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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治元年6月
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明保野亭事件

 土方さんが、会津藩に書状を書いたせいかわからないけど、会津藩から20人ぐらいお手伝いに来てくれた。

 数名は屯所の警備にあたり、数名は私たちと行動を共にすることになった。

「お前は、柴 司と言う藩士を連れて歩け」

 土方さんが突然言ってきた。

「ええっ! 私も会津藩の人を連れて歩くのですか?」

「人数が足りねぇから、仕方ねぇだろう。お前もこれから巡察なんだろう? なら連れて行け」

 私なんかが会津藩の人を会津藩の人を連れて歩いていいのか?

「よろしくお願いします」

 そう言って頭を下げてきた柴さんは、私と同じ年ぐらいの人だった。


「会津も盆地で京と気候は似ていますが、これほど暑くはないです」

 柴さんが歩きながら話してきた。

 年が近いせいか、色々と話は合った。

「京の暑さはすごいと言いますよね」

「天野さんは、大丈夫なのですか?」

「これぐらいなら、まだ何とか大丈夫ですよ。もっと暑い夏を経験していますので」

「これ以上に暑い夏があるのですか? それはどこですか?」

 どこと言えばいいのだろう?未来の東京?

「あ、蒼良そらはんや」

 この声は、

「牡丹ちゃん。お久しぶり」

 向こうから牡丹ちゃんと楓ちゃんがやってきた。

 いつの間にか、島原に入っていたらしい。

「蒼良はん、新選組すごい有名になってますえ」

 楓ちゃんが最初に行ってきた。

「京を火の海からすくった英雄や」

 牡丹ちゃんは、自分がほめられているように胸をはって行った。

「英雄って、大げさだよ。ただ、池田屋で長州の人たちが会合していると聞いて、踏み込んだだけですよ」

「でも、すごい戦いやったって聞いたで。みんな刀がボロボロになったらしいし」

「あ、けが人もおるって聞いたけど、蒼良はんは大丈夫そうやね」

 楓ちゃんの言葉を遮るように牡丹ちゃんが言った。

「私は大丈夫ですよ」

「よかったわ。で、横の人は誰なん?」

 楓ちゃんは、柴さんの顔をジロジロ見ながら言った。

 ジロジロ見られている柴さんは、なぜか固まっていた。

「もしかして、島原とか初めてですか?」

 聞こえないようにこっそりと聞いたら、真っ赤な顔してうなずいた。

「こちらは、島原の芸妓さんで牡丹ちゃんと楓ちゃんです」

「こんにちわ」

 私が紹介すると、二人で声を合わせて挨拶をした。

「こ、こんにちわ」

 柴さんは、緊張した感じであいさつした。

「なんや、怖がっとるんか?」

 楓ちゃんは再びジロジロ見ている。

「怖いのではなく、島原初めてだから、緊張しているのですよ」

「何や、そうなん? まだ昼間やし、緊張するなら、夜来た方がええで。お座敷に呼んでもろうたらお酌しますえ」

 牡丹ちゃん、営業しているし……。

「そ、そんな」

 柴さんはますます赤くなっている。

「巡察中なので、今日はここで失礼します。また島原に来た時に」

「そんなこと言うたって、蒼良はんは全然来ないやないの」

 牡丹ちゃんが軽く私の腕をたたいた。

 夜の島原って、一番私と無縁の世界だから、足が遠ざかってしまう。

「今度来ます」

「今度とお化けは出たためしないって言うで」

 楓ちゃんは軽く腕を引っ張ってきた。

「わかりました。必ず行きますので、放してください」

「約束やで」

 牡丹ちゃんと楓ちゃんは声をそろえて言うと、二人そろって去って行った。

「天野さん、人気があるのですね」

 柴さんが恐る恐る言ってきた。

 いや、あれは商売だろう。


 巡察が終わり、屯所に帰ると、屯所内は騒然としていた。

「蒼良、帰ってきたか?」

 武田さんがえらそうに出てきた。

 って言うか、いつから呼び捨てなんだ?

「長州の人間が会合しているという情報があった。これから向かうから、そこにいる会津藩士も一緒に連れて来い」

 命令か?口調が命令なのは気のせいか?

「蒼良、行くぞ」

 ポンッと原田さんに肩をたたかれた。

 私も柴さんと一緒に現場に行くことになった。


「天野さん、捕縛に向かうと言うことは、相手を斬ることはあるのですか?」

 柴さんは、真っ青になった顔で聞いて来た。

「人は、斬ったことないのですか?」

「恥ずかしながら……」

 いや、恥ずかしいことではない。

 この時代も今まで平和だったから、人を斬っていない武士なんてたくさんいる。

 むしろ、人を斬っていない人の方が多いかもしれない。

「大丈夫ですよ。柴さんは、槍をもって待機してくれれば、後は私たちがやります」

 柴さんも、原田さんと同じく槍を使う人みたいで、槍を持っていた。

「それでいいのですか?」

「いいわけないだろう」

 前を歩いていた武田さんが、突然私たちのところにやってきた。

「会津藩からの援軍だと聞いた。会津藩士は、戦いを黙って見ていろと言われたのか? それでもお前は武士なのか?」

「いえ、そのようなことは言われていません」

「それなら、先頭になって参加するのが武士と言うものだろう」

 そ、そうなのか?

