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第二話 私はこの世界は嫌いじゃない。

 主人公が最初に向かったのは、無口な読書女のところだった。この子は長い黒髪が特徴の、他人に興味を示さないほどの読書好きだ。温泉旅行の際に主人公とキスしたなんてこともあったが、あれは「キスというものがどういうものなのか知りたかった」というだけであり、そこに恋愛感情など存在しないという設定なのだ。ある意味、一番のバカなのかもしれない。

 でまぁ、読書が好きってこともあって知識が豊富なので、主人公は彼女に出来事を打ち明けてみることにした、というわけだ。

 西日が射し込む図書準備室で、二人、話した。

「おれは、人が消える瞬間を見たんだ。でも、その人が消えたことを、誰一人として記憶していないんだ。おかしいだろ。犯人は神だ。彼女は、神が遣わした天使だったんだよ!」

 そんなことを言った主人公だったが、読書女は無言で薬を手渡した。彼女が愛用している精神安定剤だった。一言目で完全に病気だと思われたようだった。

 主人公は、薬を床に叩きつけた。

「違う、おれはおかしくなんかない。神は存在して、おれたちを監視していて、おれたちは、そんな世界から抜け出さなくちゃいけないんだよ! わかるだろ?」

 しかし読書女は主人公にゴミを見るような視線を投げつけ、

「さっぱり」

 と返した。普通の反応だな。主人公くんは完全におかしなヤツに見える。作者にして神である俺から見てもそう思うんだから終わってるぜ。やれやれ、神たる俺のことを許さない、なんてカッコつけて言うもんだから、どんなもんかなと思って見ていたが、こんなもんか。正直、拍子抜けだぜ。

「とにかく、おれはこの世界をぶっ潰したいんだ! 一緒にその方法を考えてくれないか?」

「何故です?」

 読書女は本をパタリと閉じて言った。

「だって、人が、消えたんだぞ。そんな世界に、おれたちは居るんだ」

「それは、証明できること?」

「そ、それは……」

「私には、あながが『消えた』と言っている人間が一体どこの誰なのか全く思い出せない。だから、あなたは、突発的に頭がおかしくなったとしか思えない」

「そんな……」

「それに、私は、この世界は、嫌いじゃない」

 この平和な世界を壊す必要なんて、ないんじゃないのってことだ。読書女は知識の探求さえできればそれで良いって設定だからな。逆に言えば、全ての知識を吸収してしまった時に世界を壊したくなるのかも知れないが。

 まあ、ぶっ壊す必要無いんじゃねぇのか、と俺も言いたい。

「くっ……邪魔したな……」

 主人公は言って、図書準備室を出るんだ。心底ガッカリした顔をしながら。

 読書女は、それを無言で見送って、また本を開くわけだ。




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