32.特別講義 1
「晩餐会の招待券は、魔王に関係のある組織に送られている。『震駭の魔王』と戦争中の西国ダルフ。『傾国の魔王』に滅ぼされた亡国ルナ、『強奪の魔王』に秘宝を盗まれた東国パラス。オルタ・ルーゼンは異世界の門を解くために異世界と因縁のある連中を呼び出したというわけだ」
魔法学院第七教授シン・テーゼは自らの正体の裏付けるように、追加の情報を公開する。
「異世界と因縁のある連中だけで三枠使ったオルタは、残りの一枠を魔法に詳しい人間を呼び出すことに使った。つまりは、魔法学院への招待券の贈与だ」
各王に依頼したのは、異世界に詳しい転生者の用意、魔法使いはおまけである。
魔法学院に依頼したのは、魔法学に詳しいエリートの用意、転生者はおまけである。
シン・テーゼはこの相関図を理解しながらも、自分の立ち位置が想像とは違う位置にいることに気がついた。
パラス国王からの依頼だったにも関わらず、相方のティールより先に自分の方が招待客に選ばれたからだ。
順番は大切である。先に選ばれた方が本命で、あとはおまけだ。自分が先に呼ばれたということは、期待されていることは魔法使いとしての魔法学の知見である。
逆にいえば、同じパラス国から招待客としてきた魔法学院の一組に求められていることが異世界に関する知識になった。
どんな人間が来るか期待していたシンの目に、赤髪が入る。それは、自分と同じ、魔法学院の天才魔法使いと呼ばれるスタウ家の血筋の色だった。
「最初は、俺たちのように正体を隠して歩き回っているのかと思っていた。魔法学院高等部を主席で入学した若き天才。しかし、蓋を開けてみれば第一の難問にすら苦戦する凡才だった。いや、実際には、お前は晩餐会に適していない人選だったのだろう。言うなれば、俺とは立場が逆、ソクラ・スタウは転生者のおまけとして選ばれたということになる」
パラス国王と魔法学院院長が裏で繋がっているからこその役割の交代。
魔法使い側の知見を期待されていたのがシンとティールのペア。転生者側の知見を期待されていたのがソクラとヤユのペア。
「魔法学院が魔王の根源である転生者を選抜するとは思えない……。だが、一つだけ奴らが転生者の力を頼る時がある」
「な、何なのよ」
「魔法学を否定する人類の敵、魔王を討伐する時だ。そのためだったら、転生者を味方に引き込むことだってある。そういうイレギュラーを正義とする組織、魔王討伐戦線に招待枠が渡ったと俺は考えた。
「あ」
ソクラは手を叩きながら僕を見る。そんなあからさまな態度を取るんじゃない。僕の正体が確定してしまうじゃ無いか。
「ふん、そういうことだ。魔王討伐戦線創設者にして、魔法学院副院長、エリク・オーケアの存在は魔法学院の中でも秘匿されている。ラス・スタウの親族をおまけ扱いし、オーケア性を名乗る人間がどんなものかと期待していたが、まさか、お前も第二の難問を解くことすらできないなんてな」
「まだ十歳なもので。オルタ嬢の過去も、十年前の事件も何も知らないんですよ」
「そこが想定外だ。お前ら以外は全員知っていることだ。既に、他三組は第三の難問へと移行しているというのに……。明らかな人選ミスだ。一体、魔法学院の上層部は何を考えているんだ?」
天国の魔王なんて、両親もろとも故郷を滅ぼされた以外の薄い因果しかない。しかし、僕以上に因果のある人間なんているだろうか。
過去を知るという意味では、「門の存在に気が付いた経緯は何か」という第二の難問は乗り越えるべき壁だ。魔王城で晩餐会を開催した以上、天国の魔王と門は深く関係している筈だ。
「シンさん。いや、シン教授。教えてくれませんか。十年前、何があったかを」
「何か勘違いしているようだな。俺はお前らの味方じゃねーぞ。こっちはこっちで、難問以外の問題を抱えているんだからな。子守りをする余裕はない」
「人も死んだしな」と、シンは付け加える。勿論、僕も彼を仲間だと思っていない。殺人鬼がシンである可能性は少なくない。
寧ろ、異世界という異端文化の研究者というだけで、怪しさは倍増したようなものだ。というか、魔王信仰罪として罰せられないのだろうか。まあ、今は関係ないか。
割り切る必要がある。僕は「シンさんの考えている通り、僕は魔王討伐戦線です」と、自ら名乗り出た。
「確かに、任務の目的は異世界の門に辿り着くことではありません。門に引き寄せられる魔王の始末です。殺人事件が起きてしまったので、解決することが目先の目標です。だけど、第三の難問は僕たちが先に解きます」
理由は言わない。どうせ、わかってくれやしない。
合理的な話ではなく、感情論だ。世界の底にいる少女を救うためには、異世界の門を開けるしかない。
もはや、ヤユ・オーケアとしての考え方ではなかった。ソクラを救いたいという気持ちは、同じ境遇だった天野ヒトミとしての物なのかもしれない。
前髪に殆ど隠れた瞳がジロジロと僕らを見て、シンは黙った。僕の解答と態度を見て、値踏みをしているのか。それとも、ソクラの魔法使いとしての可能性を見ているのか。
居心地の悪さからか、僕に密着するようにソクラが寄ってくる。両手を僕の肩に置いて隠れる様は、僕を盾として利用しているようにしか見えない。魔法使いにとっては、魔力を無効化する転生者は盾以外の何物でもないが。
「まあ、良いだろう。十年前、俺が何をしていたかくらいは話してやろう」
シンはふん、と鼻を鳴らし、再び前髪を揺らす。不気味な紫目は隠れ、緊張感は和らいだ。
「授業を始めてやる。学生共、そこに座れ」




