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第一話 おれはこの世界を作った神を許さない。

 一つ目の設定、どこかの町の、どこかの学校、どこかの部屋。

 二つ目の設定、主人公は俺のようなバカ男。

 三つ目の設定、主人公のところに天使が来る。

 この三つを言っておけば、今の状況をだいたいは理解できると思う。

 理解できなかったらゴメンナサイとは先に言っておくが、何せ俺は小説なんてドがつく程の素人だ。読者の気持ちを考えることを意識しはするが、まぁ自己中心的な性格上、それは無理ってもんだ。だから、さっきの三行説明で、何とか状況を理解してもらえたと信じて、話を進めようと思う。

 つまりだ、俺は小説を書いているわけだ。

 さっきの設定ってのは、その小説の話になるわけなんだが、小説を書いてるってことは、世界を一つ作ってるってことに他ならない。

 まずここで明らかにしておきたいのが動機。俺が小説、つまり上記の三つの設定の世界を作った理由だ。まぁ、何となくでしかないんだけども。

 まぁ往々にして創作なんてもんは、作者の自己満足でしかないんだよ。だから、俺は自分に都合の良い世界を創り上げたかっただけというわけ。

 他人に見せるつもりは全く無いが、それでも誰でも読めるものを書かないと、書き残す意味がないというか、この小説を書いた記憶を失った自分が、小説を読み返した時に、その小説が理解できないものだったら、それは自己満足にすらならないので、そこそこに読者の目を意識はしている。


 俺は、冷静な目でそいつを見ていた。

 そいつは、俺の書いている青春物語の主人公で、作者にして神である俺に対して敵意をむき出しにしてきたんだ。まさかこんな展開になると思わなかった俺は、少し焦ったが、すぐに冷静さを取り戻したんだ。

 どういうことかと言えば、作り手……つまり神である俺の存在に気付いた主人公が「おれはキサマを許さない」などと言ってきたわけだ。どうやって気付いたんだ、とは思ったが、作り手である俺の意思とは関係なく勝手に気付きやがったんだから、理由なんぞ考えても無意味ってもんだ。

 小説を書いてるとキャラが勝手に動いたりすることがある……みたいな話を聞いたことがある。たぶんそれだ。その摩訶不思議な現象が、俺の小説でも起きてしまったという、ただそれだけの話だ。

 簡単に俺がここまで書いた小説を説明してやれば、中身は至って普通だ。

 まず、いつも小説ばかり書いている便所飯系で孤独な主人公が、一人で小説を書いている場面から始まるんだ。どんな小説を書いているのかという問題に関しては、何も考えていない。要は適当な設定なわけで、ただ小説を書いてみたくなった男ってこと。

 それで小説を書き終えて欠伸を一つしたその時に、背後にあった扉が開くんだ。

 んで、そこに立っているのが、作者(俺)からの使者。まぁ簡単に言えば天使ってやつだ。ダメダメな主人公の前に天使の女の子がやって来るという、ベタな話なのさ。

 そいで、天使の女の子と主人公は、一瞬で恋に落ちるわけだ。

 出会って二秒でフォーリンラヴというわけだ。

 だけども、この天使には使命があるんだ。制約って言ってもいいかな。まぁ簡単に言えば、天使は長く生きられないんだ。一年くらいで消滅という名の死を迎えてしまう。

 天使を死なせないためには、天使が生きている間に主人公が天使と契約しなければならない。契約するには、天使だけを愛することが必要。しかし、ここであといくつか制約が入る。

 制約、それは、天使が長く生きられないことと、天使だけを愛さなければ契約できないこと、そして彼女が天使であることを主人公に知られてはいけないということ。

 一年の間に契約しなければ消滅してしまうし、天使以外に心を寄せていたら契約の際に消滅するし、天使であることが知られたが最後、消滅してしまう。

 何故、天使が主人公と契約しなければならないのか、という問題には、まぁそういう運命なんだよと思ってくれればいいかな。俺は素人だから、設定は適当でいいのさ。

 大事なことだから二度言うが、天使だけを愛し、天使と契約しなければならないが、天使はそのことを主人公にバラしてはいけないし、天使であることがバレてもいけない。その天使の寿命は一年。それが核になる設定。

