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05.転生者は晩餐会へ 4

 魔暦元年。神の子が大気中に漂う魔素を利用して、世界で初めて魔法を使った。物理法則を無視した奇跡の現象は、人類を大きく進化させた。


 第二次魔法革命とも呼ばれる大きな発展は、魔暦五百年の出来事である。人間は肉体ではなく魂に依存していることに気がついた研究者は、回復魔法を魂に刻んだ。それ以降の人間は、生まれながらにして驚異的な治癒能力を有することになり、外科医がこの世から消えた。


 インフラ系統も日本とは異なる発展をしている。バスや飛行機、鉄道はなく、転移所という駅が各地に配置されている。時間帯で行き先が変わり、転移魔法によって別の転移所に瞬間移動する。


 勿論、転生者には利用することができない技術だ。魔力無効化特性によって、転生者は魔法に関するする施設を軒並み使えない。


 正午を回った頃。

 集合場所の『天国の魔王』城の真下には四組八人の招待客が集まっていた。

 僕らのように徒歩で来るものや、魔導装甲車を走らせてきたもの、配送業者を手配していたものなど多様だ。


 お互いが招待客であることは理解しているが、誰も口を開かない。奇妙な緊張感が広がっていた。


 とある一組を警戒していた。僕ら学生組だけじゃない。双子の男女も、浮浪者と白スーツのチグハグコンビも、誰一人言葉を発しない。


 この世界のあらゆる光を煮詰めたような金色の髪、自信に満ちた力強い瞳、容姿を全て肯定するような金糸の刺繍の入った高貴なコート。百人中百人が一目で王子とわかるその様は、僕らに沈黙を強要するのには十分だった。


 間違いなく王族だ。僕らの住む東国パラスではない。魔導装甲車に乗って現れたが、来た方向から考えて西国ダルフか。

 ダルフ国はミルター家が君臨していることは知っているが、流石に王子までは把握していない。王子の後ろにくっつく簡素な白のワンピースを着た女性も随分と美形だが、こちらは転生者枠だろう。


 他国の王族に目をつけられても良いことなんて何一つない。僕は空を見る振りをして、王子の動向を視界の端で見ていた。彼もまた空を見ていた。


 空。

 太陽を遮る天に浮かぶ島。

 僕の故郷を消滅させた元『天国の魔王』城。


 そこから光が刺した。僕の生まれた日のような巨大光線でも、先ほどのソクラの攻撃のような細さでもない。きらりと輝いた後、地面に円形の窪みが生まれた。

 次の瞬間、天と地が繋がった。半透明の円柱が視界を遮り、空から何かが降ってくる。宛ら、天空魔導エレベーターとでもいうべきそれは、数分の時間をかけて地上へと辿り着いた。


「あー、皆様お揃いでしょうか」


 エレベーターの中からは、僕と同い年くらいの小さな少女が顔を出す。栗色のショートヘアにワインレッドのロングドレス。高貴な印象を全て塗り潰す無機質な鋼鉄のマスク。

 気怠い声を漏らしながら、少女は僕らに頭を下げる。


「お……、私はルーゼン家三女オルタ・ルーゼンの娘、ケプトです。皆様を晩餐会の会場に案内させていただきます」


 集合場所しか指定のなかった晩餐会だが、会場がどこか誰も疑問に思っていなかった。不毛な大地でやらないのならば、空に浮かぶあの島で行われるに決まっている。


 空まで伸びる天空エレベーターに八人の招待客が乗ったのを確認したケプトは、手元の四角い箱を弄り、扉を閉める。

 高所恐怖症が卒倒するようなガラス張りの部屋が、垂直に空へと進んでいく。『天国の魔王』という転生者が住んでいた城なのだから、物理的な移動方法が用意されているのは納得だった。


「あー、天上への到着には少し時間がかかります。腰を下ろして、お待ちください」

「ケプト・ルーゼン。一つ聞いても良いか」


 皆がエレベーター内の椅子に座っている中、一人立ったままの王子が口を開く。


「オルタ・ルーゼンに娘がいたという情報は入ってきていない。貴様は本当に、主催者側の人間で間違いないのだな」

「おっと、それは失礼。私の存在は隠され続けていたので。まあ、その辺りも後ほど説明させて頂きますよ。それにしても王子、良い目をされていますね」

「どういう意味だ?」

「着眼点が優れている、という意味です」


 鋼鉄のマスクで口元は見えない。それでも、彼女の目元の歪みを見れば、楽しそうに笑っていることがわかった。


「今回の晩餐会は転生者と魔法使い二人一組でないと解けない難題を用意させていただいております。一番最初に解けた方には、世にも珍しい景品を用意しております」


 ケプト・ルーゼンからは先ほどまでの気怠さは失われていた。本気で楽しんでいるように、彼女は饒舌に喋る。


「転生者の皆さん、異世界に帰りたくありませんか? 今回の景品は、日本へと繋がるチャンスがある物品となっております。天国の魔王が残した『異世界の門』を賭けた晩餐会は、もう始まっていますよ」


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