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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治元年6月
112/506

どうする?池田屋事件

 6月になった。

 現代で言うと7月の中旬ぐらいだ。

 梅雨も完全にあけ、暑い日が続いている。

 元治元年6月と言えば、池田屋事件だろう。

 とうとうこの月が来てしまった。

 それにもかかわらず、私は何も出来ずにいた。

 最近は、池田屋事件を阻止した方がいいのでは?と思うこともある。

 池田屋事件を阻止した場合、沖田さんが倒れることはないと思う。

 しかし、長州の人たちが考えていることが実行されてしまった場合、御所に火を放たれ、孝明天皇が長州に連れていかれ、私たちの上司にあたる容保公は殺されてしまうかもしれない。

 歴史通り、池田屋事件があった場合と比べると、被害が大きくなるけど、死ぬ人間は少なくなると思う。

 池田屋事件の後は禁門の変というものがあり、京が火の海になってしまうからだ。

 どちらがいいのだろう?こんな時にお師匠様がいれば相談できるのだけど、いるのだろうか?

 お師匠様がいる長屋に行って見よう。

 そう思い、屯所を出た。


「そろそろ来るとおもっとったぞ」

 お師匠様の長屋に行ったら、なんと、お師匠様がいた。

「江戸時代温泉巡りの旅に出ていたのではなかったのですか?」

蒼良そらや、元治元年の6月と言えばあの事件だろう」

「池田屋ですか?」

明保野亭あけぼのてい事件じゃ」

 な、なんだっ!その事件はっ!

「お師匠様、池田屋事件の方が有名だと思うのですが」

「おおっ、そんな事件もあったな」

 だ、大丈夫か、お師匠様。

「忘れていたわけじゃないのだ」

 忘れていただろう、思いっきり。

 温泉と一緒に頭の中も流れたのかもしれない。

「蒼良、用事があったからここに来たのだろう?なんじゃ?」

「その池田屋事件のことできたのです。阻止すべきか、そのまま実行させるべきか」

「阻止はできんだろう」

 なんでだ?

「歴史を変えることは、簡単じゃないと言うたはずじゃ。池田屋事件をなくすことはできんじゃろう」

「やってみないとわからないですよ」

「蒼良は、どうしたら阻止できると思っておる?」

 どうしたらって、それを聞きに来たのだけど。

「わしも、阻止する方法は思いつかん。思いついていたら、とっくのとうにやっておるわ。それより、蒼良に頼みがあるんじゃ」

 頼みって、なんだ?ろくなことじゃなかったらどうする?

「沖田と藤堂を救え。それぐらいならできるじゃろう」

 まともなお願いじゃないかっ!そのことにびっくりしてしまった。

「沖田さんは、一応色々やっているのですが、その効果が出るかどうかはわからないです。藤堂さんは……えっ、藤堂さん?」

「そうじゃ、藤堂もじゃ」

 藤堂さんが何かあるのか?まさか藤堂さんも労咳に?でも、そんな話は聞いたことないぞ。

「藤堂は、池田屋事件で頭を怪我する。それを阻止しろ」

「そうなんですか? 知りませんでした」

 沖田さんが血を吐くことは知っていたけど、藤堂さんがけがすることは知らなかった。

「蒼良、本か何か読んどらんのか? ちゃんと書いてあっただろう」

 そ、そうなのか?

「すみません、私の勉強不足でした」

「藤堂はな、油断して鉢金を取って一息入れようとした時に、押入れに隠れていた奴から頭を斬られてしまうのじゃ」

「それは、大変じゃないですか」

「だから阻止しろって言っているだろう。相変わらず鈍い奴じゃな」

 す、すみません。

「とにかく、やってみます」

「頼んだぞ、蒼良。わしはしばらくここにいるから、何かあった時に来るといい。池田屋事件は大きな事件になるからな」

 なんだ、お師匠様、池田屋事件のことをちゃんとわかっていたじゃないか。

「蒼良、頼んだぞ」

 お師匠様が、私の背中を軽くたたいた。

 なんかそこから力を入れられたような感じがした。

「わかりました。やってみます」

 私はお師匠様の長屋を出た。


 帰り道、南禅寺と言うお寺の前を通ると、山崎さんがいた。

 声をかけようとしたら、すごい勢いでお寺の方に走って行った。

 なにがあったんだ?

