39.前世の話をしよう! 2
「それでは僕の前世について語らせていただきますが……、大した経歴はありません。都内の私立高校の一年生でした。部活は陸上部で、塾や習い事には通っていませんでした。他は……、ああ、死因ですか。家庭のトラブルがあったので、十六歳の時に自殺しました。以上です」
最初から嘘をつく必要はない。深掘りされて矛盾が生じたら詰みだ。核心的な部分だけを避けて、真実を話す。
僕の人生は十六年と短い。話題の底もしれている筈だ。
それなのに、テラスは眉を顰めた。僕は何も嘘をついていない。引っかかる場所なんて何もないはずだ。
「ヤユくんが生きていた時代も、二◯二三年だよね。都内の私立高校ということは、私立銅燐高校かな」
「はあ。ご存知なんですか」
「そりゃ、俺は警視庁捜査一課だったからね。都内の高校の名前は全て把握している。だが、問題はそこじゃない。オルタさん、ケプトちゃんの具体的な過去を話してもいいですか?」
「認めましょう」とオルタは笑った。
テラス達は、殺人現場の捜査の後、親族への聞き込み調査も抜かりなくやっていたらしい。勿論、聞いたことはケプトの前世についてだった。
「菅原コウ。ケプト・ルーゼンの前世は、一月のうちに七つの家に火を放ち、二十を超える死者を出した令和最大の放火魔です。最初に引き起こした有明家全焼事件の被害者が、銅燐高校の一年生だったはずです」
「そんなことが。僕は知らないです」
「どうして? 都内に住んでいて、菅原コウを知らない人間がいるはずがないけど。それに、有明家全焼事件の直後は、休校になっていた筈だ」
「はあ。僕が死んだのは十一月です。その事件は、それより後に起きたんじゃないんですか」
む、とテラスが押し黙る。僕の言った通り、有明家全焼事件は十二月に起きたものだ。死後の話ならば知らぬ存ぜぬで突き通すことができる。
もちろん、僕は知っている。菅原コウについても、有明家全焼事件のことも。強い因果のある事件で、忘れるわけがない。
僕は有明家全焼事件の時に存命していた。僕が自殺したのは二◯二四年の二月だ。ここで嘘をつきたくなかったが仕方がない。この嘘は、これ以上の深堀を避ける決定的な歯止めとなる。
全てが嘘ではない。菅原コウとは直接的な関わりがないことは本当だ。ケプト・ルーゼンの正体に心当たりはなかった。この真実の感情を軸に、嘘を覆い隠す。
だから、僕の話は終わりだ。次に行ってくれ。
そんな僕の切なる願いは、警察官には届かなかった。
「確かに、有明家全焼事件は十二月に起きた事件だ。それなら、質問を変えよう。被害者の一人は、銅燐高校一年生、有明サトル。ヤユくんと同学年の男の子だった筈だ」
「はい。同級生でした」
「彼と深い関わりはあったのか?」
天野ヒトミと有明サトルは恋人関係にありました。なんて真実は口が裂けても言えなかった。テラスが考えるストーリーラインに最適な答えになってしまう。
有明サトルの家ごと燃やした菅原コウを、恋人ならば恨んでいてもおかしくない。前世から続く恨みを、ケプト・ルーゼンという転生体にぶつけた。説得力のある話だ。
勿論、言えるはずがない。
「挨拶するくらいですね。僕、あまり学校に行っていなかったので」
二度目の嘘である。これは何の真実もベースになっていない、純度百パーセントの嘘だ。十二月の冬休みが始まるまで、僕は無遅刻無欠席の真面目ちゃんだった。
ただ、僕が家庭の事情で自殺したと言う事前情報が功を奏した。クラスでも馴染めていない不登校と勘違いしてくれたようで、有明サトルと親しくないことは納得したようだった。
尋問に近い緊迫感が解けていく。テラスは「わかった 」とため息を吐いた。
「死因については、今は深掘りしないでおこう。あの時期は自殺者が多すぎた。俺もあまり思い出したくない……。次、カオルさん。良いかな」
アラン王子の召使、カオルは皆の注目を受けながらも無表情で立ち上がる。連動するように、僕は全身の力が抜けるような勢いで着席した。
何とか乗り切った。アドレナリンが切れたのか、全身が濡れているかの如く重い。僕はケプトを殺していないし、菅原コウと本当に関わりがない。それなのに、どうしてここまで疲れなくてはならないのか。
悪態をつきたい気分だったが、前世を軸にした捜査はより意味のあるものになるだろう。魔法使いにとっては想像し難い前世という概念を、僕とテラスが共通の話題を持っている様子を見せることで実演した。
魔法使い達は理解したはずだ。別の世界の話はイメージし難いが、「別の国から来たみたいなもの」という具体的な理解につながった。
実際、僕らは日本という故郷を共にしている。時代が合っているのならば、知り合いがいることはむしろ当たり前のことだ。
シンやソクラ、オルタは明らかに話を聞く姿勢が変わっていた。現実味が増していく。菅原コウに恨みを持つ人間がいれば、そのまま殺人の動機になると、誰しもが考えている。
この時点で油断していたと言われれば、否定はできない。僕は自分の出番が終わったと、聴衆側の気分になってしまっていた。
故に、カオルの口を塞ぐことができなかった。これから起こる、ヤユ・オーケアの終わりを止めることができなかった。
「それでは、ダルフ国第四王子、アラン・ミルターの使い、カオルから前世について話させていただきます」
カオルは高らかに声を放つ。
「わたしが有明サトルです」




