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08.五人の転生者 2

 魔王討伐戦線のプロとして、招待客の素性を明らかにする必要がある。僕の仕事は我儘女子高生の相手をすることではない。


 未だに荷物整理をしているソクラを置いて、先に魔王城を探索することにした。任務のためにも、第一の難問『異世界の門とは何か』を追い求めるふりくらいはしておかなければならない。

 潜入はできた。あとは捜査だ。

 

 ほら、いた。僕の思考に合わせたかの様に、隣の部屋から男女一組が姿を現した。


「おや」


 瓜二つだが、し正反対の表情を浮かべている男女。男は僕を見て明るく笑い、女は僕を睨んでいた。


「ケプトちゃん以外にも子供がいるのかと一瞬驚いたよ。招待客の一人だったよね。君が転生者ということで間違いないかな」

「はい。魔法学院初等部所属のヤユ・オーケアです」


 自らが転生者だと明かすことなど、金輪際来ないだろう。異質な晩餐会故の会話だ。


「俺は合衆国ルナ出身のテラス・ムーアだ。こっちが妹のカラス。職種としては冒険者と言ったところかな」

「冒険者ですか。それじゃあ、『異世界の門』はお宝ってことですか」

「そうなるね。前世ではお堅い職に就かせてもらっていたんだ。今世では気楽に生きることをモットーにしているのさ」

「なるほど」


 聞いてもないことをペラペラと語るテラスだが、僕にとっては都合のいい限りだ。冒険者はフリーランスが多く、魔王が偽る役職としても最適だ。

 僕はこの双子の警戒度をワンランク上げることにした。


 しかし、合衆国ルナか。昨年、『傾国の魔王』によって崩壊した今は亡き国だ。嘘をつくなら下手すぎるし、わざわざ名前を出すと下手な誤解を生みかねない。逆に怪しくないとも言える。


 ……、いやいや。相手は転生者だ。ソクラみたいな純粋な阿呆ならともかく、魔王によって滅ぼされた国の名前を言うデメリットは承知のはずだ。警戒度はもうワンランク上げた方が良さそうだ。


「それにしても、転生者なのに魔法学院に所属するなんて、ヤユくんは相当優秀なんだね」


「まあ、運が良かったんです。孤児だった僕を拾ってくれた人が、魔法学院関係者だったんですよ。そのまま流れでここまで来れました」


「それは……、大変だったねr


 これに関しては嘘はついていない。彼の言う魔法学院とは学校のことを指しているが、僕は魔法学院魔王討伐戦線を指している。孤児だったのは言うまでもない。

 テラスは脳内でエピソードを補完し始めたのか、うんうんと同情するように何度も頷いた。合衆国ルナは『傾国の魔王」に滅ぼされずとも、内乱が起き続けていた国だ。修羅場をいくつか潜り抜けていることだろう。


「俺達もルナでは孤児だったんだ。妹が居なかったら今頃のたれ死んでたね」


「転生者が生き辛い世の中ですからね。信頼できる魔法使いがいるのは羨ましいです」


「両親がいれば、色々頼れたんだろうけどね。孤児になったのは運が悪かったとしか言いようがない。それに君も魔法使いの相方がいるじゃないか。ほら、確か魔法学院の女子高生じゃなかったっけ? 彼女はどうしたんだい」


「異性と同じ部屋で寝たくないそうで。駄々を捏ね始めたので置いていきました。思春期の女子は気難しいです」


「はは。何かあったら、妹を寄越そうか。女性の魔法使い同士、話しやすいかもしれないし。なあ、カラス」


 テラスの問いかけに、後ろのカラスは反応をしない。ぼうと、天井を見つめているだけだ。

 妹に無視されたにも関わらず、気さくな笑顔を浮かべるこの男も、もしかしたら苦労しているのかもしれない。気まずさを打ち消すために、僕は話を変えた。


「テラスさんは既に、第一の難問の当たりはついているんですか? 異世界の門ということですけど」


「難しい所だよね。ロダンが作ったのなら、わかりやすいんだけれど」


 フランスの彫刻家、オーギュスト・ロダン。前世で美術館など行ったことはないが、『考える人』を作った人であることくらいには知っている。

 その『考える人』は『地獄の門』という巨大な彫刻の一部だ。確かに、別世界の扉という意味では、適しているかもしれない。


「僕らにとっては今いるここが死後の世界、地獄いる様なものですものね」


「転生という行為は地獄の門を通ったもの同然だ。この世界では相当苦労したし、くぐる者は一切の望みを捨てよ、という言葉が身に滲みてくるね」


 ロダンが地獄の門を作る時にテーマとして選んだ、「神曲」という叙事詩がある。「くぐる者は一切の望みを捨てよ」と銘された地獄の門について書かれている。

 テラスは相当な博識らしい。まあ、それについていける程度の知識は僕も持っているが。


 しかし、ここまで話が噛み合うと、前世では同じ時代を生きた人間であることは間違いない。

  まともに話せる転生者とも初めて出会った。今まで会った事のあるものは皆、魔王として闇に堕ちた後だった。

 勿論、テラス・ムーアが魔王という可能性は大いにある。口達者なところも含めて、警戒度はさらに上げることにした。


 とはいえ、彼との会話に心地よさを感じてしまっている節はある。それはテラスも同じようで、「そうだ」と声を弾ませた。


「ヤユくん。俺たちで協力しないか」


「協力ですか。相方のソクラが先ほど提案した時は、怪訝な表情をされていましたが」


「信頼できる相手なら話は別だ。招待客は皆、何か良からぬことを考えている。景品を使って何をしようとしているかわからないが、強い意志で異世界の門を手に入れようとしている。目を見たら、わかるんだ」


 テラスは自身の黒目を指差した。


「ヤユくん、君は違う。異世界の門すら求めていない。相方のためか、はたまた別の目的かわからないが、正しいことをしようとしている目だ。信頼できる唯一の招待客かもしれない」


「随分と他の招待客を知っているようですね」


「これでも俺は、前世では警察官だったんだ。職務質問みたいなものさ。他の招待客とはみんな喋った」


 僕がやろうとしていることを既にやられている……。そして、彼の目は確かに正しいようだ。


 流石に僕が魔王討伐戦線とまでは見抜かれていないようだが、今までの会話で『異世界の門』に注目していないのがバレてしまったのか。

 警戒度をさらに上げる。


 まあ、僕にやましいことがあるわけではない。いっそ協力して、内側から彼のことを探るのも悪くないかもしれない。

 僕は「そうですね……」と言葉を返して、止まった。


 テラスの背後にいるカラスの瞳を見て、思考が固まった。テラスと良く似た、少し女性的な丸みを帯びた物言わぬ魔法使い。ぼうと虚空を見つめている彼女は、まるで人形の様だった。

 僕は無意識に、テラスから一歩引いていた。


「すいません、ちょっと考えさせてください」

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