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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治元年6月
115/506

池田屋事件その後

 屯所に帰って来たのは、お昼ぐらいだった。

 池田屋の主人、池田屋惣兵衛を捕縛し、残党狩りで数人捕縛したらこんな時間になってしまった。

 最後には祇園に行って、疲れていたのか、間違えて薩摩の人を捕縛したりしたけど、何とか無事に帰ってきた。

 しかし、体は疲れているのに、頭がさえて眠れなかった。

 他の人もそうみたいで、池田屋事件と言う結構大きな捕り物に遭遇して興奮した雰囲気がまだただよっていた。

「お前っ! あの時、俺の制止を聞かずに中に入っただろう」

 土方さんもそうみたいで、屯所に着くなりお説教が始まったのだ。

「制止? したのですか?」

「まてっ! と言っただろう」

 そうだったか?

「聞こえませんでしたが」

「俺は間違いなく言ったぞ」

 きっとその時は藤堂さんと沖田さんを助けることで精いっぱいだったから、聞こえなかったのかもしれない。

「池田屋だっ! って、何回も何回も何回も言っても聞いてくれなかったから、早くいかなければと思ってあせっていたのですよ」

「何回もを3回も言うことねぇだろう」

「だって、何度も言ったのに、聞いてくれなかったじゃないですか」

「お前の勘だけで動けねぇって、何回も言っただろうが」

「でも、最終的に私の勘はあっていたのですよ」

「ま、そりゃそうだが……。なんでわかっていたんだ?」

「だから、勘ですよ、勘」

 まさか、未来から来て云々なんて言えないだろう。

「勘以外に何かなかったのか? 長州の人間が吐いたとか」

「いや、勘です」

 下手なことを言って、ごまかせなくなっても困る。

「だからってなぁ、勝手に中に入って行くのもどうかと思うぞ。池田屋の中はかなり危険だったはずだ。そう言う危険なところにお前を一人で行かせるわけにはいかねぇだろう」

「でも、ここにきて、数々の危険を経験していると思うのですが」

 思えば色々あったよ、本当に。よく生きていられるなぁと、自分で自分をほめてあげたい。

「だからって、その危険の数を増やすことはねぇだろうが。お前は一応女なんだし、ちょっとはわきまえろ」

「女だからって、わきまえていたら、新選組にいられませんよ。すぐに近藤さんにばれてしまいますよ」

「それもそうなんだが……」

「副長、いいですか?」

 山崎さんの声が聞こえてきた。

「なんだ?」

蒼良そらさんに天野先生が見えています」

 お師匠様が来たか。

 土方さんの説教が中断されてよかった。

「わかりました。すぐ行きます」

 私は、急いで部屋を出た。


 お師匠様は、近藤さんと短いあいさつを済ませた後、私と一緒に外に出た。

「藤堂は助かったらしいな」

「はい。お師匠様の言う通り、沖田さんも大丈夫でした」

「蒼良や、その話なんじゃが」

 お師匠様は、言いにくそうな感じで言った。

「沖田は、倒れていたのか?」

「はい、倒れていましたが、血は吐いていませんでしたよ。熱中症の症状が出ていたので、熱中症で倒れたと思います」

「そうか……」

 お師匠様、嬉しくないのか?

「お師匠様、何かありましたか?」

「実は、沖田のことなんだが、あいつは、池田屋で喀血はしておらんようだ」

 ん?どういうことだ?

「池田屋で、人を斬っているときに喀血したと言われているし、本やらドラマでもそうなっているから、てっきりそうだと思っただろう?」

 ち、違うのか?

「あれは、面白くしようという演出が入っているかもしれんと言う解釈もある」

 そ、そうなのか?

