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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治元年5月
110/506

内山彦五郎暗殺

「お前、内山 彦五郎って知ってるか?」

 土方さんに突然聞かれた。

「誰ですか? 長州の人ですか?」

「知らんのか? 近藤さんは蒼良も知っているようなこと言ってたぞ?」

「近藤さんがですか?」

 でも、知らないなぁ。

「大坂の奉行所の人間だって近藤さんは言ってたぞ」

 もしかして……

「あのすごい腹が立つ人間かな?」

「なんだ、その腹の立つ人間って」

「色々とあったのですよ」

 と言うわけで、今まであった彼に対する腹の立ったことを全部土方さんに聞かせた。

「話には聞いていたが。近藤さんも怒るわけだよな」

「近藤さんがなんか言っていたのですか?」

「消せと言っていた」

 えっ、消せって……

「殺せってことですか?」

「お前、そんなまっすぐに言うことないだろう」

 いや、まっすぐでもまがっていても、意味は一緒だろう。

「いくらなんでも、それだけでこ……消せって言うのはちょっと」

「いや、それだけじゃねぇんだ」

 何かあったのか?

 詳しく話を聞いてみると、内山 彦五郎は、灯油の密商売をしたり、討幕派と組んで米の値を上げたりしているらしい。

「それは許せませんね」

 近藤さんは、力士事件で腹の立つ思いをしているから、この知らせを聞いたら確かに消せっ!ってなるのかもしれない。

「でも、それだけで消すのって、どうなんでしょう?」

「立派な理由だろう。大坂で米の値上がりの被害にあっている人間もいるんだぞ」

 それもそうなんだけど……。

「それでだな、計画はもうできてるんだ。ただ、消す方法を迷っているんだ」

 何を迷っているというんだ?

「副長、入ります」

 山崎さんの声がした。

「入れ。今、蒼良そらに説明をしていた」

 山崎さんは、私の隣に座った。

「山崎さんは、どうしたのですか?」

「副長に呼ばれてきました」

 なんだろう?

「お前たちに、内山 彦五郎の家を密偵してもらいたい」

 密偵って……

「間諜ですか?」

 要はそう言うことだろう。

「そうだ」

「と言うことで、山崎さん、お願いします」

「お前もだ」

「ええっ! 私もですか?」

 私ほど間諜に合わない人間もいないと思うのだけど。

「鍼灸師夫婦で侵入してもらいたい」

 それが妥当なんだろうなぁ。鴻池さんのように広ければ使用人もいてってなるのだけど、大坂の奉行所で与力なら、家は町人と比べると広いけど、使用人はそんなにいないだろう。

「で、なんで私なんですか?」

「お前は女だからこういう時にちょうどいいんだ。夫婦で間者とは誰も思わねぇだろう」

「私じゃなくても、他にも人がいるじゃないですか」

「誰がいる?」

「ええっと……沖田さんとか」

「総司は背がでかすぎる」

 確かに。この時代の人には珍しいぐらい背が高い。

「藤堂さんとか」

「平助か。他の仕事を頼んである」

「永倉さんとか」

「新八に女装しろってか? 論外だ」

 確かに。

「お前しかいないじゃねぇか」

「土方さんは?」

「ばかやろう。俺が女装してどうすんだ?」

 そうなのか?

「と言うことだ。山崎、頼んだぞ」

「はいわかりました」

 山崎さんはあっさりと了解した。

「すみませんが、私の意思は?」

「お前の意思か? ない」

 やっぱり。


 土方さんに言われ、山崎さんと私は急いで大坂に入った。

 大坂ですっかり女装をし、内山が鍼灸師を呼ぶのを待っていた。

 山崎さんの話によると、内山は最近腰が悪いみたいで、毎日のように鍼灸師を呼んでいた。

「いつも呼んでいる鍼灸師には、お金を握らせてこっちに譲ってもらえるように頼んであるので大丈夫です」

「山崎さん、いつの間にそんなことまで。すごいですね」

「これが私の仕事なので」

 私はそこまで気が回らない。やっぱり間諜は無理だ。

 それなのに、なんで土方さんは……まったく。

「今回は、何をすればいいのですか?」

「蒼良さんは、黙って隣に座っているだけでいいのです」

 えっ、そうなのか?

