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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治元年5月
111/506

近藤さんの後継者は?

 近藤さんが、谷 周平さんと言う隊士を養子にとることになった。

「俺は、てっきり総司だと思ったんだがな」

 土方さんは、納得できないような感じで言った。

「養子にした理由が、どこだかのご落胤だという噂を信じたらしいぞ」

「ええっ! 噂ですよ、噂。それで養子に?」

 そんな大事なことを、噂だけで決めていいものなのだろうか?

「それなら、藤堂さんだって、近藤さんの養子になれますよ」

「あいつは、天然理心流じゃなくて、北辰一刀流だろうが」

「流派が違うとなれないものなのですか?」

「そりゃ、そうだろう……ん? ちょっと待て」

 土方さんは、しばらく考え込んでいた。

「谷 周平……あいつの流派はなんだ?」

 えっ、知らないのか?

「お前、知ってるか?」

「土方さんが知らないのに、知るわけないじゃないですか」

「そりゃそうだな。兄弟入隊したことは覚えているんだがな」

「天然理心流じゃないですね」

「違うな。備中松山藩から来たことは知っているが」

 それって……

「どこにあるのですか? と言う質問はするなよ」

 よ、読まれてるし……

「養子にするということは、男の子はいないということですよね」

 話を変えるために、質問をした。

「そうだな。江戸には女の子一人しかいないしな」

「でも、これからできる可能性もあるのに、そんな簡単に養子をとっていいのですか?」

「出来ねぇ可能性もあるだろう」

 そりゃそうだけど。

「それに、近藤さんも養子だ」

 それは、本で読んで知っていた。

 先代に認められて、養子になった人だ。

「でも、なんで沖田さんじゃないのですかね」

「それは、近藤さんしかわからねぇことだろう。それに、総司のことだ。めんどくさいとか言って断ったからかもしれねぇぞ」

 それ、あるかも。

「沖田さん、落ち込んでいないですよね?」

「なんであいつが落ち込むんだ?」

「だって、近藤さんの後継者になれないから」

「養子が後継者になるとはまだわからねぇぞ」

 確かに。

 谷 周平さんは、近藤さんの養子になって近藤姓を名乗るけど、後になって、縁組解消をしている。

 確か彼は、脱走したんじゃなかったか?

「そうですね。脱走するかもしれないですしね」

「誰が脱走するだって?」

 土方さんの目がギラッと怖い感じで光った。

「あ、いや、大丈夫です。脱走したもわからない時期に脱走すると思うので」

 確か、鳥羽伏見の敗戦でバタバタしているときに脱走すると思ったけど。

「そんなこと、させるわけねぇだろう。俺がさせねぇっ!」

 確かに。土方さんの前で脱走する人はいないだろう。

 何故って?怖いからに決まっているじゃん。話をしているだけでも、メラメラと殺気を感じる。

「と、とにかく、沖田さんの様子を見てきますね」

「総司か? あいつはケロッとしていると思うぞ」

 表向きはそうかもしれないけど、心の底では……ってこともあるだろうから、やっぱり様子を見に行こう。


「近藤さんの養子? 確かに、近藤さんは男の子がいないからね」

 沖田さんは他人事のように言った。

「沖田さんは、がっかりしたりしないのですか?」

「なんで僕ががっかりしないといけないわけ?」

 そう言われると、なんでなんだ?と、悩んでしまう。

「近藤さんの養子なんて、めんどくさそうでいやだなぁ。後継者になるかもしれないんでしょ? 余計めんどくさいや」

 さすが土方さん。土方さんの予想通りの反応をしたよ。

「天然理心流を継ぎたいとか思わないのですか?」

「なんで?」

 なんでと言われても……。

「沖田さんが一番強いじゃないですか」

「斎藤君とかもいるじゃん」

「流派が……」

「流派? 関係ない、関係ない」

 沖田さんは、手を顔の前で振った。

「誰が継ごうと、僕には関係ない話だから。蒼良そらが継ぎたければ蒼良でもいいよ」

 な、なんで私が?

