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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治元年4月
103/506

江戸時代でアルバイト?

 暑くもなく、寒くもない。ちょうどいい気候が続いていた。

 つつじが満開になっているので、京のつつじの名所でも行ってみたいな。 そんなことを思いながら巡察をしていた。

「また山崎に針でも打ってもらおうかな」

 一緒に巡察していた源さんが隣でつぶやいた。

「腰が痛いのですか?」

「天気のせいか、ちょっと重い感じがする。こういう時にギクッとやるから怖いんだ」

 源さんは、過去に2回ぐらいぎっくり腰をしている。

「えっ、今がちょうどいい気候なのにですか?」

「ギクッとやるときに天候も何も関係ないんだよ」

 そりゃそうだけど。

「それなら、早めに山崎さんにお願いした方がいいですよ」

「帰ったら、さっそくお願いしてみよう」

 そんなことを話しながら歩いていると、島原の中に入っていた。

 昼間の島原は、夜とは違う景色がある。

 踊りの練習をしているのか、バッと、扇子の開く音が聞こえてきたり、三味線や琴のつたない音が聞こえてきたりする。

 ここも、今日は平和そうだな。

「あ、蒼良そらはんっ!」

 前の方にある置屋から牡丹ちゃんが出てきた。

「こんにちわ」

 挨拶をすると、

「えっ、蒼良はんが来たんどすか?」

 奥から楓ちゃんも出てきた。

「こんにちわ。なんか変なことされたりとかしてないですよね」

 巡察中なので、それらしいことを聞いた。

「変なことされたりはないんやけど……」

 牡丹ちゃんが、何かありそうな感じで言った。

「何かあったのですか?」

「花君はんが倒れたんや」

 楓ちゃんが困ったように言った。

 花君さんって、誰だ?

「楓はん、蒼良はんに言うてもわからんやろう」

「でも、何とかしてくれはるかもしれんよ」

「そんなこと……そうや!」

 牡丹ちゃんは何かを思いついたらしい。

「蒼良はん、ちょっと」

 と言って、私を袖を引っ張って、置屋の中へ行こうとした。

「源さん、すみませんが長くなりそうなので、先に帰っていてください」

「わかったよ。気を付けて帰って来いよ」

 源さんを見送ってから、牡丹ちゃんと置屋の中に入った。


「ええっ! 私に花君さんの代わりをやれと?」

「気候がええんやかなんか知らんけど、最近忙しくて、特にこの3日間ぐらいにかけて予定がぎょうさん入って忙しいんや」

 牡丹ちゃんが説明してくれた。

「気持ちはわかるけど、私に花君さんの代わりは無理だよ」

「花君はん、ここで頑張ったら太夫になれるかもしれんのに、倒れてしもうたさかい、評判が悪うなるかもしれん」

 楓ちゃんが涙目で言った。

 いや、涙目になられても無理なものは無理。

「私以外にもたくさんいるでしょう」

「でも、蒼良はんは綺麗な顔しとるさかい、女装しても大丈夫なような気がするんや」

 牡丹ちゃんの言う通り、女装は何回かしたことあるけど、太夫候補の代わりなんて絶対に無理。

「蒼良はんなら、島原のことわかっとるさかい」

「楓ちゃん、私より詳しい人がうちの隊にはたくさんいると思うけど」

 永倉さんとか、永倉さんとか、永倉さんって、永倉さんしか言ってないけど。

「詳しいだけじゃだめなんや。顔が女らしゅうないと」

「牡丹ちゃん、そもそも、男を女装させて代りをやらすなんて、無理があると思うけど」

 私は、一応女だけど、それでもかなり無理があると思う。

「でも、普通の女の人を連れてきて、代わりをやってと言っても無理があるやろ」

 そりゃそうだ。島原と言えば、有名な花街だ。花街と言えば、お金を出して女性と遊ぶところなので、それなりの稽古を積まないと無理だと思う。

 それなら、私なんてなおさら無理じゃん

「蒼良はんなら、女装して座っとるだけでもなんとかなりそうながする」

 楓ちゃん、なんとかならないから。

「蒼良はん、お願いやから、3日ぐらいだけでもだめなん?」

「牡丹ちゃん、そりゃ無理があるよ」

「蒼良はん、新選組は京の治安を守るためにおるんやろ」

 楓ちゃんの言う通りだけど……

「なら、私たちのお願いをかなえることも、京の治安を守ることにならんの? 島原言うたら、京を代表する花街や。その花街を支える花君はんが倒れたんや。何とかせんと、島原の平和も守れなくなるで」

 楓ちゃんの言う通りなのか?

