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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治元年4月
104/506

長州藩士捕縛

 先日、牡丹ちゃんと楓ちゃんのお願いで花魁に変身し、揚屋に行くということがあった。

 その時に長州の人に会った。そのことがずうっと気になっていた。

 昨年の政変以来、長州の人は京から追放されていた。

 それなのに、揚屋で会った人は、自分だけでなく、他にもいるみたいなことを言っていた。

 顔をよく覚えておき、この仕事が終わったらさっそく捕縛してやると思っていたけど、牡丹ちゃんから、揚屋で起こったことは外に持ち出さないように言われた。

 しかし、いてはいけない人間がいることがすごく気になる。

 みんなに話して話を大きくして、牡丹ちゃんたちに迷惑をかけることを考えたら、私一人で探して捕縛する分には大丈夫なのかもしれない。そう思った。

 だから、巡察のたびに、長州の人たちが潜んでいそうな空家とか、誰もいないお寺とかみつけると、入り込んで探索をした。

 しかし、そう簡単に見つかるものでもなかった。

 そもそも、同じ日本人なのに、どうして長州の人だけ追放なのだ?追放されるようなことをやったのだけど、同じ日本人なのだから許して仲良くしたらいいのにと、たまに思うこともある。

 そんなことを土方さんに言った日には、えらい勢いで怒られそうだけど。


「お前、何か探しているだろう?」

 ある日、一緒に巡察している斎藤さんに言われた。

「な、何も探してないですよ」

 必死でごまかしたけど、

「最近、お前と巡察していると、人間が隠れそうなところを見つけては、必死に探しているように見える。誰を探しているんだ?」

 と、言われてしまった。しかも、最初は何をと聞いていたのに、次は誰をと聞かれた。

 半分ぐらい当てられているじゃないか。

「誰を探している?」

「誰も探していません」

「お前がそこまで隠すということは、土方さんには知らせたくないことなのだな」

 そこまでばれているのかっ!

「わかった。土方さんには言わないから、話してみろ。事によっては隊の一大事になる可能性もあるだろう」

「一大事だったら、どうするのですか?」

 大騒ぎになって牡丹ちゃんたちに迷惑かけたくない。

「俺がちゃんと対処してやる」

 斎藤さんがそこまで言ってくれるのなら……。

 そう思って、変装して揚屋に行ったところは隠して話をした。

「とあるところで長州の人に会ったのです」

「とあるところとは、どこだ?」

「それは言えないです」

「捕縛しなかったのか?」

「できませんでした。それどころか、そこで会ったことも表に出してはいけないとある人に言われました」

「お前の話は、場所も人もないが、言えないのか?」

「ある人の迷惑になってしまう可能性があるので」

 斎藤さんは、目を細めて私を見た。

 この話が本当かどうか、考えているような感じだ。

「わかった。京に長州の人間がいるということだな」

「はい。それも一人じゃなく多数です」

「そうか」

 しばらく斎藤さんは考えているような感じだった。

「土方さんに報告する」

「そ、それだけは勘弁してください」

 しかも、話をする前に、土方さんに言わないからって約束したじゃないかっ!

「どうしてだ? いてはいけない長州の人間がいるのだぞ。新選組としては、京の治安を守るために動かなければいけないだろう。お前ひとりで何とかしようと思っていたのか?」

 思っていました。

「それは無理だ。とにかく報告する」

「それだけは……」

「いや、だめだ」

 そんなやり取りがしばらく続いた。

「わかりました。少し時間をもらえますか? 数日以内に見つけられなければ、報告してください」

 私は、かなり妥協をしたと思う。

「わかった。二日やる。それで見つけられなければ、俺がお前のことを伏せて報告する」

 最初から、私のことを伏せて斎藤さんが報告すればいいんじゃないか?そう思ったけど、このことは、私が直接見て聞いたので、自分で何とかできるものなら、何とかしようと思った。

「それでお願いします」

 二日もらった。何とかして二日以内に見つけ出さなければ。


 斎藤さんから期限を言われてから、暇さえあれば京の町に出て探した。

 しかし、向こうも命がけで隠れているらしく、なかなか尻尾をつかむこともできなかった。

 このまま見つけられないのか?