「あ、そうそう。蒼良、暇?」

 突然沖田さんから話を変えられた。

「暇ですけど……」


 沖田さんに誘われてきたところは、屯所近くの川だった。

「最近暑い日が続いているから、川で遊ぼうと思ったんだ」

 そう言う沖田さんの周りには、子供たちがたくさんいる。

「そういえば、蒼良がお春を助けてくれたんだってね。ありがとう」

 何の話だ?と思ったけど、原田さんと川に行ったときに流された子のことかな?と思った。

「蒼良兄ちゃん、おおきに」

 お春ちゃんなのか、一人の女の子に頭を下げられてしまった。

 蒼良兄ちゃんって、聞き慣れないなぁ。

「どういたしまして。今度は気を付けて遊ぼうね」

「うんっ!」

 お春ちゃんが手を出してきたので、手をつないで川の近くまで行った。


 川では、沖田さんと子供たちが笹で船を作り、川に流して遊んでいた。

「何ですか? それ」

 私が沖田さんに聞くと、

「えっ、知らないの?」

 と、言われてしまった。

「笹船や。ほんまに知らんの?」

 お春ちゃんにも言われてしまった。

「このお兄ちゃん、たまにみんなが知っていることを知らないから、教えてあげて」

 沖田さんがお春ちゃんに言っていた。

 その代わり、みんなが知らないことを知っていたるするんだなと、威張りたかったけど、それって何?って聞かれると厄介なので、黙っていた。

 笹船の作り方は、とっても簡単だった。

 そして、単純なんだけど……

「蒼良の笹舟はすぐ沈むね」

 と、沖田さんに言われたとおり、流されてすぐ沈んでしまった。

 仕掛けなんてできないぐらい簡単なつくりなのに、どうしてみんなの笹船はちゃんとしているんだ?

 次こそ、ちゃんと流れるように。

 そう思って笹の葉を取ると、人差し指をすっと切ってしまった。

「わっ、切れたっ!」

 紙とかで指が切れるのは経験済みだけど、葉で指を切るとは。

「笹とか細い葉は、気を付けないと指を切るよ」

 沖田さんが、そう言いながら私の指を見た。

「大丈夫。軽い切り傷だよ」

 そう言いながら、沖田さんは私の指を自分の口の中に入れた。

 私の指が、沖田さんの口の中に入ってる?

 ええっ!どうして?なんで?

 パニックになっていると、沖田さんの口の中から、私の指が出てきた。

「ほら、血が止まったよ。蒼良、顔が赤いよ」

 あ、赤くもなるでしょうよっ!

