04.転生者は晩餐会へ 3
「魔王って、あたしたちと見た目変わらないのね」
「初等部の制服を着ているけれど、学校に行ってるの?」
「随分と小さいわね。何歳なの?」
「魔王討伐戦線とは戦ったことある?」
「怪我した時とかどうするの?」
教授に質問する学生の如く、ソクラ・スタウは疑問の嵐を僕にぶつけて来た。地雷を丁寧に一つずつ押していく彼女の様子に、僕は怒りの先に辿り着きそうだった。
一番腹が立ったのは、悪意の全くない、というか何にも考えてなさそうな彼女の無垢な表情だ。今まで僕に面白半分で聞いて来た人はたくさんいたが、ソクラ・スタウは純然たる興味でデリカシーのないことを聞いてくる。
無視を続けていると彼女は不安そうに首を傾げる。感情と表情がリンクしているらしい。
「あの、あたしの相方じゃなかったりする?」
「いや……。合っている。魔法学院初等部、ヤユ・オーケアだ」
「やっぱりそうだ。よろしくね、ヤユ」
嬉しそうに手を差し出してくる彼女の手を払う。
「一つ訂正しろ。確かに、僕は転生者で魔力無効化特性を持っている。だが、この世界では恥じることを一度もしていない。魔王などという外道と一緒にするな」
「あら、そうなの。魔王と、その『テンセイシャ』っていうのは何が違うのかしら?」
「転生者は種族で、その中の悪人が魔王になる。お前は、生まれだけで罪とを決めるのか?」
僕の言葉を咀嚼するようにゆっくりと飲み込み、ソクラは手を叩いた。
「なるほど。勘違いしていたようね。ごめんなさい」
彼女は丁寧に頭を下げ、再び差し出してくる。
無垢である上に純粋らしい。謝罪までされているのに文句を言い続けるほど、僕は子供じゃない。
「わかってくれればいい」と、今度は握手を返すことにした。まだ言い返したいことは沢山あったが、悪意が無いというのがタチが悪い。大人として飲み込むことにした。
いや、冷静に考えたら魔道具を破壊されたことを謝罪されてないな……。先輩との連絡手段が無くなったし、一旦帰ったほうがいいんじゃ無いか。そんな僕の手を強く握ったソクラは、「行くわよー」と言って集合場所に向かい始めた。
***
晩餐会の集合場所は、地図がなくても一目でわかる。旧『天国の魔王』城、その真下だ。空を見ながら歩いていけば、いやでも辿り着ける。
目的地までは三十分ほど掛かりそうだ。僕とソクラはお互いの情報を少しずつ共有しつつ、何も無い大地を歩く。
彼女は同じ魔法学院の相方ではあるが、僕の正体までは知らない。夏休みの宿題の一環でここに派遣されたようだった。
「なるほど。大体わかったわ」
晩餐会の概要を認識合わせしていたところ、ソクラが手を叩く。
「晩餐会って、要はパーティーよね? だから、あたし達子供が選ばれたのね。日頃頑張っているから、院長達が褒美をくれたんだわ。どんな料理が出るのかしら」
「さあ。僕たち庶民じゃ食えない高級料理は出てくるだろうな」
と、適当に話を合わせる。
彼女と会話をしていて、一つわかったことがある。
こいつは阿保だった。
何も考えていない。ただ、楽しそうだから、面白そうと直感的に動いてここまで来た。そもそも、ルーゼン財閥の晩餐会は夏休みの宿題としてくるような場所じゃ無い。
対して話も聞かずに、集合場所に来る。魔法が効かないらしいから攻撃してみる。勘違いしたから訂正する……。
きっと、彼女は誕生日の人がいれば何も考えず祝福する。ソクラ程脳みそが空っぽだったら、生きるのが楽しくて仕方がないだろう。
マイナス思考に吸われていき、ため息を吐きたくなる。が、そんな姿を見られでもしたら、「何か嫌なことがあったの?」とか何とか、根掘り葉掘り聞かれるだろう。
当たり障りのないように適当に接する。これがソクラ・スタウに対する答えだった。元より、相方に期待はしていない。魔王討伐戦線として、僕は一人でここに来た。
まあ、下手に賢いより、何も知らない馬鹿の方がマシだ。僕が仕事をしている間は、パーティーでも楽しんでもらうか。
「あ、なんか失礼なこと考えているでしょ。これでもあたし、優秀なんだからね」
「ふーん。そうなのか、すごいな」
「ちょっと、本当だからね! 魔法学院の高等部、特待生で入学しているんだから」
ふふん、と鼻を鳴らすソクラ。その話が本当ならば、彼女は優秀というか、天才の部類に入ることになる。
世界の魔法を取り締まっている魔法学院。本拠地のあるパラス国の高等部は、狭き門となる。その上、特待生となれば、上澄も上澄みだ。
まあ、彼女の性格的に嘘をつくとは思えない。まあ、天才でもなければルーゼン財閥の晩餐会の招待客になれない。
それは僕もか。ソクラは同じことに気がついたのか、「ヤユも十歳なのに、よく選ばれたわね」と感心したように頷く。
「魔法学院に在学している学生の中で、転生者は僕しかいなかった。魔法使い側は優秀な奴が抜擢されるが、転生者側は僕以外選択肢が無かっただけだ」
「確かに、ヤユみたいな魔王と同じ体質の人は会った事ないわね。あまりよくわかっていないのだけれど、生まれる前のことを覚えているのよね」
「理解できなくて良い。僕は『前世』という虚偽記憶を持つ精神疾患者扱いだからな」
「へえ」と彼女は眉を顰めた。
「不思議だよね。見た目は可愛らしいのに、喋り方とか雰囲気が、なんか、こう、怖いし。前世では何をやってたの?」
「ソクラ。お前の考えたことをすぐに口に出す純粋さは羨ましくもあるが、これだけは肝に銘じてほしい」
空に浮かぶ魔王城の真下。晩餐会の招待客だろう人影を見ながら、ソクラに念を押す。
「前世のことは二度と聞くな」
この世界の住人に話せることなんて何一つない。
一つくらいあれば、良かったのに。