「そうや。島原が平和じゃなくなったら、蒼良はんのせいやで」

 牡丹ちゃんも、楓ちゃんの同調するように言った。

 えっ、そうなのか?

「京と島原の平和を守るためや思うて、お願い聞いてくれんか?」

 楓ちゃんにそこまで言われちゃうと……。

「お願いや」

 最後は二人そろって言われてしまった。

 京と島原の平和を守るためなら、仕方ないのかもしれない。

「わかった。代わりをやるけど、ばれても責任はとれないからね」

「わぁ。おおきに」

 最後は、二人に笑顔でお礼を言われた。

「その分の報酬はちゃんと払うさかい」

 牡丹ちゃんに言われた。

 報酬が出るのか。ちょっとしたアルバイトだな。


 置屋で着替えるにあたり、二人に女だとばれてしまう可能性があったので、個人的に近藤さんの妾さんになっているお雪さんに置屋に来てもらうことになった。

 私が着替えている間は、絶対にのぞかないようにと言う条件を出し、着替える時はお雪さんと二人っきりになった。

 牡丹ちゃんと楓ちゃんは、私のことを男だと思っているので、

「男の着替えなんて、のぞかへんっ!」

 と言っていた。

「蒼良はんも、色々なんぎやなぁ。男になったり女になったり」

 お雪さんが私の着替えを手伝いながら言った。

「お雪さんに気を使わせてしまって、すみません」

「わては構わんよ。蒼良はんに会えるさかい」

「そんなこと言っていると、近藤さんがやきもちやきますよ」

 私が言うと、それがおかしかったのか、お雪さんは笑っていた。

 お雪さんは元太夫だ。元がついてもこんなに綺麗なんだから、私なんかに太夫候補なんて勤まるのだろうか?

