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13.天国の魔王城 1

 オルタ・ルーゼンの目的は、異世界の門を開くこと。

 そのために、自分達と同じ境遇の転生者と魔法使いを集め、難題を代わりに解かせようとしている。


 転生者が集まることのリスクなんて彼女には関係ない。晩餐会は過程でしかなく、魔王が紛れていることなど、どうでも良いに違いない。


「合衆国ルナが如何に滅んだか知っているか?」


 モニタールームから外に出て、再び階段を降りる。前を歩くソクラは歩く速度を落とさずに僕の質問に返した。


「『傾国の魔王』って悪いやつが、革命を起こしたって聞いたけど」


「そうだ。『傾国の魔王』は政府が隠していた未知のエネルギーの秘密を暴いた。だが、実際にルナを崩壊に追い込んだのは魔王ではない。エネルギーを独占しようと考えた国王が自ら剣を取った。魔王は闇を暴いただけ。

た。魔王は決定打ではあったが、奴を引き寄せた国王こそが元凶だ」


「ふうん。そこまで詳しいことは知らなかったわ。それで、今回も同じようになるかもしれないって考えてるの?」


 それに対して、僕は答えない。僕とソクラはたった今この結論に至ったが、先輩を含めた魔王討伐戦線は違ったはずだ。

 晩餐会の参加権を獲得した時から、ここまでの未来を読んでいたに違いない。だからこそ、僕という転生者の隊員を忍ばせた。


 魔王の悪性すら過程に組み込むオルタは、魔王以上に危険だ。異世界の門を開いて、それで終わりになるのか? オルタ・ルーゼンはその先に何を見ている?

 

 少し不安になる。

 これは、僕一人でどうにかなる案件なのか? 


 いつの間にか後ろを振り向いて止まっていたソクラは、僕の顔を見て優しく笑った。


「まあ、作戦通り行ったから良かったじゃない」


「作戦通りか?」


「うん。オルタちゃんに直接話を聞くのが、答えの近道っていうのはソクラの読み通りだったよね。結構いいヒントを貰えたんじゃない? オルタちゃんとしても、早く第三の難問に挑んでほしいみたいだし、第一、第二の難問はそこまで難しくないんじゃないのかな」


 楽観的と一蹴することもできない。オルタの目的が開門の先にあるのならば、第三の難問を突破するのは前提だ。そこまでは僕らを高待遇で迎えてくれるはずだ。

 魔王討伐戦線として責務を果たすことを考えても、敷かれたレールの上を進むべきなのかもしれない。

 

 それにしても、ソクラは話をちゃんと聞いているらしい。魔法学院高等部主席入学者とはいえ、普段の彼女の振る舞いからただの阿呆なのではないかと思ってしまっていた。

 オルタに自分語りを始めたのも、我慢ならなかったわけではなく、助け舟を出してくれていたのかもしれない。

 僕を庇った上で、それを気にするそぶりもなく前を歩く。もしかして、彼女はとてつもない人格者なのではないか。

 

 そのまま僕らは無言で魔王城の一階をもう一周した。

 玄関には扉、料理室には鍋、衣装室には鏡、展示室には剣。あるべき物があるべき場所にある。魔王城の一階は道理の通った違和感のない空間だった。


 異世界の門は見当たらない。


 僕らが展示室を出て、中央の食堂に入ろうとした時、テラスとカラスの双子に話しかけられた。どうやら、彼らも、第一の難問を解き切ったらしい。これで二組目の正答者だ。


「第二の難問はフィールドワークというよりも思考的な物になっていてね。仲間は多い方がいい。どうかな、ヤユくん。やっぱり、協力する気はないかな」


 相変わらず協力を仕掛けてくるテラスだったが、僕が口を開く前にソクラが「協力はしないわ!」と明るい声を飛ばした。


「おや、先ほどは居なかったよね」


「ソクラ・スタウよ! 知らないとは言わせないわ。ヤユの相方はあたしだけで十分なの」


「うん。知っているよ。スタウ家は有名だからね。しかし、そんなソクラちゃんが付いていながら、第一の難問で躓いている様だと心配だよ」


 「ねえ、カラス」とテラスは後ろにいる双子の妹に話しかける。先程の様に、空な瞳で無視をするのかと思いきや、カラスは凛々しい目つきで「全くね」と高い声で返した。


「優秀な家系で生まれても、結局は当人次第よね。生まれ持っての才能があっても、本人が馬鹿なら無意味無価値。恵まれていることにすら気がついていない愚かなバカ女って感じが、顔に出てて腹が立つ。せいぜい、足を引っ張り続けなさい」


「な、なにぃー!」


「ほら、行くわよ兄さん。さっさと第二の難問も解いちゃいましょう」


 先程とは正反対の様に、カラスが自発的に前を歩いていった。テラスは両手を合わせて僕らに申し訳なさそうな顔をした後、カラスの後を追って行った。

 まるで別人の様だ。第一の難問を解いて、自信がついたのだろうか。テラスの柔らかい笑みと違い、カラスは刃物の様な冷たさがあった。



「安心しろ、ソクラ。奴らなりに、僕らにヒントをくれたんだよ」


「ど、どこがよ! すごい馬鹿にされただけでしょ!」


「ソクラ程の天才がいながら、第一の難問を解けていない、という言葉が気になったな。あれは単に罵倒しているだけじゃないだろう。要するに、異世界の門は魔法使いだからこそ辿り着ける物、という可能性が高い。魔法学の授業で何かやってないのか? 別次元への移動とか、異世界への干渉とか」


「知らないわよ。そもそも、異世界なんて非魔法学的な話は授業で取り扱ってないわ」


 異世界という与太話を、魔法学至上主義の魔法学院で学べるわけがない。僕が期待しているのは、名門スタウ家としての知見だったが、よく考えてみれば魔法学院と同じ様な物だった。

 魔法至上主義。異世界への行き方など、研究するわけがない。


「それなら、天才魔法使いソクラ・スタウに聞きたい。異世界への門を開くことは魔法学的には可能か?」


「できるに決まってるじゃない」


「え、できるの?」


「あらゆる現象を模倣するのが魔法よ? 魔法学院で異世界の門が開かれることはないだろうけど、やろうと思ったら何でもできるわ」


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