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22.世界の底を見た 2

「帰れって……、どこによ」


「パラス国に。名門スタウ家の生まれなんだろう。実家に帰れ」


「嫌よ。あのね、あたしだってある程度覚悟してきてるんだからね。人が亡くなっちゃうのは驚いたけど、それだけで帰るほど舐められても困る」


「違う」


 全然違う。論点からしてずれている。

 気持ちの問題じゃないのだ。否、気持ちですら間に合っていない。オルタ・ルーゼンの考えには当分及ばない。


「いいか。オルタは恐らく、『天国の魔王』を召喚しようとしている。奴は、十年前の戦争を再び起こそうとしている可能性が高い」


「何を言ってるの。『天国の魔王』は十年前、叔父さん達に倒されたじゃん」


「そうだ。だが、それはこちらの世界側の話だ。魔王というイレギュラーは転生というシステムを破壊しない限り無限に増えていく。まして、異世界への門などというふざけた存在があれば、話は早い」


 魔王が何故、本名で呼ばれないのか。それは、理解できないからだ。

 魔法使い達にとって、魔王というのは大枠でしかない。中身には興味がない。人類にとって脅威で、討伐しなければならない存在。それだけで十分だ。


 故に、どんな魔王か分かればいい。合衆国ルナを一人で傾けたのだから『傾国の魔王』。パラス国の三大秘宝の一つを盗み出したから『強奪の魔王』。恐怖の国を作り上げたから『震駭の魔王』。天に城を構えたから『天国の魔王』。


 この島で魔王が生まれたら、『天国の魔王』となる。オルタ・ルーゼンが魔王の誕生を狙っているのは、彼女を見れば明らかだ。


 オルタは異世界の門を開くために晩餐会を開催した。異世界へ行くためではなく、異なる存在を呼び出すため。

 オルタは異世界に執着している。その結果、天国の魔王に心酔してしまったのではないか。魔王城を買収しただけで妄想の域を超えないが、一つの死体が僕の不安を加速させる。


「それに、晩餐会に来るのは、『傾国の魔王』や『強奪の魔王』といった、知に寄った魔王が来るとばかり思っていた。異世界の門を巡る争奪戦ならば、僕一人で対処できる、と。だが、ここにいたのは人を殺す武に寄った魔王。とてもじゃないが危険すぎる」


「魔王の出現が確定しているのだから、魔王討伐戦線を呼んで対処して貰えば良くない? あの人たちがそういう危険からあたし達を守ってくれてるんでしょ」


「僕が魔王討伐戦線だ」


 「え」と、ソクラは声を反射させる。数秒、僕の言葉を咀嚼した後、再度同じ声を上げた。

 隠す必要はもうない。一般市民を守ることは、世界を守ることを目的とした魔王討伐戦線の義務でもある。ソクラの目を見て、真実を告げた。


「僕は魔王討伐戦線の潜入任務としてここに来た。目的は、異世界の門を求める魔王の始末と、オルタの真意を図ること。だけれど、状況が変わった。これは、潜入捜査ではなく、大々的に魔王討伐戦線として対処できる案件だ。ソクラは、下界に戻って魔法学院に報告してほしい」


「ま、まってよ。その話が本当だとしたら、ヤユはどするのよ」


「僕は残る。こう見えて、魔王討伐戦線になってから長いんだ。武力系統の魔王との戦闘経験だってある。ソクラが仲間を呼んでくれるまでの時間は稼げる筈だ」


「そんな……」


「何度も言うが、ソクラが思っているよりこの状況は危険だ」

 殺人を犯す魔王、狂った主催者、信用できない参加者達。ここにいる時間が長ければ長いほど、死が近くなる。

 本来は伝達魔法が刻まれた魔道具があるのだが、僕が所持していた魔道具で使えるものがない。今朝のソクラによる魔力砲により、全てショートしている。


 彼女に行って貰うしかない。それこそが、ソクラを守るための最適解で、僕が助かるための最短距離だった。


 急に彼女の心配をし出したわけではない。元より、僕は一人行動の方が得意だ。魔法使いの安全を気にしながら動く方が難しい。これで話は単純になる。


 未だに戸惑う彼女の右手を引き、空島に入るときに使ったエレベーターへの前で止まる。透明なガラス張りのような箱は、上空二千メートルの高さを示す。床下は雲が広がり、地につながるものは何もない。


 これも魔道具の一種だ。天空エレベーターを起動させれば、二千メートルの降下を行える。朝使ったからということもあるが、安全性は保証されていると考えていい。


 天国の魔王は、当然ながら浮遊魔法や転移魔法は使えない。地上に行く手段として用意した天空エレベーターは、安心安全な設計にしたはずだ。


 しかし、ユーザーインターフェイスまで拘ったわけではないらしい。開閉のボタンどころか、凹凸は何もない。今朝利用した時、案内者のケプトは何をしていたか、気にしてればよかった。


 降りる手段がない。いや、ソクラなら、浮遊魔法で二千メートルを降りることだって出来るはずだ。最悪、落下で肉体が潰れたとしても、回復魔法がある。


「ねえ、ヤユ」


「何だ。今帰り方を考えてるから、後でにしてくれるか」


「やっぱり、あたしは降りないよ」


 やはり、ソクラには丁寧に説明する必要があるな。彼女が頑固なのは理解していたつもりだ。僕の緊張感が正確に伝わっていないのならば、わかるまで教えるしかない。

 僕はエレベーターから手を離し、振り返る。いつのまにか、僕の真後ろにソクラは立っていた。


「ソクラ、降りる降りないとかいう次元の話じゃない。武力系統の魔王は個人で対応して良い話ではない。ソクラがどれだけ魔法学が優秀かどうかは関係ない」


「わかっていないのはヤユの方だよ。そもそも、あたしが何をしに来たか、忘れたの?」


「何をしにって」


「あたしは、異世界の門を開けに来たんだよ? 何で、そのチャンスを捨ててまで逃げなきゃ行けないのよ。人が死ぬ程度で、魔王がいる程度で、諦める話じゃないのよ」

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