「夫婦でと言う設定が、今回は大事なんです。副長の言う通り、誰も夫婦で間諜をやるとは思いませんからね」

 と言うことは、私は飾りと言うことね。

「だから蒼良さん、危険なことは絶対にしないでください」

「だ、大丈夫ですよ。頼まれてもやりませんから」

 ぶんぶんと首を振りながら言うと、山崎さんは何が面白かったのか、優しく笑っていた。


「いつもの人間は?」

 内山邸に侵入した。

 屋敷に入ってすぐに内山からそう言われた。

「別なところに行っております。今日は私がやりますが、いつもの人間がよろしければ帰ります。ただ、そうなると今日の施行は無理になると思います」

 山崎さんは、すらすらと言った。

「それなら、お前でいい。夫婦でやっているのか?」

「はい」

「そうか」

 私は黙って座っているだけだった。

 疑われていないみたいだ。

 でも、黙って座っているだけで本当にいいのかわからなかったので、山崎さんに針を渡したりした。

「かなり腰がこっていますね」

 山崎さんが、内山の腰に針を刺しながら言った。

「ああ。数日前にあいつらが来ていただろう」

 ん?あいつらって誰だ?

「新選組だ。あいつらが来ると、わしの気苦労も絶えんのだ。商人から金をふんだくったり、ろくなことしないからな」

 そ、それはないと思いますがっ!

 山崎さんもそう思ったみたいで、針を刺す手元がくるったらしい。

「いててっ!」

 と、針を刺されると同時に内山が声に出した。

「これは、こっている証拠ですね」

 山崎さん、何気にごまかすのがうまくないか?

 針の施行が終わりに近づいた時、あまりやることがなかった私は、トイレに行きたくなった。

「すみません。ト……かわやをお借りしていいですか?」

 断られたらどうしようと思ったけど、

「行って来い」

 と言われたので、遠慮せず席を立った。


 行って来いと言われたものの、トイレってどこにあるんだ?

 木でできた戸があったので、そこを開けてみた。

 物置みたいで、色々なものがたくさん入っていた。

 じゃあ、その隣にあるこの戸か?

 開けてみると、真っ暗な穴が開いていた。

 なんか、地下へ続く道みたいな……なんだこれ?

「お前っ! 人の家で何をしているっ!」

 内山が慌てた様子でやってきた。

 その隣には山崎さんもいた。山崎さんは、真っ青になっていた。

 なんで真っ青になっているんだ?

「すみません。厠を探していて……ここじゃないみたいですね」

 私は、慌てて戸を閉めた。

「厠は普通は外にあるだろうがっ!」

 そうなのか?

「そう言われてみると、どこの家も外にありますね。すみません。勝手に地下貯蔵庫の扉を開けてしまって」

「ちかちょぞうこ?」

 内山は怪訝そうな顔をしていた。

 あれ?地下貯蔵庫じゃないのか?

「地面の下の方に道が続いていたので、地面の下にある物置かと思って。地面の下は、上と比べると気温差がないじゃないですか。保管にぴったりですよね」

 私がそう言うと、山崎さんも、

「こんなにいい保管場所を持っているうちは初めて見た。いいですね、うらやましい」

 と言い始めた。

「そう、そうなんだ。うちのかみさんなんかも重宝に使っているよ」

 内山も、自慢げに言った。

 それから、厠をかりて、内山邸を後にした。


「たいした収穫はなかったですね」

 私が言うと、山崎さんは驚いた顔をした。

「いや、大収穫がありましたよ」

 そんな収穫があったか?

「蒼良さんが見つけたじゃないですか」

 私が見つけたのは……

「地下貯蔵庫?」

「それです。あれは保管場所じゃない。屋敷で何かあった時に外に出れるように掘ってある抜け道だ」

 そうなのか?なんでそんなものを掘ってあるんだ?あそこは江戸城か何かか?

