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33.特別講義 2

 今から十年前。


 魔暦五八五年。未知の技術で空に城を浮かばせた一人の転生者は、真下の街に目掛けて巨大光線を落とした。直径一キロメートルの穴を地図に作ったのち、世界に宣戦布告を行った。


 パラス国は『天国の魔王』と認定し、強者を招集した。魔法学の名門スタウ家の長男ラス・スタウをはじめとした臨時勇者部隊が編成されたのはそれから二日後の出来事だった。


 そして、三日後。選ばれた四人によって魔王は討たれ、空に島を残して戦争は終わりを告げた。


 既に異世界の研究を通して七教授の一人となっていたシン・テーゼが現場に駆けつけるのは当然の流れだった。


「ラスの野郎が魔王を討伐したと聞いて、自分の幸運に歓喜したよ。高等部時代同じクラスだった。奴には仮がいくつもあったからな。魔王城の調査権を横流しするよう頼むことは容易だった。空飛ぶ魔王城を解析すれば、異世界のテクノロジーを物にすることだってできる、筈だった」


 ラスに話しかける前に、魔法学院院長からストップが入った。調査どころか、魔王城に立ち入ることすらできない。既に、魔王城はルーゼン家のものになった、と。


「あの時は驚愕を通り越して怒りがわいた。研究材料をすべて横取りされたようなものだったからな」


「お気の毒に。だから、十年越しにここに来たの?」


「それは違う。ここに来たのは、異世界の門を研究するためだ。ルーゼン家の馬鹿娘には今となっては感謝している。魔法学の未来のために、独占しなかったのは評価に値する。だが、今の話はどうでもいい。重要なのは、十年前の話だ」


 空島から放たれた巨大光線によって、僕の故郷は滅びた。魔法使いは回復魔法を突破されて死に絶え、魔法の効かない僕だけが生き残った。


 魔王を討伐したとなれば、空島は破壊兵器として処分される筈だ。もしくは、臨時勇者部隊に報酬として受け渡されるか、魔法学院に研究材料として提供されるか。


 魔王城を丸ごと調査できるのならば、魔王の出現を未然に防ぐことだってできるかもしれない。回復魔法を突破できる魔法を研究すれば、魔王の攻撃手段に対抗できるようになる可能性だってある。


 それなのに、何故か魔王城の権利はルーゼン家に渡された。臨時勇者部隊に参加していたわけでもない、魔法学院に多額の出資をしているわけでもない。


 そもそも、どれだけお金を積んでも買い取れる物ではない。魔王城は浮いてはいるものの、パラス国内にある土地だ。売りに出される商品じゃない。


 それなのに、ルーゼン家が魔王城を手に入れた。なぜなのか。


「単純な話だ。家主が死んでいなかった。それだけの話だった」


 「え」と、ソクラの声が漏れる。


 何も、天国の魔王が実は生きていたなんて話では無い。臨時勇者部隊に慈悲をかけるような人間はいないし、魔王城を手に入れられなかったのは魔法学院にとっても損失だ。


 つまり、順番が逆だったということだ。


 気がつけば、シン・テーゼの紫目が僕をじっとりと見ていた。話を釣り針に、僕が引っかかるのを見守っているかのような。


 確かに、この結論に至れば、ケプト・ルーゼンと同年代かつ臨時勇者部隊の一人に拾われた僕が怪しまれるのも当然だ。


 シンは、僕が唯の魔王討伐戦線でないと気がついている。天国の魔王との因果の可能性を知っている。


 未だに理解が追いついていないソクラが、膝上の僕の頭をつつく。手を払いつつ、僕は深いため息を漏らした。


「僕らがここにいる魔王城が、最初から魔王城だったとは限らないってことだ。天国の魔王が空に浮かぶ魔王城を作ったのではなく、元々あった城を魔王が乗っ取った、そういうことだろう?」


 シンは頷く。

 なるほど、天国の魔王に因果があるのは、僕だけじゃないらしい。


 いろいろ繋がってきた。オルタ・ルーゼンの正体と、ケプト・ルーゼンの出自が。


「この魔王城は最初からルーゼン家の物だった。天国の魔王は、ルーゼン家の人間だったんじゃないか?」


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