのか?刀での戦いに慣れた私たちから見ると、敵をどんどんと倒していくので、刀が入る隙間もない。

「おいっ! ボーとしている暇はないぞ。近くの屋敷に長州人が逃げ込んでいる可能性があるから、俺たちはそっちの捜索に行くぞ」

 やっと正気に戻った土方さんたちと一緒に、近くの屋敷を捜索することになった。


「お前がこの前言ってたのって、薩摩藩か?」

 捜索しているときに、土方さんが突然言ってきた。

 この前言っていたこと?

「西洋の技術を手に入れたものが勝つみたいなことを言っていただろう」

 ああ、そんなことも言っていたわ。

「薩摩か?」

「はい」

「なんであんな鉄砲が薩摩にあるんだ?」

「薩英戦争ってあったじゃないですか」

「ああ、あったな」

 薩英戦争とは、名前の通り、薩摩と英国の戦争だ。

 生麦事件という、薩摩藩の行列に英国人が知らずに横切り斬られてしまうという事件があった。

 それがきっかけとなってその戦争になった。

「その戦争がきっかけとなって、薩摩と英国の交流が始まったのです」

「なら、今回のあの鉄砲は、全部英国から来たものなのか?」

「恐らくそうだと思います」

「なるほどな」

 土方さんは、納得したらしい。

「薩摩を敵に回せねぇな」

 しかし、鳥羽伏見の戦いでは薩摩は敵になる。

「土方さん、新選組も英国と取引して武器を最新のものにできないですか?」

 そうすれば、鳥羽伏見で敗戦する可能性も少しは減るだろう。

「そりゃ無理だ」

「どうしてですか?」

「異国を打ち払って自分たちの強い国を作りたいのに、どうして異国の力を借りなければならない?」

 それもそうなんだけど、そこは頭を柔らかくして考えようよ。

「それに、そんな金もない。うちは、隊士を養うだけで精いっぱいだ」

 多分、一番の理由はそれなのだろう。

「安心しろ、薩摩が敵にまわることはないだろう」

 いや、あるから心配しているのだ。

「それにしても、他の連中は何してんだ?」

 土方さんは、周りを見回しながら言った。

「他の人たちも、一緒に捜索していると思いますよ」

「それは、うちの隊士だろう。俺が言っているのは、九条河原に一緒にいた他の藩の奴らだ」

「そう言えば見ませんね」

 伏見に行って深追いした時も私たちだけだったような気がするのだけど。

「まさか、九条河原にまだいるとか……」

「まさかのそのまさかだぞ。おそらく九条河原にいるだろう。自分たちの前に敵はいないから、そのままいるのだろう」

「もしかして、自分たちの前に敵が現れなければ、関係ないとかって言うのではないですよね」

「いや、そうかもしれねぇぞ。九条河原は平和だって、のんびりしているのだろう」

 そ、そうなのか?もしそうなら、もう少し現実を見た方がいいと思うのだけど。

「よし、ここも大丈夫そうだな。次行くぞ」

「はい」

 私たちは、捜索していた屋敷を去り、次の屋敷へ移動した。


 禁門の変は数日続いた。

 その間、新選組は警備をしていたけど、特に長州軍と接触する事もなかった。

 長州軍は、逃げる時に屋敷に火をつけたみたいで、京の町が火の海になった。

 のちにどんと焼けと言われるものだ。 

 21日、会津藩の人たちと一緒に、長州軍の本拠地になった天王山に行くことになった。

 ここで長州軍を根絶やしにし、勝利を確実なものにするためのものだった。

 天王山に着くと、長州軍が火縄銃で攻撃をしてきて何人か怪我をしたけど、すぐに静かになった。

 天王山に上って行くと、すぐに私の目の前は真っ暗になった。

「蒼良は見るなっ!」

 原田さんの声が後ろからした。

 おそらく原田さんの手が、私の目をおおっているため、私は何が起こっているのか見ることが出来ないのだろう。

「何が起こっているのですか?」

「長州軍が全員切腹している」

 なっ! それは見たくない。

 切腹と聞いて怖くなったせいか、体が少し震えたらしい。

 すると原田さんはそのまま私の顔を自分の胸のところに押し付けた。

「大丈夫だ。だから、見るな」

 原田さんの胸から原田さんの声がした。

 見ろと言われても、見ませんから大丈夫です。


 禁門の変は、歴史通り、長州の大敗で終わった。

 私たち新選組は、大坂で残党狩りをすることになった。

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