表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治元年6月
118/506

禁門の変近し

「会津藩から、西本願寺周辺に西国浪人が多数潜んでいるらしいから、捜索を頼むと要請があった。これから我々は、西本願寺周辺を捜索する」

 近藤さんに言われ、西本願寺周辺へ行くことになった。

 西本願寺に着き、周辺を捜査することになった。

「浪人、いないみたいですね」

 一緒に捜査をしている藤堂さんに言った。

蒼良そら、そんな簡単に見つかることないと思うよ」

「そりゃそうでしょう。西国浪人、怪しいですなんて、名札つけて歩いているわけないじゃないですか」

「いや、誰も、そこまでは言ってないから」

 藤堂さんが笑いながら言った。

 確かに、名札はないか。

「でも、一人を怪しく思うと、道に歩いている人たちみんな怪しく見えてきますよ」

「蒼良らしいね。まさか、歩いている人みんな捕縛するわけにいかないしね」

 そりゃそうだろう。そんなことしたら、せっかく上がった新選組の評判がまた落ちてしまうだろう。

 気を付けて周りを見なければ。

 そう思ってきょろきょろしていると、前方から何かを売り歩いている人が見えた。

「あれ、何ですかね?」

 何を売り歩いているのだろう?そう思いながら指さして聞いてみた。

「あれ? ああ、花火を売っているみたいだよ」

 そうだ、夏だし花火の季節だろう。

「ちょっと見てみましょうよ」

「蒼良、一応捜査中だよ」

「じゃあ、花火売りを捜査しましょう」

「それは面白そうだね。そうしよう」

 藤堂さんと一緒に、花火売りを捜査することになった。

 花火売りの売り物を見てみると、いくつか種類があるのだけど、見たことあるのは一つだけ。

「あ、線香花火」

 私の知っている線香花火は2つあって、紙でできているやつと、棒でできていて、先に火薬がついているやつ。

 今回見たのは、先に火薬がついているやつだ。

「線香花火?」

 藤堂さんは知らないのか?

「牡丹だよ、牡丹」

 花火売りの人が言った。

 えっ、牡丹?線香花火じゃないのか?どう見ても線香花火に見えるが。

「ああ、牡丹。江戸だと全部千代紙でできているけど、京の牡丹は違うんだね」

 牡丹と言う名前を出したら、藤堂さんもわかったみたいで反応があった。

 線香花火は牡丹と言うのか?

 頭の中を?マークでいっぱいにしていると、

「やっぱり、蒼良は知らなかったりする?」

 と、言われてしまった。

 線香花火なら知っているが、牡丹は知らない。

「一度やってみるとわかるよ。買って今日の夜にでも早速やってみよう」

 藤堂さんは、牡丹と言う花火を数個買った。

 

「ええっ! 屯所に帰れないのですか?」

 土方さんは、今日はここに泊まると、西本願寺で言った。

「当たり前だろう。会津藩から言われた浪人は見つかってねぇしな。ここで帰って万が一何かあったら大変だろうが」

 花火、出来ないじゃないかっ!

「そんなに屯所に帰りたかったのか?」

 がっかりしている私を見て、土方さんが声をかけてきた。

 屯所に帰りたいのではなく、花火をやりたかったのだ。

 せっかくの夏だし、まだ夏の夜に花火したことなかったし。

「何もなければ、明日帰れるだろう。そう気を落とすな」

 何もなければ……何かあったらまたお泊りということか。

「そう言えば、長州が軍を率いて大坂に到着したぞ」

 大坂と言えば、近いじゃないか。

 軍を率いてと言う事は……

「戦になるのですか?」

「なるかもしれねぇな。まだお呼びはかかってねぇが、戦があったら、出陣するだろうな」

 いよいよ、禁門の変が始まりそうだ。


 夜、一応周りを見た。

 やっぱり何事もなかった。

 西本願寺に戻ってくると、藤堂さんがいた。

「あ、いた」

 ん?探していたのか?

「蒼良、せっかくだから、花火をやろう」

 藤堂さんが昼間買った花火を出した。

「だ、大丈夫なのですか?」

「そんなに音はしないし、大丈夫だよ」

 音がしないのか?かなり大きな音がするものもあるけど。

「明るくなりませんか?」

「そんな、打ち上げ花火じゃないんだから」

 私の知っている花火は、カラフルで、音も出て、煙も出るけど、本当に大丈夫なのか?

 心配している間にも、藤堂さんは花火に火をつける。

 ん?これは……

「はい、蒼良。持って」

 火のついた花火を持たされた。

 牡丹と言っていたけど、どう見ても、これは私の知っている線香花火だ。

 線香花火が牡丹と呼ばれていたらしい。

「この花火、知っていますよ」

 知っていたことが嬉しくて藤堂さんに報告したら、

「知らない方がどうかと思うけど」

 と言われてしまった。

 しばらく、二人で線香花火をしんみりとやっていた。

「でも、やっぱり、花火と言えば、江戸の両国の花火だよな」

 藤堂さんが、線香花火を見ながら言った。

 両国の花火?