 そう思った。

 ちょっと待て。

 私が見たのは、島原だ。普通に揚屋に来ていた。なら、隠れて生活しているわけではないのかも。

 案外、島原で待ち伏せしていたらばったり会うかもしれない。

 そう思い、島原に行くことにした。


 私の考えは大当たりだったみたいで、島原で歩き回っていると、この前私が行った揚屋と同じ揚屋の前で、私があった長州の人がいた。

 あいつだっ!

 捕まえることしか考えていなかった私は、その男に近づいた。

「すみません。ちょっとお話があるのですが」

「な、なんだ、お前は」

 私は隊服を着ていなかったけど、刀を一応2本さしているので、相手は私が武士か浪人かと思ったらく、ものすごく警戒をしていた。

「あなたは、長州の人じゃないですか?」

 私が言うと、明らかに男の顔色が変わった。

 やっぱりそうだったんだ。

 男は私を突き飛ばした。私が突き飛ばされてしりもちをついているすきに、ダッシュで逃げていった。

 私も慌てて起き上がり、追いかけた。

 追いかけるのに必死で、周りが見えていなかった。

 それにしても逃げ足が速い。あっという間に島原の中を抜けたらしく、周りは月明かりだけになっていた。

 斎藤さんと約束したんだ。絶対に逃がさないっ!

 男が立ち止ったので、私は後ろから男の両手を持ち、身動きができないようにした。

「あなたが長州の人だということを知っていました。素直に私についてきてください」

 やっと捕縛できた。そう思った。

 しかし、私の首のところに冷たい感触が……。

 どうも、後ろに人がいて、その人が私の首のところに刀の刃を押し付けているらしい。

「観念するのは、お前の方だな」

 後ろから声が聞こえた。

 それはどうかな?

 私は、肘で後ろにいる相手のおなかを思いっきりついた。

 後ろ言いた人間は、おなかを押さえてうずくまった。

 しかし、そのせいで、せっかく捕まえていた男が自由になってしまった。

「抵抗せず、おとなしくついて来てください」

 その男に言ったのだけど、男は刀を出してきた。

 そう来たか。そう思って私も刀を抜いた。

 なるべくなら、生きたまま捕縛したい。だって、他にも仲間がいるようなことを言っていたから、他の仲間がどこにいるか聞き出したい。

 しかし、相手もつかまらないように必死になっている。

 私の後ろで人が動く気配がした。

 さっき倒した男が起き上がったらしい。

 2対1か。何とかなるかな。そう思っていた。

 しかし、気がつけば5対1ぐらいになっていた。

 どこから湧き出てきたんだっ!こんなにたくさん。

 5対1はさすがに私の負けだ。

 おなかに鋭い痛みが走り、気を失ってしまった。


 目が覚めたら、蔵みたいなところにいた。

 おなかを斬られたと思ったけど、強く殴られて気絶させられただけらしい。

 ここは、どこだ?辺りを見回してみたけど、どこかの家の蔵としかわからなかった。

 立とうと思ったけど、私自身が柱に縛り付けられていて、動きが取れなかった。

 捕まえようと思っていたのに、捕まえられてしまったらしい。

「お前、花君に似ているが、花君の弟か何かか?」

 私が目を覚ましたことに気が付いたらしく、揚屋に来た男が目の前にいて、その男に聞かれた。

 弟と答えた方がいいのか?変に答えて花君の迷惑にならないか?

 そう思って答えに迷っていると、もう一人男が中に入ってきた。

「今、島原に言って花君と言う芸妓を見てきたが、こいつとは全然似ていなかった」

「と言うことは、お前が花君に化けていたのか?」

 化けていたって、私は化け物かっ!って、突っ込んでいる場合じゃないし……。

 揚屋に来た男が、私のあごを持ち、自分の方に私を向けた。

「男にしては、綺麗な顔をしているしな。そこで芸妓に化けて何してたんだ?」

 化けてって……せめて変装と言ってほしいのだけど。

 何をしていた?と言われて、素直に言えるような事情じゃないので、黙っていたら、

「ま、いい。そのうちいやでも話すだろうよ」

 そう言い残し、みんな外に出てしまった。

 逃げるなら、今のうちだ。そう思って色々試してみたけど、縄で強く縛られているので、身動きが取れない。

 かわやに行きたいと暴れたら、そこでしろって……できるかっ!