 多少ベタな感はあるが、誰に見せるでもない物語なのだ。いわば、そうだな、習作ってやつだ。別にどこの文学賞に出すわけでもなく、インターネット上で発表するわけでもなく、ただの自己満足なのだから。

 でまぁ、色んな制約がある中で、天使と結ばれてハッピーエンド。そういう予定だった。


「うちがそちを修正してくれよう!」

 突然現れた天使は主人公に向かってそう言うんだ。何だか偉そうな口調で。

 主人公は、前触れも無く突如として出現した天使を見て、何が何だかわからなかったけど、とりあえず好みのタイプだったのでフォーリンラヴ。天使の方も、「神から言われて面倒だけど行くことにした」とか言っていたのに主人公にひと目ぼれ。現実には有り得ない展開だが、小説にはありがちなご都合主義ってヤツだ。

 まあそんな感じで、一人で部屋に居たところに、天使が出現して、「そちは不健康じゃ。友達でも作って遊びまわるがよいぞ」とか言い出して、大好きな天使ちゃんに言われるがままに色々と遊び回るわけだ。

 その過程で明らかにロリな娘と出会ってみたり、知らぬ間に巨乳になっていた幼馴染と再会してみたり、ある男と意気投合し親友ができたと喜んでみたり、無口な読書女に研究対象にされたりして。

 んで、その人間たちと友達として仲良くなって、仲間になって、皆で海に行ったり、スポーツをしたり、クリスマスで雪道を踏みしめてみたり、花見をしたりするんだ。そして、そんな風に楽しい時間を過ごしているうちに、腹立つくらいに強欲な主人公は次第に天使以外の誰かに心を傾け始めるんだ。

 天使ちゃんは、主人公の心の変化に気付きはじめていた。自分のことが好きだと思っていたのに、他の女の子に恋心を寄せ始めたことに女のカンで気付き、策を講じる。

 まぁ、策といっても、この天使ちゃんは不器用なタイプなので、ゴリ押し。

 つまり、夜這い。

 天使ちゃんは体を使って主人公を籠絡に走るわけだ。

 そんな女いねぇよ、とか思われるかもしれないが、彼女は人間である前に天使なのだ。作者の勝手な設定によって命も掛かっているし、主人公のことが好きなのだから、こういう行動に出ても不思議ではない。まぁ、設定の時点で既にご都合主義全開なので、いかなるツッコミも無駄なのである。

 それでこそ小説だぜ、と自分に言い聞かせつつ、俺はエロシーンを書こうと試みたが破って捨てた。恥ずかしくなったからではない。リア充な生活を経験したことのない俺にとって、エロシーンなど不可能なのだ。俺は女性の体がどうなってるか、などというものはエロ本やエロ動画でしか見たことがなくて、その全てのソレにモザイクが入ってるもんだから、全くもってリアリティ不足。というか、そもそも女の子の体のことを知らないのに書いても悲しくなるだけという話だ。ああまぁ、実は恥ずかしいという気持ちもあるにはあるけど。

 とにかく、エロまではいかない超セーフラインで踏みとどまって、ほっぺにチュウくらいにしておいた。その方が天使ちゃんらしいな、などと自分に言い聞かせながら。

「そ、そちの頬に、ごはんつぶがついておったから、とったまでだぞ」

 などと深夜の布団の上で顔を赤くして言ったりする天使ちゃん。

「なんだ、ごはんつぶか」

 などと言うニブすぎな主人公。ちくしょう主人公ちくしょう。

 しかしまぁ、そんな浅い繋がりしか持たない天使と主人公だったために、主人公はフラフラと他の女との関係を深めはじめるんだ。今にして思えば、天使と主人公をもっと強く結びつけておけばよかったのかもしれない。

 皆で温泉旅行に行った際に、無口な読書女に突然キスされたり、ロリな娘が間違えて男湯に入って来たり、それで慌てて色々なものが立ち上がって顔を真っ赤にしたロリ娘に殴り飛ばされたり巨乳の幼馴染はあろうことか酒を飲んで酔っ払い、過去の思い出話とおっぱい攻撃を繰り出してきたりするんだ。そして巨乳女のことが好きだった親友との間に亀裂が走って、卓球対決をしている時に、巨乳女が主人公を好きだったことを主人公が知ってしまって、幼馴染の乳房並に揺れる主人公の心。天使ちゃんはその状況を手をこまねいて見ているしかなかった。不器用だから。

