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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治元年6月
114/506

池田屋事件

 動ける隊士は、祇園会所と言うところに集合した。

 そこにはすでに武器とかが置いてあった。

 武装をして歩いていた日には、新選組が何か企んでいると感じ、私たちが敵視している人たちが用心して会合自体が開かれなくなる恐れがあるからだ。

 しかし、そこで思わぬ足止めにあった。

「会津藩は何をしているんだ」

 近藤さんがイライラしているのか、あせっているように言った。

 近藤さんは、古高さんの自白が確認された時点で会津藩に出動要請を送っている。

 うちの隊も、動ける人間が30人前後しかいないからだ。

 その、会津藩からの援軍が待てど暮らせど来ない。

 もう来ないだろう。歴史では来ないことになっている。

「もう待てんっ! これ以上待つと、相手にばれる恐れがある。踏み込もう」

 近藤さんのその言葉で、会津藩を待たないで行くことになった。

「隊を二つに分けるぞ」

 土方さんが言った。

 ん?池田屋を2カ所から攻撃するということか?

 しかし、話を聞いているとどうも違うようだ。

 池田屋に行くのではなく、会合しそうな場所を捜査して探すらしい。

「池田屋じゃないのですか?」

 なんかおかしいと思い、私は土方さんに聞いた。

「確かに、書状の中には池田屋も出てきた。普段会合には池田屋を使っていたらしい。しかし、枡屋が捕まった今、いつもと同じところで会合すると思うか? 俺なら仲間が捕まって自白したらしいということを聞いたら、場所を変えるがな」

 その考えはとってもいい考えなんだけど……

「ということは、やっぱりこれから場所を探すのですか?」

「そう言うことになるな」

 そんなっ!

「池田屋ですっ! 会合の場所は池田屋に間違いないです。みんなで池田屋に行きましょうっ!」

「お前、どうして池田屋だと思うんだ?」

 土方さんが怪訝そうな顔をして聞いて来た。

 だって、池田屋事件って有名じゃないかっ!

 でも、それは理由にならない。

「か、勘ですっ!」

「……」

 土方さんはしばらく沈黙していた。

 な、何か悪いことを言ったか?

「隊を二つに分けて捜索する」

「土方さん、絶対に池田屋ですっ!」

「お前の勘だけで行動して、全員で池田屋におしかけて、会合が無かったらどうする? そこからまた探し回ることはもう出来ねぇんだぞ」

「私の勘はよく当たるんですよっ! 池田屋ですっ!」

「わかったから、一緒に来い。お前は俺と一緒に行動する」

 池田屋で間違いないのに、どうして信じてもらえないんだ?

 祇園会館を出て、そこで近藤さんたちと別れた。

 私たちは、近藤さんたちと反対側に行った。

 近藤さんたちの方に沖田さんや藤堂さんがいたから、私は近藤さんと一緒に行くべきだったんじゃないのか?

「土方さん、私、近藤さんたちと一緒に行きます」

 近藤さんたちの方へ行こうとしたら、土方さんに襟首を掴まれてしまった。

「こんな時に何言ってんだ。お前は俺と一緒だ。わかったか?」

 沖田さんと藤堂さんを助けないといけないのに、しょっぱなからこんなふうになって、助けることができるのか?


「ここでもないみたいだな」

 もういくつかの場所を回っている。

 近藤さんたちと別れてからかなり時間が経っているから、もう近藤さんたちは池田屋についているのかもしれない。

 近藤さんたちは、連れていた隊士たちも6人ぐらいしか連れていない。

 6人で大丈夫なのか?

「心ここにあらずだな」

 私の方を見て、土方さんが言った。

「池田屋だって言っているじゃないですか」

「お前の勘ばかり信じるわけにはいかねぇって、さっきから何回も言っているだろう。それに、池田屋だったら近藤さんたちが巡察しているはずだ」

「土方さん、次はどこに行く?」

 原田さんが土方さんに聞いて来た。

「次は、四国屋だ。ここが本命だ」

「ええっ、四国屋がですか?」

 土方さんの言葉に驚いて、思わず聞き返してしまった。

「そうだ。お前の本命は池田屋だろう?」

「本命と言うか、本当に池田屋なんですってばっ!」

「わかった、わかった」

 全然わかっていないなっ!

