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06.転生者は晩餐会へ 5

 上空二千メートル。現代魔法学では解明不能な未知のテクノロジーで浮かぶこの島は、十年前の『天国の魔王』討伐後、ルーゼン財閥に買収された。


 パラス国の一つの町を滅ぼし、畏怖の対象とされているこの島を手に入れるのに、どれだけの金を積んだのかは想像もつかない。

 買収自体は直ぐに話がまとまったが、その後非悶着あったそうだ。ペテロに家族が住んでいたパラス国民からしたら面白くないのもわかる。


 まあ、親戚諸共、骨すら残らなかった僕には関係ない話だ。


 魔王城へたどり着くのには、十分ほどかかった。エレベーターは静かに止まり、ゆっくりと扉が開く。夏だというのに、涼しげな風が流れてくる。一歩踏み出すだけで、まるで異世界に来たかのような異質な光景が広がっていた。


 半径百メートル程度の円状の空島は、一帯の地面が大理石のような白で覆われている。点々と聳え立つ白の柱に、七色の蕾が巻き付いている。

 植物園のように広がっているのにもかかわらず、時が止まったかのように生物の匂いがしない。作られた楽園というのが適切な表現だろう。


 半透明の膜がドームのように島全体を覆っている。中心部には、無数の柱に囲まれた円環状の巨大な構造物があった。


 あれが、天国の魔王城。ペテロを滅ぼした元凶。

 別に恨んだりしていないが、この世界で生きた十年間の中で、あの日を忘れたことはない。

 まさか、魔王城に入る日が来るとは。


 赤色のつばの広い帽子を深々と被った女性が、魔王城の前で僕らを迎えた。年齢は二十代後半程度といったところか。


「遠いところから遥々来ていただき、ありがとうございます。ルーゼン財閥三女、オルタ・ルーゼンでございます。皆様と会えて嬉しく思います」


 娘のケプトとは違う、高貴さ溢れるお辞儀は、彼女が富豪の一人である格を感じさせた。不自然なほど大きい帽子だが、ルーゼン家は顔のどこかを隠す縛りでもあるのだろうか。


 社会科見学のように、オルタ譲を先頭に進んでいく。柱に巻き付くように生えている植物に夢中になっているソクラの手を引き、僕らは城の中に入って行った。


 城の中は、やはり外のように白で統一されたものではあったが、異質さは薄れる。円状に順路が限られた広い空間が、水族館や博物館に近かったからだ。オルタ嬢が足を止めたのは、城の中心部の部屋についたときだった。


「みなさま、一度お座りください」


 円状の長い机に、各々が先に着く。八人の招待客が座ったのを見て、オルタ嬢は頷いた。


「改めまして、ようこそ天国の魔王城へ。そして、晩餐会への招待を受け取ってくださり、感謝します。短い時間ですが、魔王城の記憶がいい思い出になることを祈っております」


 「さて」と、彼女は話を進める。


「晩餐会は城内部全体で行われます。一組ずつの個人部屋も用意していますので、ごゆっくりとお過ごしください。その他の部屋は、全てご自由に出入りしていただいて構いませんので、何かありましたらいつでもお声掛けください」


 彼女の説明に合わせるように、ケプトが部屋に姿を現した。彼女には白い浮遊する半球が追従していて、グラスが八つ乗っていた。ケプトは一つずつ丁寧に招待客のいる机の上に配膳した。


 オルタは娘ににお礼を言って、我々に目線を戻した。


「前もってお伝えしている通り、今回の晩餐会は、魔法使いと『前世』という虚偽記憶を持つ精神疾患者の二人一組で難題に挑戦していただきます。勿論、これは外見的な言い方で、わたくしは異世界の存在を信じております。転生者の方々と訂正させていただいた方がよろしいですわね」

「勝手にしてくれ。俺たちは何も気にしてないさ」


 招待客の一人の声に、オルタ嬢はくすりと笑った。


「転生者の方々は柔軟な方が多いですね。話を戻しますが、難題を解いたものには、天国の魔王が残した『異世界の門』を差し上げます。ここまで足を運んでいただいた二人一組による競争になりますので、邪魔の入らぬように空島は封鎖します。外部とのやり取りも原則禁止、晩餐会が終わるまで地上に降りることはできませんので、ご了承ください」


 言葉を返す者は誰もいない。

 外見は癖の強そうな連中だが、意外にも招待客は冷静らしい。二度目の人生故の落ち着きかもしれない。


 どちらにせよ、主催者にとって観衆の聞き分けが良いに越したことはない。オルタは僕らの様子を見て嬉しそうに微笑んだ。


「さて。本題に入らさせていただきます。今回の晩餐会が掲げる難題が何か、ということに関しては何も難しいことはありません。『異世界の門はどのようにして開くのか』、景品と直結している問題なのでわかりやすいでしょう?」


 景品を正しく利用するためには、どちらにせよ難題を解かなければならない、というわけか。

 晩餐会の景品、『異世界の門』。その存在自体、僕は胡散臭いと思っていたが、ここまで道筋を示すならば本当にあるのだろう。

 

「勿論、今から手を叩いて競争を始めてしまっても良いのですが、何事も取っ掛かりがあった方が良いでしょう。そこで、わたくしのほうで難題を三つに細分化させていただきました」


 オルタは三本の指を突き出す。それに対して、初めて別の手が上がった。宛ら、教員に質問をする生徒のように。


「それは、全員が協力しても良いってことだよね?」


「質問してくださってありがとうございます。そして、認めましょう。招待客の皆様は競争相手ではありますが、同じ難問に挑む仲間でもあります。最後は話し合って、順番に導き出した答えを教えてくださいね」


 「おー」と上機嫌に声を上げるソクラに、誰も同調しない。

 実質、協力は不可能だ。先程から誰も喋っていないことから分かるように、彼らは全員、何かしらの目的を持ってここに立っている。

 それが『異世界の門』なのか、別なのかわからない。僕のように景品に釣られてきた物を狩る潜入捜査をしている者もいるかもしれない。

 

 どちらにせよ、招待客は皆、会って間もない他人と手を組むつもりなんて毛頭ない。彼らの表情が物語っていた。

 ソクラを小馬鹿にするように嘲笑うもの。呆れたように見下す者。そもそも、興味がなさそうに天井に目線を向けている者。


 僕も他の招待客と同じ感情を持っていたが、無垢なソクラが少し可哀想になったので、肩に手をおくだけでとどめておいた。ソクラは僕の方を見て首を傾げていたので、気にしてはいなさそうだったが。


 一連の流れを黙って見ていたオルタは、話の区切りと言わんばかりに手を叩いた。


「それでは、最初の問いに入りましょう」

 

 第一の難問

 異世界の門とは何か

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