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25.異世界の門 1

西暦2023年 12月25日


「ヒトミさ。隠し事しているでしょ」


 これは何歳の時の記憶だろうか。転生者として天野ヒトの記憶が薄れることはないが、蓋をしていたせいで時系列が歪んでしまった。


 眼鏡をかけた男子高校生が、真剣な眼差しで僕を見つめる。サトルくんが高校の制服を着ているということは、高校一年、16歳の記憶になる。


 サトルくんと恋仲関係になっていた時期だ。僕を唯一認めてくれた存在で、心の底から信用していた。


「昨日の夜、何をしていたの」


 冷たい音色でサトルくんは告げる。彼もまた、僕を信用してくれていた。

 だから、このような結果になったのは僕が悪い。裏切ったのは僕の方で、きっと僕のことを恨んでいるだろう。


「俺に話せないことなのか?」


 だけど、たまに思う。


「信じて、話してくれ」


 人を信じて、失敗した場合。

 責任の所在は、どこにあるのだろうか。


 信じろと甘い提案をしてきた発言者側か。

 その誘いに乗って信じてしまった僕の方か。


「大丈夫、俺は味方だよ」


 隠していた秘密を他人に打ち明けるのは初めてだった。サトルくんの甘い言葉に乗った僕は、天にも昇るような気持ちだった。

 僕たちはより強固な関係になる。弱みが意味をなさなくなり、完璧になる。


 まるで、夕暮れ時のようだ。暖色の景色に、サトルくんの背中が大きく見える。可憐な少女のように、僕は彼の後をついていった。


 行っちゃダメだ。取り返しのつかないことになる。ここで引き返せば、まだ、やり直しができる。


 そう思って、僕はサトルくんの手を掴んだ。不思議そうに首を傾げる彼を連れて、後ろを振り向く。過去へと戻ろうとする。


 赤。


 赤赤赤赤赤赤。


 赤黒い血液の滝が視界を埋め尽くす。


 引き返すことなど、無駄だと言わんばかりに。濁流は足元を掬い、世界を飲み込み、赤だけを残して消えた。



 つまりは、最悪の目覚めだったというわけだ。


「ヤユ、あんたねぇ。男の子と同じ部屋、同じベッドで寝るというあたしの緊張感を煽るように熟睡しちゃって。全然寝れなかったこっちが馬鹿みたいじゃない」


 制服に着替えたソクラが、僕の枕元でため息を漏らした。僕が吐き気を催す悪夢に飲まれている間に、身支度が終わったらしい。


 出会って二日目というのに、彼女がここまで心を開いてくれるとは思わなかった。昨日まで、同じ部屋になるくらいなら出ていくと騒ぎ立てていたのに。

 それほど、共感力というものは依存性が高い。世界の底を見たという感覚のような稀な感覚ほど、依存度は高まる。


 僕もサトルくんの言葉に釣られていなければ……、うん、やっぱりまだ眠気が取れていない。ヤユ・アーケアとして十年間生きてきて、ここまで前世を思い出したことはない。


 殺人事件が原因だ。死体と血の匂い。一日寝ただけじゃ忘れられないあの光景が、どうしても前期を想起させてしまうのだ。


 ソクラの口から漏れ続ける文句を聞き流しつつ、顔を洗い、魔法学院初等部の制服に着替える。今更だが、こうして系列の制服を着ていると、僕たちは姉弟みたいだなと思った。


 時刻は朝の十時。朝食はオルタが用意してくれていたらしく、パラス国内でも流行っているパンケーキが部屋の前まで運ばれていた。


 食堂での食事会は当然のように開かれなかった。ソクラは僕が寝ている間に顔を出したらしいが、追い返されたらしい。


「オルタちゃんも、思うところがあるのかもね」


 あってもらわなくては困るが、ソクラが思うよりオルタは単純ではない。ただ、緊迫した魔王城内部で馴れ合うことができなくなったことは、流石に理解しているらしかった。


 昨夜の晩餐会では殆ど手につかなかったからか、酷くお腹が空いていた。パンケーキは純粋な気持ちで美味しく食べることができた。


 ふと、前世で『怪盗』が言っていたことを思い出す。


『どれだけ辛い時でも、美味しいものを美味いと認められる余裕が大事だ。あーしは常にそうありたいと思っている』


 食欲に溺れた『怪盗』らしい考え方だが、普通に生きていても当てはまることだ。彼女のことをぼんやりと考えながら、朝食を食べ終えた。

 

「それじゃあ、行くか」


「どっちの話? 事件解決して魔王を見つけるヤユの目的か、異世界の門を探すあたし方か」


 お互いのために協力すると誓った我々ではあるが、方向性は大きく分かれている。とはいえ、今回ばかりは僕らにとって都合のいい結果になっていた。


「両方同時に進めようと考えてる。第一の難問、いい加減解き明かそうじゃないか。ソクラも、心当たりがあるだろ?」


「まあ、城全体に魔力を流したから、強力な魔力源位置は大体わかっているけどさ。展示室の地下に行くってことだよね? あそこは、ケプトちゃんが殺された件と関係あるんだっけ?」


 無関係と言い切ることもできないだろう。僕らが地下に行こうとしたのを止めたのが、ケプト・ルーゼンなのだから。地下に何があるのか、ケプトが何故僕らに声をかけたのかは調べる必要があるけれど、今はその時ではない。


「そのケプトが殺された場所で、奇妙なものを見つけたんだ。見間違いでなければ、アレが異世界の門だ」


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