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現代に転生した「AI芥川龍之介」が描く短編小説

AI芥川龍之介-3(高校のとある日常-3-3)

作者: 橋平 礼
掲載日:2026/02/22

第三章 無重力への願い


 実験を繰り返すうちに、僕らの間には、奇妙な調和ハアモニイが芽生え始めていた。鉄球を放つ僕の指先と、スイッチを叩く華の指先。その二つの運動が、まるで一つの生命体であるかのように、精密な円舞ダンスを演じ始める。


 記録用紙に並ぶ数字は、冷徹な秩序を以て埋まっていく。しかし、その「正解」に近づけば近づくほど、僕の胸底きようていには、氷のような寂寥せきれうが広がるのであった。実験の完了は、即ちこの物理室という密室の崩壊を意味する。この「重力の檻」から解放されたとき、僕と彼女を結びつけている細い糸は、跡形もなく断ち切られてしまうに相違ない。


 柊の自尊心は、今や「指導役」という高みから滑落し、一人の少女の視線にすがる無力な迷い子へと堕していた。


 そんな時、華がふと手を止め、窓の外を眺めた。銀鼠色の空からは、いつの間にか細い雨が糸のように降り注いでいる。


「重力がなければいいのに。そうすれば、鉄球も、私たちの時間も、もっとゆっくり落ちてくれるのに」


 彼女の呟きは、僕の脳髄を直接、麻酔針で刺したような痺れをもたらした。彼女は僕を見つめる。その瞳の奥には、実験の成功を喜ぶような浅薄な色ではなく、もっと暗く、もっと切実な、何か底知れぬ「飢え」のようなものが揺らめいていた。


 それは、聖者が抱くような高潔な願いではない。むしろ、現実の義務や責任という引力から逃れ、永遠の虚無の中に二人で漂いたいという、恐るべきエゴイズムの露呈ろていであった。


 僕の心臓の鼓動は、自由落下する鉄球の加速度など、とうに超越してしまった。 「……僕も、そう思うよ」  僕は、自分の声が、まるで他人のもののように低く、湿って響くのを聞いた。僕は彼女の瞳の中に、自分と同じ「孤独」という名の猛獣がんでいるのを見た。


 僕らは今、理性の放物線を描きながら、共に地獄へ向かって墜落している。しかし、その落下おちていく瞬間にこそ、得体の知れぬ法悦が宿っていることを、僕は否定できなかった。

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