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24.世界の底を見た 4

 これ以上、前世の話をするつもりはない。


 天野ヒトミは死に、ここにいる僕はヤユ・アーケアだ。人格が分裂したわけではない。地続きの先にいるけれど、戻ることは決してない。


 魔王討伐戦線での活動は贖罪である。前世の罪を少しでも償い、この世界に住まさせていただく。魔王という僕の反対側にいる存在を消し去り、世界平和を実現する。


 前世を語ることは、ヤユ・オーケアを否定することになる。異世界の門なんてものは言語道断だ。天野ヒトミを知るものが現れる入り口ならば、消し去らなければならない。


 魔王の始末と門の破壊。これこそが僕が空島に来た理由で、今後もその意思を変えるつもりはない。



 ただ、門を破壊する前に、あちらの世界に行きたいと言うものがいるのならば、背中を押してあげても良い。


 天野ヒトミだって、とある『怪盗』に助言を受けなければ異世界に来ることはなかった。道に迷った思春期の女子高生には、大人が道を示してあげなければならない。


 別の世界に逃げ出したいと考えている少女が、別の世界から来た人間に肯定される。説得力は今までソクラがあった誰よりもあり、心に染み渡ったらしい。 


 協力しよう。どちらが先かわからないが、僕らは手を差し出した。僕の未成熟な小さな手と、未熟なソクラの柔らかい手。思えば、初めて彼女に触れた気がする。


 お互いのために動くことが、自分のためにもなる。合理的に、感情的に。僕らは手を取り合った。


 招待客の一組、魔法学院の学生ペア。初めて、晩餐会に参加できたような気がした。



殺人鬼の独白 A


 初めて血を見たのは、八歳の時だ。

 日がもう少し沈む夕暮れ時、人通りの少ない獣道を冒険と称して走り回っていた。いつもの日常、これからも続く平和、そんな人生にちょっとしたスパイスが振り掛けられた。


 ◾️が転んだ。それだけの話だ。人為的なものでも、運命的なものでもない。単純に、木の根に引っかかって前方に倒れただけ。


 その先に直立した小枝があって、前に出した手のひらを貫通しただけ。


 貫くような悲鳴と、直後に漂う鉄の香り。子供には到底耐えることのできない激痛に、顔を顰める◾️を見て、動くことができなかった。思わず喉を鳴らしたのを、未だに覚えている。



殺人鬼の独白 B


 初めて血を見たのは、八歳の時だった。

 日がもう少し沈む夕暮れ時、人通りの少ない獣道を冒険と称して走り回っていた。いつもの日常、これからも続く平和、そんな人生にちょっとしたスパイスが振り掛けられた。


 ◾️が転んだ。それだけの話だ。人為的なものでも、運命的なものでもない。単純に、木の根に引っかかって前方に倒れただけ。


 その先に直立した小枝があって、前に出した手のひらを貫通しただけのことだ。


 違ったことは、◾️の勢いは止まらず、鋭利に尖った枝の先端が眼球までも到達し、脳に突き刺さったということくらいか。


 悲鳴は上がらなかった。直後に漂う鉄の香り。ぴくりと動かなくなった◾️を見て、思わず手を伸ばした。涙のように溢れ出る赤い液体を掬って、喉を鳴らしたことを、未だに覚えている。

 

地獄の門は開かれた 一章 完


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