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加納宿

 それから数日後、私たちの周りでは特に何事も無く加納宿というところに到着した。

 ここは城下町も兼ねていて、とても大きな街だった。城下町なので、城がある。

 火災でちょっと無くなったらしいけど、それでも立派な本丸があった。

 ちなみに現代は城もなく、石垣だけが残っているらしい。

 こういう貴重なものを見れると、タイムスリップしてよかったなぁと思う。

 そんなことを思いつつ、城をぼんやりと眺めていると、

「蒼良!」

 と声かけられたので、振り向くと、永倉さんがいた。

 永倉さんがいるのはいい。

 その近くになんと、芹沢さんがいた。

 そして、そのそばには新見錦と言う人がいた。

 永倉さん、私はあなたが芹沢さん達と一緒にいるように見えるのですが……。

「ちょうど良かった。芹沢さん達に飲みに誘われてさ。一緒にいかないか?」

 一緒だったんかいっ!

「永倉さん、なんで私を誘うんですか」

 芹沢さんたちに聞こえない声で私は言った。

「いやー、知り合いが誰もいなくて寂しいなぁと思っていたら、蒼良がいたから。で、行かないか?」

「遠慮したいですが……」

「蒼良、何も遠慮すること無いぞ」

 いや、私はとっても遠慮したい。

 むしろ行きたくない。

 永倉さんとコソコソやっていると、

「蒼良も一緒に来るといい。今日は俺がおごるぞ」

 と、芹沢さんに言われ、断る機会を逃してしまった。

 逃げようと思ったけど、のちのちのこともあるので我慢した。

 でも、この人が壬生浪士組の局長になるってわかってなかったら絶対逃げてた。

 私たちは、居酒屋に入った。この時代から居酒屋はあったんだなぁ、なんて思った。

 芹沢さんに、本庄宿の火のことで言い合いになったことを何か言われるかなぁと構えていたら、

「蒼良、あの時は悪かったな」

 と、謝ってきた。

 なんか、悪い人でもないんだな。

「さぁ、みんな飲め」

 芹沢さんは、みんなにお酒を注いだ。

 でも、私は未成年だから飲めないな。

「蒼良は飲まんのか?」

 案の定、芹沢さんに聞かれた。

「私は、まだ未成年なので」

「未成年?」

 えっ、この言葉はなかったのか?

「まだ二十歳になってないので、飲めないです」

 飲んだ日には、お師匠様にこの時代に置いてけぼりにされそうです。

「蒼良は確か十八歳だろ。十八歳なら元服も済ませてて立派な成人だぞ」

 永倉さんが言った。

「いや、私の中では二十歳なのです」

「でも、飲めないことはないだろう」

 永倉さんと飲める、飲めないとやりとりをやっていたら、

「無理して飲むことはない。飲めなければ、つまみを食えばいい」

 と、芹沢さんが言ってくれた。

 本当に、本庄宿と同じ芹沢さんなの?

 実は、双子で……ってパターンはないか。

 そんなこんなで、飲み会が始まった。

 話題は今はやりの攘夷論で、これも簡単に言うと、鎖国が終わって外国からの色々な問題、例えば不平等条約を結ばれちゃったりしているわけだけど、その外国の力を追い出して、自分たちの王によって国を収めるという尊王攘夷と言う考え方があるのだけど、その考えが生まれたのが、芹沢さんたちの出身地の水戸らしい。

 私には、何がなんだかさっぱりという感じなのだけど。

 これも、考え方によっては、尊王の王は誰かによって、反幕府派か幕府派かに分かれるのだけど。

 それにしても、芹沢さんのお酒の飲むピッチというか、杯を重ねる回数が多いし、速い。

 永倉さんもついていけないような感じになってきた。

「芹沢さん、飲むのが早すぎませんか?」

「俺は、いつもこの調子で飲んでいるから、大丈夫だ」

 いや、大丈夫じゃないだろう。

 横にいる新見さんに注意するように視線を送ったけど、無視された。

「芹沢さん、体に悪いですよ。ちょっとゆっくり飲みませんか?」

「大丈夫、大丈夫」

 だから、もう大丈夫じゃない。

 そういえばこの人、アル中になるんじゃなかったか?酔っ払うと暴れるし、朝から飲んでるしって、本に書いてあったような気がする。

 こりゃ、ダメだ。

「すみません、ちょっと行ってきます」

「なんだ、厠か。いってこい」

 ついついトイレと言ってしまいそうで、怖かった。

 という訳で、芹沢さんに見送られつつ厠へ。

 行くふりをして、居酒屋の厨房というのか?そんな感じのところへ。

「すみません」

 お店の人に声かけた。

「あそこの席の者だけど、あの人、あれ以上飲ますと何するかわからないので、お酒を水で少しずつ薄めて、最後には水になるようにしてもらえますか? もちろん、わからないように」

「そんなことしたら、お客さんに怒られるだろう」

「でも、あの人、酔うと何するかわかりませんよ。もしかして、この店壊すかもしれないし……」

「わ、分かった。店壊されたらたまんない。そのかわり、何かあったら責任とってくれよ」

「わかりました。ありがとうございます」

 私は再び席に戻った。

 お店の人が追加の酒を持ってきた。

 その追加の酒を口につけた永倉さんが吹き出しそうになったから、肘で突っついて止めた。

 これはバレたか?と思っていたけど、芹沢さんたちは酔いも回っていたらしく、気がつかなかった。

 そろそろ酒がかなり薄まって水になろうかというときにお開きになった。

「ここの酒はいくら飲んでも悪酔いしないからいいな。何かほかの店と違うことしているのか?」

 芹沢さんは、お店の人に聞いていた。

 お店の人もまさか水ですなんて言えないから、笑ってごまかしていた。

 私はみんなにバレないようにお店の人にお礼を言ってから出た。

 お店の前で解散になった。

 私は永倉さんと宿まで歩いた。

「なぁ蒼良、あの酒だけど、途中から水になったんだが、まさか、お前じゃないよな?」

「ああ、私がお店の人に頼みました。あの飲み方が続くと急性アルコール中毒になりますよ。そうでなくてもアル中のけがあるのに」

「はぁ? ある中? 急性ある? なんだ?」

「簡単に言うと、お酒が欲しくて欲しくてたまらず、飲まないと死んでしまいそうになる病気です」

「そんな病気があるのか?」

「それに肝臓にも悪いですよ」

「だからって、水を入れるのもどうかと思うぞ。よくバレなかったなぁ」

「だって、止めても飲んでいたので、お店の人に頼んだのです」

「蒼良は、ある意味怖いもの知らずだな」

「でも、あの調子で飲んでいたら、永倉さんも倒れてましたよ」

「ま、そうだな。今日はこれで良しとするか」

 私も、芹沢さんの意外な一面を知ることができてよかった。

 ビクビクしたまま京に着いて、これから先もしばらく付き合わないといけないと考えると、今日、一緒に飲めてわだかまりが取れてよかったかもしれない。


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