09.五人の転生者 3
テラスとカラス、あの双子に魔王的怪しさを感じ取ったわけではない。合理的に考えて彼らと手を組むべきだし、僕としてもそうするつもりだった。
聡明なテラスと虚なカラス。奇妙な違和感。説明はできないが、あの二人は何かがおかしかった。科学的な根拠がないなら、魔法学的ならどうだろうか。
それに、双子を警戒したという事以外にも、一人でいる僕の状況が危ないと感じた。これが一番しっくりくる。
魔法使いと転生者の二人一組。魔法を使えるものと、魔法が効かないもの。共に行動すれば穴は無くなる。
一番最悪なパターンは、転生者が魔王で、魔法使いが協力者である時だ。それこそ、テラスが魔王ならば、攻略するのは骨が折れる。こちら側にも魔法使いの仲間がいれば、話は別だが。
他の招待客の真意を知るよりも先に、相方との関係性を何とかしたほうがいい。テラス達と違って、僕の現在位置はマイナスだ。
部屋に戻ると、未だにソクラが圧縮袋を展開して唸っていた。何かを取り出しては中にしまい、首を傾げている。
無数の魔力石と、下着を含む洋服。流石のソクラも、泊まり込む最低限の準備はしてきているようだ。
「ソクラ、荷物整理はまだ終わらないのか。本当に置いていくよ」
「あと五分……」
「長い。既に他の招待客は動き出しているぞ」
「わ、わかったから」
「もうこれでいいや!」と叫びながら三つの拳サイズくらいの魔力石を取り出し、圧縮袋を閉じた。ブレザーの裏に吊り下げる。
「何なんだそれ」
「魔法を閉じ込めた魔力石よ」
「それは知っているけど」
所謂、魔力の電池である魔力石は、体内の魔力を消費したくない時に使う旧式の物だ。使い切りのそれは近代では滅多に見ることがなく、僕も初めて見る代物だった。
「細かい魔力操作が苦手だから、これで代用しているのよ。魔力効率が高すぎるあたしの場合、決まった魔力量を設定できる魔力石の方が使いやすいの。才能があるのも悩み所ね」
「へえ。すごいな」
「返事適当すぎない?」
適当も何も、魔法の凄さは僕ら異世界人には伝わりにくいのだ。何せ、使用する魔力量の大小に関わらず、僕らの体に魔力は通らない。
「そういうヤユこそ、手持ちは考えなくていいの? 魔道具とか用意が必要じゃないの」
「魔道具は全部壊れた。ついさっき、強い魔力砲に当てられてしまったからな」
「そうなのね。ついてないわね」
ぶん殴ってやろうかと思ったが、彼女の同情のこもった瞳に拳が引っ込む。皮肉でも何でもなく、本心で可哀想だと思っている。出会い頭、僕に魔力砲を向けたことなど、覚えていないのだろう。
代わりにため息を吐く事で手を打った。
「なあ、ソクラ。一つ聞きたいことがある」
「ん?」
「何をしにここに来たんだ?」
「そりゃ、異世界の門を求めに来たに決まっているじゃない」
何を今更と、首を傾げるソクラ。招待客としては至極真っ当な答えだが、彼女が言うのは少し意外だった。
「お前、異世界に行きたいのか」
「まあ、そうなるわね」
「その意味を理解しているのか? 僕がいた世界では、異世界から来訪者が現れたことはない。仮に行けたとしても、異世界の門は片道切符の可能性が高い」
「そうかもね。でも、旅行気分で行きたいと思っているわけじゃないから」
彼女はふふんと笑った。
「この世界を捨てでも、どこか遠くに行きたいと本気で思ってるわ」
明るく、冷めたことを言ってのけた。出会って数時間しか経っていないが、彼女がその場しのぎの嘘を使わないことくらいわかる。ソクラが本気と言っているのならば、本当なのだろう。
十六歳の女子高生の発言としてはあまりない、どこか諦めの混じった言葉だ。
魔法学院に通えるだけの財力があり、高等部を特待生で入学する知力があり、晩餐会に参加できるだけの人脈があふ。
誇張なく、彼女は恵まれている側の人間だ。下手したら、この世界の中で有数と言ってもいいほどに。
彼女にここまで思わせる程の何かがあったのか。それでいて、純真無垢で居続けられる理由は何だ。そこまで思考して、考えることをやめた。
聞けるわけがない。「前世のことは二度と聞くな」と、突き放したのは僕の方だ。過去に蓋をするのには相応の理由がある。
今だけを見ればいい。
「そっか。それなら、本気で異世界の門を探しに行かないとな」
赤髪の少女は、強く頷いて拳を突き出した。気合いは十分である。僕も合わせて拳を出す。
ソクラを信用したわけではない。それでも、彼女の真っ直ぐな姿は信頼できる。
テラスに頼らずとも、ソクラが本気で異世界への切符を取りにくならばそれに越した事はない。
廊下への扉を開く。今度は僕ら二人で、階段を降りていく。
前を歩く彼女の姿を見て、テラスとの協力は断って正解だったと思った。




