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73.真犯人は 1

 寝たきりの娘を救おうと、魔王が残した遺物を利用した母親。目が覚めた娘に歓喜した母親に投げかけられた声は、『放火魔』菅原コウのものだった。


 だからこそ、菅原コウは転生後の母に対して親孝行をしようと考えた。自分の命を犠牲にしてもいいから、母に報いたい。娘の肉体を奪ってしまった引け目をケプトは感じていた。


 そんな、綺麗な物語を描いてしまっていた。


 しかし、実態は逆だった。


 オルタは、娘に対して最初から感情なんて抱いていなかった。人造人間として生み出した動く肉塊、そこに愛情なんてあるわけがない。


 彼女が変わったのは治療後であることには変わりはない。

 

 だけれど、引け目を感じていたのは母親の方だった。


 人形として調整していたものに、魂が宿ったのである。明確な意思を持った、自分によく似た少女が動き出した。それを捨てるわけにも行かず、かといって娘として接することもできない。


 だから、オルタは避け続けた。対処に困ったケプトに最低限の管理をしつつ、向きあわなかった。


 ケプトが死んだあとにオルタはやけ酒をしていたが、あれは後悔の表れだったのかもしれない。もっと、やりようがあったのではないか、と。


「ヤユさん。今の貴方の理解ですら、まだまだ綺麗すぎますよ。棺桶A、Bに人を入れて魂の交換をさせようとしたのは真実でしょうが、目的は治療ですらない。あれは、動力装置を稼働させるための燃料を入れただけです。まったく、ワインでも飲んでいなさい。外道」


 カオルは無慈悲に、オルタを突き刺す。


 カオルの言葉に従うように、オルタは瓶を上に向ける。赤の帽子を深く被り、僕らに表情を悟られないようにしているが、帽子の色と同じくらい口元は赤みがかかっていた。


 空島を浮かせるゼンマイ仕掛けの動力装置。燃料として二つの肉体を用意した先にある事故のような出来事。


 異世界との接続。


 動力装置を利用するまで、オルタは異世界の門の存在に気が付いていなかった。そして、菅原コウと対話することで、第三の難問へとつながる。


 この現象を再現性を持たせるためにはどうしたらよいか。考えたオルタは、晩餐会を開くことを決意した、ということだろう。


 確かに、僕の答えでも結果は矛盾しない。だからこそ、アラン王子は美談と揶揄した。


 納得できることもある。晩餐会の一番最初、ケプトが地上に降り、僕ら招待客を向かい入れたときのことだ。アラン王子はオルタに娘がいることに驚いていた。あれは、ルーゼン家の正体を調べつくしていたからこそ驚愕したのだ。


「まあまあ、皆さん、落ち着いてください」


 水を差したのは、司会者ティール・オキニだ。彼はそれこそが自分の役割だと言わんばかりに口を開いた。


「メインディッシュの主役はヤユちゃんだ。第二の難問の答えが明らかになった今、弁論を続けてもらいましょう。テラスさんを殺した犯人の動機が第二の難問の答えになっているんだよね?」


「え、ああ。はい。ティールさん、テラス・ムーア殺害に対する知っている情報を教えてもらえますか?」


「勿論。反対尋問の前の主尋問というわけだね」


 ティールは足音を立てながらゼンマイ仕掛けの動力装置の前に移動する。彼の前にあるのは、二つの棺桶と三つの死体。


 生贄として用意された人造人間の少年。ケプト・ルーゼン、そしてテラス・ムーア。


 テラスが死んだあの瞬間から、一時間ほどしかたっていない。未だに、彼の首元からは鉄の匂いが漂ってくる。


 ティールは簡単に状況を説明した。それは、僕の知らない範囲も含まれていた。


 そもそも、第二階層会議が行われていた筈なのに、どうしてシン先生とソクラが地下に来たのか、ということまで遡る。


 一番最初は、オルタが場内アナウンスだ。『吸血鬼』の処遇について相談したいことがある、といってオルタが招待客を食堂に召集した。


 一番乗りは、ソクラ、シン先生、アラン王子の三人だった。


 奇妙なトリオだと思ったが、理由を聞けば納得だった。


 『吸血鬼』が殺人を犯している今、その相方の処遇をどうするか。ソクラもまた、殺人に関与しているのではないかと疑われてしまったのだ。


 全力で否定するソクラに手を差し伸べたのは、スタウ家と繋がりのあるシン先生だった。そこで出された案が、魔法使い達による監視である。


 シン先生とアラン王子による保護観察、というわけだ。残されたカオルとティールの転生者二人がペアになるのも自然な動きだった。


 『警察官』テラスと殆ど助手として動いてたカラス、そして主催者のオルタは別で行動していたらしい。食堂に現れたのは、双子が最後だった。


 しかし、第二回捜査会議は始まることはなかった。双子は、軟禁されていた筈のヤユ・オーケアが部屋にいないことに気が付いていたのだ。


 『吸血鬼』を野放しにするのは危険という理由で、テラスは食堂に入ることすらせずに一人でその場を去った。


 付いていこうとするカラスを呼び止めたのはアラン王子だった。


「怪しい動きをするな。お前は食堂に残れ」


 その真意は定かではないが、ケプト・ルーゼンの死が脳裏に過ったに違いない。以前は、僕とティールの転生者二人、アラン王子とカラスの魔法使い二人、計四人でケプトを捜索し、死体となって発見された。


 このメンバーは残るべきだと、アラン王子は主張したのだ。


 僕としては非常に助かる話だ。この状況下でも、アラン王子は『吸血鬼』を容疑者として断定しているわけではなかったのだ。寧ろ、『転生者が消えた』という状況を、ケプトが死んだときと重ねた。


 つまり、アラン王子は僕が殺されているのではないかと考えたのだ。


 それならばと、以前とは違うメンバーが捜索者として選ばれた。


 魔法使いはソクラとシン先生、転生者はカオルとテラス……、になる予定だったが、既にテラスは食堂を去ってしまった。


 カオルは食堂に残ることになり、結局二人の魔法使いだけで捜索を行うことになった……、ということである。


 後は、僕の認識と一致している。地下に来た二人の魔法使いの目に映ったのは、血まみれになりながらテラスの首元に手をかける『吸血鬼』の姿だった。


 誰がどう見ても、逆立ちしたって、ヤユ・オーケアがテラス・ムーアを殺したとしか考えられない。


「他に補足事項等あるかたはいるかな?」


 ティールの言葉を返すものはいない。


 それならば、僕の反対尋問を始めさせてもらおうか。


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