 

 また数時間がたった。と思う。なんせ薄暗いところにいれられているので、時間の感覚が全く分からない。

 今度は5人ぐらいの男が入ってきた。

「お前、新選組の奴だな」

 もうばれてるし……。

「あそこの揚屋に芸妓でいたのも、間諜かんちょうしていたからだろう」

 間諜とは現代で言うスパイのこと。

「それは違う」

 そこは思いっきり否定した。

 と言うのも、岡山に入っていたうちの隊の間者が殺されて首をさらされたという話を思い出したからだ。

 間者でもないのに、殺されるなんて、絶対に嫌だ。

「なら、なんであそこにいた」

 それが言えない事情があるのだ。

 うちの隊でも知っているのは土方さんぐらいなんだから、大目に見てほしいのだけど……そう言うわけにもいかないのか?

 顔を数発殴られた。

「言わないかっ!」

 それをやられると、悔しくて余計に話したくない。

「乱暴はやめないか。そんなことしても逆効果だ」

 後から男の人が入ってきた。

 この顔、見たことある。歴史の教科書で。確か……木戸 孝允たかよしこの時の名前は、確か……

「桂 小五郎」

 私が口にした名前は当たっていたらしい。

「さすが、新選組の間者。俺のことを知っていたか」

「私は、新選組の間者じゃありません」

「嘘をつくなっ!」

 別な男の人がまた殴ってくる。

 こんなに間者にふさわしくない人間なのに、なんでわかってくれないんだ?

「殴るなと言っているだろう」

 桂 小五郎が殴った男を怒った。

「間者じゃなければ、なんであんなところにあんな恰好でいたんだ?」

 そして、紳士的に私に聞いて来た。すっかり話が通じているらしい。

 紳士的に言われたせいか、この人なら話しても大丈夫だなと思った。

「信じられないと思いますが……」

「いや、信じるから、話してくれ」

 と言うわけで、牡丹ちゃんたちの名前を伏せて本当のことを話した。

「花君さんと言う芸妓さんが倒れたと友達から聞き、その人の代わりをしてほしいと言われたので、その代わりをしていただけです。このことは、新選組と一切関係ないです」

 しばらくの沈黙が流れた。

「本当のことを言った方がいいぞ。優しく言っているうちに」

 桂 小五郎の紳士的な顔が引きつっているのですが。

 って言うか信じるって言ったじゃんっ!

「本当のことです」

 私が言ったら、しばらくじいっと目を見られた。

「わかった、信じよう。それで、揚屋で見た男がいたから、追いかけてきたのだな」

 私はうなずいた。

「何で追いかけた?」

「捕縛しようと思いました」

「俺たちをか? 俺たちは攘夷をしただけだ。なのに何でこんなに追いかけられなければならない?」

 今、私に質問したのか?さあ、なんででしょうと言いかけたけど、これを機会に色々言ってやれっ!と思った。

 どうせ殺されるかもしれないし。

「考えが過激だからですよ」

「過激?」

「外国船を攻撃したとか」

 下関戦争だ。下関関門を通過中の外国船を攻撃した。

 その結果、幕府が諸外国に賠償金を払う結果となった。

「幕府が攘夷しろと言ったから、言う通りに攘夷した。他の藩は何もやってない。長州藩だけがやったんだ」

「でも、武力で攻撃するだけが攘夷ではないです。私から見れば、何を命知らずなことをやってんだか。と言う感じですね」

「なんだと?」

「今の時代、諸外国は日本より文明が発達しています。遠くから船でここまでくる技術もあるのですよ。そんな国々相手によく攻撃できましたね。しかも、その尻拭いは幕府がやったのですよ。自分たちが攻撃したのに、自分たちで責任もとれずよく攘夷とか言えますよね」

「お前……」

 桂 小五郎が怒っているのか、わなわなと震えていた。

 それでも、私は話し続けた。どうせ殺されるしと言う開き直りせいのかもしてない。

「今やるべきことは、外国船を武力で打ち払う攘夷より、まず日本の国力を上げることでしょう。国力を上げて、諸外国と同等の立場に立ってから、そこで初めて攘夷と言う言葉が出てくるのです。だから、こんな小さい日本の中で敵味方に分かれて争っている場合じゃないのです。私から見れば、長州の人間を京から追放している暇があれば、そんなことをやめて団結して諸外国に立ち向かう力を養えばいいのにと思いますよ」

