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55.歪な母娘 2

 魔王討伐戦線としての任務は二つ。


 他の招待客の正体を暴くこと。そして、主催者の裏の目的を暴くこと。そのために、魔王討伐戦線所属であることは隠しておくべきだ。


 招待客の中に魔王が紛れている可能性がある以上、対抗勢力であることは最後の束縛する瞬間まで明かさないほうがいい。


 晩餐会が終わるまでは魔王城は閉鎖空間だ。僕が自らの正体を名乗るのは、エピローグになってから。


 それ故に、僕は隠し続けていた。やむを得ず明かしたのも、相方のソクラと、同じグループ組織のシン教授だけだ。


 しかし、それは今となっては意味がない。


 オルタは僕の正体の開示に、彼女は目を大きく見開く。いつもはつばの広い帽子で目元を隠しているが、寝込みを襲っているので表情の変化がよく見えた。


「わたくしとしては、シン・テーゼさんの正体が魔王討伐戦線なのではないかと考えていましたが……、まさか、ヤユさんだったとは……。転生者も、魔王討伐戦線になれるんですね」


「そうです。手始めに、魔王信仰罪でオルタさんを逮捕してしまってもいいんですよ」


「怖いですねぇ。確かに、わたくしは『天国の魔王』様に信仰に近い感情を持っていますし、異世界に興味津々です。でも、今の貴方の判断に、誰が着いていくのかしら」


「それは、僕が転生者だからですか? それとも、天野ヒトミだから?」


 「ふふふ」と、オルタは笑う。


「貴方が転生者で、天野ヒトミで、殺人鬼で、『吸血鬼』だからですのよ」


 そう。僕が天野ヒトミである限り、魔王討伐戦線であることなど無意味になる。天野ヒトミという弱みは、全ての強みを打ち消す力がある。


 故に、魔王討伐戦線であることを隠す必要がなくなった。


 とはいえ、それで終わりではない。魔王討伐戦線というレッテルが、雑に使える札になっただけだ。


「テラスさんが話してくれたの。『吸血鬼』天野ヒトミは、ケプトの転生前、菅原コウの『放火魔』が霞むくらいの凶悪さだったと」


「放火と殺人のどちらも変わりはありませんよ。僕たちは等しく悪魔で、裁かれる人間でした。だけれど、それは過去の話だ。僕は今の話をしています。ケプト・ルーゼンを殺した犯人を突き止めたくありませんか」


「清々しいほどの開き直りですわねぇ。犯人を探す側じゃなくて、犯行を弁明する立場だとわかっているんですか? 仮に魔王討伐戦線所属というのが本当だとして、貴方がケプトを殺したわけではないと信じる理由にはなりませんのよ?」


「いや、なります」


 監視カメラのせいでモニタールームに来るしかなかったが、寧ろ好都合だった。オルタ・ルーゼンを攻略することはそのうち必要だった。


「僕が犯人を探しているという事実そのものが、僕が犯人ではない証拠です」


「ふふふ。そんなメチャクチャな理論を通そうとするなら、この話し合いにすら価値が無くなってしまいますよ」」


「いえ、落ち着いて紐解いてもらえれば、意外と筋が通っている考えなんですよ。最初から説明します。オルタさん、これは、僕が貴方が犯人ではないと確信している理由でもあります」


 オルタ・ルーゼンが娘に向けるチグハグな態度。これこそ、オルタが殺人鬼でないと僕が考える理由で、この事実を突きつけることが僕の潔白の証明にもなる。まあ、この理論を展開できるのはオルタが相手の時に限るが。


「まず、オルタさんがケプト・ルーゼンの死の直後に取った行動です。ご自身が何をしたか、覚えていますか?」


「あら、わたくし何か変なことをしましたっけ? ええと、心当たりがありませんわ」


「いえ、それで正解です。貴女は何もしなかった。娘が殺されたのに、『そうですか』と無関心な言葉を残したきり。唯一したことと言えば、ワインを飲んですぐに寝たくらいなものです」


 お恥ずかしい、とオルタは呟く。僕は気にせず続ける。


「最初は、歪な親子関係として処理してしまっていました。転生者で『放火魔』な娘を愛することができなかった。死んで当然だと割り切っていた。しかし、娘側も同じならば話は違います。ケプト・ルーゼンもまた、自分の生死に無関心でした」


「確か、最後に会話をしたのはヤユさんとソクラさんでしたっけ」


「ええ。彼女は僕に前世の正体を明かしました。僕に向かって、こんなことを言いました」


『お前のような罪人がくるのを待っていたんだ。頼みがある』


 それから、一枚の手紙を取り出した。結局、その場で僕に渡されることはなかったが、頼みの内容が書かれているはずだ。


 この手紙が『警察官』であるテラスの手に渡ったことで、天野ヒトミが招待客に紛れていることが明らかになってしまったが、重要なのはそこではない。


 『放火魔』から『吸血鬼』に送る手紙。僕は、これが遺書だったのではないかと考えている。


「同じ悪魔として伝えたいことがあったのでしょう。それを口頭ではなく書面にしたのは、発言をオルタさんに管理されていたからです。だからこそ、仮面の内側に手紙を隠した。手紙の中身まで見れていませんが、僕個人に向けた内容だった、違いますか?」


 未だにベッドに横たわる彼女の首元に医療用メスを向けているので、煩わしそうにオルタは刃を睨んでいた。

 回復魔法がある魔法使いにとって、刃物など脅しの道具にもならない気がするが、これは立場を明確にするには必要なことだった。

 飽くまでも、僕が発言者だ。オルタは無言を貫いているが、その様を肯定と捉えることにした。


「ケプトは、天野ヒトミに殺される予定だった。だから、手紙の存在を教えつつ、肌身離さず持っていた。そして、オルタさん。貴女もまた、娘が殺されることは想定内だった。そうでしょう?」


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