「でも、倒れたのは本当だ。それはどの文献にも載っていることじゃ。ただ、倒れた原因が、熱中症か結核かでわからんことも多い。今回、沖田は熱中症で倒れたということは、歴史の解釈で熱中症で倒れた方が正解と言うことになる」

 と言う事は……

「私は、沖田さんに関しては歴史を変えられなかったということですね」

「そう言うことじゃ。沖田が倒れる前に何とかしておったら大丈夫だったかもしれんがのう」

 あの時、早く池田屋に行っておけばよかった。

 のんきに四国屋なんかに行っているから……。

「蒼良、がっかりする気持ちはわかる。歴史を変えることは簡単なことではないと言っただろう。それに、藤堂は完全に助けることができたのだ。それだけでもわしはすごいと思うぞ」

「お師匠様、ありがとうございます」

 お師匠様に慰められるとは。

「沖田は、結核になるまでまだ時間があるだろう。その間に何とかすればよい」

 なんとかできるのだろうか。この時代では、結核は不治の病だし、沖田さんがどこで感染したかもわからない。

 もう感染しているのかもしれないし、まだかもしれないし。

「やっぱり、現代に戻って、結核の薬を持ってくるわけにはいかないんですか?」

「それは、前にも話したじゃろう」

 そうなのだ。タイムマシンが壊れてしまうかもしれないから、無理なのだ。

 現代との往復は少なければ少ないほどいいのだ。

「ま、最終的に出来る限り現代に連れて帰りたいし、沖田も現代に行ったらすぐに治るだろう。死なせやせん」

 お師匠様のその言葉に安心した。

 お師匠様がいる限り、沖田さんは死なないだろう。大丈夫。なんかほっとした。

「それでじゃがな」

「何ですか?」

「もうすぐ禁門の変が始まるだろう?」

 そうなのだ。池田屋事件も原因の一つなんだろうけど、この後、長州が幕府派の排除を目的とし挙兵する。

 それが京に来て京が戦場となる事件が、禁門の変だ。

「それがどうかしたのですか?」

 その禁門の変とお師匠様がどうつながるのだ?

「その時に京は火の海になる。わしの長屋は場所的に大丈夫そうじゃが、わしがどうなるかは心配じゃ」

「長屋が大丈夫なら、長屋にこもっていればいいと思うのですが」

「蒼良は冷たいのう」

 つ、冷たいのか?他に何を言えばいいのだ?

「どこか、安全なところに避難した方がいいとか言えんのか?」

 ああ、その言葉がほしかったのか。

「それなら、屯所に来ますか? ここも大丈夫でしょう。お師匠様ならみんな大歓迎ですよ」

「こんなむさくるしいところにおれるわけないじゃろう」

 そのむさくるしいところに孫をおしこめているのは、まぎれもなくお師匠様なのですが。

「それなら、どうするのです?」

「避難する」

「どこにですか?」

「温泉のあるところに。と言うわけで、明日から避難してわしは居らんから、蒼良、頑張れ」

 何が避難だ。ようは、温泉巡りの旅に再び出るということだろう。

「わかりました。気を付けて行ってきてください」

「じゃぁな、蒼良」

 お師匠様は、スキップをして去って行った。

 お師匠様は、新選組を助けるためではなく、温泉巡りをするために江戸時代に来たのか?


 屯所で山南さんがいる部屋の前を通ったら、沖田さんと藤堂さんの話声がした。

「沖田さん、もう起きて大丈夫なのですか?」

「蒼良は、すぐ人を病人にするんだから」

「心配しているのですよ」

「蒼良の言う通り、塩を入れた水を飲んだらよくなったよ」

 本当なら、スポーツドリンクを飲ませたいけど、この時代にはないから、仕方ない。

「どれぐらい飲みましたか?」

「湯呑一杯かな」

「もっと飲まないとだめですよ」

「これ以上飲んだら、腹が水で破けてしまうよ」

「蒼良、総司も元気になってきたから、それで勘弁してやってくれ」

 山南さんが言ってきた。

 山南さんは、最近になってやっと床上げができた。

 しかし、ずうっと寝たり起きたりの生活だったので、池田屋事件は屯所で待機していた。

「今、総司と平助から話を聞いたが、すごい騒動だったらしいな」

「そうなんですよ。永倉さんは手を怪我してましたが、そのまま戦っていましたよ」

「聞いたよ。刀もボロボロになったらしいな」

 刀は永倉さんだけでなく、藤堂さんのもボロボロになっていた。

 しかし、一番戦闘が激しかった近藤さんの刀はなぜか無事で、

「さすが虎徹」

 と言っていた。

 まさか偽物とは言えないし、斎藤さんの顔を見たら、

「偽物でも、出来のいい偽物らしいな」

 と、近藤さんに聞こえないように言っていた。

「私は、斬られそうになったところを蒼良に助けてもらいました」

 藤堂さんは笑顔で山南さんに言った。

 歴史を変えることができたのは、結局これだけだったけど、歴史通りにいっていたら、藤堂さんはこうやって山南さんと笑顔で話しているこの時がなく、治療のために横になっていたりしていただろう。