「お前、面白いことを言うな」

 面白いことかどうか分からないけど、思っていることを言っているだけだ。

「日本の中で敵味方別れてこうやって争っているのを見て喜んでいるのは、それを見ている諸外国ですよ。国内で争えば、国力が下がりますからね。弱くなります。すると、簡単に日本が手に入るから、もっと争えってあおったっていいぐらいですよ」

「なるほどな。そうかもしれないな」

「本当に諸外国を打ち払って攘夷を成し遂げたいのなら、こんなことしている場合じゃない。国力を上げることです」

「お前は、どうすれば国力が上がると思う?」

 うーん。戦争はよくないと思う。

 歴史ではどういうふうに教わっていたっけ?歴史の授業を振り返りながら答えてみる。

「文明を上げることです。諸外国のいいところを吸収すれば、必ず文明が上がります。そうすれば、多分諸外国と同じ立場になれると思います」

 自信ないけど……。

「お前を新選組隊士にしておくのは惜しいな。長州に来ないか?」

 いや、私には、新選組を助けるというお師匠様からの使命がある。ここで長州に行ったりなんかしたら、破門になってしまう。

「私は、新選組から離れるつもりはありません」

「そうか。女なのに、新選組にいて、しかも、面白い考えを持っている。ここであきらめるのが惜しいな」

 女と言う言葉が聞こえた時、周りが、えっ、女?とざわめいた。

 女って、ばれてたのか?

「あはは。お前の男装は完璧だが、俺の目も節穴じゃない」

 確かに、節穴じゃなかったわ。

 女だってばれてるし、もうここまで来たなら、腹をくくるしかないか。

「煮るなり焼くなり、好きにしてください。ただ、新選組を離れるつもりはないです」

「お前の考えが、新選組に向かないと思うが」

 そんなことわかっている。

 新選組は幕府派だ。私がさっき言った意見は幕府の考えとは程遠い意見だ。

 それでも、新選組にいたい。みんなを助けたいから。

 そのとき、急に煙たくなった。

 周りを見回すと煙が充満していたのだ。

「火事だ」

 蔵にいた男の一人が言った。えっ、火事?

「逃げるぞ。また会えたら会おう。新選組の女隊士」

 さすが逃げの小五郎。一目散に逃げ出した。

 おいっ!逃げるなら、私の縄をほどいていけっ!

 とにかく煙たくてゲホゲホと咳き込んでいたら、煙の中から聞き覚えのある声が聞こえた。

「おいっ! 大丈夫か?」

 その声は、土方さんっ!

「ここにいますっ! ここですっ!」

 煙がすごくて、もう声しか聞こえなかった。

 それでも土方さんは私を見つけてくれた。

 急いで縄をほどき、助け出してくれた。


 私は二日ぐらいいなくなっていたらしい。

 薄暗いところに閉じ込められていたので、時間の感覚は全くなかった。

 斎藤さんとの約束があり、きっちり二日後に土方さんに私のことを話した斎藤さん。

 その話を聞き、蒼良は捕まえられているのかもしれないと思い、山崎さんを使って捕まえられている場所まで特定できた。

 大勢でその場所に踏み込むこともできた。しかし、斎藤さんから内密にと言われていたので、騒ぎを大きくするわけにいかなかった。

 だから、火をつけて逃げ出しているすきに助け出してくれた。

 ちなみに、その時に逃げ遅れた長州の人が二人ほどいて、その二人は捕縛された。

「まったく、勝手なことをしやがってっ!」

 当然私は、土方さんからお説教をくらったのだった。

「すみませんでした」

「顔に傷まで作りやがって」

「これは、殴られたのだから、仕方ないじゃないですか。それに、青あざだから、すぐ直りますよ」

「お前、一応女なんだから、気を付けろって何度も何度も何度も言ったよなっ!」

 何度も何度も何度も聞きました。はい、すみません。

「それとだな、今回のことで、京に長州の人間が多数いることが判明したからな。山崎たちを間者として京の町に放ってある」

「それなら、すぐにわかりますね」

「だから、街中で隊服を着ていない知っている隊士に出会っても、声をかけるなよ。お前は過去に2回ほどそれやってるからな。絶対に声かけるなよっ!」

 はい、わかりました。

 でも、知っている人はいるのに、素通りするのもどうなのかな?笑顔で笑いかけるぐらいならいいのかな?

「笑いかけるのもだめだぞ」

 なんでわかったんだ?

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