「それにしても、あれだけ危険なことはしないで下さいと言ったのに、蒼良さんは厠に行くふりしてあんなことをして」

「えっ、いや、本当に厠に行きたくてさまよっていただけなのですが」

 それを聞いた山崎さんは驚いていた。

「何かあるか捜し歩いたわけじゃないのですか?」

「そんな、見つかったら何されるかわからないし、怖くてできませんよ」

「信じられない。でも、副長が言っていたことは本当かもしれない」

「土方さんが何か言っていたのですか?」

「蒼良さんは、自覚はないけど、間諜の名人だって」

 いや、それは嘘だから。

 今回はたまたまだと思うけど。

「私ほど間者に合わない人間はいないですよ」

「でも、間者も隊には必要な人間です」

「でも、私は、山崎さんみたいにうまく切り抜けられないですよ。無理です、無理」

 それに、間者だってばれた日には、何されるかわからないんだもん。怖いわっ!

「蒼良さんは、間者が嫌いみたいですね」

 山崎さんが残念そうな顔で言った。

「いや、そうじゃないですよ。間者をしている人間が嫌いじゃなくて、自分が間者になるのが嫌なのです」

「どうしてですか?」

「だって、間者だってばれたら、殺されたりするじゃないですか」

 私がそう言うと、山崎さんは面白そうに笑った。

「それなら、間者だってわからないようにすればいいだけの話です」

 それができないから、無理だって言っているんだっ!

「とにかく、急いで屯所に帰って副長に報告しましょう」

 山崎さんは急いで屯所に帰ろうとした。

「すみません。もう一つ頼まれていることがあるのですが……」

「もう一つ?」

「プリンを買って来いと言われました」

 プリンがよほど気に入ったらしい。

 しかも、出来るだけたくさん買って来いと言われた。


 それから急いで屯所に帰って土方さんに報告した。

「屋敷に外への抜け道を作ってあったとは」

 土方さんは、そうつぶやいてからしばらく考えていた。

 それから、沖田さんと原田さんと永倉さんと源さんが呼ばれた。

「内山 彦五郎を消して来い」

 土方さんはそう言った。

「奴は、屋敷に抜け道を作っていたから、外で襲撃した方がいいだろう。蒼良、お前は道案内で行って来い」

 ええっ!私も行くのですか?


 夜、大坂の天満屋橋に隠れて待機していた。

「必ず奴はここを通るだろう」

 永倉さんが刀を構えて言った。

 道案内必要ないじゃん。ちゃんとみんな分かっているし。

 帰りたいなぁと思っていると、橋を渡る駕籠があった。

 その横には用心棒みたいな人が二人ほどついている。

「奴に間違いないな。最近用心棒を付けたとか言ってたしな」

 原田さんが言った。

 やっぱり私の必要性はないと思うのですが。

「そうとわかったら、さっさと片付けましょう」

 沖田さんが立ち上がった。

 それを合図にみんな立ち上がって駕籠に向かって行った。

 源さんと永倉さんで用心棒を斬ると、駕籠をしょっていた二人は駕籠を置いて逃げて行った。

「なにがあったっ!」

 籠の中から内山の声が聞こえた。

 突然駕籠が下ろされたのだから、まともな反応だろう。

「本人に間違いないね」

 沖田さんが私に聞いて来た。

 私がうなずくと、原田さんが駕籠に向かって槍をさした。

 すると、中から内山が転がり出てきた。

 そこを沖田さんが斬った。

「あっという間に終わってよかった」

 源さんが刀をしまいながら言った。

「実は、これで終わりじゃないんだよなぁ」

 沖田さんがそう言った。

 えっ、まだ何かあるのか?

「近藤さんからさらして来いって言われたから」

 さ、さらして来いって……

「もしかして、首をですか?」

「蒼良、首以外どこをさらすのさ」

 沖田さんが面白そうに言ったけど、全然面白くないからっ!


 源さんと原田さんが、

「蒼良は見なくていいぞ」

 と言ってくれたので、お言葉に甘えてその様子は見ていない。

 いや、見たくない。

「灯油を買い占め、米の値を上げていた悪い奴はこいつだ」

 みたいなことを書いた紙と一緒に首をさらしたらしい。

 なんでこの時代の人はすぐ首をさらすんだか。理解できない。

 気持ち悪いだろう。

 と言うわけで、この件は無事に終わった。


 仕事が無事に終わり、帰ろうかと言うときに源さんが言い出した。

「歳に頼まれたことがあって。ぷりんとかいうものを買って来いって言ってたが、どこで売ってるんだ?」

 こんな時にまで……

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