一日目~近くの町~
「疲れたよ。」
家を出て一時間くらい歩いている。
「まだ五時間くらい歩くぞ。」
後ろを歩いているリーナに振り向き
ジランが言う。
「それでも疲れたよ。少し休もうよ。」
「まだ一時間しか歩いてないだろ。」
「一時間もだよ。少し休もうよ。」
ジランは少しため息をつく。
「少しだけだぞ。」
「やった!」
リーナは腰を降ろし、ジランは立ったまま辺りを警戒している。
今いる場所は一本道の坂道。
前は森。挟まれればひとたまりもない場所だ。
ジランは早くここを抜けたいのだが
、いざという時に走れないくらい疲労しているとすぐやられてしまうので仕方なく休憩している。
まあまだ八時なのでまだ大丈夫
だろうとジランは思っていた。
「そろそろいくぞ。」
「え〜。まだ五分しか休んでないよ。」
「五分も、だ。さあいくぞ。」
ジランは歩きだす。
しぶしぶリーナもついてくる。
「もうちょっとゆっくり歩こうよ」
「十二時くらいには町についておきたいんだよ。」
後ろから聞こえてくる声にジランは振り返らずに答える。
「なんでそんなに急ぐの?」
「いろんなことを聞きたいんだ。俺たちの村には外からの情報は一切入ってこなかったからな。」
「ふーん。」
リーナが言ったのが最後に会話は途切れた。それから二時間くらい
歩き、
「リーナ、大丈夫か?」
ジランが後ろを向いて言う。
「多分...」
「そろそろ休憩するか?」
リーナの元気ない返事を心配した
ジランが休憩を提案する。
「私は大丈夫だよ。」
「いざと言う時に逃げられなかったらやばいだろ?休憩しよう。俺も疲れてるし、思ったより順調に進んだしな。」
すこし会話しただけでリーナの息が荒くなる。そうとう疲れている証拠だ。(三十分ぐらい休憩をとるか。幸いここは平原のど真ん中だしな。不意打ちをくらうことはまずないだろうしな。)ジランは腰を降ろした。リーナも横に座る。
「険しい道が続いたがここからは平原だけだからな。」
ジランがそう言う。
「三十分ぐらい休憩するから今のうちに水分とって、少し飯食っとけよ。」
気付けばもう十時。朝食をとってないことを思いだし、リュックから
取り出した握り飯を渡す。
「ありがと。」
リーナはそれをむしゃむしゃ食べはじめた。
(俺も何か食べるか。)
そうして三十分後...
「そろそろ行くか。」
「うん!」
すっかり元気になったリーナは元気良く立ち上がる。
それを見て微かに笑いながら、ジランはゆっくりと腰を上げる。
(このまま行けば後二時間くらい
で町につくな。)
ジランは一度だけ隠れて町に行ったことがあるので、だいたい何時間
くらいかかるか分かっていた。
(ふう、やっとここまできたか。)
今いる場所は町の一つ前の森。
「ここは山賊が多いからな。気を付けろよ。」
ジランはそう言いながら風のグローブを手につける。
「分かった。」
リーナは拳銃をリュックから取りだし、手に持つ。
「多分十五分くらいで森を抜けるからな。絶対に俺から離れるなよ。」
ジランは真剣な表情で言う。
「うん。」
リーナも真剣な表情で返事を返す。
「よし、行くか。」
森の中は暗かった。うっすら木漏れ日があるところはあったが、それでも暗かった。時々よく分からない
動物の鳴き声もする。
「ねぇ、ジラン。手繋いで。」
「ああ。」
リーナは恐怖で少し震え
ジランと繋いでいる手に少し力
が入る。
森に入ってから十分くらいたった時だった。
(なんかいるな。)
ジランには生き物の気配を強く感じることができた。それおかげで何回も救われている。
(さてどうするかな。)
ジランの頭の中に選択肢は3つある。
走って逃げる。
さらに警戒する。
敵を挑発して戦う。
(逃げたら絶対に気付いていることがばれるしな。相手が弓を持っていたらやばい。戦うのはリスクが高すぎる。やっぱさらに警戒して出口が見えたらダッシュするのが一番だろうな。)
ジランはさらに警戒を強め、いつ弓が飛んで来てもいいように集中
した。それから四分くらいたった。
光が見えてくる。
(出口で油断したときに襲ってくる気か。よし!)
「リーナ走るぞ。」
できるだけ小さい声で言う。
「う、うん。」
リーナは少し戸惑ったが、心配している暇はない。
「いくぞ!」
これも小さな声で言い、同時に走り出した。
そしてなにごともなくその森は走り抜けることができた。
「ふう。」
ジランは森から少し離れた位置で走るのを止め、安堵のため息を漏らした。リーナは手に持っている拳銃をしまう。
「なにかいたの?」
一息ついたところでリーナが聞く
。
「多分、な。」
ジランはなにもなくて本当に良かったと思った。
そして町につく。
十一時半。予定よりずっと早くついた。
「とりあえず、昼飯を食うか。」
ジランが言う。
流石にずっと神経を切り詰めていたので、疲れ、同時に腹も減った。
「食料はまだあるでしょ?」
「おにぎりはさっき食べたから腐るものは何もないからいいんだよ。」
ジランはそういうと、飲食店がないか辺りを見回す。
「そろそろ髪切ったほうがいいんじゃないか?」
ジランが見回したあとに言う。
「なんで?」
「だって背中の真ん中ぐらいまであったら戦うとき邪魔になるんじゃないか?せめて肩までにしとけよ。」
リーナの髪はかなり長い。ただそれは後ろだけで前髪はそれほど長く
ない。横は耳に軽くかかっている
程度だ。
「まあそうかもね。」
リーナもそう思った。前髪は邪魔だから自分で切っていたが、後ろは
伸ばしっぱなし。手入れが大変だった。
「じゃあさっそく行くか。」
ジランはそう言うと近くにあった
散髪屋に入る。リーナも後に続く。