 それだけでも、よかったのかもしれない。

「それもさっき聞いた。蒼良は、よく押入れに入っていた敵を見つけたな」

「押入れに人の気配がしたので」

「その気配を感じるだけでもすごいことだぞ」

「私なんか、疲れて気配さえも感じることができなかったから」

 藤堂さんは、優しい笑顔を私に向けながら言った。

「私は、まだ池田屋に来たばかりで疲れていなかったので。あの暑い中長い時間戦っていたら、誰でも疲れますよ」

「蒼良には、本当に感謝している」

 藤堂さんに笑顔で言われてしまった。

「蒼良も、意外と大活躍だったみたいだね。場所も早くから知っていたみたいだし」

 沖田さんがチラッと私を見ながら言ってきた。

 な、なんで知っているんだ?

「土方さんが、屯所に帰るときに言ってた」

 土方さんが?

「蒼良の言う通り、早く池田屋に行っていたら、こんなにけが人を出さすに済んだかもしれねぇのになって」

 そうだったのか。

「蒼良は、なんで池田屋だってわかったんだ?」

 山南さんに聞かれてしまった。

「勘です」

 と、一言私が言ったら、一瞬シーンとなった。

「まさか、土方さんも、蒼良の勘だけで動けないよね」

 最初に沈黙を破ったのは沖田さんだった。

「でも、蒼良の勘もすごいね」

 藤堂さんは、フォローするかのように言ってくれた。

 山南さんは、ただ静かに笑っていたけど、笑顔が引きつっていた。

 私の勘って、そんなにあてにならないのか?


 その後、池田屋事件を批判した張り紙や看板などがたったりした。

 長州の人が報復のために屯所を攻撃するという噂も流れ、一時屯所内は騒然としたりした。

 そんな中でも、嬉しいことがあった。

「会津藩が、京都見回り組をうちの組と一緒にお預かりにすることを断ったそうだぞ」

 土方さんが嬉しそうに言った。

「やっぱり、これ以上暴れ者を預かるわけにはいかないということなんですかね」

「向こうはいい家の坊ちゃんたちがいるから、うちみたいに乱暴者ばかりじゃねえだろう。むしろ、向こうの方が品がいいかもしれんぞ」

 そうなのか?

「容保公はうちの隊を選んでくれたということだろう」

 そう解釈していいのか?

「近藤さんなんかすごい喜んで、一生容保公に仕えるって言ってるぞ」

 えっ、いいのか?

「お前、嬉しくないのか?」

「嬉しいですけど、なんか裏に陰謀とかが隠れていそうな感じがして、素直に喜べないのですよ」

「その気持ちもわかるが、今は喜んどけ。陰謀があればその時に出るから、出た時に何とか対処すればいい」

 それもそうだ。

 歴史から見ても、見廻組とは仕事は一緒だけど、どうってことはなかったような気がする。

 見廻組は、確か、坂本 龍馬を暗殺したぐらいしか知らないな。

 ……それって、いいことなのか?確か、勘違いされて、近藤さんが処刑されてしまうのではなかったか?

「だめじゃんっ!」

「何がだめなんだ?」

 思わず声に出してしまい、土方さんに聞かれてしまった。

「いや、池田屋の件は終わって、いつ間でも浮足立っていたらいけないなぁと思いまして」

 何とかごまかした。

「それもそうだな。でも、動ける隊士が少ないから、会津藩に援軍でも頼むか」

 そう言うと、土方さんが何かを書き始めた。

 それが新たなる悲劇を生むことになったのだった。

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