 場所は池田屋だとわかっているのに、こうやって場所を探しているのがもどかしくってイライラしてしまった。

 四国屋に着いたけど、やっぱり会合をしている雰囲気がない。

「ここでもないか」

 土方さんがつぶやいた時、

「副長っ!」

 と言う山崎さんの声がした。

「会合は池田屋でした。すでに局長たちが入っていますが、苦戦しています」

 近藤さんたちは人数が少なかったから、苦戦もするだろう。

「わかった。急いで池田屋に行くぞ」

 土方さんのその言葉に、待っていましたとばかりに私は飛び出した。

「おいっ! そんなに焦っていると、やられるぞ」

 土方さんにまた襟首を掴まれた。

「池田屋だって、言った通りじゃないですか」

「たまたまお前の勘が当たっただけだろうがっ!」

「私の勘はよく当たるのですよっ!」

「その勘が、一番あてにならねぇんだよっ!」

「副長、今は言い合いしている場合じゃないです」

 山崎さんの言う通りだ。今は言い合いしている場合じゃない。

「とにかく、池田屋へ急ぎますよ」

 私は、池田屋に向けて走り出した。


 土方さんたちの中で、一番最初に着いた。

 早く沖田さんと藤堂さんを助けなくてはっ!そう言う思いが私の足を速くした。

「お前っ! ずいぶん足が速いじゃねぇか」

 土方さんが、息を切らしながら言ったけど、私の耳には入っていなかった。

「おいっ! むやみに中に入るんじゃねぇっ! おいっ!」

 呼び止められたけど、無視して池田屋の中に入って行った。

 池田屋の中は、蒸し風呂のようだった。

 夏なので暑いのも当たり前だ。

 しかし、こんなにも暑いものなのか?きっと、熱気もあるんだろう。

 暑いと同時に、血の匂いも漂っていた。

 こんな中でよくみんな戦っているなぁ。

「あ、蒼良そら。土方隊が着いたのか?」

 永倉さんが私の姿を見つけ、刀を持ったまま近づいてきた。

「な、永倉さん、手がっ!」

 永倉さんの刀を持ってる手が血だらけになっていた。

「ああ、指が斬れているらしい」

「斬れているらしいって、痛くないのですか?」

「こんな時に痛がってもしょうがないだろう。それになぜか、痛みを感じないんだよな」

 そりゃ、今は斬り合いの途中だから、緊張感の方が上になっていて、痛みを感じないのだろう。

「それより、援軍を頼む」

「わかりました。藤堂さんはどこにいますか?」

「確か、中庭の方にいたぞ」

「そっちに行きます」

「ああ、頼んだぞ」

 先に藤堂さんを助けよう。

 そう思い、中庭へ行った。

 中庭に行く途中にも、二人ぐらい斬りかかっていたけど、何とか切り捨てた。

 そして、近藤さんも1階にいるのか、たまに

「えいっ! やぁっ!」

 と言うような声が聞こえてきた。


 中庭の方に行ったけど、藤堂さんはいなかった。

 周りを見回すと、そこの近くの部屋に入ろうとしていたところだった。

 きっと、その部屋の押し入れの中に敵がいるかもしれない。

「藤堂さんっ!」

 私は、藤堂さんを呼び止めた。

「蒼良?」

 藤堂さんは、ここに私がいるのが信じられなかったのか、目を見開いて私を見た。

「どうしてここに?」

「援軍に来たのですよ」

「もうほとんど片付いていると思うよ。それにしても、この中は暑い」

 藤堂さんは、鉢金を取ろうとした。

「だめですっ! 取らないでください」

 私は慌てて止めた。

「蒼良、どうしたの?」

 私の慌て方に疑問を持ったらしい。

「まだ敵がいるかもしれないです」

「いや、きっともういないよ」

「います。多分ここに」

 藤堂さんがはいろうとしていた部屋に押入れがあった。

 隠れているなら、ここしかない。

 私は素早く入り、押入れに刀をさした。

 手ごたえはあった。

 押入れはミシッと言う音を立てて、襖が倒れてきた。

 それをよけたら、襖と一緒に、私の刀がおなかに刺さったままの人も倒れてきた。

 これで、藤堂さんを助けることはできたのか?