「打ち上げ花火ですよね」

 まさか、両国でみんなでしんみり線香花火をやって花火大会じゃないよね。

「どんって打ち上げる花火だよ」

 後で調べてみると、現代で言う隅田川の花火大会の前身だったらしい。

「まさか、それも知らないって言わないよね」

 失礼なっ!それぐらい知ってる。

「あんさんら、何しとんやっ!」

 突然、大きな声が聞こえた。

 見ると、西本願寺のお坊さんらしい。その人が、慌てて私たちのところに来た。

「花火するのも結構やけどな、火の始末してもらわんとこまるで。火事でも起こしたら大変や」

「わかりました。火の始末きちんとします」

 藤堂さんが礼儀正しくそう言うと、逃げるようにそのお坊さんは去って行った。

「西本願寺の人だよ。私たちがお寺を使うことを快く思っていないみたいだからね」

 藤堂さんが、去って行ったお坊さんを見ながら言った。

「快く思っていないって、だって、ここ屯所になるんですよ」

「えっ、ここが屯所?」

 しまった、未来の話だ。

「いや、今は屯所のような感じになっていると言う事ですよ」

「そりゃ、一泊だけ借りているんだけどね」

 何とかごまかせたらしい。

 それにしても、よくこんなところを屯所にしようなんて思ったなぁ。

 八木さんの家の方が断然住みやすいわ。

 山南さんが反対したのもなんかわかるような感じがする。

「蒼良、片づけよう。火事でも起こしたら大変だ」

 藤堂さんに言われ、後片付けをした。

 火事でも起こしたら大変だと言われたので、たくさん水をかけておいた。

 結局、何も起こらず、平和なまま朝を迎え、屯所に帰った。


 屯所に帰ってきた次の日、会津藩から要請があり、竹田街道に出陣した。

 竹田街道は、伏見へと続く街道なので、伏見からくる長州軍に対処するために要請されたらしい。

 宿は九条河原だったので、やっぱり屯所には帰れなかった。

 次の日、長州軍が天王山に布陣した。

 天王山と言えば、明智 光秀と豊臣 秀吉が戦った場所だ。

 長州軍が移動したことで、隊の中は自然と騒々しくなった。

「長州軍が攻めてくるかもしれないぞ」

 永倉さんは、とってもはりきっていた。

 禁門の変は、7月だ。今は6月。

 ここから一か月ぐらいこのにらみ合い状態が続くのか?

「まだ攻めてこないですよ。この戦い、長くなりそうです」

「蒼良、なんでそんなことがわかるんだ?」

「だって、攻める気があれば、とっくに攻めているじゃないですか。例えば、大坂に入った時に一気に京に来るとか」

「そう言われてみると、そうだよな」

「幕府側もそうですよ。攻める気があればとっくに攻めてますよ。なんでこんなところで足止めされてないといけないのですか」

「それもそうだな。さっさと攻めてやろうか? 俺たちだけで」

 いや、そりゃ無理だろう。

「双方、戦の名目でも考えているんだろう」

 土方さんがそう言ってきた。

 戦の名目?

「戦には名目が必要だ。名目もなくただ攻めるのは、単なる喧嘩だ」

 そうなのか?

「どういう名目を探しているんだ?」

 永倉さんが土方さんに聞いていた。

「長州軍は、京を攻める名目だ」

「京から追放されたから、それが許せなくて挙兵したじゃだめなのですか?」

 私が聞くと、土方さんは静かに首を振った。

「それなら、去年の8月に何とかすべきだろう。今じゃ遅すぎる。帝を長州に連れて行こうとしていたから、幕府にいいように操られている帝をお救いするため。それが一番妥当だろう」

「池田屋のことで、容保公に恨みを抱いている長州人も多数いると聞いたぞ。もしかしたら、容保公暗殺を名目にすることもできるな」

 永倉さんが言った。

 それで、歴史の授業を思い出した。

「幕府側は、孝明天皇が長州軍を追い払うようにと言ったから、それが名目になりそうですね」

「えっ、そんなこと言ったのか?」

 土方さんと永倉さんが声をそろえて言ってきた。

 えっ、もしかして、まだそこまで行ってなかったのか?


 夜も交代で竹田街道にいた。

 いつ長州が攻めてくるかわからない時に、全員が場所を離れるわけにはいかないだろう。

「長州がいつ来るんだろうな」

 一緒に夜の竹田街道にいた原田さんが言った。

 最近の隊内の話題は、そればかりになっている。

「長くかかりそうですよ」

「新八も、蒼良がそう言っていたと言ってたぞ。にらみ合いなんてしてないで、パッと片してしまいたいな」

 こんなに早くからにらみ合いをするとは思わなかった。

「疲れますね。ただ立っているって」

「ははは。土方さんがそれを聞いたら、緊張感がないって怒られるぞ」

 だって、ここに来ないってわかっているのに、それを待っているのって、かなり疲れる。

 その時、つうっと光るものが通ったような気がした。

「なんか、光るものが通ったのですが」

 私がそれが通った方を指さすと、

「あ、蛍だ」

 と、原田さんが言った。

 よく目を凝らしてみてみると、一匹だけではなく、たくさんフワフワと光が浮かび上がっていた。

 この時代、農薬とか無いから水がある田んぼには必ず蛍がいるのだろう。

 そう言えば、ここら辺は田んぼだったなぁ。

「すごいっ! たくさんいるのですね」

「田んぼだからな、たくさんいるだろう」

「こんなにたくさん見たのって、初めてです」

「えっ? 田んぼがあるところにはいるだろう?」

 そう言うものなのか?

「夜に捕まえて蚊帳の中に入れると、蛍が光って綺麗だぞ」

「それ、楽しそうですね」

「ただ、朝になると、蛍の死骸だらけだけどな」

 それは嫌だなぁ。

「だから、捕まえないでこうやって見てるのが一番いい」

 原田さんが蛍を見ながら言った。

「そうですね」

「蛍も飛んでいるぐらいだから、近くに長州軍はいないな」

 今日も平和に終わりそうだ。


 数日後、会津藩も出陣することになり、それに伴い、私たちも九条河原に移動した。

 孝明天皇が長州軍入京拒否の勅が出され、一橋 慶喜公が長州退京勧告をだした。

 禁門の変が近づいてきているなぁ。そう実感した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