「蒼良はん、気を付けてや」

 お雪さんが心配そうに言ってきた。

「私にできるか不安ですが、何とかやってみます。島原の平和を守るためですから」

「蒼良はんなら、大丈夫や。ただ心配なんは、新選組のお人も島原に来るさかい、女だとばれることが心配や」

 そうだ。島原と言えば、永倉さんとか来そうだ。

 さっきから永倉さんの名前しか出してないけど、それ以外にも何人か来そうだ。

「ばれないように、気を付けます」

「おきばりやす」

 お雪さんにそう言ったものの、ばれない自信が全くない。

 変なことを引き受けてしまったなぁ。


「牡丹どす」

「楓どす」

「花君どす」

 牡丹ちゃんたちにならって私も挨拶をして中に入った。

 ドキドキしながら顔を上げると、武士らしき男の人が3人いた。

 よかった。新選組の人たちじゃなさそう。

 しかし、花君さんの代わりだとばれたら大変なので、牡丹ちゃんを見ながらお酌したりした。

 これで踊れとか言われたらおしまいだ。

「お前、なかなかの美人だな」

 隣に座っていた男性が言った。

 牡丹ちゃんに言っているのだろう。牡丹ちゃんも、初めて会ったころと比べると、すごく綺麗になっている。

「お前のことを言っているんだが」

「えっ、私?」

 私のことを言ってたんかいっ!そりゃ、馬子にも衣裳と言うやつだろう。 着ている着物が豪華でとっても綺麗だから。

「お前、なまりがないな」

 しまった。とっさのことだったので、普通に話してしまった。

「あ、わ、わては京の出やないさかい、たまに普通に話してしまうんどす。すんまへん」

 何とかごまかした。

 京に一年もいるから、なんとか京の言葉を話すことができそうだ。

「京の出じゃない? 出身はどこだ?」

「え、江戸どす」

 江戸にしておいた方が無難だろう。

「江戸か。珍しいな」

 そうなのか?でも、島原に江戸出身の芸妓さんって、珍しいかも。

 江戸なら吉原があるし。

「お武家はんは、どこの方どすか?」

 聞かれたら、聞いたほうがいいのかな?そんなことを思い、何気なく聞いてみた。

「俺か? どこの出に見える?」

 そんなこと、知るかっ!と言いそうになってしまった。

 そんなことをしたら、花君さんの名前に傷がついてしまう。

「さぁ、全然わかりまへん」

「聞いて驚くな。長州だ」

 ほ、本当かっ!驚きすぎて、お銚子を落としてしまった。

 慌てて謝り、牡丹ちゃんが素早く揚屋の人を呼んでくれて処理をしてくれた。

 ありがとう、牡丹ちゃん。

「蒼良はん、大丈夫?」

 揚屋の人が色々やってくれている間、牡丹ちゃんが心配そうに近づいてきた。

「大丈夫。お客さんが長州の人だと言ったので、驚いてしまって」

「あ、蒼良はんは、捕まえる側やもんな」

 そうなのだ。

 8月18日の政変以来、長州人は京を追放されたので、ここにいてはいけないのである。

 もしいたら、捕縛して奉行所へ連れていかなければならない。

「でも、今は我慢してや。花君はんのためや」

 わかった、我慢する。

「さっきはすんまへんでした」

 私は、さっきの男の人に謝った。

「いや、俺も驚かせてしまったからな。でも、俺以外にも、長州人が京にはたくさんいるぞ」

 そ、そうなのか?それは捕縛しなくてはっ!

 ああ、でも、今は花君さんになっているんだった。

「驚いているな」

 そりゃ驚くだろう。

「お前はすぐに顔に出て面白いな」

 よく言われます。

「気に入ったぞ」

 あごのところに手を添えられ、顔を男性の方に向けられたので、目をそらしても男性の顔が視界に入る状態だ。

「顔もなかなかいい」

 よく顔を覚えておこう。この仕事が終わったら、即捕縛だ。

「花君はん、お酒の追加お願いしてくれる?」

 私たちの異常な雰囲気を察したのか、牡丹ちゃんがそう言った。

 私は、座をはずして、台所にお酒の追加をもらいに行った。

 戻ると、牡丹ちゃんが座敷の外で待っていた。

「蒼良はん、何話しとったか知らんけど、お座敷であったことは、外に持ち出したらあかんよ」

 そうなのか?

「だから、相手が長州の人やってここでわかっても、外に持ち出したらあかんから、戻っても捕まえたらあかんで」

 そ、そうなのかっ!


 何回かお酒のお代りをもらいに台所とお座敷を往復した。

 すると、恐れていたことが起きた。

 なんと、永倉さんとばったりと遭遇してしまったのだ。

 しかも、出合い頭にぶつかりそうになるという、よけようにもよけようがない状態だった。

「あれ? お前、どこかで見たことあるぞ」

 すでに永倉さんの口調がレロレロだ。相当お酒が入っているのだろう。

「いや、気のせいどす」

 顔を隠しても、のぞきこんでくる。

「いや、見たことある。どこでだ?」

 酔っ払っているせいか、脳の回転が悪いらしい。一生懸命思い出そうとしている。

「屯所?」

「そ、そんな、わてが新選組の屯所なんて行くはずあらしまへんやろ」

 顔を隠しつつ、何とかごまかした。

「ちょっと待て。なんで俺が新選組なんてわかったんだ? 俺はそんなこと一言も言ってないぞ」

 そ、そうだったのか?ど、どうする?

「し、新選組の永倉はんやろ? 島原では有名なお人やさかい」

「俺は、そんなに有名か?」

「そりゃもう、男らしいって評判なお人やさかい」

「お前、いい女だな」

 顔も見てないくせに、よく言えるなぁ。

「おい、新八。そんなところで何油売ってるんだ?」

 は、原田さんまで現れた。

「いやぁ、俺って、男らしくて島原ではもてているらしいぞ」

「ばか、自分で何言ってんた。相当酔ってるな?」

「酔ってないぞ。そこにいた女が、おい、女っ!」

 永倉さんが原田さんと話しているうちに静かに去ろうと思って歩き始めていた時に永倉さんに呼ばれたので、ものすごくびっくりした。

「おい、新八。あの子に何かしたのか? 飛び上がって驚いていたぞ」

 何もされていませんが、一番ここで会いたくない人たちに呼ばれたので、驚いたのですよ。

「俺は、島原で一番人気なんだろ?」

 一番人気とは誰も言ってないぞ。

「おい、こっちに来いよ」

 永倉さんに肩をつかまれたので、顔を見せたくなくても顔を見せてしまう状態になってしまった。

「あれ? お前……」

 原田さんが私の顔を見て驚いている。

 も、もしかして、ばれたのか?