 藤堂さんを見たら、驚いて固まっていた。

「敵がいたでしょう? 油断は禁物ですよ」

 私は、自分の刀を敵から抜いた。

 すると突然、藤堂さんに抱きしめられた。

「藤堂さん? どうしたのですか?」

「私が、やられてた」

 抱きしめられていたので、藤堂さんの声が藤堂さんの体の中から聞こえた。

「蒼良がいなかったら、私がやられていたかもしれない。ありがとう」

 その声とともに、抱きしめる腕に力が入ったのか、さらに強く抱きしめられた。

「と、藤堂さん、く、苦しいです」

「あ、ごめん。つい力がはいっちゃって」

 ようやく私は解放された。

「蒼良、本当にありがとう」

 藤堂さんに笑顔で言われた。

 次は、沖田さんだ。


「2階が静かすぎる。誰か、総司を見に行ってくれ」

 近藤さんの声が聞こえた。

 近藤さんの方もひと段落ついたらしい。

「私が行きます」

 私は、2階へ続く階段を駆け上がった。

「私も行く。一人では危険だよ」

 藤堂さんも、私の後をついてきてくれた。

 2階で見たものは、敵が数人倒れていて、窓の方に沖田さんが血だらけになって倒れていた。

「沖田さんっ!」

 沖田さんは、助けることができなかったのか?

 労咳になってしまったのか?

「総司っ!」

 藤堂さんも、沖田さんに駆け寄った。

 沖田さんの労咳を防ぐことができなかった。

「蒼良、何泣いているんだい?」

 沖田さんが薄目を開けて私を見た。

「こんなところで泣いていたらだめじゃないか」

 沖田さんの血だらけの手が、私の頬に触れた。

「沖田さん、血を吐いてしまったのですね」

 私の言葉に、藤堂さんも驚いた顔をしていた。

「労咳なのか?」

 藤堂さんが聞き返した。

「労咳? 違うよ。これは敵を切った時の返り血だよ」

 えっ?

「血は吐いていないのですか?」

「なんで僕が血を吐かなければならないんだい?」

「沖田さん、嘘はついていないですよね」

「こんな時にこんな嘘ついても、楽しくないじゃん。それより足がつって痛いのだけど」

「足がつって痛いから倒れているのですか?」

「急にめまいもして、立っていられなくなった。少し頭もいたいなぁ」

 これって……

「熱中症だ」

「ねっちゅうしょう?」

 藤堂さんと沖田さんが声を合わせて言った。

 この時代にはない病気かもしれない。

 現代と比べると、この時代の夏の方が涼しく感じる。

「沖田さん、水分は?」

「敵と戦っているときに、水飲めるわけないじゃん」

 やっぱりそうだ。

「とにかく、外に出ましょう。ここは暑いので、涼しいところに出て、少し塩を入れた水分を取れば治りますよ」

「総司、立てるか?」

 藤堂さんが沖田さんを立たせたけど、フラフラするらしく、一人で歩かせられない。

 藤堂さんと私で沖田さんを支えて階段を降り、外に出た。


「そ、総司っ! やられたのか?」

 外に出ると、私たちの姿を見て、土方さんが飛んできた。

「ああ、ここは涼しいっ!」

 沖田さんを下に座らせると、生き返ったかのようにそう言った。

「やられたんじゃないのか?」

 土方さんは心配そうな顔をして聞いた。

「あれは全部返り血です。沖田さんはちゃんと敵を倒していましたよ。しかも一人で5人ぐらい」

「さすが、総司」

 池田屋はすでに敵はいなくなっていた。

 外に捕縛された人間が何人かいた。

「いや、やっと片付いたな。おっ、夜が明けたじゃないか」

 近藤さんが出てきて東の空を見ながら言った。

 本当に太陽が顔を出し始めたところだった。

 周りを見ると、ずいぶんとたくさんの人がいた。

「会津藩が色々な藩の人間を集めて駆け付けたが、来るのが遅かった」

 土方さんが、疲れたように言った。

「それで、今になってこんなにたくさんの人が……」

「せっかく来たんだ。後始末ぐらいはやらせてやろうか」

 土方さんは、その大人数の代表の人なのか、その人と話をした。

 話が終わったころには、中にいた隊士も全員出てきた。

「よし、帰るぞ」

 近藤さんの号令とともに屯所に向かって歩き出した。


 屯所に帰る道は見物人でいっぱいだった。

 いつもは嫌われ役の私たちで、冷たい視線を感じるのだけど、この日の視線はとっても暖かかった。

「おおきにっ!」

 と言う声も所々で聞こえた。

 そうやら、京を火の海から救った英雄になっているらしい。

 こういう気分も悪くないな。そう思った。

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