「でも、捕縛に初めて参加する人に、先頭になってなんておかしいじゃないですか」

 私は、なぜかえらそうにいばっている武田さんに言った。

「でも、武士なんだろ? 武士は戦いに先頭になって参加するものだろう」

「武士でも、初めての戦いは後ろで待機している物じゃないのですか?」

 よく時代劇で、初陣だなんて言って、若い男の子が戦に参加するときは周りを家臣に囲まれているような感じがしたが。

「俺は、武士じゃないから、そんなことわからないな」

 なんじゃそりゃ。

「まあまあ。ここで言い合っている場合じゃないだろう。とにかく、俺たちが何とかするから、危険なときは応援頼む」

 原田さんが、ポンッと柴さんの背中をたたいた。

「ほら、武田も早くいけ。相手に逃げられるぞ」

 武田さんは、悔しそうに前に戻って行った。

「最近、奴は蒼良に振られてから、蒼良にきつくあたることが多くなったな」

 そうなのか?

 でも、武田さんはあと3年後ぐらいに、薩摩や御陵衛士に接触しようとして、行動に不審な動きがあるから殺されてしまう人だ。

「3年我慢すれば、なんとかなりますよ」

「なんで3年なんだ?」

 原田さんが首をかしげていた。

「人の我慢も3年までですよ」

 何とかごまかした。

「蒼良、まさか、3年後に斬ってやろうとか考えているんじゃないだろうな?」

「いや、私じゃなくても、他の人がやるでしょう」

「それもそうかもな。いつもえらそうにしている割には、近藤さんの前ではぺこぺこしているからな。隊の中でも嫌われ者だ」

 そりゃそうだろう。一番人に嫌われる性格だ。

 柴さんを見ると、武田さんの言葉を聞いたせいか、さらに真っ青になっていた。

「柴さん、大丈夫ですよ。私たちが柴さんを死なせませんから」

 会津藩士を死なせたってなったら、えらい騒ぎになるだろう。

「それじゃあ、私が手伝いに来た意味がないじゃないですか」

 それもそうだな。

「それなら、槍を構えているだけでいいですよ。私たちが危なくなったら、助けてください」

「わかりました」

 ところで、私たちはどこに向かっているんだ?


 私たちが着いたところは、東山にある料亭兼旅館の明保野亭と言うところだった。

「御用改めさせていただく」

 武田さんが偉そうに中に入って行った。

「さ、お前たち行け」

 真っ先に入って行ったけど、中に入った途端、私たちを先に行かせた。

 なんなんだ、この人は。

 中に入って襖を開けると、武士風な人がいた。

 私たちの姿を見ると、逃げ出した。

「止まれっ!」

 原田さんが言ったけど、相手は止まらなかった。

「お前、何をしている。その槍は飾りか? ちゃんと働いてもらわないと困るな」

 武田さんが柴さんに言っている声が聞こえた。

「柴さん……」

 大丈夫ですよ。私たちがやりますから。

 そう言おうとしたら、柴さんは槍をもって相手を追いかけた。

 そして、槍で相手を斬った。

 斬られた方は、大人しくなった。

「それ以上は斬らないでくれっ! 俺は、長州の人間じゃない。土佐藩士、麻田 時太郎と申す」

 土佐藩士?

「武士ですか?」

 私が聞いたら、麻田さんと言う人はうなずいた。

「これは、捕縛は無理だな。どうすんだ? 武田」

 原田さんが、武田さんに聞いた。

「解放だ、解放」

「お前が斬れって言ったのだから、お前が責任取らないとな」

 原田さんが、武田さんの方を見て行った。

「俺は斬れとは一言も言ってない。働いてもらわないと困ると言っただけだ。さ、帰るぞ」

 武田さんは外に出て行った。

「本当にあいつは嫌われる性格だな」

 原田さんはため息つきながら言った。

 柴さんは、槍を持ったまま呆然としていた。

「柴さんは悪くないですよ。相手も、私たちの制止を無視して逃げたのだから、相手にも非はあるのです。私たちも行きましょう」

「は、はい」

 柴さんと私も外に出た。


 柴さんは、今回のことを一応藩の方に報告した。

 会津藩の方も、柴さん行動には問題ないけど、一応医者と謝罪の使者を送った。

 土佐藩の方も、逃げたこちら側も悪いということで、円満に解決。

 となったと思っていた。


「えっ、柴さんが切腹ですか?」

 突然、土方さんからそう聞いた。

「そうだ」

「どうしてですか? 円満解決じゃなかったのですか?」

「それがだな……」

 土方さんの話によると、あの時柴さんが斬った麻田さんと言う土佐藩士は、土佐藩から士道不覚悟と言うことで、切腹を命じられて切腹をしたらしい。

 それで、他の土佐藩士たちから、こちら側だけ切腹とは不公平だということになったらしい。

「喧嘩両成敗と言うことだな」

 土方さんが言った。

「でも、これは喧嘩じゃないし、相手が逃げれば怪しく思って誰だって追うし斬りますよ」

「最初は、会津藩も土佐藩もそう思っていた。しかし、このままほっとくと、会津と土佐の間にも亀裂が入りかねない事態にまで発展した。今は、会津と土佐の間に亀裂を入れることは出来ねぇんだ」

「そんな……」

「関係悪化を止めるには、柴も切腹するしかねぇだろう」

 何も悪いことしていないのに切腹なんて。

「お前が納得できないことはよくわかっている。俺も納得してねぇ。でも、上の人間か決めたことだ。それに従わないわけにはいかねぇだろう」

 この時代は、藩主の言うことには接待服従なのだろう。

「運が悪かったということだな」

 土方さんも、悲しそうな顔をしていた。

 運が悪かったという一言で片づけたくないけど、そう言うしかないのかも。


 柴さんは次の日に切腹した。

 その次の日のお葬式に私も参列した。

 お墓は会津守護職のある場所、金戒光明寺に作られた。

 柴さんは、すごく立派な死だったらしい。

 私と年も変わらない人だった。

 それなら、立派な死だったと言われるより、もっと生きていたかったのではないかな。

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