「蒼良に……」

 ば、ばれたっ!

「似ている」

 ばれてなかった!

「そ、そうなんですよ。よく言われます。し、新選組の天野 蒼良さんに似ているって」

 ごまかすために一気に話した。

「話し方が、さっきと違うような感じがするぞ」

 永倉さんに言われて気が付いた。なまりを付けるのを忘れていたっ!

「あ、え、江戸出身なので、たまになまりを忘れちゃうのですよ。いやだわ、私ったら。あはは」

 最後はごまかすように笑ったら、他の二人もなぜか合わせるようにしてあははと笑っていた。

 すると、突然原田さんが永倉さんにげんこつをを落とした。

「新八っ! 酔っ払って女の子にからむんじゃない」

「左之っ! いきなり殴るなよ」

「酔っ払いにはちょうどいいだろう。こいつに何かされなかったか?」

 原田さんに聞かれたので、首を振った。

「そうか。酔っ払ってやったことだから、今日のことは忘れてほしい」

 いや、こちらこそ、忘れてほしいです。そう思ってコクコクとうなずいた。

「すまないな。ほら、新八、行くぞ」

 原田さんは、酔っ払っている永倉さんを引っ張って、去っていった。

 よかった。危機は脱したみたい。


 次の日、ちょうど非番だったので、再び島原に呼ばれた。

 しかも、夜ではなく昼間だ。

「今日は旦那はんに呼ばれて、つつじを見に行くことになったんや」

 準備ができた私に、牡丹ちゃんが嬉しそうに言った。

 旦那さんとは、お客様のことだ。

「つつじって言ったら、今がちょうど見ごろみたいだよ」

「そうなんよ。だから、蒼良はんもと思うて誘ったんや。それに、明日から花君はんもお座敷に出れそうやさかい、今日で蒼良はんのお仕事は終わりやし、最後に楽しい思いもしとかんとな」

「花君さん、治ったの? よかった」

 とりあえず、私の仕事が無事に終わりそうでよかったわ。

 つつじを見に行くときに、その旦那さんが誰なのか聞いて驚いた。

「会津藩のお人なんや。なんでも、藩でつつじを見ながら宴会をしようと言うことになったんで、うちらが呼ばれたんや」

 会津藩と言えば、私たちの上司じゃないかっ!

 でも、藩でって言ってたし、まさか、新選組の人なんて来てないよね。呼ばれたなんて話も聞いてないし。

 しかし、思いっきり新選組の人がいた。それも、一番この状態で会いたくない人が。

「ひ、土方さんっ!」

「あ、ほんまや。新選組の人がいるなんて話、聞いとらんけどな」

 牡丹ちゃんも私のことを心配してくれているのか、今日呼んでくれた人のところに行って、話を聞いてきてくれた。

「何でも、急に新選組の近藤はんも呼ぼうと言う話になったらしいで。でも、急やったし、近藤はんは用事があって出かけていなかったさかい、土方はんが来たらしいで」

 そ、そうだったのか。

「蒼良はん。女は度胸や。ここまで来たんやさかい、おきばりやす」

 えっ、土方さんがいるから、やめた方がいいとか言って、返してくれないのか?

 牡丹ちゃんの言い方だと、ここまで来て逃げるのもなんだから、頑張れっ!と言っていたような? 

