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36.第一回捜査会議 1

 夕食はパラス国民ならお祝い事で一度は食べたことのある、上質な肉を使ったステーキだった。今回は招待客に料理させるようなことはせず、ルーゼン財閥が持つ最高峰の魔道具を使用して作ったもののみで構成されていた。


 全員が同時に手をつける。味は美味ではあったが、以前と同じく純粋に食事を楽しめる気分でもなかった。


 円卓の反対側に座るティールが、昨夜同様僕の方を見ながら肉を咀嚼していた。彼だけは、心から幸福を味わっているような表情をしていた。


 食事も終わり、自然と食堂を沈黙が包み込む。元々会話など一切なかったが、全員が手を止めた。


「さて」


 本題である。元警察官であるテラスの仕切りに反対意見を述べる転生者は誰も居らず、それならばと魔法使い達も同意した。オルタ嬢は言わずもがな、認めるだけだった。


「ケプト・ルーゼン殺害の件について、ある程度調査が完了したのでご報告と、今後の相談をさせていただきます」


 テラスは横に座るカラスの肩を優しく叩く。妹は頷いて、両手を光らせた。テラスの後ろに、プロジェクターで投影したように別の部屋の景色が映し出される。言わずもがな、殺人現場ーー衣装室である。


「改めて前提から。殺されたのは十歳の女の子、ケプト・ルーゼン。鑑定には出していないので具体的な死因までは断定できませんが、周囲に広がる血液の量からは出血死、或いはそれに伴うショック死と考えられます。殺害に用いられたのは、料理用の包丁。これは、元々キッチンに置いていた物であることは、家主のオルタさんに確認済みです」


 そもそも魔道具で料理を行う現代社会で物理的な刃物の必要性は無い。切断を行える魔道具は一般的な物だ。

 だが、ここは元魔王城である。転生者である『天国の魔王』が残した調理道具はいまだにキッチンに残されていた。


「夕食は魔道具による自動調理が行われているそうですが、食後のデザートを作ったのはティールさんです。この時点で、包丁はキッチンになかった、そうですね?」


 問われたティールは頷く。段取りを事前に打ち合わせていたのだろう。カラスの手から放たれる光が投影している映像が切り替わる。タイムテーブルがわかりやすく表示されていた。


「ティールさんが料理をしたのは昨日の十八時から一時間ほど。十九時に被害者を除く九人が食堂に集まりました。それから一時間の食事を摂り、二十時にオルタさんがケプトちゃんの不在を認識した。そして、三十分後、カラス達が被害者を発見した」


 ここまでは概ね僕の知っている範囲だ。包丁を持ち出したのは事件の二時間以上前。加害者は計画的に殺人を行ったのだろう。

 テラスは真剣な顔つきでオルタに話を振る。娘が食堂にいない事に一時間気が付かなかった母親に話を聞くのは気が引けそうな物だが、テラスは冷徹に事件解決を求めていた。


 オルタは全く気にするそぶりもなく、淡々と当日の動きを語り始める。彼女達は十七時頃から夕食の準備を始めたらしい。オルタは配膳の魔道具の準備を行い、ケプトは招待客を呼びに回った。

 ケプトの口元を覆っていた鋼鉄の仮面は、娘の会話内容を管理するためのものだった。故に、オルタはケプトの行動を管理できていた。


 初めに、第二の難問を解いた直後のティールとシン達に料理の打診をした。デザートを作ると、ティールが了承した。

 次に、階段を降りた。料理室の前でダルフ国組に出会い、食事の時間を伝えた。そのまま反時計回りに廊下を進み、衣装室でテラスとカラスに声をかける。


 ここで、魔王城全体を巨大な魔力が流れる。魔道具は一斉に稼働し、繊細なものは一時的にショートした。

 暫くの間、ソクラが何をしていたかオルタにはわからない。復旧後、展示室で僕たち魔法学院組を呼び出していたことがわかった。


 ケプトは僕たちを食堂まで誘導したのち、魔道具と共に配膳作業を始めた。


 その後、ケプトの姿を見たものはいない。会話もなかった。


「カラス、アラン王子、ティールさん、ヤユくんの四人で被害者を探しに行き、衣装室で死体が発見されました。死亡推定時刻は食事途中の十九時半から二十時半までの一時間。その間、一人で行動をした人は誰もいません。認識齟齬がある人はいますか?」


 テラスの言葉に返すものもいない。ここまでは彼が整理するまでもなく周知の事実だ。勿論、テラスの捜査結果は前提があっての話だ。ここからが本番である。


「全員のアリバイがあるというだけで困難な事件なのに、極め付けは密室です。計十六体のマネキンが重なるように衣装室の扉を内側から塞いでいました。マネキンは一体十五キロ程ですので、運ぶのは手間ですが難しくはありません。問題なのは、マネキンで封鎖した部屋からどうやって殺人鬼が外に出たのか、という点です」


 密室殺人ならお決まりの展開だ。探偵がトリックを暴き、殺人鬼を糾弾する。僕らのような巻き込まれただけの招待客は流れに身を任せていればいい。


 だが、ここは異世界。生まれた時から回復魔法が刻まれている魔法使いにとって、解決する事件がない。怪盗もいなければ探偵もいないのだ。


 テラスは警察官らしく、淡々と物事を羅列していく。彼の仕事は推理までは含まれていない。ついに、この殺人事件を迷宮入りさせる異世界特有の問題について、踏み込んでいく。


「物理的に解明できない魔法という概念がこの世界にある限り、密室なんてものは成立しません。単純な話、容疑者を殺害後、転移魔法を使えば簡単にこの状況は再現できる。ただ、今回の事件は異世界でも密室が成立する状況でした」


 本題である。


 魔法とは、大気に漂う魔素を体内に取り込み、外に形として放出したものだ。魔法使いは魔素の流れを見ることができ、形として出力された魔力は少し離れていても感知することができる。


 魔法を誰にもバレずに使うには、一人かつ離れた場所で行う必要がある。そこで出てくるのがアリバイだ。


 オルタ、ソクラ、アラン王子、カラス、そしてシン。推定死亡時刻に単独行動していた魔法使いは誰一人としていない。


「警察官としての捜査結果です。ケプト・ルーゼンを殺した殺人鬼は、魔法使いではない。魔法は使われておらず、物理的な殺人トリックで、密室は完成された。犯人は、我々転生者四人の中にいます」


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