「ほんまや、真っ赤や」

 周りにいた子供たちからもからかわれてしまった。


「笹船、面白かったですね」

 子供たちを送った帰りに、散歩がてら歩いていた。

 屯所に帰るのも暑いだろうし、こうやって川のそばを歩いている方が涼しいのかも。

「蒼良が、笹船知らなかったのが驚きだよ」

 沖田さんが、面白そうに言った。

 す、すみませんね。

 私の住んでいるところに、こんな綺麗な川と笹なんてなかったから知らなかったのですよ。

「と、ところで、最近体調はどうですか?」

 話を変えるために聞いてみた。

「あまりよくないかな」

 ええっ!そりゃ大変だ

「って言うと、蒼良は心配して何かやるでしょ?」

「当たり前じゃないですか」

 沖田さんに労咳になってほしくないもん。

「だから、大丈夫って言っておくよ」

 それって、具合が悪いとも聞こえるし、本当に何でもないようにも聞こえるし。

「どっちですか?」

「内緒」

 内緒って……

「笹舟を作って遊べるんだから、元気だよ」

 沖田さんはそう言ったけど、歴史で見ると、労咳になっても沖田さんは隊務をこなしていたような感じがしたけど。

 でも、あまり質問してもはぐらかされそうなので、黙っていた。


 しばらく二人で歩いてると、甘味処の前に出た。

 そこで、あるものを見つけた私はびっくりした。

「プ、プリンだ」

「えっ、ぷりん?」

 指をさして驚く私に、沖田さんは怪訝そうな顔をした。

「知らないのですか? 今、隊で一番人気がある食べ物ですよ」

「ああ、よく土方さんが、うまい、うまい、と言って食べているあれか?」

「そうですよ。美味しいですよ。ちょっと買ってきますね」

 土方さんに、京にもプリンが売っていたと教えてあげなくちゃ。

 婦凛と言う名前で売っていたプリン。

 お店のご主人に聞くと、大坂から仕入れたら評判が良かったので、作って置くことになったとか。

 大量にプリンを買った私を見て、

「そんなに食べるの?」

 と、沖田さんはあきれていた。

「全部一人で食べませんよ。みんなで食べるのです。沖田さんもどうですか?」

「僕はいいよ。なんか豆腐みたいな感じがして、ご飯以外で食べたいと思わないなぁ」

 もしかして、食わずきらいなのか?

「美味しいですよ。だまされたと思って、一口」

 お店のご主人に言って、さじを借りてきた。

「これで食べるのですよ。なんなら食べさせてあげますよ」

「そこまでしなくても、自分で食べれるよ」

「今、自分で食べれると言いましたね。さぁ、食べてください」

「なんか、蒼良が楽しそうに見えるけど、僕がこの変なもの食べるのがそんなに楽しいかい?」

「変なものじゃないですよ。プリンです、プリン」

「わかったよ。食べるから、そんな見つめないでよ」

 えっ、見つめてたか?

 沖田さんは、恐る恐るプリンをすくったさじを目の前に持って行った。

 そして目をぎゅっと閉じて口に入れた。

 おそらく息も止めているんだろうな。

 でも、急に目がひらいた。

「美味しい。これなら夏でも食べれるね」

「でしょ?」

「うん、確かに美味しい。これで歌を作ろうという気にもなるわけだね」

 えっ、歌?

「土方さんが、ぷりんを食べながら遠い目をして考えていたよ。あれは、歌を考えている目だったよ」

 そうなのか?

「沖田さんは、土方さんの歌集を見せてもらえました?」

「見せてもらってないよ。蒼良は?」

「一句だけなら……」

「えっ、一句?」

 あれは、見せてもらったというのか?土方さんが酔っ払って寝ちゃった時に頼んでもいないのに、勝手に作って披露していたけど。

「どんな句だった? 覚えているかい?」

 沖田さんが、プリンを食べながら聞いて来た。

「お、覚えていないですね」

 あんな印象に残る句を覚えていない方がおかしいのだけど、土方さんの名誉のために黙っておいた方がいいのかも。

「なんだ、つまらない」

 沖田さんは、がっかりしていた。


「総司の奴、俺のプリンまで食べやがって。せっかく楽しみにしていたのに」

 土方さんが、ブツブツ言いながら部屋に入ってきた。

「今度は、京でも買えるようになったのですから、また買えばいいじゃないですか」

「そりゃそうだけどな、俺の楽しみをどうしてくれるっ!」

「そんなっ! 私に怒らないでくださいよ」

「あ、悪いな」

 食べ物の恨みは恐ろしいというけれど、どうやら本当だ。

「ところで、プリンの俳句を作ったらしいと聞いたのですが……」

 沖田さんがそんなようなことを言っていたので、聞いてみた。

「誰が言った?」

 どうやら作ったらしい。

「沖田さんが、俳句を作る目をしていたと言ったので、そうなのかな? と思ったのですが」

「安心しろ。お前には見せない」

「な、なんでですかっ!」

「俳句の良さを分からん奴に見せてもつまらないからな。お前たちのことだ。俺の俳句を面白半分に見たいだけなのだろう」

 な、なんでわかったんだ?

「そんな奴らには、絶対に見せねぇっ!」

 これは、沖田さんと共同戦線を張って、無理やり見るしかないのか? 

 でも、現代に戻るとインターネットと言うものがあり、それに出ていることは土方さんでも知らないだろう。

「お前、何ニヤニヤしている」

「いや、何でもないですよ」

 現代に帰ったら、さっそく検索してみよう。


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