「さ、行くで」

 と言って、お客さんたちのところに行った牡丹ちゃん。

 やっぱり、頑張れの方だったのね。

 私たちのほかにも、芸妓さんはたくさん呼ばれていた。

 だから、他の人が土方さんのところに行くだろうと思っていたけど、そんな簡単に物事は運ばなかった。

 なんと、私が土方さんにお酌することになってしまったのだ。

 最初は顔を隠してお酌した。

 そうだっ!土方さんはお酒が弱いから、酔わせてしまえば記憶がなくなるぞ。

 たくさん飲ませればいいのだ。

 そう思って、勢いよくお酌したら、

「酒は飲めねぇから、いらない」

 と、思いっきり言われてしまった。

 酔わせて作戦失敗。

「お前、さっきから顔を隠しているが、何かあるのか?」

 土方さんが、私をのぞき込んでいた。

「あ、あの……じ、実は……恥ずかしゅうて顔あげられへんのどす」

 私の言葉をじぃっと聞いていた土方さん。

「どこかで聞いたことある声だな」

「き、気のせいどす」

 土方さんは、顔を隠していた私の手をつかみ、パッと上にあげた。

 もちろん、私の顔は土方さんにさらされたわけで。

「お、お前っ!」

「ひ、土方さん、これには深い、深いわけがっ!」

 思いっきりばれたのだった。


 二人で宴席を離れ、つつじが満開になっているところを歩いていた。

 こういう状態になったわけを土方さんに全部話した。

 土方さんは、無言でつつじを見ていた。

 怒っているのかな?やっぱり怒るよね。

「お前な、京の平和を守るためにやったと言っているが、本当に守っていると思っているのか?」

「でも、牡丹ちゃんと楓ちゃんが、島原の平和を守ることは京を守ることと同じことだと言ったので……」

「そりゃ、個人の平和だろう」

 個人の平和?

「お前が花魁になって京が平和になるなら、とっくに花魁にさせてるよ。でも、そうじゃねぇだろう」

 そうなのか?

「お前が花魁になっても、京は何も変わってない」

 確かに。

「お前、ちょっと勘違いしているから言っとくがな、俺たちが守っている京の治安は、京全体を見て守っているものだ」

「京全体ですか?」

「そうだ。暴れている浪人をそのままにしておくと、今京にいる家茂公にも影響が出るかもしれねぇだろうが」

 確かに。家茂公を出せっ!攘夷しろっ!って暴れている奴らが多いから、そのままにしておくと、家茂公が危なくなる可能性もある。

「家茂公に影響が出たら、京どころじゃなく、日本に影響が出るだろう?」

 その通りだ。

「だから、守ってるんだ。お前は京の平和を守るために花魁になっているらしいが、その花君とかいう芸妓が座敷に出れなくなったら、日本に影響が出るのか?」

「出ないですね」

 どう考えても、出ない。

「京にも何か影響があるのか?」

「ないですね」

「あるとすれば島原ぐらいだろう。島原に影響があれば、日本が、京が、何かなるのか?」

「何ともならないです」

「お前は、守らなくても特に何ともないことを一生懸命守っていることになるんだぞ」

 ショックだけど、その通りかもしれない。

「すみません。私が間違ってました」

「今回は、牡丹とかいう女と楓とかいう女に言いくるめられたのだから、仕方ねぇな。いい勉強をさせてもらったと思っておけ」

「はい。そうします」

「二度とやるなよ」

「はい」

「よし、話はおしまいだ。せっかく来たんだ。満開のつつじを楽しむか」

 土方さんは、私を他の人に接待させないため、この芸妓が気に入ったから、俺のそばに置かせろと言った。

 そして、みんなが帰るときは、気に入ったから連れて帰ると言ってくれて、途中でお雪さんに頼んで着物を脱がしてもらい、無事に屯所にたどり着いたのだった。


「おい、蒼良」

 屯所に帰ってしばらくすると、永倉さんに呼ばれた。

「お前、島原に姉さんか妹がいるか?」

「いませんが……」

「この前島原に行ったら、お前にそっくりな人がいてな。驚いたよ」

 ギクッ!ここでその話をするのか?

「い、いやだなぁ。永倉さん、酔っていたんじゃないですか?」

「確かに酔っていたが……」

「気のせいですよ、気のせい。あ、でも、世界には、自分と同じ顔をした人間が3人いると言いますからね。もしかして3人のうちの一人かも」

「3人いるのか? 俺と同じ顔した人間が」

「そう言う話ですよ。本当かどうか知りませんが」

「そうか……3人……」

 その話、そんなに驚くことなのか?

「あ、そうそう。土方さん、また彼女が出来たって」

 えっ、そうなのか?またって……前にもいたってことか?

「前、俺が嵐山であった人がいたけど、あの人は商売しているような感じには見えなかったからな。きっと、新しく彼女ができたってことか」

 あ、前の彼女は、私のことだ。

 ん?今の彼女は誰だ?

「今度は、島原の花魁だってよ」

 し、島原の人なのか?

「花君とかいう、今度太夫になる人だと聞いたが」

 それって、やっぱり私だ。

「もてる男は違うね。うらやましいよ」

 永倉さんがうらやましそうに言っていた。

 土方さん、またしばらく恋文が来なくなりそうです。

 すみません。

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