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58.前世の亡霊 1

 オルタ・ルーゼンが娘に向ける統一性のない感情は、僕の前世の母、天野メグミと同じかもしれない。


 思えば、共通点は多くあった。


 『放火魔』である娘に対し、死んだ方がいい人間だったと言い放ちながらも、自らが裁く事はしない。晩餐会を開き、その処罰を投げやりに放置していた。

 

 天野メグミも同じだ。『吸血鬼』である娘に対し母は何もしなかった。自ら手を下すことも、距離を置くこともしない。何事もなかったかのように生活し、それでいて娘を完全に無視していた、


 二人の母は、悪魔にだった娘と向き合わなかった。目を逸らし、現実逃避した。


 

 どうして、こんな簡単なことに気が付かなかったのだろうと、舌打ちしたくなるが、自分を責める気力はすぐに無くなった。


 元より、僕は前世の事など思い出したくなかった。罪の意識を忘れた事はないが、人に思いを馳せる事はない。天野ヒトミとしての過去を振り返る機会がなければ、前世と今世を繋げて考える事などできなかっただろう。



 天野ヒトミの転換点。有明サトルを殺してしまった、十二月二十五日の夜。サトルくんの死体を前に、母は『詐欺師』を頼った。


 全部無かったことにしてくれと、悪魔と契約した。そして、娘を拒絶した。

 罪を受け入れられず、視界に入れず、会話もせず。天野メグミは、そうやって娘から離れていった。


 オルタ・ルーゼンもまた、娘と決別をする場面があったのではないか。悪魔の正体が暴かれ、親子関係に亀裂が入った瞬間が。


 それまでは、比較的良好な親子関係だった筈だ。それは、過剰なほど用意されている医療器具が証明している。

 回復魔法によって外科医が存在しないこの世界では不要な道具を、ここまで集めたのだ。そこに愛はあった。


 一体、ケプトはどんな怪我を負っていたのだろうか。外科的な医療品が多いが、妙な液体の入った大量の小瓶も気になる。見慣れない四方形の魔道具からは管が伸びていて、点滴のような扱いをするのは想像できるが……。


 短期的な怪我ではなく、長期的な病気だった可能性は高い。オルタに娘という存在が秘匿されていたのは、外に出れないほどの重症だったからではないか。


 そう考えてみると、この部屋の存在意義も理解できる。ケプトの自室は、元々は病室として運用されていた。外側から鍵がかけられる奇妙な仕様も、精神科の隔離室という側面を考えたら納得ができる。ベッドが二つあるのも、ケプトだけが利用していたわけではないのかもしれない。


 そこまで娘に尽くしていたオルタが、完全拒絶するほどの出来事とは何なのだろうか。それでいて、娘であるケプトに『異世界の門を開くために協力できることは何でもする』と言わせ、自らの命を犠牲にさせるほどの出来事とは。


 この出来事こそが、オルタが異世界の扉の存在に気がついた『第二の難問』の答えのはずだ。異世界の門は、そこで一度開いているような気がする。


 オルタは、その時の出来事を再現しようとしている?


 繋がらない。まだ、情報が足りない。


 他の招待客は第二の難問を解き終わっているというのが驚きだ。シン・テーゼのような魔法学院の教授ならまだしも、双子や王族に答えを導き出せたとは思えない。


 前提知識が足りない。僕だけが知らなくて、他の招待客が知っている事がある。


 そんな僕に一度休めと言わんばかりに、声が聞こえた。扉の外からというよりも、魔王城全体に響く音だ。


『朝食を用意しました。食堂にお集まりください。また、ヤユ・オーケアさんの処遇について、お話があります』


 オルタの声だった。彼女は、約束通り僕に協力してくれたらしい。


 これで、招待客は食堂に集まる。僕は食堂以外の魔王城を自由に動き回れることになった。他の招待客に遅れをとっているのならば、ここで埋めるしかない。


 正直なところ、最初から心当たりがあった。寧ろ、開けていない箱があるからこそ、呑気に脳内で思考を巡らせていたと言っても過言ではない。


 そこに賭けていた。もし、その箱を開けて第二の難問が解けなかったら、お手上げだと考えるほどに。


 展示室の隠された階段を降りた先にある、地階一階。


 ケプト曰く、『第二、第三の難問の時に使う舞台』。彼女は第一の難問すらとけていない僕らが地下に向かう時、「そのステージは君たちには早い」と言った。


 何があるかは皆目見当つかない。しかし、一つだけ確信があることは、ケプトの死体は間違いなく地下にあるということだった。


 殺害現場の衣装室から死体は消え、ケプトの自室では僕が軟禁されている。他に魔王城にある部屋は、招待客の自室、食堂、料理室、展示室だけだ。


 地下以外に安置する場所はない。


 ケプトの死体を調査すれば、彼女が何の治療をしていたかわかるかもしれない。第二の難問の手がかりもそこにある。


 全てが詰まった希望の地。僕は物音を立てないように、しかし素早く移動する。魔王城の二階は各々の自室しかないため、城内放送があって十分も待てば誰もいなくなった。


 階段を降りて、食堂の前を通り過ぎる。少しだけ聞き耳を立てたが、中から複数人の話し声がした。


 第二回捜査会議が始まったのだろう。僕は安堵して背を向ける。僕の身の潔白を証明するのは、第三回捜査会議だ。今は、着々と証拠をかき集めるしかない。


 そんな僕の手を引くように、背後からぎぃ、と物が擦れる音がした。僕は咄嗟に体を縮こませて転がり、壁際に張り付いた。


 食堂の扉が開いた。そう気がついたのは、扉の隙間から漏れ出る光に溶け込むように、二つの金色の光がこちらに向けられていたからだ。


 目があった。確実に。


 僕が、『吸血鬼』天野ヒトミが外にいるのがバレた。直ぐに食堂の人間が外に集まってくる。どうやって抜け出したのか、何を企んでいるのか、糾弾の声が上がる……、ことは無かった。


 顔を覗かすように闇に身を乗り出した姿を見て、僕は息を止めた。


 童話のお姫様のような整った顔立ちに美しい金色の髪。品位を職位で縛るかの様に、質素なメイド服で身を包んだ女性。


 ダルフ国第三王子アラン・ミルター……、その召使いカオル。


 しかし、僕にとってはその名前はどうでも良い。それより最も前、決して忘れられない存在にして、僕の業。


 有明サトルの転生先。彼女は、まるで人形の様な無機質な目で僕を見ていた。


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