74.真犯人は 2
テラス・ムーア殺人の中で、一つだけ常識では考えられない、物理学を無視する非科学的な現象がある。
もう一度、僕目線で当時の状況を振り返らせていただきたい。
軟禁されていた筈の僕は、外の鍵が突然開錠されたことで外に出る権利を得た。オルタ嬢と会話し、第二回捜査会議の開催を命じ、部屋に戻る。オルタのアナウンスを聞いてから少し後に、食堂の前を通った。
そこで、カオルと立ち話をし、地下に向かった。展示室に仕掛けられていた筈の偽装魔法は解かれており、動力室までの障壁は何もなかった。
動力室に入る前、新鮮な血の匂いがしたのをよく覚えている。つまり、僕が部屋に入る前の段階で、テラスの首は切られていたことになる。
しかし、ティールが説明した話はどうだろうか。
食堂に最後に集まったのは双子だった。テラスは食堂に入ることもなく、僕を探しにいくと一言残して去った。
おかしな話だ。
僕がカオルと話したのは、捜査会議が始まる前だった。つまり、テラスとカラスが食堂に来る前に、僕は地下に向かったのだ。
その後に、テラスは一人で僕を探しに行った。
「僕の方が、先に地下に向かっているんですよ。動力室までは一本道、すれ違うことも追い抜くこともできない。それなのに、僕が動力室に来た時にはテラスさんは死んでいた。分かりますか? テラスさんを殺した真犯人も、テラスさん自身も。僕より後に地下に向かったはずなのに、いつの間にか抜かしていたんですよ」
反論したのは、案の定カラスだった。
「何もおかしな話じゃないわよ。扉を開ける前から血の匂いをしたとか、棺桶の中でお兄ちゃんが殺されていたとか、全部あなた目線の話じゃない。動力室に先に入って、後から部屋に入ったお兄ちゃんを襲ったんでしょ!」
「ティールさん」
僕の言葉に、彼は赤眼を鋭く開かせた。
「ええ、ヤユさんの仰っている通りですよ。今は、反対尋問の時間です。ヤユ・オーケア以外の発言は禁止させられています」
「何よ! 転生者だからってこいつの味方をするつもり? 訳の分からない話を黙って最後まで聞けっていうの?」
にっこりと、ティールは笑った。
「訳の分からない話を、黙って最後まで聞けと言っているのです。判決は、ヤユちゃんが話し終わった後に行われます。認識の確認ではなく、反論などはその後に行ってください。ヤユちゃんだって必死なんですよ。最初で最後の発言のチャンスなんでね」
「意味が分からないわ」とカラスは呟く。
「仮に、ヤユ・オーケアの言い分が正しいとして。それでも、貴方以外に誰が殺せるっているのよ」
今度は、反論ではかった。純粋な疑問を呈している。彼女は兄を殺した犯人に復讐したくて仕方がないのだろう。それ故に、自身の首を絞めているように見える僕が理解できないようだった。
更にカラスの燃え滾る心に油を注ぐことになる。これから先の展開は博打になる。
隣に立つシン先生を見た。彼はわざとらしく、僕から視線を外していた。まだ、『あの約束』を守ってくれる気がありそうで安心した。
「続けますよ」と、僕は小さく呟く。
「テラス・ムーアは食堂から姿を消した後、動力室で死体となって現れた。すべて、僕が動力室に向かう最中起きた出来事です。彼が瞬間移動したように見える絡繰りはさておき、真犯人の話をしましょう。テラスさんが亡くなったとき、僕以外の全員にアリバイがあります。ソクラはシン先生と一緒にいて、魔法の起動を相互監視していた。残りの皆さんも食堂で魔法を扱わないように気を付けていた」
状況は、ケプト・ルーゼンが殺されたときによく似ている。
第一の殺人では、食堂に全員が集まっている時から始まる。その後、ケプトが食堂から離れ、僕、ティール、カラス、アラン王子の四人が食堂から離れた後、死体が見つかった。
一つ違う点は、全員にアリバイがあった第一の殺人と、僕だけがアリバイのない第二の殺人だ。
「これもまた僕目線の話ですが、真犯人は僕を犯人にしたくて仕方がないようです。第一の殺人の密室トリックを、軟禁された部屋からの脱出で再現させ、他全員のアリバイを用意した。僕にもあったケプト殺人のアリバイですら、疑われてしまう状況に追い込まれてしまいました。ですが、密室トリックなんてものはないんですよ。真犯人が扉の鍵を開けた。だから僕は外に出れた。それだけの話です」
第二の殺人は、僕を犯人にするために行われたと言っても過言ではないのだ。
テラスの首を切り裂いた凶器が僕の持ち込んだナイフであることも含めて、すべての条件がそろっている。
完璧だ。ヤユ・オーケアが全ての元凶で間違いない。何せ、彼は『吸血鬼』天野ヒトミの生まれ変わりなのだから……。
真犯人の唯一の誤算をあげるとしたら、招待客の面々は思いのほか冷静だった、それに尽きるだろう。感情的になったのは、最初のシン先生とカラスくらいなものだ。
第三回捜査会議、最後の発言権。この場を用意できた時点で、僕の勝ちだった。
「長くなりました。テラス・ムーアを殺した真犯人は……」