 そう思って、走って行った方を見てみると、一人の男を捕縛していた。

「山崎さん、どうしたのですか? 長州の人でも捕縛したのですか?」

「あ、蒼良さん。蒼良さんこそ、どうしてここにいるのですか?」

 山崎さんは、捕縛した浪士を逃げないように縄で両手を後ろにくぐりつけながら言った。

「お師匠様のところに行っていました。この人は、何をしたのですか?」

「宮部 鼎蔵ていぞうに使われている人間です」

 宮部 鼎蔵とは、長州の人ではないけど、長州の人たちを考え方が合うのか、一緒に行動をしている人だ。

 有名な人みたいで、現代で言うと新選組から指名手配されている人と言うのかな。

「こいつを詰問して、宮部 鼎蔵の居場所を吐かせる」

 なんか、物騒なことになりそうだ。

「ちゃんと居場所を教えてくれるといいですね」

「吐かせるだけのことはしますよ。ちょっと手荒になりますけど」

 手荒なことって、何なのさっ!

 そう言う山崎さんからほのかな殺気が上がっているような気がした。


 結局、そのつかまった人は一言も吐かなかったため、南禅寺にそのままさらされることになった。

 まだ生きているので、首をさらされるよりはるかにましだ。

 それで、宮部 鼎蔵の居場所がわかるのか?と聞かれると、答えようがないけど。


 そんなことをしている間にも、池田屋事件の日は近づきつつあった。

 私のやるべきことはわかったけど、本当にできるのだろうか?その日が近づくにつれて不安が大きくなってきた。

 そのせいか、一人でいることも多くなってきた。

 今日は、暑いので鴨川の東岸と呼ばれるところに一人でたたずんでいた。

 暑い日は水の近くが涼しくていい。冷房がないけど、何とかなりそうだと思えてくる。

 一人で色々考え込んでいると、見た顔が私の前に現れた。

 この人は、確か……

「桂 小五郎」

「今は、その名前は禁句だ」

 桂 小五郎は、人差し指を自分の口元に持って行って立てていた。

「追われている身だからな」

 追われているくせに、こんなところで堂々としているように見えるのは、気のせいか?

 そう言えば、この人に言いたいことがあったんだ。

「あの時、なんで逃げたのですか?」

「あの時とは、あの蔵の火事のときか?」

 それ以外何があるというのだ。

「逃げるのは構いませんよ、追われているのだから。せめて私を縛っていた縄をほどいてから逃げようとか思わなかったのですか?」

「ああ、そこまで気が回らなかった」

 おいっ!人の命がかかっていたんだぞ。

「おかげで死ぬかと思いましたよ」

「でも、生きているじゃないか」

 土方さんに助けてもらって、何とか命は助かったのだ。

「ところで、新選組の女隊士。また会えてうれしかったぞ」

 こっちは別に会いたくなかったけど。

「お前、坂本 龍馬と言う男を知っているだろう」

「日本人なら誰でも知っていると思いますよ」

 歴史の教科書にも出ていたし、現代でも人気のある人の一人だ。

「あいつはそんなに有名か?」

 この時はまだそんなに有名じゃなかったのか?日本人なら誰でも知っていないかもしれないけど……

「その人がどうかしたのですか?」

 そこをあまり突っ込まれると、ボロが出そうなので、話題を変えた。

「そいつの考え方が、お前と似ていた。お前が蔵で言っていたことと同じようなことを言っていたぞ」

 そうなのか?

「新選組にいながら、あいつともつながりがあるとは」

 いや、つながりも何もありませんから。ただ、知っているというだけですから。

「ますますお前が気に入ったぞ。どうだ、長州に来ないか?」

「それは、前もお返事しました。私は、新選組を助けるためにいるので、長州に行くわけにはいきません。あなたの方こそ、考え方を改めたらどうですか?」

「考え方を改めるとは?」

 ここで、池田屋事件に関することを口にしたら、阻止できるかな?

 例えば、池田屋で会合していることは知っているんだぞ。とか、枡屋と言う商人のところに武器を隠しているだろう。それを移動した方がいいとか。

 でも、それを言うと、なんでここまで知っているんだ?と言う話になり、そこまで新選組に情報が漏れていたのか?と言うことになって、知っている人間を生かすわけにはいかない。と言うことになって殺されそうだ。

 お師匠様は、池田屋事件は阻止できないだろうと言っていた。

 無理はしない方がいいのか?

