18.第一のXX 2
ここから先は特に語るまでもない。表面上だけの何の意味もない、つまらない話し合いが行われた。それだけの話だ。
アラン、カオルは、ダルフ国と戦争中の震駭の魔王への対抗策として、異世界の力を借りたいと豪語した。
テラス、カラスは故郷を失ったが故に、異世界へ亡国したいと嘆いた。
シン、ティールは商人として、目新しいものを手に入れたいと願望を口にした。
僕らは研究材料として、異世界の切符を手にする宿題があると嘘をついた。
本当か嘘かわからない。僕らのように、ペアで意思統一ができているとも限らない。しかし、この会食の上では真偽などどうでも良かった。
僕らの前向きな意思はオルタに認められた。彼女は満足そうに頷き、空になった皿を再び浮遊する魔道具で片付けさせた。
「ちょっと待てよ、オルタ嬢。俺らに説明させたんだから、あんたらもこの会を開催させた経緯を教えるべきだろうが」
「ふむ、シンさん。貴方の言い分もご尤もです。認めましょう」
彼女は立ち上がる。
「第二の難問の答えに抵触する話になってしまいますが、隠す必要もないことですね。ケプト、貴女が生まれた時の話をしてあげなさい」
そこでようやく、彼女は自身の隣の席に視線を飛ばした。食堂にいるのは四組と彼女を含めた九人。今朝、ケプトが座る席は、手のつけられていないショートケーキが放置されていた。
「あら?」と娘がいないことに気がついた母親は声を上げる。いないも何も、デザートが配膳された時にはいなかったじゃないか。ケプトがオルタの隣に座ったことは一度もない。
彼女は不思議そうに首を傾げ、深く被っていた帽子を脱ぐ。その裏側を見て、コンコンと人差し指で叩いた。宛ら、先ほどケプトが自身のマスクに対して叩いていた時のよう。
ケプトの口元を隠していた鋼鉄のマスクは、彼女の発言内容をオルタが管理するための物だと言っていた。オルタの赤色のつばの広い帽子は、受信機の意味合いがあるのかも知れない。
生まれた瞬間に両親が死んだ僕には確信は持てない。だけれど、ルーゼン親子のその様は気味が悪いと思った。
母親が徹底的に娘に興味がない。普通、異世界の料理が提供されたら、顔を見たり、味の感想を聞いたりするものだろう。
「あの子、何をしているのかしら」
困ったわ。感情のこもっていないため息を吐いたオルタは席から立ち上がる。彼女の行動を遮るように、隣の席のテラスも立ち上がった。
「ご令嬢に声をかけるだけなら、俺たちがやっておきますよ」
「あら、本当?」
「はい、カラスの魔法さえ使わせていただければ、直ぐに居場所はわかるかと」
シン・テーゼがまたも突っかかる。
「待て待て。食堂に全員がいる状況だ。自由に動けるじゃねーか。何をするつもりだよ」
「心外だな。シンさん。人探しをするだけだよ」
「俺にはお前達双子が怪しいことを企んでいるようにしか見えないが」
「それは、貴方たちが悪企をしている裏返しでは?」
不穏な空気が漂う。僕も参戦しようかと一瞬考えたが、隣のソクラを見て辞めた。彼女もまた、僕の方を見ていたからだ。
他の面々が協力し始めるならまだしも、不仲になる分には構わない。寧ろ、その方がやりやすい。お互いが潰しあってくれた方が、化けの皮が剥がれやすいものだ。
少しだけ緊張が解れた。一切手をつけていなかったショートケーキを口に運ぶ。グラスに注がれた水で口内を潤していると、こちらを見ている視線に気がついた。
隣のソクラではない。奴からの視線は独特で、直ぐにわかる。じろりと全身を舐め回されるような不快感、正面から向けられるそれは、ティール・オキニだった。
彼は僕が食事をする様子を頬をつきながら見ていた。宛ら、子供の食事を見る母親の如く。ショートケーキを作ってくれたのは彼なのだから、気になるのかもしれない。
彼は僕が食べ終わったのを見て、立ち上がる。
「皆さん落ち着いて。そんなに他人が信じられないなら、一組毎ではなく、バラバラに行けばいいでしょう。魔法の使用も禁止、異世界の技術を用いるのも禁止、総合監視をしながら、ケプトちゃんを探しましょう」
つまりは、異世界人二人、魔法使い二人の計四人で。そこまで娘を探すのに人数をかける必要はないと思ったが、オルタが認めたことで採用された。
まあ、普段はオルタがコントロールルームにいて、魔王城内部を監視している。彼女が食堂にいるこの状況は、貴重かもしれない。相互監視は悪くない話だ。
選出するメンバーも、ティールが早口で決めていく。言い争いをしていたシンとテラスを食堂に残し、お互いの相方、ティールとカラス。ちょうど食事が終わった僕、これで異世界人二人になったので、残る魔法使い枠をアラン王子が埋めることとなった。
カラスを先頭に、アラン王子、僕、ティールは一列になって食堂を出る。
「それじゃあ、オルタさん。ケプトちゃんを連れてきますので、席に座って待っていてください」
「はい。よろしくお願いします」




