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26.異世界の門 2

「む、君たちか」


 天国の魔王城、一階。円環状の廊下を回って十二時の位置にある衣装室、粉粉に砕け散った扉の前で僕らは足止めを喰らった。


 テラス・ムーアは小難しい顔をしながら、アナログに羊皮紙に文字を書き込んでいた。事件の情報をメモしているのだろうか。


 部屋の中では、カラス・ムーアが棒状の魔道具を持ってうろうろと歩き回っている。ケプトの死体には布が被せられていた。


「部屋に入るのは少し待ってもらいたい。現場の状況を残しているからね」


「カラスさんは何を?」


「投影魔法で、部屋の中の写真を撮ってもらっている。勿論、オルタさんの許可も得ているよ」


「まるで警察ですね」


「まるで、ではなく。俺は警察官だ」


 鋭い目つきでテラスは語る。


「前世では警視庁捜査一課に所属していた。今までは招待客として難問に挑んできたが、人が死んだのならば話は別だ。これからは警察官として動かせても、う。俺は殺人を絶対に許さない」


「あらまあ」


 意味のわかっていないだろうソクラに補足として「警察は魔王討伐戦線みたいな物だ」と耳打ちをする。


 捜査一課の人間がいるならば頼もしい限りではある。うん、正義ってのは素晴らしいね。


「僕も殺人は許さないと思いますよ。犯人、絶対見つけましょうね」


「君も容疑者の一人だぞ、ヤユくん」


「第一発見者だからですか? それを言うなら、カラスさんやティール、アラン王子もそうでしょ」


 今となって思えば、魔法使い二人、転生者二人の四人でケプトを探しに行けたのはよかった。総合監視状態が成立していたのだから、平等に疑いがかかる。


 警察官として冷徹に捜査を行うことを決めたのか、テラスは小難しい顔で頷いた。

 

「ああ、カラスを贔屓するつもりもないさ。それだけじゃない。魔法という無法な概念が存在するこの世界では、誰しもが加害者になりうる。オルタさん、シンさん、そしてソクラちゃんだって容疑者の一人だ」


 ケプト・ルーゼンが転生者だと明らかになった今、彼女を殺すことは容易だ。転生者は魔法が使えない。回復魔法が無いのだから、心臓に包丁を突き刺せばそれで終わりだ。

 魔法が効かない転生者としての体質も、物理的な攻撃を行えば良い。魔法で包丁を遠隔操作することだってできるはずだ。

 そういう意味では、食堂に残り続けていたテラスとカオルの二人の転生者だけは確定で白と言えるだろう。


 突如矛先を向けられたソクラは、冷静に話を一蹴した。


「いやいや、それは無いって断言できるわよ。食堂では誰も魔法を使っていなかった」


「そうなのか?」


「魔法が使えない貴方たちじゃイメージできないのも仕方がないのかもね。魔法ってのは体内に蓄えた魔素を力に変換して放出する物。魔法使いは魔素の動きを感じ取れるから、隣の人が魔法を使ったらすぐにわかるよ。あの日、食堂で魔法を使った人はいない。シンさんやオルタさんにも聞けば裏は取れるんじゃない」


 概念としては勉強しているからわかるが、感覚としては分かりづらい話だ。シュートモーションをせずにボールをゴールまで動かすことはできない、みたいな物だろうか。


 ソクラの話に反論することなく、メモを取るテラス。その背後から同じ顔をした女性が不満そうにため息を吐いた。


「ちょっと。その言い分だと、わたしとアラン王子に火の粉が飛ぶじゃない。わたしたちが魔法を使っていないことは、お互いが証明できるんだからね。そのために、魔法使い二人、異世界人二人の四人で移動したんでしょ」


 「心外よ」と文句を漏らすカラスは、棒状の魔道具をテラスに渡した。室内の写真は撮り終わったらしい。


「わたしはヤユ・オーケアとティール・キオニが怪しいと思うけどね。廊下に出てからも、二人でこそこそ話してたし。あんたらが協力して、魔法以外の異世界の知識で何かしたんじゃないでしょうね」


「僕がティールと? それこそ心外だな。ティールとは昨日初めてあったし、表面上の会話しかしてない」


「今は、でしょ。あんたたち異世界人は、前世で繋がっててもおかしくないじゃない」


 流石、転生者と双子なだけある。カラスは異世界の存在と転生の仕組みについてよく理解しているようだった。


「そうだ。ヤユ・オーケア。あんた、前世で何していたのよ」


「む」


「何よ、答えれないの?」


 立て続けに言葉を捲し立ててくるカラス。僕の苦手なタイプだ。異世界の情報を知っているが故に、遠慮なく踏み込んでくる。

 いつもなら適当に話を流すが、人が死んでいる以上そうも行かない。話さないということは、隠し事があるということになってしまう。


 と、考えている間に、ソクラが話を割り込んできた。


「それこそ、今の事件とは関係ないんじゃないの。ケプトちゃんが殺されたのは、今の話でしょ」


「何よ、ソクラ・スタウ。魔法使いのくせして、異世界人の味方するの? どれだけ身元が明らかでも、転生者の正体は信用できないのよ。前世では悪辣なことをしていたかもしれないじゃない。わかってるの?」


「まあまあ、二人とも落ち着いて」


 テラスの声にカラスは黙る。まあ、どれだけ転生者の認識が正しくても、兄という異世界人に肩入れしているカラスに説得力はない。全て、自身に返ってくる話だ。


 それに、ソクラのいう通りだ。前世や異世界とか関係なく、人が死んだのは魔王城内での話だ。空に浮かぶこの島にいるのは九人の中の誰かが人を殺したという事実だけは変わらない。


 それから、カラスがいくつか小言を言ってきたが、ソクラが負けじと言い返してくれたので僕は彼女に甘えることにした。


 テラスが状況整理が終わったのか、殺人現場から撤収することにしたらしい。双子がこの場を去るまで険悪な雰囲気は続いた。カラス達の背中を見て、小声でソクラは呟く。


「一応確認だけど、オルタちゃんを殺したのは、ヤユじゃないわよね?」


「やってるわけないだろう。あのな、僕は魔王討伐戦線の一人だぞ。この世界に害をもたらす者は魔王でも殺人鬼でも僕の敵だ」


「そう、よね」


 ヤユ・オーケアは前世の話をしない。「したくない」ではなく、「出来ない」という意味をソクラは理解してしまったのだろうか。

 テラス・ムーアのように胸を張って語れる過去がない。後ろめたい弱みがある。


 そんな不安そうな顔をするな、とも言い切れない。結局、僕から前世を語ることはない。彼女は一生疑念を持ち続けるだろう。

 申し訳ないとは思わない。


 僕はヤユ・オーケアで、天野ヒトミではないのだから。


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