「また、過激なことを考えているのではないのですか?」

 色々考えて、この一言にとどめといた。

 ここで殺されるわけにはいかないもの。

「ははは。それはお前には言えないな。お前が長州に来るというなら教えてやるが」

 やっぱり考えているらしいぞ。

 孝明天皇を長州に連れて行こうとか考えているだろう。

「桂先生、こんなところに。あ、お前は、新選組だな」

 な、なんで隊服を着ていないのにわかったんだ?

 よく見たら、あの時蔵にいた奴だ。

「あの時は逃がしたが、今度は逃がさないぞ」

「おい、ここでやるのはよさないか?」

 桂 小五郎がとめたけど、その人は無視をして、刀を出してきた。

 そっちがその気なら、こっちだって。

 私も刀を出した。

 相手は一人だと思っていたら、またもや数人いた。

 なんで急に増えるんだっ!

「やっちまえっ!」

 その声を合図に、一斉に刀が出てきた。

 私は、刀を払いつつ、攻撃するすきをうかがっていた。

 相手は人数が多いから、こっちが胴をついて刀を抜くすきを見て攻撃される可能性が高いので、胴は打てない。

 そもそも、一対数人って卑怯じゃないのか?

 その時に、

「蒼良さん」

 と言う声が聞こえてきた。

 川のところに来たのは、山崎さんだった。

 助かったかも。

 それでも、数人に逃げられ、何とか二人捕縛した。

 もちろん、桂 小五郎はとっくのとうに逃げていた。

「蒼良さん、危険なまねはしないでくれと言ったじゃないですか」

 山崎さんが、心配そうな顔で言ってきた。

 いつも間者をしているときに言ってくるけど、それ以外でそのセリフを聞くとは思わなかった。

「危険なまねって、川で涼んでいただけですよ」

「今は、治安が良くないから、一人でいること自体が危険なことですよ」

 そ、そうなのか?

「山崎さんも、一人でいますよね」

「私は、間者だからですよ。間者が数人でまとまって行動していたら、すぐ見つかってしまうでしょう」

 確かに。

 人の家に数人で上がり込んで潜んでいたら、すぐ見つかるよね。

「それに、蒼良さんは女性なんだから、少しは自覚してください」

「そんなこと自覚していたら、新選組にいられませんよ」

 そう言った私のほっぺを両手でつつみこむようにして、自分の方へ顔を向かせた山崎さん。

「いいですか、私は心配なんですよ。いつも蒼良さんは危険なことに足突っ込んでくるから。先日だって、南禅寺に一人でいたじゃないですか」

 いや、あれはお師匠様の長屋によった帰りで、人を捕縛するために通ったわけじゃない。

 でも、それを言うとまた怒られそうだったので、黙って山崎さんを見つめていた。っていうか、顔を向けられているので、山崎さんを見つめるしかないのだけど。

「他の隊士だって、一人では行動しないように言われていますよ」

 そ、そうなのか?

「ましては蒼良さんは女性だ。絶対に一人で行動しないようにしてください。もし、誰もついて行ってくれる人がいなければ、私が一緒に行きますから、私に言ってください。わかりましたか?」

 私は目でうなずいた。

「約束ですよ」

 山崎さんがそう言うと、やっと私を解放してくれた。


 屯所に帰ると、川で捕まえた長州の人の拷問が始まった。

 もちろん、私はその現場を見なかった。っていうか、見るのも嫌だ。

 そして、長州の人たちが多数京に潜伏していることが明らかになった。

 山崎さんたちの仕事も忙しくなりそうだ。

 それと同じ時期に、宮部 鼎蔵の居場所もわかった。

「あの捕縛された人が吐いたのですか?」

 とうとう口を割ったか。そう思いながら土方さんに聞いた。

「いや、あいつは吐かなかったよ」

 ならなんでわかったんだ?

「南禅寺にさらしておいただろう。かわいそうだから解放してやれって、隊士に金を渡した女がいてな。その女の言う通り、解放してやった」

「解放したのに、居場所が分かったのですか?」

「解放したから、居場所が分かったんだ」

 どういうことだ?

 詳しく聞いてみると、解放されたので、真っ先に主人である宮部 鼎蔵のところに行ったのだとか。

 もうちょっと考えて行動しようよと、つっこみたくなってしまった。

「奴は、枡屋喜右衛門と言う商人のところにいるらしいぞ」

 枡屋と言えば、池田屋事件の始まりを意味するキーワードだ。

 彼の家に大量の武器がしまってあるはずだ。

「さっそく枡屋のところに御用改めに行かないとな」

 土方さんが忙しそうに動き始めた。

 いよいよ池田屋事件が始まりそうだ。

 

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