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28.異世界の門 4

 ソクラによる大雑把な魔力探知によって明かされた巨大な魔力源は、展示室の地下だった。衣装室の姿見は、ソクラの探知には引っかかっていない。


 かと言って、科学的物質なのかと言われれば否定する。目の前の姿見が電化製品かどうかはくらいは見ればわかる。仮に魔王城に電気が引かれていたとしても、鏡は鏡でしかない。


 それならば、どう言った原理で前世を写しているのか。魔法の世界、科学の世界とは無縁な第三の世界の物体なのか、そう問われれば、これもまた否定することになるだろう。


 何故ならば、『前世を映す鏡』程度の存在ならば、地球にも存在するからだ。


 フィクションの話をしているわけではない。小説の中の話をしているわけでもない。単純に、地球でも解明できていない非科学的物質が存在しているということだ。


 幽霊しかり、未確認生命物体しかり。深海や宇宙だってそうだ。科学文明は未知の領域が大半を占めていた。


 それは、魔法文明も同様だ。最たる例が、転生者を始めとした第二世界の存在。僕やティールと言った実例がいるにも関わらず、授業で習うどころか妄言として処理されている。


 つまり、転生と同じく、前世に関わる解明不能な魔法文明のオカルトの一つ、それが前世の姿を映す姿見だ。


「ちょっと、ヤユって女の子だったの? 確かに、行動の節々が男っぽさが無いというか、可愛らしいた頃はあったけれど。それに、随分と若いわね。これはいつの時の姿なの?」


 興奮気味に言葉を捲し立てるソクラは、僕の手を引っ張っては連動している虚像を見て遊んでいた。

 仕方がないことなのかもしれない。散々上から目線でモノを言ってきた相方が、蓋を開けてみたら若造だったのだから。


 僕の呆れた目線に気がついたのか、それとも天野ヒトミの表情を見たのか。ソクラははっと思い出したように咳払いをし、黙りこくった。


「『前世のことは聞くな』、だったわよね。失言だったわ。ごめんなさい」


「いや、いいさ。気にするな。見えているものは仕方がない。察しの通り、鏡に映っているのは、僕の前世だ。十六歳の冬に死んだが、鏡像はその直前の姿だな」


「やっぱりこの世界に来たってことは死んだってことよね。でも、何で……」


 と、そこまで口にしてソクラは手で口元を覆った。その先はまさに、『前世のこと』そのものだから黙ったのか、それとも自分と重ねたのか。


 十六歳の冬に、ソクラと同じく世界に見切りをつけた僕は、別の世界に行く決意をした。このことはすでに伝えてある。その直後に僕が死んだとまで教えたのだ。ある程度は察してもらわないと困る。


「えっと、ヤユの前世のことは置いておいて。重要なのは、これが前の姿を映しているってことよね。ヤユがいた世界ではよく使われているものなの?」


「鏡自体は町中に存在しているが、前世を映す鏡となるの、オカルトな部類になるな。この世界でいう、転生者みたいな眉唾ものだ」


「つまり、これこそが異世界への門ってこと?」


「ああ。あり得る話だ」


 あちらの世界とこちらの世界。両方で観測できるオカルト的な存在が、無関係だとは思えない。これが異世界の門だとしたら、全ての謎に説明がつく。


「元より、僕たちのいた世界でも鏡は特別な意味を持つことが多かった。真実や隠した姿を映し出すといわれていたり、神鏡という神が宿る依代だったりな。それこそ、異なる世界や霊界への道として信じられていたこともある」


「そのまま異世界の門と同じ意味じゃない。何で気が付かなかったのよ」


「僕はオカルトを信じていない。幽霊や神様なんて非科学的なものに縋る余裕はなかったんだよ。まあ、今となっては、転生者という非科学そのものな存在になってしまったけど」


 ただ、信じていなかっただけで、知らなかったわけではない。薄い板に奥行きがある鏡は、確かに別の世界を映しているように見える。本気で信じていた人間だって、歴史を辿れば大勢いる。


 手を伸ばすと、あちらも手を伸ばしてくる。手のひらを合わせることだって出来た。そのまま、水面に落とし込むように、鏡面を貫通するかのような錯覚があった。


 カン、と何かが落ちた音がした。


 僕ら二人は手の腹を合わせ、顔を見る。鏡の中には、いつものように銀髪の少年がいた。天野ヒトミではない。

 十歳とは思えないほど鋭い目つきを隠すように、弱々しく瞼が降りてくる。


 ヤユ・オーケアは無気力に、鏡の前で倒れた。意識を失うように崩れる音で、ソクラが慌てて振り向く。ヤユを抱き抱え、何やら声をあげている。


 その様子を、鏡越しで見ている僕がいた。


「え?」


 手を見る。少年の時とは違う女性的な細さを持つ白い指とピンクのネイル。その手で全身を触る。胸部の膨らみと下腹部の異変、視線の高さ、声色の変化……。

 周囲を見渡すと、濃霧が広がり先が見えない。僕だけがそこにいて、それ以外は何もなかった。


 天野ヒトミとして、僕は鏡の中にいた。


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