72.最後の悪あがき 2
第二の難問、オルタが異世界の門の存在に気が付いた経緯は何か。
主催者のオルタに苦言をぶつけられたこともあった。いい加減、この難問を終わらせる必要がある。
この難問を解けていないのは、僕とソクラくらいなものだろう。この先の話を進めるためにも、答え合わせは行わなければならない。
「前置きは言いません。先に結論から述べさせていただきます」
この答えに辿り着くまで随分と時間がかかってしまった。脳内に点在する情報を結んでいく必要があった。
ケプト・ルーゼンの自室にあった医療器具、二つのキングベッド。
オルタの娘に対するちぐはぐな態度、『放火魔』菅原コウが転生後の母に見せる感情。
前世を映す鏡によって作られた棺桶、それにつながるゼンマイ仕掛けの動力装置。
棺桶の中に安置されたケプトの死体と、その前に倒れていたケプトによく似た少年の死体。
そして、前世を映す鏡ーー異世界の門という未知の存在。
転生者の魂を鏡面に閉じ込める、魂の抽出という概念。
全ては繋がる。第二の難問の答えへと。
「ずばり、娘の治療のために動力装置を使ったら、『異世界』と繋がってしまった……、これでどうでしょう」
「ほう」と、オルタは嬉しそうにほほ笑んだ。
「その考えに至った経緯を教えてもらえませんか?」
思わず笑みがこぼれてしまうのは、今度はこちらの番だった。
ここでつまずいてしまえば、ここから先の弁論なんてできるはずがない。彼女の表情を見るに、第一の難関を突破したわけだ。
「最初は、ケプトの自室に医療器具がたくさん用意されていたことで、彼女が何かしらの病気、あるいは怪我を患っているかも知れないと考えたところからです。この世界では珍しい医療器具を娘のために集めるその姿は、母親の愛を感じる。ですが、ケプトに興味関心を抱かない今のオルタ嬢とはズレているように見えました。そこで、治療が完了する以前、以後とわけて考えることにしました」
ここで重要なのは、治療とは何か、ということである。
僕たち招待客の前に現れるケプトは、何かしらのハンデを抱えているようには見えなかった。この世界風に言うならば、転生者は『前世』という虚偽記憶を持つ精神疾患者ではあるが、医療器具を使うような病ではない。
加えて、僕はケプトの死体をくまなく調べた。死因に直結する胸部の大きな損傷はさておき、他に外傷はなかった。
外的損傷がないのに医療器具を用意していたのは、治療方法が分からなかったからだ。集めたのは良いものの、効果的ではなかった。
きっと、ケプトは原因不明の病にかかっていたのだろう。もしかしたら、会話も碌にできない植物状態だったのかもしれない。
娘の存在が公にされていなかった以上、ケプトが魔王城の中から十年間動けない状態だったのは確かだ。
そこで出てくるのが、異世界の門である。
「外傷がないのならば内側を見るのは自然なことです。内臓を超えたさらに奥、この世界では心臓よりも重要な要素、魂。オルタさんは、魂の抽出ができる前世を映す鏡を、治療として使おうとしたんですよね」
これならば、いろいろ説明が付く。
植物状態の原因が、魂に関係するものだと考えたオルタは、鏡を使って魂を抽出、再注入することを考えた。
僕の前にある、ゼンマイ仕掛けの動力装置を見る。
魂の抽出ができる鏡を内蔵した棺桶が二個ついているのは、魂の入れ替えを行うためなのではないか。
棺桶Aに生贄を入れて、棺桶Bに植物状態の娘を入れる。ゼンマイ仕掛けの装置を稼働させると、生贄の魂が抽出され、隣の棺桶に運ばれる。抜け殻だった娘は、ようやく目が覚める……、ここで第二の難問へとつながる。
オルタにとって誤算だったに違いない。目が覚めたのは娘ではない。『放火魔』菅原コウが第二の人生を手にしていたのだ。
娘として接していた過去と、全くの他人が娘の肉体を操作している現在。これこそが、オルタ嬢が娘に向けるちぐはぐな感情の理由だ。
ここで言う棺桶Aに入れられた生贄こそ、動力装置の前に転がっていた謎の少年の死体だろう。
ぱちぱちぱち、と拍手が聞こえる。
「素晴らしい! 第二の難問、見事に正解ですわ!」
オルタはどこからか取り出したワイン瓶をそのまま口につけ、ぐびぐびと飲む。口を手の甲で拭い、「安心しましたわ」と続けた。
「これで全員が第三の難問『異世界の門の開き方』に辿り着いたわけですわ。捜査会議なんて物騒な場所ではありますけれど、晩餐会の本来の目的もあります。えっと、それで。第二の難問の答えが、どうしてテラスさんの殺害の動機になるかしら?」
「それはですね……」
「おい」と、男の声が僕を遮る。右隣にいるアラン王子だった。
「この公平な場で嘘を付くのは、主催者である貴様であっても許されることではない」
「あら、何のことかしら」
「第二の難問の答えだ。ヤユ・オーケアの答えは、まるで美談だ。本来の残酷さを隠して、自分だけは綺麗な面をするつもりなのか?」
困惑するのは僕の方だった。ここで止められるとは思っていなかった。何より、オルタが正解と言っているのだから、それで終わりの筈だ。
嘘、隠す。まるで、アラン王子がオルタの弱みを握っているかのようではないか。
オルタは無言でワイン瓶に口をつける。否定をしないが、肯定もしない。好きにしろと投げやりなようにも見える。
アラン王子はため息を吐く。彼の動向を伺っていたカオルが、補足をするように口を開いた。
「そうですね。オルタ・ルーゼンが正さなかった誤りというのは、娘の治療、という部分です。ヤユさんは娘を助けるため、という綺麗な言い方をされていましたが、実態は『調整』です」
カオルは少しだけ口角を上げた。
「世界有数の富豪ルーゼン家ですが、その正体は人工生命体の研究に生涯を費やした魔法学者の家系です。公にはなっておらず、王族クラスでないと知ることのできない情報ではありますが、オルタ・ルーゼンは人造人間を生み出す禁忌を犯し、ルーゼン家を追放された異端者。ケプト・ルーゼンだって、オルタ自身がお腹を痛めて生んだ実の娘なんかじゃない。あれこそ、死ぬために生まれた人造人間なんですよ」