 この天使ちゃんは直球しか投げられないという、かわいこちゃんなので、温泉旅行の後の桜が咲いてない冬の花見……というか枝見ってのを敢行した際に、行動に出る。

 そう、冬の並木道、枝が稲妻みたいだなぁなどと思いながら主人公が歩いているところで、天使ちゃんが主人公を連れて皆から離れて二人きりになり、

「そちは、うちのことが好きか?」

 などと天使ちゃんは言うのだ。主人公は、

「好きだ!」

 と言う。

「では、契約をしようぞ!」

 天使ちゃんはそう言って、賭けに出るのだ。

「よくわからないけど、どういうこと?」

「好き合っていれば、契約をすることになるのだ」

 そして天使ちゃんは、婚姻届を差し出す。

「うぐ、これは……」

 などとたじろぐ主人公に、天使は突然キスをするんだ。

 なんつーハーレムだよ、ちくしょう主人公ちくしょう、などと思いつつ、唇を重ねたり抱き合ったりする彼らを、神である俺は応援していたわけだ。

 そして愛し合う二人は、集団を離れて学校へ。出会った部屋で契約を交わす。天使の血液で描いた二メートルほどの楕円の中に六芒星といくらかのぐにゃぐにゃした文字を描いて陣を敷き、儀式を開始する。儀式といっても、ただ誓いの言葉を述べる儀式。

「そちは、うちだけを愛すか?」

 天使は言って、主人公が答える。

「愛します」

 主人公が天使だけを愛していた場合は天使は消滅しない。主人公が天使以外の誰かを愛していた場合は天使が消滅する。 

 シンプルな二択だ。

 で、だ。

 ここで作者にして神である俺にとって、予想外のことが起きた。

 強欲なクソ主人公は、天使を愛していたが、その上で天使以外の誰かのことも愛してしまっていたようなのだ。くそ主人公くそっ!

 天使は消滅した。いともあっさりと。そして神である俺のところへ戻ってくるでもなく、ただ消滅した。最初から居なかったことになったんだ。主人公の記憶にだけ刻み込まれたまま。

 何という贅沢なことだろうね。本当にコイツには手痛い仕置きが必要だと痛感したよ。

「何で……こんな……」

 呟いた主人公は悲しみに涙を流すんだ。そして天使ちゃんの名前を叫ぶ。天使ちゃんのことが一番好きだったのは事実だった。嘘ではない。だけど、嘘か嘘でないかは問題ではなく、他にも好きな子が居たってのが問題なんだ。消えたってことは、主人公が天使ちゃんだけを愛してたわけじゃないってことだ。十中八九。

 たぶんきっと、出会った時に契約していれば何の苦労もなかったんだ。そうすれば天使は消えてしまうこともなかった。ひと目ぼれしてたんだから。

 そして、さらに予想外のことが起こったんだ。

「おれは、気付いてしまった。世界を操る存在に」

 主人公は言った。まさか気付かれるなんて思わなかったから、俺は大いに焦った。だが冷静になって考えてみると、気付かれたからといって主人公にはどうすることもできないだろう。

 なぜなら、俺は神。

「世界を作り出した神とやらに抗ってやる!」

 また、主人公は言った。

 ううむ、そうだな。こんな気付きをする危険な子にはお仕置きが必要だな。

 さて、どんな神罰を与えてくれようか。

「聞いてるんだろ? 神とやら! おれは、この世界をぶっ壊してやる」

 やれるものなら、やってみるがいい。いくらでも相手してやるぜ。

 ははは、楽しくなってきやがった。燃える展開だ。

 まさか、神の存在に主人公が気付くとはな。

 俺は神。世界を作った。

「おれはキサマを許さない!」

 今、戦いが始まる。

 ――俺はキサマ等などには負けない!

 そう、神だからな!

 ていうか、自分が天使のみを愛せなかったことが原因で消えたのに、神に対してキレはじめる主人公くんは、すげぇ身勝手な気がするぜ。

 とまぁ、ここまでが前置き。少々前置きが長くなった気がする。でも自己満足小説だからいいんだよと正当化しつつ、ようやく本題に入ろうと思う。

 俺は、「おれはキサマを許さない」なんて言ったヤツを許さない!

 痛い目にあえ! この贅沢バカ主人公!




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